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第31話 旅立ちの朝

「あの、フェイトさん」


「なんだどうした、何かあったのか?」


 ロンドロイドの宿で眠りについていた俺。

 気持ちよく寝ていたというのにミューズが俺を起こすではないか。

 眠たいのになんだって言うんだ。


 しかし彼女はどこか困っている様子。

 話ぐらいは聞いてやろう。


「セリスさんが目を覚まさないんです……まるで死んでしまったかのように眠っていて。いくら起こしても全然反応しないんですよ」


「ああ。それなら大丈夫。昼頃まで放って置いたら勝手に起きるよ」


 セリスを強引に起こしてなだめるのに先日は大変な思いをした。

 だからもう彼女の眠りを妨げるような真似はしない。

 わざわざ面倒事に首を突っ込む奴なんていないだろ?

 いないよね。


「お昼って……セリスさん、買い物に行きたいから朝起こしてくれってお願いされてるんですよ。町を出る前に買っておきたいものがあるって」


「ふーん、じゃあさ、セリスに『可愛い』って言ってみろよ。多分それで起きると思うぜ。ただその後は大変だろうけどな」


「セリスさん、とても綺麗ですよね! 顔を拝見させてもらいましたけど、美人さんでビックリしました!」


 セリスの容姿に興奮しているミューズ。

 君だって負けず劣らずの容姿をしているじゃないか。

 

「じゃあ事実を言えばいいだけなんですね! ちょっと試してきます!」


「おお。気をつけてなー……」


 ドタバタと部屋を出て行くミューズ。

 そして隣の部屋から、大きな声で『セリスさんって美人ですね! 美人過ぎて私興奮しちゃいます!」


「!?」


 俺は慌ててベッドから飛び上がる。

 興奮するな……お前は興奮するな。

 お前だけは興奮するな!


「…………」


 俺は隣の部屋を警戒しつつ、いつでも窓から飛び出せるよう身構える。

 ここは二階だが、落ちたとことでどうということはないだろう。

 というか、爆発に巻き込まることを考えたら二階から落ちた方がマシだ。


 だが、ミューズが爆発を起こすことはなかった。

 そしてセリスが目覚めるような様子も見受けられない。

 どういうこと?


 ミューズが肩を落として部屋に戻って来る。


「ダメでした……」


「あれぇ? 前は上手くいったんだけどな……」


 もしかして、耐性がついたとか?

 可愛いと言われる程度じゃ目を覚まさなくなったとか?

 

「うーん……これがダメならお手上げだな。セリスを起こす方法が思いつかない」


「どうしましょう?」


「ま、いいんじゃない? 町を出る時に起こせばさ。その時は俺も付き合うしさ」


「はぁ……」


 眠気が完全に飛んでしまった俺は、伸びをしてミューズのシャキッとした姿を見る。

 

 こうやって見ると、仕事ができそうな雰囲気をしてるんだけどな…… 

 なんで前の仕事をクビになったんだろうか?

 まぁ聞くまでもなく、爆発が原因だろうけれど。


「ミューズってさ、身の回りの世話をするなんて言ってたけど、どんなことができるんだ?」


「なんでもやりますなんでもやりたいです! なんでもドンと来いって感じですね!」


「おお……それは頼もしいな」


「特に料理は大好きです! でも……いつも大失敗しちゃって」


「……爆発ね」


「はい。興奮しすぎちゃうんですよね……なんでも来てほしいんですけど、料理だけはちょっと……」


 内心落ち込んでいるのか、ミューズは苦笑いを浮かべる。

 俺はそんな彼女の顔を見て、少し寂しい気分になった。


「好きなことならやればいいだろ」


「え?」


「今は魔力を封印できてるんだから、料理をしても大丈夫じゃないか?」


「あ……」


 ミューズの顔が喜びに弾ける。

 そして大変魅力的な笑みで俺に言う。


「じ、じゃあ……料理をしてもいいですか?」


「ああ。とびっきり美味いのを期待してるよ」


「はい! 腕によりをかけて作らせてもらいます!」


 大興奮をするミューズ。

 俺は少し嫌な予感を覚えつつも、自分に言い聞かせる。


 大丈夫だ……魔力は暴走しない。

 あのネックレスがあれば爆発なんて起きやしない。

 神様。どうかこんなところで人生終わりにしないでください!


 しかし、俺の願いとは裏腹に非情なほどに高まっていく魔力。

 あ、これ、ダメなやつだ。


 俺は顔を引きつらせてミューズに言う。


「ミ、ミューズ……今日のところはやっぱりやめておかないか?」


「やめるわけないじゃないですか! だって料理を作れるなんて、夢のようですから! ああ! 早く料理を作って、フェイトさんを喜ばせてあげたいです!」


 ミューズはどこからともなく包丁を取り出し、それを笑顔で俺に見せる。


「これ、私専用の包丁なんです! これを使える日が来るなんて……大興奮ですよ!」


 包丁を持って笑う彼女の姿は、凶悪な殺人鬼のように見えた。

 魔力は依然として高まるばかり。

 俺はその時、死を覚悟したね。

 

「では、作って来ますね!」


 ミューズの最大級の笑顔と共に――大爆発が巻き起こる。


 宿は壊れ、俺の体は外に放り出される。

 奇跡的に怪我はしていなかった。

 あんな爆発に巻き込まれて、自分のことながら驚きを禁じ得ない。


 俺はため息をつきながら、周囲の騒ぎを耳にし、顔面蒼白となる。


「逃げないと……」


 ケホケホ咳をするミューズ。

 顔中煤だらけとなっており、また苦笑いを浮かべる。


 その顔にはもう騙されないからな!

 なんて心の中で叫ぶ俺。

 犯人が彼女だと知られると、俺まで疑われてしまう。


 悪いけどここからさっさと逃げよう。

 だがそこで、セリスの姿が無いことに気づき、俺は瓦礫の跡をくまなく見渡す。


「……セリス?」


 すると彼女の姿はそこに見つかった。

 だがしかし、考えられないことにセリスは、爆発の直撃食らっておいてまだ眠りについているようで……先ほどまで宿屋の一部であった木材を枕にして横になっている。


「お前……まだ寝てるつもり!?」


「うーん……」


 決して目覚めようとはしないセリス。

 俺は驚愕しながら彼女の眠る姿を眺めていた。

 どれだけ朝弱いんだよ……

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