65. モンスタースタンピード
ここから数話は戦闘シーンが多いです。
過激なシーンも多いです。ご注意を。
今年はマリオン市の国会には全議員が欠席している。
とはいってももちろん時空電話によるリアル通信で、国会の議会には出席している。
市議会ではボティス密林に総攻撃をかけるという過激な意見を発する人もいるようだが、密林の中で隊列を組めるわけもなく。
モンスタースタンピードは、高濃度の魔素によって、どこからともなく魔獣が湧き出してボティス密林から溢れ出てくるから、タイミングがずれてしまうと逆に返り討ちにあってしまう。
それとボティス密林の奥深く入り込む必要もあるので、危険はララ草原での迎撃の三倍とも四倍になるんじゃないかってことで却下されたそうだ。
防衛はマリオン国からの補填もあり、他市からの応援もあって充実している。
第一防衛場所となった農地とララ草原の教会の土壁や、第二防衛場所となった城壁に設置された魔導砲や、魔充電装置に吸魔アンテナなどもその一環としてオーラン市に届いたものだ。
◇ ◇ ◇
二月一日赤曜日。
午前中に警備についた二等魔法士のガロンは、いつものように第一防衛場所の土壁に組み上げられた高さ五メルほどの第一見張り台の物見やぐらの上で、魔素感知と魔力眼ではるか向こうのボティス密林を見る。
索敵スキルもあるが、これほど離れていれば意味はない。
今にも小雨の降りだしそうな、どんよりとした嫌な天気だ。
天候予報士によると強い雨が降る可能性があるってんだ。まったく嫌な天気だ。
ここ数日、濃厚な魔素に嫌な予感が拭えず、緊張を持って観察をしている。
常時魔法を発動し続ける監視部隊は全一四人で、一等魔法士と二等魔法士で構成された小隊だ。
それで各二人体制――スキル無しのサポートが付く――で三か所の見張り台から交代で休みを取りながら、二四時間体制で見張りを続けるには神経をつかう仕事だ。
時たま双眼鏡も使うが、双眼鏡越しだとスキルに影響が出てしまうので、ガロンは双眼鏡はあまり使用しない。
今日のサポートは気心の知れたテトランだ。
第二見張り台、第三見張り台も似たようなものだ。
今日も無事でいてくれという気持ちと、モンスタースタンピードなんか早くおこっちまえっていう気持ちが複雑に絡み合うのは、見張りの最中の今も思っていることだ。
見張りを交代して直ぐにボティス密林が震源と思われる、ドドーンと地響きがして大きい地震があった。
大きく森が揺れたように見えたら、やぐらが大きく揺れた。
地鳴りも大きく壊れるんじゃないかと思えるほどだ。
揺れが収まって直ぐにボティス密林が一気に膨らんだように見えた。
それが魔素の膨張、溢れ出てくる魔獣の群れによるものだと気づくまで、ほんの数秒の認識の遅れがあった。
「モンスタースタンピードだ!」
マイクに叫びながら、第一警報装置のスイッチを押す。
ウー、ウー、ウー、とサイレンが盛大に鳴り響く。
漏れ出た大量の魔素と魔獣がまとう負の魔法力が溢れた。
まるで土地が汚されていくようだし、魔素と負の魔法力で耐性のない者だと耐えきれない濃度だ。
防衛の土壁にもいくつかひびが入ったほどの地震で、工兵が土魔法と錬金魔法で修理に走る。
「どこからだ! 見えないぞ!」
テトランが叫ぶ。
「まだ森の中だ! 魔素が異常に濃密になってボティス密林から溢れている! 直ぐに出てくるぞ!」
「わかった!」
テトランが双眼鏡を目に、必死にボティス密林をにらむ。
下の防衛部隊が慌ただしくなる。
魔導砲の準備も始まる。
すかさず市役所・第二防衛場所の城壁・オーラン市内の兵舎・冒険者ギルドへマジカルフォンで連絡が飛び、そして近隣の村にもモンスタースタンピードの連絡が行く。
近隣の村では連絡網に従いオーラン市の周辺全村に連絡が行き渡り、防衛に駆けつける者、オーラン市に逃げ込む者に分かれて行動が開始される。
「でてきたぞー! ゴブリンが五〇、…一〇〇、昆虫も来た、…二〇〇、ウルフ系の魔獣も出現した。
第二警報発令!」
第二警報装置のスイッチをテトランが押しながらマイクに叫ぶ。
