蝶
収束
――人としての命の終わり。
どうやら私は死んでしまったらしい
体が妙に軽い。元々持っていた質量と一緒に、肉体やら記憶やら、色々と大事なものを落としてきてしまったようだ。
服の肌を擦るかんじがしないが、服を着ていないわけではないらしい。腕を伸ばして見れば、何の飾りっけもない白い袖がゆったりと揺れていた。あまりにシンプルなそれに、つい苦笑を漏らす。
なるほど、私の創造性とやらは終ぞ開花しなかったのか。
カメラの前で綺麗なお洋服を着て、ニッコリと微笑んでさえいれば良かったのだから、当然といえばそうなのだが!
生前の私は、モデルだった。ファッションデザイナーやパティシエ、編集者。無数の創造性の上に立つ、傀儡。ファンデーションやアイシャドウに甘く飾られた私は、さながら着色料に塗り固められたパンケーキのようで。華やかに見えて、その実私だけが空っぽだった。
美しくなりたい。その一心で、私は自ら考えることを放棄してしまった。そういえば、死んだというのにあまりにも無感動だ。五感や感情も落としてきたのかもしれない。
それにしても此処はいったい何だろうか。道を聞こうにも、目の前にぼうっと立っている街灯より他に何も――――
ふわり、と蝶が舞う。
見たこともない蝶。しかし、私は彼女を知っているに違いなかった。
「あなた、もしかして」
「ええ、あなたと契約させて頂いていた蝶です」
「アラ、随分と綺麗になったものね?」
「あなたがお亡くなりになったので、契約満了として蝶になることを許されたのですわ。…………あなたの人生は、幸せでしたか?」
羽を震わせる様子が、微笑んでいるように見えた。私は死んでしまったというのに、彼女があまりに幸せそうで。少し意地悪を言ってやりたいとさえ思った。どうも、嫉妬だけは死んでしまってもついてくるらしい。
「私は、どうなったのかしら」
「綺麗な姿は煙になってしまいましたから――。もう、お化粧をしても、お世辞を言っても取り繕うことはできないでしょうね。」
あぁ、と声が漏れる。もう何も言われなくともわかっていた。
私は、あのおぞましい芋虫になってしまったのだ
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人間は人生と虫生とを送る。
天国に醜いものを持ちこまれないように。
死んだ後くらい、生前のしがらみは忘れて清く生きたいだろう、という神様からの優しさから生まれたシステム。
人間というのは厄介で、嫉妬やら強欲やらに耽っているせいで、八十とあと数年だけでは魂が十分に育たないばかりか、穢れて駄目になってしまうのだ。
成仏したければ、穢れてしまった魂を、魂虫としての二周目の人生で綺麗に戻さなくてはいけない。
その為に、人間と「何か一つ願いを叶える」契約をし、見事契約を果たせば、美しい蝶として成仏することが出来る、というわけだ。
生前どんなに美しい容姿をしていても、穢れた魂は皆仲良く気持ちの悪い芋虫のような見た目をしている。それも、願いを叶える虫、という魅力を打ち消してしまいそうな程に。
そんな虫生の中で、人間はやっと「大切なのは中身、見られるのは外面」なんて言葉を本当の意味で理解する。
生きている人間には、わからない話!
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すやすやと眠る小さな命。こんな安らかな寝顔の下に、私達のようなおぞましい虫が息づいているのだろうか?
――あぁ、違うな。そんな筈がない。彼女達のような美しい蝶から生まれたのだから。この世界で生きていくうちに、悪いものを沢山食べて、私達のようになってしまうのだろう。
さて、これからどう生きようか――
収束――再考。
再考
――輪廻の果てに幸せを願う。
街灯の正体は特に考えていませんでした。ナルニア国物語のライオンと魔女のイメージです。死後の世界ですが。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!




