25 大会スタート!
着いたそこは、軽く五万人は収容できるくらいの楕円形型の闘技場だった。
「……つ、疲れた……」
やっと着いた安堵からか、足に力がなくなりその場に崩れ落ちてしまった。
クソ! あの腐女子がッ! 四キロも歩かせやがって。始まる前にリタイヤでは焔に示しがつかんじゃないかよ!
「兄様!?」
「だ、大丈夫だ。ちょっと気が抜けただけだ」
妹に情けない姿は見せられないと、兄魂を燃やして根性で立ち上がった。
「まーちゃん!」
「志賀倉くん!」
と、下から星華ちゃんと野村さんがやってきた。
二人とも学生服だが、星華ちゃんは長い髪を後ろで縛り、ボクがプレゼントしたタクティカル・バックと柳生伝来の手甲にタクティカル・ブーツと言った、星華ちゃん流完全武装に対して、野村さんは小剣と言った軽装とも呼べない格好だった。
「大丈夫、まーちゃん? ギリギリの道程だったけど」
さすが幼なじみ。ボクのギリギリをわかってらっしゃる。
「……なんとかね。焔、なにか食べるものを頼む」
焔が背負うバックから(ほとんどがボクの食糧が詰まってます)おにぎりやバナナ、栄養ドリンクを出してもらい、エネルギーを補給した。
「蜂蜜姫はそんなに食べないのに、どうして志賀倉はそんなに食べるの?」
三人分もの食糧と二本の栄養ドリンクを腹の中に詰め込んだのが不思議らしく、理解できないと言った顔で聞いてくる野村さん。
「蜂蜜姫は魔力はわたしたちより容量が多く、魔力拡散現象に阻害されない特殊な肉体を持っているからよ。まあ、ある意味まーちゃんも特殊──と言うよりは異常とも思える訓練で治癒力と回復力は、人の四、五倍。こうして食べれば直ぐに復活するの」
「……変態ね……」
なんとも失礼な表現に星華ちゃんが噴き出した。
「そうね。変態ね、まーちゃんは」
クスクス笑う星華ちゃんに文句を言おうとしたらまたスピーカーのハウリングが響き渡った。
「あーあー。テストテスト。マイクが愛所を握る。うん、いい具合だわ」
もう誰でもいいからあの腐女子を黙らしてよ……。
「皆さぁ~ん。闘技場中央にちゅーもーくっ!」
一学年の皆が闘技場中央に目を向けると、なにか魔法陣かと思っていた陣が一メートルほど上昇し、直径十五メートルほどの円台となった。
「これから名を呼ばれる方々は闘技場中央に集まってくださぁ~い」
やはり異常なことのようで、あちらこちら散らばる──派閥同士で集まっているようだ──一学年の皆様がざわついている。
「一般普通科二組の沢田琴美さぁ~ん。一般普通科三組の轟剛史くぅ~ん。戦術科二組の幕田勇くぅ~ん。同じく柳生星華さぁ~ん。魔導科一組の赤愛理さぁ~ん。同じく佐々音亮くぅ~ん。医療科の乃木清十郎くぅ~ん。特殊技能科の志賀倉焔さぁ~ん。以上八名の方々は速やかに集まってくださぁ~い!」
星華ちゃんと焔はボクに目を向け、ボクは野村さんに目を向けた。
「この八人に共通することは?」
「……わ、わかんない。成績とか強さとかバラバラだし、人気がある人もいればない人もいるし、美男美女ってもないし、同じ勢力の人もいれば繋がりもない人もいるし、全然思い付かないよ。志賀倉くんはわかんないの?」
「この学校に入って数日のボクにわかる訳ないだろう。星華ちゃんはなにかわかる?」
「全然わからないわ」
「雪姫先輩はかにを考えているのでしょうか?」
ボクたちと同じように戸惑う一学年にしびれを切らしたのか、鈴子ねえさんが最大でハウリングをかました。
「ほら、速やかにって言ったでしょう。三分以内に集まらなかったら失格と見なして強制労働にしちゃいますよ。はい、スタート」
……やると言ったらやる人である。ここは素直に従っておくべきだな……。
星華ちゃんと焔に視線を向け、円台に行くことを促すと、二人もここは従うしかないと言った感じで頷き、円台へと向かった。
「し、志賀倉くん、どうなっちゃうのぉ……?」
不安にかられてか腕を引っ張る野村さん。わからないではないが落ち着きなさい。
「まず間違いなくとんでもないことになるね」
そうなる前に体調を万全にせねばと、一本五千円もする栄養ドリンクを二本飲み干した。
回復力が高いとは言え、数分で万全になるほど変態ではない。いいところ六割回復したところで八人が円台に集まってしまった。
「さて。八名が揃いましたし、そろそろ今大会の内容を発表致しますか」
鈴子ねえさんの声はするが、その姿はどこにも見て取れない。いったいどこにいるんだ、あの腐女子は?
