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12年目の恋物語  作者: 真矢すみれ
番外編2 規格外の恋物語
35/38

6.

 もうすぐ、高一も終わる三学期。

 偶然に会った渡り廊下。

「先輩!」

「ん? なに?」

 先輩、今日は何が飛び出すんだ、って面白そうな顔でわたしを見た。

 わたしが教室まで押しかけたんだったら、きっと先輩は陽菜に何かあったのかと心配する。

 だけど、偶然会った時にはそんな心配はない。



 秋の選挙で予想通り、生徒会長になった先輩。

 すっかり忙しい人になったのに、わたしと会うと足を止めてくれる。

 そして、たいてい楽しげに笑ってくれる。と言うか、大笑いしてくれる。

「わたし、」

 先輩を真っ直ぐに見つめる。

 先輩がわたしの方をしっかり見たのを確認して、一息で言った。

「先輩を好きになってしまったみたいです!」

 先輩、目が点になった。……としか言いようがない顔をした。

 さすがに、今日は笑われなかった。


 先輩の返事を待っていると、先輩は首を傾げた。

「……で?」

「それだけです! 言いたくなったんで、言ってみました」

 そう告げると、先輩はまた吹き出した。

「寺本さんは、本当に、飽きさせないキャラだね」

「先輩、いくらなんでも、それは失礼ですよ」

 口をとがらせると、先輩は不思議そうな顔をした。

「これでも一応、勇気を出して告白したんだから」

「それは、失礼」

 先輩は、ぜんぜん失礼だなんて思っていない顔で言った。

 ……まあ、そうだよね。

 勇気を出したと言っても、たまたま、出会った渡り廊下。

 周りにちょうど人がいなくて。実のところ、つい言ってしまったんだ。

 多少の勇気は必要だったけど、それは勇気を振り絞ったといえるほどのものではない。

 とはいえ、その言いようはないと思う。

 最近、わたしと話す時にはまったく優等生の仮面をつけない先輩。

 だんだん腹が立ってきた。

 困らせてやる。

 そう思って、わたしは続けた。

「だから、先輩、つきあってください!」

 さすがの先輩も、まさかその言葉が飛び出すとは思っていなかったようで、切れ長の目を見開いた。

「……ごめん。ムリ」

「何でですか?」

「キミが聞く?」

 と先輩は言った。

 相変わらず、先輩の視線の先には陽菜がいて、陽菜の隣には叶太くんがいる。

 だけど、先輩が陽菜を見つめる目はひたすらに優しい。

「いいじゃないですか」

「ん?」

「陽菜を好きなままで。……どうせ、叶わないんだから」

 先輩は苦笑いを浮かべた。

「手厳しいね」

「自分でも分かってるくせに」

「そうだね」

 先輩は悲しそうでも寂しいそうもない、穏やかな微笑を浮かべた。

 あ、仮面付けたって気づいて、悔しくなった。

「あのっ! わたしも、陽菜、大好きだから、」

 いったい何を言い出すんだって感じで、先輩が不思議そうな顔をした。

「先輩、わたしと一緒に陽菜の幸せを見守りましょう!!」

 本気で言ったのに、先輩は数秒後、またしても爆笑した。

「あははっ! 何それっ!!」

 ちょっと、先輩、笑いすぎですよ。

 人が真面目に告白してるのに。

 だけど、先輩の笑いの発作は一向におさまる気配を見せない。

 いったい、どれだけ笑ったら気がすむんだろう?

「もう。先輩、いい加減に笑うの、やめてくださいよ」

「……いや、それ、ムリだからっ!」

 更にしばらく待ったけど、笑いの発作はおさまらない。

 いったい、どこのツボにはまったのやら。

「もう、いいです」

 はあぁ、と珍しく、わたしは禁断のため息をついた。

 幸せ、逃げちゃうじゃんか、先輩のバカ。

「じゃ、また」

 そのままその場を立ち去ろうとしたら、お腹を抱えて笑いながら、

「ちょっと、待って」

 と先輩がわたしの手をつかんだ。

「先輩?」

「いいよ」

「は?」

「いいよ、それで、キミがいいのなら」

「え? 何のことですか?」

 わたしの言葉に、先輩は絶句した。

「……おいおい。自分で言ったんじゃないか」

「は?」

「一緒に、ハルちゃんの幸せを見守ろう」

 え?

「……えええっ!?」

 思いもかけない返事に、わたしは大声を上げていた。

「ホントですか、先輩!?」

わたしのその反応を見て、先輩はまた大爆笑。

「ああ。ホント」

「わたし、つきあってくださいって言ったんですけど」

「知ってる知ってる」

 先輩は、

「あんまり笑わせないでよ。もう、面白すぎ!」

 って笑いながら、イタタタってお腹を押さえた。

「……先輩は、失礼すぎですよ」

「そう?」

 と言いながらも、先輩の笑いはおさまらない。

 腹を立てればいいのか、一緒に笑えばいいのか?


「まあ、いいですよ。惚れた弱みです」

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