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60.ヒトは魔物に近いそうです

 藪に戻っても俺から同行者たちは見えないんだが、さっき戻ってきたドイトの声は聞こえていたので、同じように声をかけてみる。


「みんな、こっちだよ」


 と、いきなりそこの境目から飛び出してきたヘリーに飛び出した勢いのまま抱きつかれた。一緒に押し倒されるところだった。危な。


「もう! リツくんどこ行ってたの!」


「いや、ヘリー、落ち着いて。俺からしてもみんなどこ行っちゃったのって話だからね。いまだにヘリーしか見えてないし」


 というか。ヘリーって意外と胸大きかったんだ。いつも緩くて厚い服着てるせいだな。女の子の胸って柔らかい。

 抱きついたまま不思議そうに俺を見上げてくるから、俺は苦笑を返す。


「これ、このまま抱きしめ返したら怒られるかな」


「え? あ、あわわわっ!」


 ああ、残念。逃げられた。

 かわりに、同じく走り寄ってきたエイダにラリアートかまされそうになった。さすがに避けたけど。


「おっまえな!」


「いや、今のは俺悪くなくね?」


「そっちじゃねぇ。今のはヘリーが無防備すぎ! じゃなくて、お前な! いきなりいなくなるな!」


「それも俺は悪くないよ。みんなどこ行っちゃったのさ。いまだにヘリーとエイダしか見えてない……あ、エリアス、そこ。そこ境目」


 続いて現れたエリアスがちょうど良いところにいるから呼び止めたら、彼がそこに止まってくれた。で、エリアスよりこちら側にドイトとレイン教授も戻ってきた。

 戻ってきたレイン教授は、エリアスのいるその足元を見下ろして、ふむ、と顎を撫でた。


「何も痕跡はないが……」


「俺から見ても境目になにかあるようには見えないです。ただ、植生が全然違いますけど」


 昆虫が棲んでいるのだから、時間が止まっているとは考えにくい。となれば、丘を覆っていたのは背の高い草が生えにくい淘汰力の強い種類の草なんだろう。


 さて、俺が見ている景色に彼らを連れて行く方法を見つけないと。


「リツの目からはどう見えてるんだ?」


「うーん。言葉で説明してわかるかどうか。ここの境界からくっきり向こうは花畑? 芝生? な感じです。人気はないですけど、すごい長閑」


「この鬱蒼としたところが?」


 信じてませんね。まぁ、これだけ景色が違うとわからなくもないけど。

 けどね。当時の情報にあった住所や、隠されているという前情報に照らせば、俺が見ている風景の方が正しいんだと思うんだよな。どこか異空間に飛ばされているとかいう突飛な状態でなければ。


「手でも繋いでみます?」


「そうだな。少なくとも、はぐれないだろう」


 レイン教授の同意が出たとたん、俺にあちこちから手が伸びた。両手はそれぞれヘリーとエリアスに取られ、ドイトは俺の肩に手を置き、エイダには腕を掴まれている。もう掴むところもなくて、レイン教授は俺の腰に差した刀の鞘を掴んだ。よりによってそこですか。


 では、改めて行ってみましょう。


「え!?」

「おー!?」


 みんなに捕まえられて進むこと3歩。どれが誰だか分からないが、歓声があがった。成功のようだ。


「これはまた、感動の光景だな。あの塔が、リツがずっと見ていた塔か?」


 草原に走り出していった学生組を見送って俺の横にのこったレイン教授に問われて、俺ははいと簡単に答えた。レイン教授はレイン教授で、早く塔に入りたいのだろう。うずうずした様子だ。


「しかし、どういった仕組みかな。気になるね」


「違いは俺が異世界人であることなんですよね。多分、魔素を使ってるんでしょうね」


「そうだろうね」


 大気中の魔素をどうにかして、幻影を見せるなり空間を歪めるなりしているのだろう。それがどういう仕組みなのかはさっぱり分からないが、そこまでは現象から想像できる。

 今まで見つかっていなかったのも、この世界の人なら体内魔素が全くない人などいないためなのだろう。だとすると、この仕組みを作ったのはリョー兄ちゃんではなく後からこの塔を見つけたガレ氏だろうか。


「いや。おそらくこれは、人目を避けるのは副次効果で、本来は魔物除けだろう。とすれば、君の師匠がご存命だった頃から適用されていたのだろうね。だから、ガレ氏に発見されるまで無傷だった」


「保存の魔法がかかってたと書かれてましたけど?」


「状態保存はあくまで経年劣化の防止だそうだよ。今も建物建築に使われている魔法陣だ。外部破壊には効果がないはずだ。まぁ、Sランク冒険者な魔法師殿の研究所なら特別製かもしれんが」


「じゃあ、ガレ氏はどうやってここを発見したと?」


「あり得るのは、そうだな、犬の散歩かな。人間がペットや家畜として管理して繁殖させているのは動物といって、体内魔素を持たないからリツと同条件だ」


 今や魔物に淘汰されて野生の動物は生き残っていないそうだが、昔は魔物でない動物も生息していたそうだ。普段狩りの対象にしている魔物は動物が魔物に進化して生き残っている種ということだろうか。それは進化と呼んで良いのか分からないが。


「だからこそ、体内魔素を持つヒトという生き物も、魔物の一種ではないか、という学説もある。俺はこれを推してるよ。自己中心的で暴力的だった過去の入植者たちを考えれば、魔物的だといえる。まぁ、ヒトには理性があるからね。暴論ともいえないさ」


 いや、一応暴論の類じゃないですかね。理解はできますが。


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