「一学年春の大会は、四時間生き残り戦。この大会で一番経験値を稼いだ人が優勝です」
ざわめきが走る。
「やっぱり異常なことなの?」
円台を見詰めながら野村さんに問うた。
「異常じゃないから異常なのよ。生き残り戦なんてこれまで何度もやってるんだから」
なるほど。ここまで型破りなことしていつもと同じとは思えない。とんでもないことが起こる前触れと取る方が自然だな。
「ですが、今回の大会にこの八名は参加することは認めません。ですからこの八名には現在のレベルからプラス6と報奨金六百万円を進呈します」
ここにきて日の浅いボクでも異常なことと理解できた。それは破格過ぎるだろう。
「今大会優勝者には、この八名の中から一人選び、秋に行われる梅学祭のポスターのモデルをやってもらいます。水着姿でも猫耳姿でも優勝者のお好きなままにやっちゃってください。あ、言っておきますが八名に拒否権はありません。それでも拒否するのなら……いや、そうなったときに説明致しましょう。で、皆さんも知っているように夏には会長戦があります。必ずしもうちが勝つとは言い切れませんからポスターが却下されることもあるでしょう。なのでポスターは優勝者に預けます。そのときわたしたち姫騎士団が仕切っていたら提出してもらうし、わたしたちが仕切ってないのなら青春の一ページとして大事にしてください」
つまり、星華ちゃんや焔を狙っている男(あとで聞いたら女もいるらしい)どものエサってことかい……。
「まあ、それは一部の方が喜ぶだけなので、選択をもう一つ増やします。モデルが嫌だと言う優勝者は、やはりこの八名の中から一人を選び戦ってもらいます。それで勝てば梅勲章を授与致しましょう」
「ってなに?」
また野村さんへと問うた。
「梅勲章。それはこの学校最大の名誉ある勲章であり、生徒会が生徒会以外の者にしか与えられない幻の勲章よ。その勲章を授与されたのは梅学史上十七名だけ。生徒会長の座を得るより困難なんだから」
十七名が多いか少ないかはわからないが、一学年の皆様の戦意上昇からしてとても欲しい勲章なんだとは理解した。
「さて、長々と勝ったあとの説明して申し訳ありません」
鈴子ねえさんの口調がBL本前に歓喜したときの口調になった。
クソ! ボクとしたことが鈴子ねえさんの話を聞き過ぎた。
慌ててベルトに付けた小物入れからサバイバル・カードを取り出し、中から一枚選び出して音もなく通路を封鎖しようとする鋼鉄の扉の隙間に向けて投げ放った。
「ナンバー64、テトラポット召喚!」
間に合った──が、どんな仕掛けで動いているかは知らないが、コンクリートの塊など関係なしに閉まり続けている。
「ナンバー41、ダイナマイト召喚!」
違う小物入れからダイナマイト百本封印されたアイテム・カードと手榴弾を投げ入れ、唖然とする野村さんに覆い被さり、床に伏せた。
二秒後、耳をつんざく爆音と感覚をなくすほどの衝撃が襲ってきた。
服部流の呼吸法で感覚と意識を治し、野村さんから下りて通路を見ると、収まりつつある爆煙の中から鈴子ねえさんが現れた。
「……やっぱり無駄でしたか……」
鈴子ねえさんの後ろでは、表面が黒くなっただけの扉が完全に閉まっていた。
「ウフフ。正光くん対策は万全です!」
勝利とばかりにVサイン。古いよ、それ……。
「ちょっと妨害はありましたが、これこの通り闘技場は完全に封鎖され、四時間しないと開きません。なので思う存分大会に集中してください。あ、もちろん、開始後の降参や棄権は有効です。頑張って逃げてくださいね」
そう言って悪戯っぽく笑うと、わざとらしく思い出したような顔を作った。
「そうそう。一番大事なことを忘れていました。いつも生き残り戦の結果が大きなグループの牽制で終わると言った、学校の主旨とはまったく違う終わり方をするので、今回はこんなものを用意しました」
パチンと指を鳴らすと、なにかが可動する音が響き渡った。
なんだと周りに目を走らせると、円台が上昇していることに気が付いた。
「……ったく。忠告するならもっとわかりやすく言ってくださいよ……」
そう非難すると、とぼけた顔を見せた。
「忠告? わたしは別に忠告してないわよ。ただ、正光くんを思って教えただけ。どうかわたしの大好きな正光くんがレベルアップしますように、ってね」
つまり、他の連中がボクを標的──こう言う行事で敵を倒すと相手のレベルを丸ごと奪えるのだ──にするためにレベルアップさせたのか……。
「だったらもっと値のはる迷宮獣を用意してくださいよ。虎の子四号ならもっと稼げたのに」
そんなボクの言葉に目を丸くさせる鈴子ねえさん。どう言う意味だ?
「……まったく、親が親なら子も子よね……」
はん? なんのことだ?
「おっと。長話している場合じゃないわね」
なにか重大なことを言ってしまったのを誤魔化すために無理矢理ボクから視線を外した。なんだよいったい?
「さあ、一学年の皆様。戦闘準備はお済みですか?」
上昇していた円台がガコンと停止。四十メートルほどの円柱となった。
「では、開始五秒前。四、三、二、一、スタートっ!」
と、闘技場周りにある幾つもの通気孔からスズメバチに似た巨大蜂が幾百と飛び出してきた。
しかし、出てきたのはそこだけじゃなくそれだけでもなかった。
円柱からは黒光りする巨大な蟻が。闘技場の壁からは巨大な蜘蛛が、幾百幾千と溢れ出てきた。
もはや先日の比ではない。十五年ほどしか生きてない少年少女になんとかできる量でもない。もはや生餌である。
「じゃっ、頑張ってねぇ~♪」
そう言い放ち、鈴子ねえさんが忽然と消えてしまった。
「──畜生がッ! あとで必ず泣かしてやるからなッ!!」