ウッウー、ウッウー、ウッウー、とサイレン音が変化する。
「イノシシ系も出現!」
モンスタースタンピードは魔獣の大発生によって引き起こされる氾濫現象だ。
魔獣の性なのか、その大量の魔素、高濃度の魔素に酔ったかのように本能のままに多くの人間を目指し、殺戮を行う。
ボティス密林のモンスタースタンピードの向かう先はオーラン市に向かうのは必然だ。
ってウソだろう。……その漏れ出た大量の魔素、高濃度の魔素と負の魔法力がどういう訳かオーラン市に向かっている。まるで大気に魔素と負の魔法力の道ができて、押し寄せていているみたいだ。
いや、モンスタースタンピードが大量の魔素の流れを作っている。相乗効果かだ。
大気の負の道が土壁を通り過ぎて、オーラン市に伸びていく。
土壁に設置されたセイントアミュレットのモニュメントの影響で、土壁から先の濃度が減少している。
減少した濃度とはいえ、長時間この現象が続くと農産物にも影響があるだろう。
前回のモンスタースタンピードの時にも第一防衛場所と似たような場所に防衛拠点を設けていたのがうなずける。
「魔獣五〇〇、うち九割はゴブリンや昆虫系、残りがほぼウルフ系とホッグ系だ!」
テトランがマイクに怒鳴る。
「……魔獣七〇〇! まだまだ増えそうだ!」
追加情報をどんどん怒鳴っていく。
ララ草原で活動していた冒険者が続々と戻ってくる。
「急いで中に入れー」
こんなに危険な状態でよくやるよ、と思わないでもないが、奴らも生活のために頑張ているんだ。
冒険者登録していれば防衛隊の一人となってくれる可能性が高い。
そう思えば心強い味方だ。
「魔獣一〇〇〇!」
「武装魔導車発進!」
魔導砲を装備した五台の大型武装魔導車に、一五台の武装魔導車が、指揮官の号令で門から出ていく。
土塀には街道用の大門と、左右に兵や魔導車用の扉が五つづつ用意されていて、出入りは簡単にできる。
全員退却後は土魔法士が門扉事埋める算段となっている。
「魔獣、一五〇〇!」
「頑張って来いよー」
勇ましい。
俺ガロンは、索敵は得意だけど戦闘は苦手だ。
「魔獣、二二〇〇! まだ増えます!」
戦闘開始だ。
といっても武装魔導車が遠目から、突出した魔獣に魔導砲から炎魔砲の魔法を放っては離れ、魔導砲に魔法と電気の補充を行ってまた突撃を繰り返す。
弱い魔獣はこの一撃で、バタバタと死ぬ。
「ダッシュホッグ八匹突進してくるぞー!」
集団から抜け出したダッシュホッグが、もの凄い早さで土壁に突貫してくる。
「魔導砲ヨーイ! ……無駄弾打つなよー、よーく引き付けてー……ってー!」
ボンという発射音とともにブラストキャノン八発が発射される。
二匹が焼けて足が止まるが、六匹はわずかな傷を負うがスピードを上げ突貫してくる。
「次弾発射ー」
今度は追加で三匹が焼け、残り三匹。
「メガホッグ二匹突っ込んできまーす! 他デミホッグ三匹に小型魔獣多数も一緒でーす!」
昆虫やゴブリンを引き連れたメガホッグが突撃してくる。
「ギガブラストキャノン、ヨーイ! よーく引き付けてー…………ギガブラストキャノン、ってー!」
特大魔導砲から発射されたギガブラストキャノンの三射で三分の二が止まる。
「魔導槍、ってー!」
大魔導砲の三門に装填された魔導槍の束が飛ぶ、ドドドド…と魔獣や地面に突き刺さる。
「ブラストキャノン、で生き残りを掃討するぞー! …………ってー!」
一回目の魔獣による突貫を撃退する。
「デミメガホッグとダッシュホッグ、再度突撃きまーす!」
再度の突撃、土塀の前でギガブラストキャノンの迎撃の歓迎だ。
手傷を負ったデミメガホッグとダッシュホッグに、止めを魔導槍が飛ぶ。
その後もホッグ系のアタックが数度在ったがすべて迎撃した。
砲弾を撃ち尽くした武装魔導車が帰ってくる。
武装魔導車が倒した魔獣は六五〇匹程度と数は多いが、ほとんどが弱い魔獣ばかりだ。
例外は大型攻撃魔導車が倒した中レベルの魔獣たちだろう。
魔獣の増減で、現在残った魔獣は約二一〇〇匹だ。
強さでいったら“40”以上が六五〇匹、そのうちの一二〇匹が“50”以上だ。
