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帝立梅ヶ丘魔導学校遊々記  作者: タカハシあん


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26/40

26 やつらは群れでやってくる

「ナンバー31、C基地召喚!」


 廃車になった装甲車を補強した防衛用基地を召喚した。


「皆、死にたくなければこれに入れっ!」


 茫然としていた野村さんを基地に放り込み、近くにいるクラスメートに叫んだが、そんなんで動けるならこの天才児たちはとっくに二年生になっているか。


 直ぐに駆け寄り、まず最年少の片桐《かたぎり》至歩《しほ》ちゃんの襟首をつかみ、強引に引きずって基地へと押し込み、続いて腰を抜かす戸沢《とざわ》海璃《かいり》ちゃんの襟首をつかんだところで巨大蜂が一匹、襲い掛かってきた。


「ったく! なんのモンスターパニックだよっ!」


 自分でもよくわからない突っ込みと、5.56㎜弾を突っ込んでやった。


 先日の蜘蛛同様外皮はそれほど硬くはなく、一発の弾で仕留めることができた。


 よし! と心の中でガッツポーズを取り、戸沢海璃ちゃんを基地に放り込む。


「キャアァァァァッ!」


「イヤァアァァァッ!」


「ウワァアァァァッ!」


 その阿鼻叫喚に闘技場に目を向けると、闘技場は巨大蜘蛛と巨大蟻で溢れ反り、観客席へと雪崩れ込んでくるところだった。


 レベルのある者や徒党を組んでいる者らはさすがと言った感じに撃退しているが、個人や少人数のチームは一匹倒すごとに三匹に群れられ、糸を巻かれたり頑丈そうな牙で噛みつかれ、闘技場へと引っ張られていた。


 まあ、いろいろ突っ込みどころ満載の迷宮だから突っ込まないが、鈴子ねえさん。あんたには突っ込み倒すぞ! 


 生き残り戦の主旨に悩むのは理解してやる。だが、なぜ一思いに殺すような迷宮獣を用意しない? なぜ獲物を捕獲する迷宮獣にした? なぜ完全攻撃型の迷宮獣を混ぜる? でもって、なぜこんなに大量に出してくる? 敵は群れでやってくるってか? っざけんな、この腐れ女子がッッ!!


「志賀倉くん、上っ!」


 おっと。腐れ女子への怒りは一先ずあとだ。癪でも生き残ることに集中せねば。


 セミからフルに切り替え、襲いくる巨大蜂どもに弾丸を放った。


 次々と巨大蜂を撃ち落とし、茫然とする由井ヶ原《ゆいがはら》江間《えま》ちゃんと篠島《ささしま》エナちゃんへと駆け寄り、二人の頬を思いっきりひっぱたいてやった。


「しっかりしろ! 死ぬより酷い目にあうぞ!」


 焔なら笑顔を見せて安心させてやるところだが、家族や友達以外に笑顔は安売りしない主義───星華ちゃんは賛同してくれないけど──である。今回はクラスメートと言うことと、年下の女の子だから助けたまで。心のケアまでは知らん!


 二人が意識を取り戻したのを確認し、襲いくる巨大蟻に巨大蜘蛛に向けて弾丸をばら蒔いた。


「熔けてなくなれ!」


 数が数だけにばら蒔く弾丸以上に迷宮獣の数が多いので焼夷手榴弾を投げ付けてやった。


 結果を見ず、ふらつきながらも基地に向けて駆ける二人の背中を押して無理矢理基地に押し込み、再度、焼夷手榴弾を投げ付けて基地に飛び込みハッチを閉めた。


 その直後、基地のあちこちからガツンガツンと硬いものが当たる音が響き渡った。


「……しっ、志賀倉くん……」


 恐怖と不安で震える野村さんに笑顔を見せ、焔にするように頭をポンポンと叩いた。


「この装甲車は動けないけど、頑丈が取り柄の基地に改造したからね、何百と群がろうがびっくともしないよ」


 とは言うものの、さすがにこれだけ群れられると、ちと不安だな。こいつの重さは三トン近くあるから滅多なことでは動かないだろうが、これだけの群れだ、一斉に引きずられたらさすがに動く。しかもここはすり鉢状の闘技場だ。器はともかく中身のボクらはタダではすまない角度である。


