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帝立梅ヶ丘魔導学校遊々記  作者: タカハシあん


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27/40

27 従兄弟

 体内時間で十二分。体力が四割、魔力が三割弱は回復できた。


 ……通常時ならもっと回復するのに、やはり戦い時ではこんなものか……。


 でもまあ、これだけ回復できれば十分。余裕で二十キロは走れるし、回天術も使える。


 腕時計を見る。時刻は十時三分。開始して一時間ちょい。海璃ちゃんが言った時間までは数分あるが、海璃ちゃんの表情を見たら休憩を続ける気にはなれなかった。


 ……訓練してきたボクでさえこうなんだからいつもの通りにはできないさ……。


「ナンバー15、リボルバー・ランチャー召喚。ナンバー7、M装備召喚」


 もはや道具使いとしての能力だけでは対処するのは不可能だ。天才児とは言えこんな小さな子が頑張っているのだ、出し惜しみしている場合ではない。ここで後れを取ったら年上としての立つ瀬がないぞ。


「海璃ちゃん、もういいよ」


 肩を叩いて魔術を止めさせ、吹っ切れたように乱射する野村さんも止めた。


 戸惑う野村さんに構わず開いてある窓を全て閉める。


 備え付けの水を二人に渡し、落ち着いたところで口を開いた。


「ここを放棄して別の基地に移る」


 二人が目を大きくして驚く。


「この人数であの数を相手にするには限界がある。だから、他の奴らと手を組む。そのためにも広い基地を設営する必要があり、あの群れを突破しなければならない。しかも、移ったからと言って基地の防御力はこれより劣る。なにより他の奴らが拒否することもある。いいことより悪いことの方が多い作戦だ。いや、作戦とも言えない思い付きだ。そんなものに付き合う必要はないし、付き合ってくれとも言えない。だから強制はしない。各自の判断に任せる」


 そう言ってM装備のトランクを開けた。


 中には父さんからもらった服部忍群使用の魔闘衣を道具使い用に改造した、タクティカル・アイテム・スーツに、"バトル・カード"搭載の手甲、初期装備の二丁の拳銃、ギミックの鋼鉄の鞭が二つ入っている。


 ジャケットとタクティカル・スーツを脱ぎ捨て、タクティカル・アイテム・スーツに着替え、手甲を装着。拳銃、鞭、バトル・カードを装備する。最後にリボルバー・ランチャーをつか──もうとしたら野村さんに奪われてしまった。


「もうこうなりゃヤケよっ! どこまでも付き合ってやろうじゃないのさっ!」


「わ、わたしもヤケですっ! 最後まで付き合います!」


 そう二人が叫ぶと、基地にある弾薬をダンプポーチやバックに詰め込み始めた。


 そんな二人に呆気に取られたが、なんとも頼もしいヤケに自然と笑みが溢れた。


 ……フフ。体力魔力は三割ちょっとだが、心は完全復活した気分だよ……。


「ナンバー16、F装備召喚」


 三十発の手榴弾が入ったバックを召喚し、未だに震えるクラスメートらに手榴弾を一個ずつ渡した。


「この基地の装甲ならそう簡単に破られることはないと思うけど、万が一の場合はそれを使いな。このピンを抜いて五秒後に爆発して死ねるから」


 ボクの言葉の意味がまったく理解できなかったのか、ボクと手榴弾を交互に見返した。


 まあ、怯えてる子に理解しろと言う方が悪いが、余り時間を掛けている暇はない。なので手っ取り早く目覚めてもらうようにと、クラスメートらの頬をひっぱたいてやった。


「年長者として小さな女の子を置いて行くのは不本意だけど、ボクには守らなければならない妹と優先すべき幼なじみがいる。だから君たちを守るのはここまで。ボクたちが外に出たら扉を閉めて大人しくしていること。万が一、迷宮獣に破られたらその手榴弾を使う、かは君たち次第。使う場合は、このピンを抜いたら五秒後に死ねるから。OK?」