“60”以上は超巨大イノシシのメガホッグが三六匹と意外に少ない。
それらが集団となって、土塀から一五〇メル程度まで接近してきた。
防衛隊側はオーラン市の全警備隊一三五〇人――予備兵三五〇人に戦闘奴隷二五〇人含む――で、今回の防衛のために警備に適さない凶悪犯罪者も何人も買い戻し、一時期的な使い捨て戦闘部隊を増やして警備隊の人数を一九〇〇人――内、戦闘奴隷五五〇人――にまで増やしている。
そして海と第二防衛場所の防衛で四五〇人を残すだけで、残りの一四五〇人全てが第一防衛場所に配備されている。
第一防衛場所ではオーラン市の警備隊、他市からの応援警備兵、冒険者に自警団を合わせた総数二三五〇人が防衛にあったている。
他市からの応援の警備兵は、使い捨て軍団とその指揮官が赴くことがマリオン国の通
例で、大体が小隊長の正規の指揮官と補佐に、戦闘奴隷の戦闘員の構成が多い。
同様に自警団の中や冒険者の中にも戦闘奴隷は配備されているから、戦闘奴隷はかなり多い。
その多くが強さが“25”~“40”が大半の七割を占め、“50”を越すものは一六〇人ほどしかいない。“70”を超すのは一人だけだ。
ただし武器は充実していて、土壁に設置された特大魔導砲が一〇門、大魔導砲が二五門、通常の魔導砲が中・小に槍やネットを合わせて一二〇門、小型ネットも打ち出せる魔導弓が大小合わせて六〇張りとなっている。
機動力の魔導車に関しては大型武装魔導車八台で、魔導砲のサイズとしては中型だ。
標準の武装魔導車一五台で魔導砲としては小型の部類だ。
その他には太い二本の魔導槍を装備した突撃魔導車が一五台だ。
手薄になったオーラン市内の警備にも他市の応援と自警団に冒険者の一部が組み込まれている。特に自警団の数が多いので人数はそれなりにいる。
「ここからが本当の戦闘だ!」
指揮官の号令の下、式はおう盛、魔導砲が一気に火を噴く。
狙うは魔導砲に見合った高位の魔獣。
特大魔導砲は強さが“60”以上の魔獣。大魔導砲は強さが“50”以上の魔獣といった具合だ。
「ブラッドアミュレットを振りまけ!」
指揮官の声が響く。
魔獣の数的にもユトリがあって、迎撃側の式はメチャクチャ指揮が上がっている。
魔獣血石を撒いて、興奮状態の魔獣を更に興奮させ、判断力を弱らせ、魔獣をこの場所にくぎ付けにして仕留める。
エルドリッジ市に面するノーフォーク湾にテロリストによって撒かれたブラッドアミュレットと基本同じものだ。
凶暴になる反面、動きが粗暴で単調になる。
メガホッグやダッシュホッグなどが突貫してくる。
それらは落とし穴の餌食となる。そこに切れ味アップを付与された鋼鉄製の矢が突き刺さる。
ピギャーッと悲鳴のような鳴き声を上げてこと切れる。
武装魔導車が再度出撃し、突撃魔導車も出撃する。
かなりの短時間で、魔獣の七割がた倒しいた時。
「第二陣が出てきそうだ!」
俺ガロンはボティス密林の魔素のふくらみを捉えて、相棒のテトランに告げた。
「……第二陣出現! 数約四〇〇!」
双眼鏡で確認していたテトランがマイクに叫んだ。
大気の魔素の道も、より濃厚になっていく。
魔素と負の魔法力の道、濃厚な流れは大気の道となって、すでにオーラン市まで届いている。
「……第二陣数約八〇〇!」
「……第二陣数約一六〇〇!」
「……第二陣数約三二〇〇! 強力な魔魔獣多数確認! ギガントベア、メガホッグ、シルバータイガー、オーガ、サイクロプスオーガがいます!」
ギガントベアはレッドキャップベアの上位種で炎を操るのが得意だ。
冷凍魔法のシルバータイガーはセージたちが一度発見している。
二本角のオーガや一つ目一本角のサイクロプスオーガは未発見で、ともに手には巨大な剣を持ち強靭な肉体に様々な魔法を操うる。
テトランの報告に防衛隊に動揺が走る。
未発見の魔獣が三種も入っていればそうなるのもうなずける。
「……第二陣五五〇〇! いや、五八〇〇! 鳥魔獣にプテランが一七匹います!」
俺はマイクに向かって叫んでいた。
とうとう空飛ぶ魔獣のお出ましだ。と思っていたら……。
「追加でビッグプテラン三匹! 第二陣総数五九〇〇!」
