弱虫
収束
――親友と信じて疑わなかった人間の真意を知る
「あの女、お前の事嫌いだぜ?」
此れ以上にお節介な言葉を僕は知らない
イヤ、だからなんだ?という話だ。ああハイそうですかと終わらせるには重いが、生憎じゃあ話をつけに行こうとなる程フットワークは軽くない。どうしたって笑顔は強ばるし、どうしたって泣きたくなる。
「いっそ嫌い返してしまえよ」
何を言ってるんだか。あの子が僕の事を嫌いだとしても、僕があの子を嫌う理由にはならないだろ。ならないんだよ。一度は友人だった人を、笑いあった人を憎めるなんてどうかしている。あの時間は偽物だった、まやかしだったなんて、そんな残酷な事が言えるのか。わからない、わからない。僕は、皆と仲良く笑っていたいだけなのに――――!
「お前のその八方美人なところが、みんな嫌いなんだよ」
真実かもしれない。なら僕は真実を知りたくない。コイツは笑うかもしれないな。でも、僕は友達を愚直に信じる道化で居た方が幸せだと思うんだ。たとえ、本当は皆そんな僕が嫌いだとしても。其れでも良い、ただの自己満足なのだから。僕が、勝手に、あの人たちを好いているだけ。
「せっかく僕が教えてやってるのに。わざわざ傷つきにいくなんて………君は馬鹿だなァ!」
真実を伝えるのが常に正しいとは限らない。真実はときに辛過ぎるから、甘い嘘が正解になる。いつまでも夢を見ていたい奴だっているのだから!
人の心を知れば、より良い関係が築けると思った。だから、僕はコイツに頼った。その結果がこれか。
ケタケタと笑う虫――黒に毒々しい黄と白の斑点がついた、忌まわしい見た目の芋虫――を摘んで放り捨てる。煩い。
「へぇ? 僕を殺すかい? 僕という、真実から目を背けるのかい! 本当に君は――――」
ぷちり!
ローファーの爪先で踏み潰す。殺したという感じがした。付いた汁をその辺の草で拭って、僕はヘッドフォンをかけた。まったく静かになったが、それでも、未だ不快な笑い声が耳に絡みついてくるようで、吐き気がする。
「真実は自分の目で見極めたい質でね…」
誰が聞くでもないのに、言い訳を零しながら足で死骸に砂をかける。弔い、というよりは罪を隠す為に。真実を受け入れられない自分の弱さから目を背ける為に!
本当は、真実を見つめる勇気なんてない。人の心を知ったところで、その人の為に動けないなら無意味だ。何も出来ないなら知るだけ無駄で、何も出来ないと分かっていながら知ろうとするのは偽善に過ぎない。たったそれだけを知るために、やたら高い授業料を払ったような気がする。
それでも何も変えられない僕は、コイツの言う通りどうしようもない馬鹿なのだろう。
優しい人になりたかった。頼られる人になりたかった。誰かを嫌う強さも、誰かを疑う賢さも欲しくなかったから。それで嫌われていたとしても、この生き方しか知らないのだ。愚かでも良いじゃないか。変えられないのは、きっと、変えたくないから。自分が受けた痛みを、大切な人に投げつけたくないから――
だから、今日も僕は
なんでもない顔をして。
「おはよう」
笑う。
再考
――嫌われていようと、愛したいと願う
初期設定では虫を喰らって強くなる予定でした。でも、弱いまま生きていくのも悪くないかなぁと思い、踏み潰して決別する形にしました。