辺境の騎士ってすごいな
いろいろありましたが、砦に帰りますよ。
いやー、実に濃い2日間だった。はっはっは……。
今度はゆっくりと温泉に浸かって、またカニ食べたい。カニ、美味しかったな。
というわけで、現在、帰りの馬車に揺られている。
御者はおなじみ(?)ピピーンさん。
実は同じ宿に泊まっていたらしい。部屋のランクが違ったので別の棟にいたのだとか。
一人部屋でのんびりした上、温泉を堪能しまくったと艶々になって現れた姿を見て、おひとりさまの極意を見た気がした。ああいう人に私はなりたい。
4人乗ってもゆとりがある馬車、行きは私とマー君、タッちゃんとカッちゃんという席で座っていたのだけど……。
「どうしてこうなった?」
帰りの私は、なぜかカッちゃんの膝に座っている。
「ターク兄さんとマーク君の膝には乗らないんですよね、メイたん?」
「メイ……」
「いや、なんか、すみません」
マー君は隣でふてくされている。なぜ?
対面座席を一人で優雅に使っているタッちゃんは膝に黒姉さんを入れた袋を載せてにやにや笑っていた。
そんなに魔法石が嬉しいか!? と文句を言ったが違った。
「いや、カークが兄弟以外にそんな顔を見せるのは珍しいんで、さすが聖女だなと」
なんじゃそりゃあああ!
思わずタッちゃんに蹴りを入れたら、うまい具合に脛にヒットした。弁慶の泣き所に当たったはずなのに、タッちゃんはゲラゲラ笑っている。くそぅ、いい筋肉してやがるぜ。
調子に乗ったカッちゃんが頭にキスしてくる。あんなにドキドキしていたのに、回数重ねたら慣れてしまった。なんだかなあ。
「ふふ、昨夜はお楽しみでしたから、ね、メイたん」
「まあいろいろ楽しかったね。カッちゃんかわいかったし」
「やだなあ。それは二人の秘密にしてくださいよ、メイたん」
「だから、メイたんはヤメテ……」
「わかりました、ハニー」
「……、もう、ダーリンったら」
楽しくなってきたので適当に返していたら、突然マー君が立ち上がって、ゆっくりだけど走っている馬車の扉を開け、ぴょんと飛び降りてしまった。
「メイのバカー!!」
そのまま馬車に並走し、ジャンプして御者台にいるピピーンさんの隣に座る。すごい身体能力だな!
感心していると、タッちゃんが扉を閉めて鍵をかけた。
「あれくらいなら辺境の騎士は全員出来るぞ」
「そりゃすごいな」
「私はしませんけどね」
カッちゃんはそうだろうな。
などと思いながら、カッちゃんの膝を離れ、マー君がいたところに座る。マー君のぬくもり、などと邪なことはもちろん言わないよ。
「で、マークに聞かせたくない話は何なの、カーク?」
すい、と姿勢を正し、愛称ではなく名前で呼ぶと、二人は笑みを引っ込めた。
カッちゃんは私の横を離れ、タッちゃんの隣に座る。二人から感じる気はマー君がいた時とは全く違うもので、これが貴族なんだなと思った。
(まあ、マー君も貴族なんだけどそこはおいといて)
「お気づきでしたか?」
「まあなんとなく?」
昨夜泣いていた人とは別人だなと苦笑するが、あれはあくまでもカッちゃんの一面に過ぎない。
兄弟に引け目を感じているのは事実だろうけど、領地のために冷静に物事を考えられるのはタッちゃんよりカッちゃんだろう。兄は表立って実行、弟は裏から支える、そう言う分担ができているからこその愚痴だったんだと思う。
「私としては本当はマークもいたほうがいいと思うけどね。二人がマークを大事にしてるのはわかってるけど、耳触りのいいことだけを聞かせて育てるのはどうかと思う」
正義の味方しか知らなければ、懲らしめられる側の気持ちはわからない。
正しいことをするのが当然なら、悪いことをした者はどうなってもかまわなくなる。そして自分で断罪するのが正しいと思ってしまう。理由は『正しいから』。
マー君は自分勝手に罰を下してもいいとか思う子にはならないと信じてるけど、爪弾きにされたらがっかりしそうだな。
「まあ、御者台でも耳を澄ませば話は聞こえますから、その辺りはご容赦ください」
余計に爪弾き! と思ったけど、その辺りは兄弟の事情があるのだろうから突っ込まないことにした。