 OKとは言わなかったが、息を飲んだり身を竦めているところからして理解はしてくれたようだ。まあ、しないのならしないで構わない。それもこの子らの選択だしな。


「用意できた?」


 二人へと振り返る。


「どんとこいよ!」


「いつでもどうぞ!」


 完全に吹っ切れた野村さんに覚悟を決めた海璃ちゃん。頼もしい限りだ。


「うん。じゃあ、作戦はこう。まず最初に海璃ちゃんが窓から風を放ってハッチ付近にいる迷宮獣を吹き払う。そしたら野村さんが出てサブ・マシンガンを乱射。ボクが合図したら海璃ちゃんが出て観客席側と頭上だけでいいから風壁を展開して。最初にボクが出てハッチを閉める。そしたらボクと野村さんの配置を交換したら風壁を解除。海璃ちゃんは観客席側を担当。迷宮獣を近寄らせないこと。野村さんは殿。ボクは先頭だ。基地設営場所に到達したら設営するまで二人で対処してくれ」


 ざっくりな説明にも関わらず二人は力強く頷き、野村さんはサブ・マシンガンを構え、海璃ちゃんは精神を集中し始めた。


「では、作戦開始!」


 二人に笑顔を送り、ハッチ横の覗き窓を開いた。


 集中した海璃ちゃんが先程より見事な風を生み出し、拳大の覗き窓から風を放った。


 魔術に関しては素人も同然だが、魔力がどう流れどう変換するかは一級魔術士より優れていると自負する。海璃ちゃんは正真正銘、天才だ。


 ……腰を抜かした状態から立て直した精神力と言い、この見事過ぎる魔術と言い、ボクは数十年後の大魔導師を見ているかもしれないな……。


「迷宮獣、払いました」


 海璃ちゃんの合図にハッチを開け、野村さんを見る。


「あたしだってやるときはやるんだからっ! 見てろよ、従兄弟どもがっ!」


 いくら木陰が情報専門の忍とは言え、弱肉強食の世界で生きている忍には変わりがない。


 忍の世界は順位が絶対。階級が全て。血が繋がっていようが直系だろうが、強くなければ排除されるだけ。強い者が一族を受け継がなければならないのだ。


 ……ほんと、忍って大変だ……。


 キレた野村さんが飛び出し、群がる迷宮獣に弾丸をぶち蒔けた。


 海璃ちゃんの肩を叩いて促すと、力強く頷いて外に出た。


 続いてボクもとハッチに手を掛けたところで急停止。基地の隅っこで震えるクラスメートらに振り返った。


「じゃあ、明日ね」


 挨拶を送り、ハッチから飛び出した。


 ハッチを閉め、両脇のホルスターから拳銃を抜き放つ。


「野村さん!」


 メチャクチャ撃つ野村さんが撃ち方を止め、ボクと配置を交換する。


 ざっと辺りに目を走らせる。


 闘技場は完全に迷宮獣に支配され、今も円柱や壁から溢れ出ている。観客席側も似たようなものだが、そこらかしこで円陣を組み、必死に抵抗するチームが幾つも見て取れた。


 視界全て迷宮獣となれば普通、絶望で戦意を消失しそうなものだが、さすが天下の魔導学校に通う生徒である。これだけの群れに囲まれて一時間以上経つのに、その勢いは未だに失われていない。なんとか無双のように迷宮獣を倒していた。


 そのチームの一つ、ボクたちからもっと近い場所にいる十数人のチームの中に、なにやら見覚えのある魔闘着を着た男子二人と女子一人がいたが、特に目を引いたのは見事としか言いようがない魔闘術を見せる男子だった。


 ……あの歳で"雷天の鎧"を纏えるなんて凄すぎるだろう……。


 背中に刺繍された山に三日月の紋は服部忍群の証。その下にある松は下忍と言う意味。松が三つだから組頭、だったはずだ。


 襲いくる迷宮獣に弾丸をブチ込みながらその男子に視線と意識を向けると、まるでそれを感じ取ったかのように振り返った。


 ボクの記憶に間違いがなければその男子は従兄弟。服部はっとり高明たかあきだ。


 しかしなんだ。余り服部との繋がりがないとは言え、従兄弟が同学年にいることもわからないほど無関心でいたとは我ながら呆れ果てる。これが終わったら名簿に目を通さないとならないな。他にも従兄弟がいそうだ。


