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お城巡りをしてみよう:西棟 1

 そして夜が明けた。

 というとかっこいいんだけど、結局、夕べは何一つ決まらなかったみたい。あちらはわからないけれど、私のほうは部屋に戻ってのんびりした。本を借りたら意外に読めたのでラッキーと適度に時間をつぶし、夜食を食べて、ラビファを始めとした3人の侍女さんたちと戯れて、1日終わっちゃったよ。

 そうそう、私には3人の侍女さんが付くことになったらしい。ローテーションがあるそうで全員一緒に来ることはほとんどないと言いながらラビファが紹介してくれた。2人もラビファと同じ兎族の女の子だそうで、それぞれ長い立ち耳、短い立ち耳を持っていた。野兎とネザーランドドワーフみたいでいい。名前はウサミとフィーとのこと。昨日たくさんおしゃべりして仲良くなったよ、フフフ。

 侍女さんが付く生活などしたことがないのでちと面倒なところもあるけれど、そこは慣れるしかないかなあ。


 それはそれとして、今日の朝ご飯は部屋でと言われた。まだ何も決まっていないので会議が続いているとか。難しいことは言ってないはずなんだけど、あちらにはあちらの事情があるんだろう。


 それにしても。


 暇だなあ。

 暇だよね。

 暇だ暇だ。


 という感じでとても暇である。

 昨日一緒だったカチョさんたちは今日も会議とかで会えず、情報も来ない。

 放置されている状態なんだろうなあ。

 とはいえ私が原因だと思えば責めるのもなんだか。申し訳ないとは全く思わないんだけどね。


 知識を求めて本を読んでいたけれど、飽きた。専門書は基礎知識がないのでわからないが、基礎知識の本はない。子供の本になるので図書室に行かないと読めないそうだ。

 というわけで、散策することにした。

 あれだ、ホテルに着いたらまずはホテル内を探検して、みたいな感じ。とりあえずこのお城を一周してみよう。






 オートマッピング機能が欲しい、としみじみ思う今日この頃。皆様いかがお過ごしですか?

 西棟の1階ですでにへとへとな私を案内役のフィーが生暖かく見守っています。

 壁石って冷たいのですね。気持ちいいわー。

 これからは体力アップのためにスクワットでもしようと思います。とりあえず明日から。


 うん、ちょっと現実逃避した。

 さすがお城、広かった。甘く見ていたよ。

 私の部屋はお城の東端の一番上だった。会議に行くのにずいぶん歩くなと思ったけど、単純に距離がだっただけだった。暗くてよくわからなかったんだよ。

 お城は+の形になっていて、真ん中に会議室やホールがあるとのこと。

 東が客用エリア、北は領主様のエリア、西が厨房や働く人たちの寮がある生活エリア、南は騎士さんたちが詰めている軍用エリアになるらしい。役割ごとに分かれているので非常に探検しやすい。初代領主様の案だそうな。グッジョブ。


 というわけで、まずは東棟をと思ったのだけど、自分の部屋じゃない階に行こうとしたら犬耳の侍女さんに止められた。今は会議で人がいないけれど、この階を使っている人がいるので、誤解がないほうがいいとのことだ。

「見学できそうなのは私たちの使っている西棟ですね。騎士様方の南棟は許可がいると思います。連絡しておきますので、まずは西棟から回ってみてはいかがでしょう?」

 なんとありがたい。

「よろしくおねがいします」

 気を配ってくれた犬耳さんに感謝しつつ、手配を頼んで東棟を後にした。


 そこからね、遠かったよ。

 西棟まで行くのに1度外に出て、南棟の外廊下を回った。これがまた長い廊下なのにガタガタで。使用人のエリアまでは整備が回っていないのかと思ってしまった。まあ、スーパーとかも裏はコンクリ壁だし、どこの世界もバックヤードは同じなのかも。

 やっとのことで西棟入り口までついて、ヘロヘロになった私。

 体力作ろうと決意していたら、フィーに覗き込まれた。


「だいじょぶ?」


 フィーはちょっと舌足らずな話し方がかわいい。


「ちょっと疲れた」


 正直に答えると、にぱっと笑う。茶色の目が以前うちにいたウサギを思い出させるなあと思っていたら、突然肩に担がれた。

 フィーの首に回るような体制で足と左手首付近を抱えられている。いわゆるファイヤーマンズキャリーの姿勢。要救助者かい!と突っ込もうとしたら、フィーはそのまま走り出した。

 うわあ、ウサギって速い!!

 じゃない!怖い怖い怖い!!!

 フィーは小柄なので、担がれても地面近いよ! 事実、髪は地面についてるよ!!