隣のテトランが叫んだ。
防衛隊に動揺が走る。
プテランの後方に巨大なプテラン、
「ビッグプテラン四匹出現!」
テトランが続けて叫ぶ。
モンスタースタンピードで想定される最強の魔獣だ。
「ビッグプテラン総数七匹!」
防衛隊に更なる動揺が走る。
プテランの強さは“60”とかなり強いが、もっと厄介なのが飛翔して攻撃がまともに当たらないことだ。
ビッグプテランとなると強さは最低でも“80”となり、特大魔導砲の直撃数発でなんとか倒せるかといった魔獣だ。
空に向けての対空砲火だと魔導砲の速度が落ち、簡単に避けられてしまう。
定番の攻撃だと魔導ネットを掛けて、地上に落として魔導砲で止めを刺すのだが、これだけの魔獣を相手にしながら何とも難しい。
鳥魔獣補正の一.二倍~一.五倍の強さと考えると、ビッグプテランは苦戦すること間違いなしだ。
その他の鳥魔獣は巨大なカラスようなラウムラウムは黒い風やカマイタチを起こす。
レッドホークは羽や爪が鋭く、真空の刃で切り裂いてくる。
キングファルコンは高速飛翔のアタックでショックウェーブや風の刃を放ってくる。
プテランやビッグプテラン、鳥魔獣たちの餌食にはなりたくない。
俺は相棒のテトランと一緒にやぐらを途中まで降りる。
次の見張り場所はやぐらの中断で三メルほど低くなるが、強固な屋根や塀に囲まれている。
もちろんやぐら自体にもセイントアミュレットのモニュメントで防御されているが、強い魔獣には効果が弱くなる。
飛翔魔獣が出現した時の予定の行動だ。
第二陣は強さが“40”以上が二一〇〇匹、そのうちの五〇〇匹が“50”以上だ。
“60”以上は七五匹とかなり多く、その内の七匹がビッグプテランだ。
「対空防御! 引き付けて撃てよー!」
それからは激戦だった。
魔獣からの攻撃の激しさに土壁側も被害が出る。
魔導ネットが空を飛び、ギガブラストキャノン、メガブラストキャノン、ブラストキャノンが魔獣を焼き払おうとするも、魔獣側も堅固な体表や魔法にスキルで防ぎきる。
魔導槍が唸る。
魔導矢の弾幕が張られ、魔導ネットで捕獲する。
周囲では大型武装魔導車と武装魔導車に突撃魔導車が走り回る。
ビッグプテランの圧縮空気と衝撃波のスキルを複合した衝撃波のブレス攻撃によってセイントアミュレットのモニュメントや魔導砲を幾つも破壊されてしまう。
さすがビッグプテレンのソニックインパクトは強烈だ。
それらの攻撃から砲兵など、大きく重い盾で守るのが戦闘奴隷の一つの役割だ。もちろん死ぬ確率が一番高い。
メガホッグの体当たりで土壁が、そして魔導車が破壊される。
オーガの武器の一撃で別の魔導車が、魔導砲もオーガの投石で破壊される。
メガホッグの再度の土壁への体当たり。土壁にひびが入る。
そこにビッグプテランのソニックインパクトのブレス攻撃が炸裂する。
すぐさま応急処置をするもセイントアミュレットのモニュメントの結界機能はかなり低下してしまった。
「おい、雨が強くなってきたぞ」
「そりゃあ、まずいな」
小雨ならともかく、雨が強くなるとブラッドアミュレットやセイントアミュレットのモニュメントの効果が低下する。
それ以上に砲撃の威力が落ちてしまう。
俺とテトランは顔を見合わせる。
「おい、あれ、ビッグプテランと鳥魔獣の群れだ」
「第三陣鳥魔獣の群れ発生ー! 数五〇〇匹!」
俺がボティス密林を指さすとテトランがマイクに叫んでいた。
「土壁の修理急げー!」
指揮官の指示に、工兵が急いで土壁やセイントアミュレットのモニュメントの修理を行う。
雨足が一気に強まる。
「鳥魔獣七八〇匹!」
「鳥魔獣一一五〇匹!」
第三陣が、ザーッと降った雨の効果もあったのか、第二陣の鳥魔獣に一部を引き連れて土塀の上空を飛び越えていく。
威力の落ちた砲弾もそれを阻止するだけの威力が無かった。
「ビッグプテラン九匹とプテラン一八匹、それと鳥魔獣一三〇〇匹がオーラン市に向かって飛び去った!」
テトランがカウントして、俺がマイクに怒鳴っていた。
◇ ◇ ◇
引き続く激しい戦闘では、威力が落ちたとはいえ強力な魔導砲で、そして魔導車で魔獣を倒していく。
