叱咤激励、一歩前進!
週初めの所内定例議会(月曜会)である。
結城・恋三・野上(野上慎二郎・新人秘書)の三人が、襟を正してソファーに座っている。
先生はいつもの様に背広の内ポケットから議員手帳を取り出す。
テーブルの上には水コップ・コーヒー・お茶が並ぶ。
松永は事務室で電話中である。
先生「さッ、始めよう」
先生が口火を切る。
恋三と結城、少し遅れて『新人の野上』が起立する。
恋三と結城は声をそろえて、
二人「宜しくお願いします」
少し遅れて、
野上「宜しくお願いします」
先生はきつい目で野上を見る。
二人がソファーに座る。
野上も遅れて座る。
先生「・・・で。結城くん! ど~お?」
結城「ハイ! 百です」
先生「トータルで?」
結城「百五十です」
先生「歩留まりは?」
結城「百・・・でしょうか」
先生は小首を傾げて怪訝な顔をする。
先生「・・・。で、恋サンは?」
結城「ハイ! 五十です」
先生「・・・歩留まりで三十だな・・・」
先生は手帳に書き取って行く。
突然、大声で松永を呼ぶ。
先生「松永く~ん」
松永「ハイッ!」
先生「地元は?」
松永が応接室のドアーをそっと開け、恋三にメモを渡す。
松永「これです」
恋三「あ、ハイ。すいません。」
恋三がメモを読み上げる。
恋三「前橋が四十、沼田が二十、伊勢崎が四十、それから・・・」
先生「やめなさい。結論ッ!」
恋三「あッ! 百三十です」
先生「百三十? 八十だな。合計で二百十か・・・」
先生は手帳にメモ書きをして背広の内ポケットに仕舞い込む。
ソファーに座り直し、三人を見て、
先生「・・・常に一歩! 更に二歩! 皆さんだったら分かるね。余った券は『勉強会が終わっても』売り続けるッ! この余韻を忘れずに」
恋三と結城が、
「ハイ!」
少し遅れて、
野上「? あッ、はい」
電話が鳴る。
松永の声が。
松永「はい。お世話になります。門松事務所です。はい、・・・はい」
先生は結城を見て優しく一言。
先生「結城くん。松永くんを呼んで来なさい」
結城「あ、いま電話中・・・」
先生「呼んで来なさいッ!」
先生のきつい一言。
結城「ハイ!」
結城が応接室を出て行く。
事務室で電話中の松永の傍に近づいて、無言で「電話を切れ」のサイン。
電話中の松永は受話器を指さす。
結城が両手でバツを作り松永に示す。
松永が頷き、
松永「あ、すいません。来客なので折り返しお電話致します」
松永は受話器をそっと置く。
結城が手招きをする。
松永と結城が応接室に入って来る。
結城はそっとドアーを閉める。
先生は松永を見て優しく、
先生「松永くんも座ってくれる」
松永は緊張して、
松永「はい」
ソファーの隅にそっと座る松永。
結城もそっとソファーに座る。
野上は緊張しながらこの光景を見ている。
先生は松永を見て、
先生「松永くん、君の電話の応対は誰におそわったの?」
松永「あッ、はい。それは・・・」
首を傾げる松永。
先生「はい、分かった。誰にもおそわってないッ!」
松永「・・・はい」
先生「それなら仕方がない。良いですか、電話と云うのは声では無い。顔だ。松永くん。君の声は暗い。明るく! I 事務所の宮本さん! 彼女の電話対応は素晴らしい。電話の大会で一等賞を取ってるらしいぞ。君も一度聞きに行きなさい。『ハイ、なになに事務所です!』この透き通るような声! 君なら出来るはずだ。ちよっとやってみなさい」
松永「えッ!? ここでですか」
先生はキツく、
先生「やりなさいッ!」
松永「あ、ハイ!」
野上は目を丸くして先生を見ている。
松永は一度、咳払いをして、
松永「ウン・・・。ハイ、門松康正事務所です」
先生「そうッ! い~ねえ~・・・。やれば出来るじゃないの。常に挑戦する事! いいですか、電話の対応一つにしても向上の精神が無いとダメッ!」
松永の清々(スガスガ)しい返事が。
松永「ハイ!」
先生「そう! それッ!」
先生は力強く松永を指差す。
先生「・・・その調子で頑張りなさい」
事務室の電話が鳴る。
松永は席を立とうとすると、
先生「待ちなさい! 私の話は終わってない」
松永「先生、電話が」
先生「ほっときなさい。どうせ、例の宗教団体だ」
松永「え?」
事務室の電話が鳴り続ける。
野上は電話の音が気に成って落ち着かない。
先生の説教は更に続く。
先生「それから、ナニナニですね。で切ってはダメッ! ナニナニ『でしょうか』。この『謙譲語』で応対をしなさい。門松の品位に関わる」
あいかわらず電話は鳴り続けている。
先生は松永を見て、
先生「やって御覧なさい?」
松永「・・・ハイ、そうでしょうか」
先生「そうッ! その通り。じゃッ、どう~ぞ」
松永はソファーを立って急いで事務室に入って行く。
事務室で受話器を取る松永。
先生は応接室で松永の電話対応を耳を澄まして聴いている。
事務室から松永の声。
松永「お待たせしました。門松康正事務所です。・・・ハイ。今日は地元勤務です。何かお伝えする事でも。・・・あ、そう『でしょうか』。分かりました。そのように伝えます」
先生は応接室から大声で、
先生「素晴らしいッ!」
松永が応接室に戻って来る。
先生「で、誰から?」
松永「よく電話してくる所です」
先生「結論ッ!」
松永「ハイ。『T教会』の方です。例によって秘書さんの売り込みです」
先生「断りなさい。相手にするな! 結城くん、まさか『チケット』をお願いしてないでしょうね」
結城「ハイ。隣りのM先生の事務所では三百枚ほど捌いてもらったそうですが」
先生「ダメ、ダメ! 私はあえて、小選挙区から出馬しているんだ。そんな事が知れ渡ったら全てが水の泡だ。絶対に近寄るな」
結城「ハイ」
先生「みんなにも言って置く。地味に、無理せず、陳情処理の結果で売り捌く事。売れなくても良いのよ。この門松を売る事!私の政策を売るッ!」
先生は人差し指で力強く机を叩く。
先生「そして、チケットの残りは勉強会が終わってから『私のパンフレット』代わりに持参する事。いいね!」
二人「ハイッ!」
先生は野上を見て、
先生「野上くん。こんな簡単な打ち合わせを毎週の始めにやっている。君も大いにここで議論しなさい」
野上「え? あッ、はい」
先生「恋サン! アナタがシッカリと丁寧に教えてあげなさい。彼も未来の政治家になれる人だ」
恋三「ハイッ!」
野上は恋三を見て起立する。
野上「宜しくお願いします」
結城は俯いて、呆れた顔で溜息を吐く。
続く