 非常に生々しい悲鳴をあげながらの移動になったけど、おかげさまで食堂に到着。

 違う意味で疲れました。


「あ、ありがとう……」


 礼を言うと、フィーは息ひとつ切らさずに嬉しそうに笑った。

 体力つけるために毎日ここに来ようと思います、はい。



 食堂ではいろんな種族の人たちがいて、興味津々でこちらを見ていた。

 私も同じ顔をしているんだろうなと思いつつ挨拶。

 でも、ぱっと顔をそらされてしまった。寂しい。

 しょんぼりしていると、フィーがお茶を運んできてくれた。


「ここのみんな、飲んでるやつ」


 ことりと置いたのはオレンジ色のマグカップ。見回すとみんな同じマグカップを使っている。

 ありがたくいただくと、ほんのりオレンジの香りがする紅茶だった。あったかくておいしい。

 客扱いだから仕方ないんだろうけど、すごい高そうなお皿やカトラリーが出てきて、パンの景品のお皿を愛用ていた私には辛かったんだよね。飾らない食器、落ち着くわ。


「お客様にそんなものを」

「客でもそんなん飲むのか」

「こんなところに連れてきて」

「めんどくさいことにならないといいが」


 周りがいろいろ話している。声小さくしてるんだろうけれど聞こえるよ。


「フィーありがとう。すごくおいしいねえ」


 お茶のお礼を言った後、立ち上がってその場で一礼した。


「初めまして。聞いているかもしれないけど、異世界から来たらしい、榊明です。サカキが姓でメイが名前ですのでメイと呼んでください。あちらでは一般人、こちらで言ったら庶民っていうのかな、だったので、堅苦しくされると泣きます。聖女とか言われても正直わからないけど、もう帰れないらしいので、こちらの世界のことをいろいろ教えてくれると嬉しいです。よろしくお願いします」


 一瞬、食堂がシーンとなる。

 あ、これは失敗したかなと思ったとき、周りからパラパラと拍手がわき、その後大きくなって私を包んだ。

 ちょっと泣きそうになった。



 その後はしばらく食堂で過ごした。

 仕事があるので長話は避けたけど、多くの人たちが私のところに来てくれた。

 皆さん口をそろえて「今回の聖女はめんどくさいって聞いたけど違うんだなあ」と言った。めんどくさいって言ったやつはあとでしばく、と地味に決意する。そういえば王宮の召喚士もしばく予定だった。デスノートでも作ろうかな。


 そうこうしている間に昼食の準備が進んでいるらしく、厨房から何かを焼くような音が聞こえてくる。

 そういえば、まだたくさん食べたわけじゃないけど、おかずはほとんど焼き物だったなあ。生よりいいけど、違うものも食べてみたいな。


「ランチは何かなー」


 等と呟いたら、料理人さんがやってきた。


「君が異世界人か。食事は口に合うかね?」


 聞けば料理長とのこと。褐色の肌と赤いほっぺがクマさんを思い出させる大きい人だけど、フィーたちのような獣人ではないみたい。


「俺はベアモンだ。よろしくな」


 ……、もうクマさんでいいんじゃないかと。

 それはともかく、大きなクマさん、もとい、ベアモンは、異世界から来た私が食事をちゃんととれているのか心配してくれていたそうだ。気になることがあればできることはしたいので教えてほしいと言う。優しさに感激だよ。


「慣れない食事なので完全に合うとは言えず申し訳ないのですが、おいしくいただいてますよ」

「ふむ」

「しいて言えば、焼き物だけじゃなくて揚げ物とか煮物とかも食べてみたいなと思いますが、それは今後に期待してます」

「あげもの? にもの? それはなんの料理だ?」

「あ、料理名のがよかったですか? 唐揚げとかとんかつとかシチューとか、そんなんです」

「からあげ? とんかつ? シチュー? そんな食材があるのか?」

「え、えっと……」


 うん、異文化交流って難しい。まあ外国の新しいフルーツとか調味料が入ってきたらわかんないもんね。ちなみに最近食べてビックリしたのは『ほうずきトマト』。面白かったけど個人的には微妙でした。

 そこで私は自分の知識ですがと前置きをして、知っている料理の話をした。自炊だったからある程度のことはできるんだよ。

 ベアモンはふむふむと頷きつつ話を聞いてくれる。

 途中、厨房から声がかかったので仕事中だったのに引き留めたことを詫びて話をやめようとしたが、却下された。ベアモンはそれでいいのかもだけど、私は厨房のみなさんの視線もあっていろいろと痛い。


「忙しそうだから、手があくまで時間つぶして戻ってくるよ。この辺りで見て楽しいところってある?」


 ベアモンはちょっと首を斜めにして考えてから答えた。


「厨房の外に畑がある。肉以外の食材はほとんどそこで賄っているから見てくるか?」


 そんなすごい畑があるんだ。これだけの人を賄えるなんてすごい。辺境だし、大きな畑を作れる土地があるのかな。東側の客間からは畑は見えなかったから、どんなのか興味がある。


「お願いします!」


 食い気味に頭を下げると、周りの料理人がみんな笑っていた。








読んでいただいてありがとうございます。

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