「ナンバー22、分隊支援火器召喚!」


 両手の拳銃をホルスターに戻し、二百発の弾を装填させた軽機関銃を右腕の手甲から召喚した。


 召喚すると自動的にスライドするのだが、順番に入れてあるから欲しいものは選べないんだよね、この手甲は……。


 空中で軽機関銃をキャッチし、そのまま従兄弟──多分、一学年の姫騎士団が円陣を組む方向へと銃口を向け、群がる迷宮獣を撃ち払った。


「姫騎士団! なんとかなるならなんとかしろっ! できないのなら協力しろっ! 嫌ならそこから離れろっ! こちらは生き残るために他の奴らと組む! 巻き添えを食らっても知らないぞっ!」


 こちらを見る従兄弟に叫び、空になった軽機関銃を捨て、両腰に吊るした鞭を抜き放って襲いくる迷宮獣を打ち払う。


 右に左に鞭を走らせ、迷宮獣を打ち払いながら二十メートルほど前進すると、姫騎士団が通路に上がってきた。


「久しぶり。おれのこと覚えてるか?」


 高明がボクへと近づき、なんとも軽く挨拶してきた。


「覚えてるよ。それよりリーダーはお前か?」


「困ったことにそうだよ」


 迷宮獣を打ち払うのに忙しくて表情は見れないが、その声音からして不本意ながらリーダーをやっているみたいだ。


「忙しいから単刀直入に聞く。この大会における姫騎士団の目標はなんだ?」


「大会終了まで生き残ること。うちは、他と違って天下をとってるからな、梅勲章以外のものは手に入る」


「それは鈴子ねえさんの指示か?」


「いや、姫ねえの指示だよ。雪姫先輩、姫ねえにも内緒でことを進めたから指示もなにもない。だから生き残ることに集中しろと言われてる。あと、おれたちの能力に余るよう状況に陥ったらお前と組めとも言われたよ。『あのバカ弟はバカだが、非常事態にはなにかと役に立つ』ってな」


 ……まったく、そーゆーところが気にくわないんだよな、あのアホ姉は……。


「お前はそれでいいのか?」


「いいも悪いもないさ。もともとおれはリーダー向きじゃない。指示があればそれなりに動けるが、臨機応変とか非常事態とかにめっぽう弱い。代わってくれるなら喜んでリーダーを譲るよ」


 従兄弟とは言えお互いを知る仲ではないので本当かどうかはわからない。だが、目的が焔と星華ちゃんじゃないのならそれ以上は問わない。


「なら、ボクの指揮下に入ってもらう。さっきも言ったが、生き残るためにもっと人を集めなくちゃならない。それでも容認するか?」


「言ったろう。おれたちの目標は生き残ること。そのためなら手段は問わない。どうせおれの代になったら確実に姫騎士団の地位は落ちるんだ、そうなったら嫌でも他と組まなくちゃならない。そのときのための実績つくりと思ったら願ったり叶ったりさ」


 リーダーうんぬんは別として、先を見る目はありそうだ。


「姫騎士団は、この十三人だけか?」


「ああ。この学年は有名処の後継ぎやら子弟が多くてな、姫ねえたちがどう頑張ってもこの十三人が精一杯なんだよ」


 まったく、嫌な時期に入ったもんだぜ。


「じゃあ、高明を抜いて十二人を三つに分けろ。観客席側を正面に一隊。左右に一隊ずつ。その陣のまま左に進む。合図したら左右は二十メートルほど間隔をつくれ。観客席側は五メートルほど前進。そしたらコンテナを改造した基地を召喚する。了解?」


「ああ、了解した。だが、魔力を消耗した仲間が二人いる。できるなら休憩させたいんだが」


「ならその二人は下げていい。野村さん、海璃ちゃん、きてくれ!」


 少し離れたところにいる二人を呼ぶ。


 キレた野村さんと覚悟を決めた海璃ちゃんのコンビは相性がいいのか、攻防一体となってやってきた。


「今から野村さんを予備班のリーダーにする。離脱者を頼む。高明、班はできたか?」


「いつでもいいよ」


 姉さんの仕込みがいいのか、それとも高明が優秀なのかはわからないが、直ぐに前衛四人。左右三人ずつに班を作っていた。


 両手の鞭を腰に戻し、左手甲を上に向ける。


「ナンバー24、ショットガン召喚!」


 召喚されたショットガンを右手でつかみ、散弾が詰まったショルダー・バックを肩に掛けた。


「では、移動する!」

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