「野村さん、銃は使える?」


「え? あ、うん。で、でも、十七時間しか経験ないよっ!」


「それだけ撃ってれば十分。このサブ・マシンガンなら使えるでしょう」


 基地の武器庫から出して野村さんに見せる。


 世界の警察や特殊部隊の定番たるサブ・マシンガンだ。授業でも出ただろうよ。


「それなら六時間の経験があるわ。でも、あたし下手だよ」


「これだけ群れていれば腕なんて関係ないよ。撃てばどれかには当たるさ」


 更に武器庫からマガジンが詰まったダンプポーチと手榴弾が収まっているケースを渡した。


「野村さんの仕事は近くの迷宮獣を取り敢えず排除すること。落ち着いたら周りに目を向けること。慣れてきたら弾丸を節約すること。OK?」


「……う、うん、OKよ……」


 よしと野村さんの肩を叩き、まだ茫然とするクラスメートに目を向ける。


「この基地、防御力はあるけど、隙間が多いから迷宮獣の攻撃に注意して。さすがにこれだけ群れられると全方位に意識を向けるなんてできないからね」


 そう言い放ち、覗き窓から銃口を出して5.56㎜弾をぶち撒けた。


 撃って撃って撃ちまくる。


 そうとしか表現できないくらい撃ったのに、迷宮獣の数、勢いがまったくなくならない。


 基地の中は空薬莢が溜まり、三十分もしないで野村さんに渡したサブ・マシンガンがイカれてしまった。


 ……まっ、戦乱の中拾って整備もしてないしないやつだしな……。


「ナンバー14、市街戦用C火器召喚!」


 サブ・マシンガン六丁とマガジンが三十ケース収まった箱を召喚する。


「これを使って」


 説明を省き、手榴弾のピンを抜いて外に放り投げた。


「撃っても撃ってキリがないよ! なんとかしてよっ!」


「なら銃口を自分の頭に向けて引き金わ引けばいい。それで終われるよ」


「それじゃレベル0になるっ!」


「なら目の前の迷宮獣を倒してから降参するなり棄権すればいいさ。選択するのは野村さん。お好きなように」


「にゃあー!!」


 猫叫び(?)をしたあと、野村さんの中でなにかが切れたらしく、箱の中からサブ・マシンガンを二丁取り出しマガジンを装填。なんとも勇ましいことに二丁撃ちをした。


「その意気その意気」


 とは笑顔で言うものの、あいつらの餌食になるのも時間の問題。抵抗するだけ無駄と言うもの。せっかく集めた弾を無駄に消費している。なら、とっとと棄権すればいいのだが、焔と星華ちゃんを取り上げられた今、棄権などありえない。二人が戦うのなら邪魔はしないし、反対もしない。星華ちゃんが戦うなら勝利しかないし、強くなりたいと言う焔の糧となるからな。だが、人の大切な妹と幼なじみを辱しめると言うのなら話は別だ。もうそれはボクの問題。宣戦布告されたも同然である。


 なんとしてでも阻止しなければならない。ならないのだが、どうにもできない。どうしたらこの状況を覆すことができるんだ……。


 撃ちながら、放ちながら考えるが、まったく名案が出てこない。固定式ファランクスは弾が切れてただの鉄屑だし、ロケット・ランチャーは軽装甲車に載っけてあるからこの狭い場所では召喚できない。銃も弾もまだまだあるが、召喚したところでボクと野村さんの二人では手に余る。奇策ではこの状況は引っくり返らない。解決策は一つだけ。数には数で対抗するしかない。そう、人がいれば覆すことはできなくても対抗はできる。勝率を上げられるのだ!


 と、力んだとたん、視界が歪み、膝の力が抜けてしまった。


 ……いかん。そろそろ栄養補給しないと……。


 非常事態に開始とともに魔力補給をカットしたが、対抗案を練りながら群れの動きに注意し、野村さんをカバーしながらの戦いでは、自慢の回復力も全然役には立ってくれない。先日より厳しいぞ!


「──志賀倉くんっ!?」


「だ、大丈夫。戦いに集中して」


 クソ! しっかりしろ、バカ正光!


 ポケットに入れておいたチョコバーを取り出して口で包みを破り捨てて食らいついた。


 撃ちながら腰に吊り下げたペットボトルに手を伸ばすが、なかなか取ることができない。


 悪戦苦闘してると、誰かが背後に近付きペットボトルを取ってくれ、ギャップを外して渡してくれた。


「……わ、わたし、なにをすればいいですか?」


 そう言ったのは、腰を抜かした戸沢海璃ちゃんだった。


「魔術はなにが得意?」


 あの状況から復活したその勇気を讃えたいが、その余裕はないので即座に問うた。


「……風ですが、攻撃系は得意ではありません……」


 ってことは防御か。防御でなにができる? 風をどう使えばいい? この状況をちょっとでも楽にするにはどうしたらいい?


「……風壁。この基地の周りに風の壁をつくることはできる?」


 以前、父さんが風の壁をつくって銃弾を防いだことがある。あそこまでとは言わないが、迷宮獣を近付かせない威力があればそれでいい。


「はい。ですが、これだけの数となると、二十分耐えるのがやっとだと思います」


「それだけ稼げれば十分。ここからできる?」


「はい。大丈夫です」


 しっかりと返事する海璃ちゃん。


 こうして会話するのはこれが初めてなので海璃ちゃんがどんな子なのかはわからないが、人が急変するところは何度も見ている。だから今はその変化を信じるだけだ。


「守るのはこの車の周り、だいたい一メートルくらいでいいですか?」


「ああ。最小限の力で長時間防いでくれると助かる」


 贅沢を言えばだが。


「わかりました」


 そう力強く頷き、精神を集中するかのように瞼を閉じた。


 長年、魔力を制御することに心血を注いできたからこそわかる。海璃ちゃんの魔力の流れ。そして魔力の変換。こんな鮮やかで綺麗な"魔術"を見たの、生まれて初めてだ……。


 並の使い手なら基地内を嵐にするところだが、海璃ちゃんの魔術はとにかく見事。魔力を変換するときに見せる魔力光もとても小さく、効率も高い。狭い基地内にいるボクらの髪を煽ることなく開いた窓から風を出し、群がる迷宮獣を押し返した。


「……凄い……」


 野村さんの呟きに我を返し、食糧バックに飛び付いた。


 今は一分一秒が宝である。体力と魔力を回復させることに集中しろだ。


「野村さんも休憩すて」


 食糧バックからチョコバーとスポーツ飲料を渡し、ボクは残りのおにぎりや菓子、バナナを食らいつき、栄養ドリンクで押し流した。


 あとは回復に集中だ!

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