「まずは貴女に心からの礼を」
二人は椅子に座ったまま私に深く頭を下げた。
「これほどの魔法石を作ってくれたこと、短期間で二か所も浄化していただいたこと、こちらに都合の良い条件を飲んでいただいたこと、感謝しております。貴女は我が領地を救ってくれた」
タッちゃんが今まで聞かなかった凛とした声で言う。王宮ではこういう話し方をしているのだろうなと感じ、多少居心地は悪かったが、私は黙って頷いた。
黒さんや黒姉さんにはその価値があると思うから、下手な謙遜はしない。
「だが、今後は魔法石を作るのは控えてもらう方向になると思う。理由は、わかっているか?」
「王都で聖女を欲しているから、隠ぺいしている事実を知られたくない、以外に何かある?」
二人がグッと息を飲む。
「聖女を、再召喚させたくない」
「?」
「聖女メイ、貴女を死なせたくない」
二人はとても強い目で私を見つめた。睨まれてるのかと錯覚するほどで、身が竦む。
「王は自分に都合が悪い聖女を殺すと貴女は言った。なぜ知っていると焦った。それなのに、メイは一度死んでるんだからまあいいやなどと簡単に言う。そんなの、俺は嫌だ」
タッちゃんは両手をぎゅっと握って震えながら言った。
「だから、頼む。領地から離れないでくれ。俺に、いや、俺たちに、メイを護らせてほしい」
深く深く頭を下げてくれるタッちゃん。まっすぐにぶつけられる言葉はすごく刺さる。
タッちゃんが頷くと、カッちゃんが椅子と椅子の間に膝をつき、私の手をぎゅっと握った。
「昨夜、メイは『聖女関係なく、私のことが本当に好きなんだったら、お嫁さんになってもいいよ』と言ってくれましたよね?」
おお、憶えてたんだ?
そう言えば全部覚えてますって恥ずかしそうに呟いてたもんなあ。
「昨日、最初に結婚を申し込んだときは、メイの言う通り打算でした。こちらは聖女を領地で囲って瘴気をどんどん浄化してもらって魔法石を蓄えられればいい、メイは私たちに守られながら領地で自由に楽しんでもらえばいい、お互いに利益があると思いました」
「おお、正直だね」
「でも、そこに心がないなら、それはただどちらかを押さえつけて自由意思を奪っている、片方にただ我慢を強いるだけの傲慢なことなのだと、酔いが醒めて気づきました。本当に申し訳ありませんでした」
私の両手に額をつけて謝罪する姿を見て、わかってもらえてよかったなと嬉しかった。
「こんな私の膝にだけ乗ると言ってもらったのがどれだけ名誉なことか、今、心からありがたく思ってます」
いや、そこは忘れていい……。
「というわけで、私は聖女ではないメイに惹かれています。本当に好きなので結婚しましょう」
へっ!?
「へっ!!??」
あ、心の声が漏れた。
びっくり顔でタッちゃんを見ると、真剣な顔をこちらに向けている。
「カークと結婚して、名実ともに俺の妹になって、護らせてほしい」
なるほど、こう来たか。
本当に好き、と真正面から言われたのは初めてで、びっくりした。
びっくりした、としか感想がなくて申し訳ないが、それしかないので許してほしい。
そのとき。
「ちょーっと待ったああああ!!」
外からドカドカと扉を叩く音がして、マー君が騒ぐのが聞こえた。
いや、アナタ、身体能力高すぎでしょ?
タッちゃんを見ると、走ってる馬車の扉を普通に開けてるし! マー君も普通に飛び込んできたし!!
「キミたち……」
いや、もう何も言うまい。きっと奴らはこう言う。『辺境の騎士ならこれくらい普通にできる』と。
「メイは俺が嫁にする!」
へっ?
へっ!?
…………。
「へっ!!??」
いやいや、マー君、キミ、私と一緒にいて全くときめかない言うてたやん!?
おばちゃんも全く同意見なんだが、そこらへんは!?
昨日、嫁がどーのって話してた時、なんかごめん言ったよね!?
嫁と書いてオカンと読むとかそう言うのはお断りだぞ!!
「マーク、落ち着いて。まず座りなされ」
私はとりあえず三人を向かいの席に無理矢理座らせた。
狭くて入らないので、マー君は二人の膝に乗せられてる。まじめな話ができないビジュアルになりつつあるが、そこはあえてスルーで行くぞ!
