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61.塔には守り主がいました

 この隠された空間に入ってきたルートは昔の正しいルートではなかったようで、塔の入り口から別の方向に踏み石が点々と並べられていた。

 塔の脇には別の小屋が建てられているんだが、壁は格子状の吹きっ晒しだし、一方は扉すらなく解放されている。まるで車庫だ。ただし、3階建ての民家程度にバカでかい。

 このバカでかいのが小屋に見えるのだから、塔がどれだけ大きいかというものだ。


 塔の入り口は、鍵がかかっていなかった。鍵自体はあるので、鍵をかけないで良いだけの理由があったのか、突然死で鍵をかけ損ねたか、ガレ氏がわざと鍵を開けたままにしたか。どれかだろう。


 円い形の塔に付けられた両開きの玄関扉は、塔の形に沿って円弧を描いていた。細かいところで凝った建物だ。

 外開きのようで、みんなが集まったアルコープの屋根下から少し下がってくれる。


「じゃあ、開けるよ?」


『資格が無ければ開かぬぞ?』


 いや、さっき鍵の確認をした時にちゃんと隙間ができたから、開くのは分かってるけど。


 って。


「え、誰……!?」


 聞こえた声が聞き覚えないのにやっと気づいて振り返り。

 そのまま身体が固まった。


 そこにいたのは、恐竜だった。

 暴君竜ティラノサウルス。

 の割には前足が大きいし、翼竜な翼が生えてるが。にゅっと近づけられた大きな顔は、ティラノサウルスそっくりだ。


 つまり、これは、ファンタジー的知識を引用するに。


「ドラゴン……さん?」


『敬称をつけるか。面白い小僧だ』


 硬そうな皮膚が存外柔らかく動いて、口の両端が上がった。笑ったらしい。が、その凶悪な牙が強調されて恐さ割り増しだ。


 他のみんなからも、反応がない。魔物が身近な生まれ育ちだからなおさら、どう見ても敵いそうにない魔物の頂点っぽい生き物に、手も足も出ないのだと思われる。


『ふむ? ほほう。小僧、この世界のヒトではないな? 魔素を蓄積せぬヒト種はもう遥か昔に絶滅したはずよ。どこから現れた?』


 俺のステータスでも見たかのような内容を口にしつつ、気配なく現れた通り重さを感じさせずにそこに腰を下ろしながら問われて、問われた相手は間違いなく俺なので、玄関扉から手を離して向き直る。少し開いたままだった扉がパタンと音を立てた。


「超古代文明の研究者が起動した文献に書かれていた魔法陣によって、2ヵ月ほど前に召喚されました」


『ふむ。界を渡る召喚魔法陣とな。それでここに今いるのか。まさかそなた、タカイシリツシか?』


 ……え?


「高石、栗志、です……」


『そうか、そなたがリョーの異界に置いてきた義弟か! 時を越えよくぞ参った! 歓迎するぞ!!』


 今度こそドラゴンは大口を開けて豪快にガハハと笑い出した。いや、だから、その口に並んだ牙が恐いって。人間なんて一口でパクリと食われそうなサイズだし。


 てか、義弟って。戸籍上は他人だし。あれか、三国志か。桃園の誓いってヤツか。

 ……誓ってはなかったよな?

 弟と書き残されていて嬉しかったのは事実だけど。


『リョー自ら呼んでやれれば良かったのだがのぅ。如何な神竜といえど、ヒトの病には手が出せぬ』


「リョー兄ちゃんは、病死ですか」


『うむ。約束を守れぬ己が身を嘆いておった。病を得てひと月も保たなんだわ。書き残した召喚陣を棄てられずにおったゆえ、何らかの巡り合わせで起動した場合に備えて遺してやったらどうかと提案してやったら、あやつ死の床につく間際まで手をかけておってな。この塔は、リョーよりそなたへの遺産よ。受け取ってやるが良い』


 つまり、このドラゴンはリョー兄ちゃんに助言することができる立場だったということだ。ていうか今更だけど、何才だ。


「……それで、あなたはどなたでしょう?」


 そう、これ。自己紹介ください。


『む、儂か。これは失礼した。我こそはSランク冒険者にして稀代の魔法師リョーテエイデルアンデリアに忠誠を誓いし使い魔であり、神代より生き長らえし神竜が一角。名をドラグマレイストと申す! ……まぁ、今は愛しき亡き主の遺したこの塔の番人よな』


「栗志・高石・デクトレアです。リョー兄ちゃんの研究所が保存されていると文献で読んで探しにきました。彼らは同行してくれた友人たちです」


『うむ、改めて歓迎しよう。まずは塔に入り疲れを落とせ。台所も使えると思うが、食材はさすがに保存されぬ。近隣の人里より調達すると良い。儂はそこな巣におる』


 そこの、と指し示したのは、壁が格子になった小屋で。あれ、ドラゴンさんの巣だったんだ。屋根以外何もないように見えるんだけどな。


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