細胞分裂
収束
――誕生、絶望
この世界は、生きるにはあまりに恐ろしい。
ぽこり、と細胞分裂をした時にそう言われたものだから、もうこのまま死んでしまおうかと思った。
しかし、まだ細胞の僕にも父さんか母さんの負けず嫌いがキッチリと遺伝したらしく、なにくそと僕は生き続け、そんな僕に呆れたのか、最初に僕に話しかけた奴の声は聞こえなくなった。
代わりに聞こえてくる優しい声は、きっと父さんと母さんと、お医者さまの声だろう。
僕は、順調に人間になっていった。
内臓ができて
手が生えて
足が生えて
目が見えて
最後に乳白色の珠をひとつ飲み込んで―――
目が覚めた 多分生まれた
だから泣いた 悲しくて泣いた 苦しくて叫んだ
病室の白色が眩しかった。あの意地悪な奴の言った事はほんとうなのだと気付いてしまった。
ぼろぼろと涙を零しながら、僕は生まれてきた事を後悔した。
そんな僕を抱きしめて、優しそうな女の人が涙を流す。
母が流す涙は、僕のそれとは違っていて
そんな涙を流せるなら、生まれてきたのもそう悪くないかもな、なんて思ってしまった。
生きるのはきっと恐ろしくて苦しいけれど。嬉しいこともあるはずだから。神様がほんとうに嫌な奴なら、こんな無力の赤ん坊なんてとっくに捻りつぶしているだろう。
神様よりずっと弱い生き物のくせして、目の前に出された、ほんのちょっとのカードを見て降りるなんて悔しいじゃないか。伏せられた山に、最高のカードが隠されている可能性がある限り。僕はいくらでもベットしてやる。
何度失敗しても、傷つけられても。
視界の端にちらりと黄色っぽい何かが見えた。
自分とは似ても似つかない奴だったが、僕はいずれこうなるのだと確信した。普通の赤ん坊なら、こんな気持ち悪い虫になるなんて、と絶望したかもしれない。
でも僕は、に、と笑ってやった。生まれたばかりの赤ん坊の表情筋は未熟で、誰にも判らないだろうが――まあ、良いだろう。
これは僕なりの宣戦布告。
負けず嫌いは母さんの遺伝だ。
再考
――宣戦布告