「まずは二人にお礼を言うね。こんなかっこいい二人にプロポーズされるとか、おばちゃん泣けたわ」
乙女ゲームかと思った、とはさすがに言えない。
「マーク、カーク、二人が領地に聖女を囲い込むための鎖になろうとする姿勢は立派だけど、それは私にとってはただの枷なので却下」
「うっ」
「私は契約の時、最後の一文として『せっかくなので楽しくやりたい』と書いた。枷をつけられたら楽しくできないからね」
「ううっ……」
「でもね、そんなことしなくても、私はここにいたい。そう言う私をどうか信じてもらえないだろうか?」
今のところ、私はピクセル辺境伯の領地しか知らない。飽きたら違うところにも行きたくなるだろうとは思う。
でも、知らない悪意を向けられたくないし、護ってくれると言う人がいるところにいたい。遠出するとしても一人では不安だ。
「まだお互いを知らないうちに信じろと言われても信じられないだろうけど、そこは信じてほしい。正直、信じてもらえないのは辛い。それはどの国の人でも同じなんじゃないかと思うんだ」
三人は決まりが悪そうな顔をし、目を反らしたが、じっと見つめているとそれぞれの言葉で謝ってくれた。
「ということで、話は以上なんだけど、一つ聞いていい?」
「うん」
「マー君に聞かせたくなかったことって、なに?」
マークからマー君に戻したことで、場がちょっと和んだ。
カッちゃんが流れるような動作で私の横に座り、私の頭を引き寄せてキスを落とす。自然すぎて気にならなかったけど、マー君が口をパクパクさせて真っ赤になってるぞ。
「私がメイにプロポーズするのを聞かれたくなかった、それだけですよ。マーク君に取られたくなくて」
またそう言う冗談を。
困った兄弟だな、と笑っていると、真っ赤になったマー君が馬車から飛び降り、馬を追い越して先にいってしまった。
うわあ、すごい速い。辺境の騎士ってすごいな。
感動していると、タッちゃんがゲラゲラ笑いながら、馬車の扉を閉めた。
「さすがに辺境の騎士でもあそこまで走らないぞ」
その言葉通り、5分ほど進んだところでへたばったマー君を回収した。
思春期って難しいな、と思ったけど言わなかったよ。
昼過ぎに砦につき、簡単な食事をいただいた。ベアモンのご飯、今日もシンプルイズベスト。美味しかったよ。
そのあとは三兄弟と揃って仲良く魔法石を領主様に渡した。
素晴らしく美しい黒姉さんを見た領主様と砦のおじ様たちに対価はもらっていると告げたら、なぜか全員が膝から崩れ落ちた。
実は、今回の魔法石の対価はどれくらいか、私が納得するのはどんなものか、昨日から話し合っていたと言う。
「それで、対価は、マークですか、カークですか、それともターク?」
なんだその「ご飯ですか、お風呂ですか、それともわ・た・し?」みたいなの……。
「普通に旅行代です。楽しかった!」
シンジラレナイ!!
と言う顔のおじ様たちにタッちゃんが事情を説明すると、全員が抱き合って号泣した。
なんか、この光景、ちょっと前にも見たな……。
ま、喜んでもらえて何よりだ。
その後、まだ泣いている人々を置いて、マー君と二人で動力炉に黒姉さんを納めた。
今度の動力炉は前回のより少し小さかった。あちらは領地用、こっちは砦用だからかな。
炉に石を入れると、いきなり砦全体が揺れた。弱ってヘロヘロだった体に栄養がいきわたるような、そんな感じが私の中を通り抜けていく。
「うわあ、これ、すごい!」
マー君が慌てて動力炉のダイヤルを回した。手が震えているようで苦労していたが、なんとか調整できたようだ。多分黒姉さんも手を貸してくれたんだろうと思う。ありがとう、黒姉さん。
「こんな感覚初めてだよ。今までどんな魔法石を使っても自分の中にまで魔力が入ってくることなんかなかった。おかげで疲れが吹っ飛んだ感じがする」
言われてみれば、揺れる馬車で痛かった足腰がすっきりしている。魔法の力ってすごいなあ。
「メイ、ありがとう。俺、メイにときめいてもらえる男になるよ」
「んむ、精進するがいい」
ときめくかあ。
まあ、私もときめきには縁のない生活を送りすぎていまいちわかってない。マー君やカッちゃんに教えてもらうのもいいかもしれないな。
とりあえず、当分は魔法石を作らなくてよさそうだし、のんびりと遊ばせてもらおう。
読んでいただいてありがとうございます。
これでとりあえずひと段落です。今度こそスローライフに……。




