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美味しい水はそれだけでごちそう

 それから2時間が過ぎ、安心したのか落ちるように眠ってしまったタッちゃんを布団に運んだ後、パジャマパーティ(仮)はお開きになった。


 タッちゃん、嬉しいのかしっかりと黒姉さんを抱えて寝てる。朝になって、黒姉さん溶けてないといいんだけど。


 マー君も目が半分になっている。まだポッキーが、と言いながら無表情に口を動かしているが、だいぶお疲れなのだろう。

 というか虫歯になるからチョコを口に入れたまま寝たらイカン。

 温かいお茶と冷たいお茶をだして人肌くらいにして飲ませる。こくんこくんと可愛く飲んだら、コテンと倒れて寝てしまった。もう、かわいいなこいつ!


「カッちゃんは寝ないの?」


 二人を布団に押し込んだあと、カッちゃんは窓辺の椅子に座って外を見ていた。

 絶世の美形遺伝子は辺境にはなかったようだけど、十分いい男だなと思う。マー君やタッちゃんのような筋肉質な体ではなく、すらっとして立ち姿がとてもきれいだ。


「そういうメイちゃんは?」


 聞き返されて、肩を竦めた。


「私はお酒飲んでないし、結構寝てるからね」

「寝てると言うより気絶ですよね?」

「そうとも言う」


 テヘ、と笑うと、カッちゃんはくすくす笑い、手招きした。向い合せにある椅子に座ろうとすると、そっちじゃないと言う。なんだろうと近づいたら、ひょいと抱えられて膝の上に乗せられた。


「ちょっ、重たいよ」

「大丈夫、軽いですよ?」

「あ、そうか。体変わったんだった」


 小さくなって前世のぽっちゃり感はなくなってたんだな。とはいえツルペタでちびっこになってしまっても細くはない。それに10代の少女はそこまで軽くはないと思う。


「中途半端だとかえって足に負担がかかりますので、がっつり寄りかかってくださいね」


 カッちゃんは笑いながら、両手できゅっと抱き着いてきた。そのまま体を胸に預ける形で引き寄せられる。

 うおお、すごい密着具合! 若い男のしなやかな体におばちゃん緊張しちゃう!

 思わず顔を両手で覆って悶えたら、頭の上から笑い声が降ってきた。


「うう、なんか、介護されてる感が半端ない!」

「介護って……。そこは恋人とかじゃないんですか?」

「残念だけど私にはそういう回路が未発達なのだー!」


 しょぼーんと肩を落とす。カッちゃんはすごく素敵な男子なのだけど、なんというか、友達の家の子が気が付いたらデカくなってたみたいな感じなんだよなあ。息子の友達が彼氏ですとかいうツワモノもいるけど、私のレベルでは無理。

 でもま、こんな幸運めったにないし、なかなかいい座り心地なので、甘えさせてもらおう。


「ピクセルさんちの三兄弟は、そろっていい男だね」


 私は二人分の飲み物を出した。今回は二人そろってただの水。でも氷は必須。美味しい水はそれだけでごちそうだし、いいよね。


「マー君は一昨日、兄さんたちは昨日、まだそれしか経ってないのに、こんな得体のしれない私をここまで気にかけてくれて。ありがたいなと思うよ」


 思わず拝む。カッちゃんは何とも言えない表情で眉を下げた。


「そんなことないですよ。もとはと言えばこちらの世界の人間が勝手に貴女を召喚したのです。メイちゃんの話だと向こうの世界ではすでに亡くなっているとのことですが、それでも誘拐されたようなものというのは間違ってないし、同意なしで聖女にさせられたのですからね」


 自分でもそう思ってたけど、改めて他人に言われるととんでもないよなあ。そういえば聖女なんだから無償の愛で人々を救うべきとか言われたっけ? 笑い飛ばしてやったけど。


「歴代の聖女たちは元の世界に戻れないと言われて、半分くらいが最初に心が折れるとあります。そこから魔法石を作るまでにはかなりの時間が必要だともありました。それなのにメイちゃんはすでに二つも魔法石を作ってくれただけでなく、領地を救ってくれました」


 深く頭を下げられる。


「召喚されてすぐにメイちゃんから「何をしたらよいのか教えてください」って言われて焦ったって、父上や重臣たちが言ってましたよ。最初は便利な聖女だと思っていたようで、たくさん石ができると喜んでいたようですが、条件を突き付けられて慌てた者が多かったようですね」

「対価がどうのとごねていた自分が恥ずかしくなるからやめてー」


 いたたまれない、とじたばたしてたら笑われてしまった。


「いやいや、正当な権利ですよ。むしろ少ないと思いました。私はその場にいなかったために重臣たちから偏った情報を与えられて、初対面の時はメイちゃんのことを強欲聖女だと思ってましたが、全く反対でした。恥ずかしいです」

「強欲聖女は酷いけど、まあ、あれは私も悪かったとは思ってる」


 お試しで行ってきてと言われた時に、ちゃんと条件を提示するべきだったんだ。そうすれば無駄に期待させたり落ち込ませたりしなかっただろう。

 まあ、私だって急に知らないところに飛ばされて聖女にされたわけだから、寛大な気持ちで許してほしい。


「聖女かあ」


 私はふっと息を吐いた。


「道具にされないんならね、いろんなところの瘴気を浄化するのもやぶさかではないのよ。でもさ、聖女は瘴気を魔法石にするのは当たり前、対価は無償の愛、とか言われてもねえ。柄じゃないわ。今までの聖女ってマジ聖女だよね」