魔導車が徐々に壊れ、工兵でも修理不可能になると、交代の突撃部隊ととして土塀から兵士たちが飛び出していく。
もちろん全員ずぶ濡れだ。
戦闘奴隷が先頭で魔獣の群れに突っ込み、追加のブラッドアミュレットを魔獣の中にぶちまける。
魔獣に盛大に襲われ、かなりの被害だ。
傭兵団は突撃魔導車と同様に、魔獣に突撃しては引き返す。ヒットアンドアウェイ戦法だ・
飛び出した通常の兵士たちは魔導車と行動を共にし、魔導砲で手傷を負った魔獣の止めを刺していく。
または、弱い魔獣をおびき出しては取り囲んでしまつする。
強い魔獣には突撃魔導車が行く手をふさぎ、タコ殴りだ。
魔獣側が被害が甚大になったころ、第一防衛側も魔充電装置の充魔石がほぼ空になってしまった。
武装魔導車や突撃魔導車も相当ボロボロだ。
雨が弱まってきた。
うれしいことだ。
一進一退の攻防が続く。
空にはまだビッグプテラン一匹に、プテラン五匹、地上にはギガントベア五匹、メガホッグ三匹、オーガが一匹、サイクロプスオーガ二匹が無傷とは言えないが、それなりに元気で残っている。
魔獣は小物も含めて八〇〇匹まで減った。強さが“50”レベルの魔獣も含めてだ。
二三〇〇人いた兵士たちの死者はわずか、といっても二〇〇人ほど――そのほとんどが戦闘奴隷――で、怪我人はその約三倍強の六五〇人だ。
その他に魔法力の枯渇で戦闘不能が三五〇人。
戦えるのは一〇〇〇人程度といったところだ。ただし、それなりに疲弊しているし魔法の残量を考えると長時間の戦闘はまず無理だ。
土塀も五度ほどメガホッグに穴を開けられ、土魔法で補修している。
そのうちの一回は地上の魔獣の侵入を許してしまい、オーラン市へ向かってしまった。
その他にも大きな亀裂が幾つ入り、細かなヒビは無数とかなりボロボロだ。
セイントアミュレットのモニュメントも半分は機能していない。そのほとんどがビッグプテランの強烈な衝撃波によるものだ。
土壁の破壊はメガホッグとオーガの攻撃によるとことが大きい。
魔導砲も半数が破壊され、武装魔導車や突撃魔導車も三分の二が破壊された。
よくここまでやぐらが持ったものだとガロンとテトランは思っていた。
「やっと応援の到着だ」
オーラン市からの四度目となる補充、魔充電装置済みの充魔石と“マジックキャンディー”だ。
これで最後の掃除が何とかできそうだ。
「掃討戦だー! 総員気を引き絞れー!」
「「「「…おー!…」」」」
司令官の檄に、全員が気勢を上げる。
「おい、また雨が強くなってきたぞ」
「まずいな」
小雨になっていた雨が、あっという間に土砂降りとなった。
いつも外す天候予報士の癖に、こんな時にだけ当てやがって! 天気が悪いのは天候予報士の所為じゃないが、思わず悪態が出る。
魔素も雨に流されちまえとも思うが、憎らしいことに雨に、風にも影響はされていないよううだ。
やぐらの二段目で物見を行っていた俺は魔力眼で、ブラッドアミュレットがかなり魔獣に食われていて効果がかなり落ちていることを確認していた。
そこに雨が降ると魔獣を引き寄せる効果がさらい落ちてしまう。
それとこれだけの雨だとブラストキャノンの威力は半減する。更に強くなれば更に落ちる。
よりにもよって何でこんな天気にモンスタースタンピードなんだ。
そう思って戦場を観察し続けた。
「魔獣の群れ第五陣発生!」
「鳥魔獣一〇〇匹! 陸上魔獣二〇〇匹!」
「ビッグプテランとプテラン五匹がオーラン市に向かって飛び去った!」
俺はマイクに向かって怒鳴りつけていた。
鳥魔獣のほとんどもビッグプテランについていってしまった。
これでオーラン市に向かわせてしまったのは二度目だ。
そして驚いたことに、デミワイバーン三匹がボティス密林から舞い上がって一気にオーラン市へと飛んでいった。それも第三陣としてビッグプテレンなどの鳥魔獣を八五〇匹ほどを引き連れて。
今回のモンスタースタンピードの想定では、最強がビッグプテランだとなっていた。
俺は、オーラン市のみんなが無事であることを、オケアノス様に祈った。
隣でテトランが必死で叫んでいた。