「それは私も思いますね。私が同じ立場だったら適当にごまかして石なんか作りません」

「あはは、らしいなあ。でもそれだと早々に殺されて、次の聖女を召喚されそう」


 むう、と眉を寄せたカッちゃん。眉間の皺は美貌の敵よとほぐしてあげたら笑われた。うん、君は笑った顔のほうが素敵だよ。


「人って『自分が思っていたように動かない人を攻撃したり排除したりする』ようにできてるじゃない? いなくなれば他のをと思うのは人情だよ。私は過度に期待されて勝手に落胆されるのも、能力を妬まれて嫌がらせされるのも嫌だから、見つかったらすぐに始末されちゃうだろうな」

「期待と落胆ですか。経験があるみたいなことを言うんですね」

「そりゃあるよ。カッちゃんだってあるでしょ?」

「たしかに」


 目を合わせて苦笑する。


「でもさ、マー君は違ったんだよね」


 最初に会ったとき、マー君は私に瘴気を払え、石を作って渡せ、と強要しなかった。

 喉から手が出るほど魔法石が欲しい状況だったのに、それがどうしてなのかをちゃんと説明してくれた。その上で、領主様のところについて来てくれた。


「それって難しいんだよね。だってどうしても欲しいんだもん。説明は後回しになっても仕方ない」

「マーク君はいい子ですからね」


 自分のことみたいに嬉しそうな笑みを浮かべているカッちゃんに和む。ほんと、いい男だなあ、この兄弟は。


「タッちゃんもカッちゃんも、だよ。二人とも若いのにしっかりと領地のことを考えてる。前の世界では21歳なんて子どもみたいなものだったのに、ほんとすごいと思う」

「ありがとう」

「それと、お兄ちゃんたちは末っ子が可愛いんだよね。得体のしれない女と二人で瘴気だまりになんか行かせられないからついてきたんでしょ?」


 ニヤリと笑うと、カッちゃんは両手を合わせてぺこりと頭を下げた。


「その件はごめんなさい。でも、おかげでメイちゃんとは深いお付き合いができました」

「裸の付き合いだもんねえ」


 軽く言ったらカッちゃんが気まずそうに隣の部屋のほうを見た。

 しまった! 生々しいものがあったんだわ! セクハラだった!

 まあ、もちろん使わないがな!


「ま、まあほら、カッちゃんのおかげで肌も爛れなかったし、お風呂で溺れなかったんだから感謝してるよ。ありがと。貧相なもの見せてごめんね」


 ぺちぺちと叩く。以前のまん丸な体は別の意味で目の毒だが、ダイナマイトなハニーだったら思う存分堪能させてあげたのに。ちっ。

 ここがぼんっ、と胸のあたりで球を書いたら、カッちゃんにぺちりと額を叩かれた。


「そこは見るなと怒るところですよ! もしくは見られたと泣くところです! 少しは恥じらってください!」

「えー……」

「まったく。そんなに無防備だと、あっという間に悪い貴族たちに手籠めにされてしまいますよ。聖女はその力以外は普通の女性ですからね」

「うう、カッちゃんたちにしか見せてないよう」

「当たり前です!」


 もう、と呻きながら、私の頭に額を押し付ける。そのままぐりぐりと、痛い痛い!


「だいたい、会って二日目の男の膝に乗ってくるなんて、無防備にもほどがあるでしょう?」

「カッちゃんが乗せたんじゃん」

「抵抗しないとは思わなかったんですよ。まったく、誰の膝でも乗るんですか?」


 ぐぬぬ……。

 そう言われると、確かにそうなんだけどさ。


「カッちゃんは信頼できるから乗ったんだよ」

「なら、ターク兄さんやマーク君や砦の者でも、信頼してたら乗るんですね?」

「そりゃ、ううーん、どうかなあ……」


 領主様はいい感じのナイスミドルだけどそこまで親しくはないし。

 砦のオジサマたちはまだ最初の冷たかった時しか記憶にないので無理。

 タッちゃんは婚約者の幼馴染さんに申し訳ないのでパス。あの筋肉は好きだけどね。

 マー君は、全然ときめかないと言われてるしなあ。まあ、あの発達中の体もいいので堪能したくはあるが。


「今のところカッちゃんだけかな。マー君はちょいと頼りない」

「!!」

「あ、もちろん今後はわからないよ。でもカッちゃんは私を助けてくれたからね。全然気にしてなかった。嫌なら降りるよ」

「それはダメ」


 なんだか嬉しそうにぎゅっとくっついてくる。


「もう、本当に無防備。そんなこと言われて喜ばない男はいませんよ」


 そのまま頭にチュッとかされた。

 ち、チュッッッて!!

 やめてあげて!メイさんのライフは0よ!


「はー、メイたん、かわいい……」


 耳元に口を寄せて囁かれる。うわあ、くすぐったい。私は大型犬か!

 そのまま耳たぶを噛まれてひーひー言っていると、不意にカッちゃんがぎゅっとしがみついてきた。


「やっぱり、結婚しましょう」


 何を言い出しすかと思ったら、なんとびっくり、嫁の話だった。






読んでいただいてありがとうございます。


長くなりすぎたので分けました。続きは明日!

マー君派だったはずなのにな、私。

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[一言] もうかっちゃんでええんやない?(笑)
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