↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/23

叱咤激励、一歩前進!

 週初めの所内定例議会(月曜会)である。

結城・恋三・野上(野上慎二郎・新人秘書)の三人が、襟を正してソファーに座っている。


先生はいつもの様に背広の内ポケットから議員手帳を取り出す。

テーブルの上には水コップ・コーヒー・お茶が並ぶ。


松永は事務室で電話中である。


 先生「さッ、始めよう」


先生が口火を切る。


恋三と結城、少し遅れて『新人の野上』が起立する。

恋三と結城は声をそろえて、


 二人「宜しくお願いします」


少し遅れて、


 野上「宜しくお願いします」


先生はきつい目で野上を見る。


二人がソファーに座る。

野上も遅れて座る。


 先生「・・・で。結城くん! ど~お?」 

 結城「ハイ! 百です」

 先生「トータルで?」

 結城「百五十です」

 先生「歩留まりは?」

 結城「百・・・でしょうか」


先生は小首を傾げて怪訝な顔をする。


 先生「・・・。で、恋サンは?」

 結城「ハイ! 五十です」

 先生「・・・歩留まりで三十だな・・・」


先生は手帳に書き取って行く。

突然、大声で松永を呼ぶ。


 先生「松永く~ん」

 松永「ハイッ!」

 先生「地元は?」


松永が応接室のドアーをそっと開け、恋三にメモを渡す。


 松永「これです」

 恋三「あ、ハイ。すいません。」


恋三がメモを読み上げる。


 恋三「前橋が四十、沼田が二十、伊勢崎が四十、それから・・・」

 先生「やめなさい。結論ッ!」

 恋三「あッ! 百三十です」

 先生「百三十? 八十だな。合計で二百十か・・・」


先生は手帳にメモ書きをして背広の内ポケットに仕舞い込む。

ソファーに座り直し、三人を見て、


 先生「・・・常に一歩! 更に二歩! 皆さんだったら分かるね。余った券は『勉強会が終わっても』売り続けるッ! この余韻を忘れずに」


恋三と結城が、


 「ハイ!」


少し遅れて、


 野上「? あッ、はい」


電話が鳴る。

松永の声が。


 松永「はい。お世話になります。門松事務所です。はい、・・・はい」


先生は結城を見て優しく一言。


 先生「結城くん。松永くんを呼んで来なさい」

 結城「あ、いま電話中・・・」

 先生「呼んで来なさいッ!」


先生のきつい一言。


 結城「ハイ!」


結城が応接室を出て行く。

事務室で電話中の松永の傍に近づいて、無言で「電話を切れ」のサイン。

電話中の松永は受話器を指さす。

結城が両手でバツを作り松永に示す。

松永が頷(ウナズ)き、


 松永「あ、すいません。来客なので折り返しお電話致します」


松永は受話器をそっと置く。

結城が手招きをする。

松永と結城が応接室に入って来る。

結城はそっとドアーを閉める。

先生は松永を見て優しく、


 先生「松永くんも座ってくれる」


松永は緊張して、


 松永「はい」


ソファーの隅にそっと座る松永。

結城もそっとソファーに座る。

野上は緊張しながらこの光景を見ている。

先生は松永を見て、


 先生「松永くん、君の電話の応対は誰におそわったの?」

 松永「あッ、はい。それは・・・」


首を傾げる松永。


 先生「はい、分かった。誰にもおそわってないッ!」

 松永「・・・はい」

 先生「それなら仕方がない。良いですか、電話と云うのは声では無い。顔だ。松永くん。君の声は暗い。明るく! I 事務所の宮本さん! 彼女の電話対応は素晴らしい。電話の大会で一等賞を取ってるらしいぞ。君も一度聞きに行きなさい。『ハイ、なになに事務所です!』この透き通るような声! 君なら出来るはずだ。ちよっとやってみなさい」

 松永「えッ!? ここでですか」


先生はキツく、


 先生「やりなさいッ!」

 松永「あ、ハイ!」


野上は目を丸くして先生を見ている。

松永は一度、咳払いをして、


 松永「ウン・・・。ハイ、門松康正事務所です」

 先生「そうッ! い~ねえ~・・・。やれば出来るじゃないの。常に挑戦する事! いいですか、電話の対応一つにしても向上の精神が無いとダメッ!」


松永の清々(スガスガ)しい返事が。


 松永「ハイ!」

 先生「そう! それッ!」


先生は力強く松永を指差す。


 先生「・・・その調子で頑張りなさい」


事務室の電話が鳴る。

松永は席を立とうとすると、


 先生「待ちなさい! 私の話は終わってない」

 松永「先生、電話が」

 先生「ほっときなさい。どうせ、例の宗教団体だ」

 松永「え?」


事務室の電話が鳴り続ける。

野上は電話の音が気に成って落ち着かない。

先生の説教は更に続く。


 先生「それから、ナニナニですね。で切ってはダメッ! ナニナニ『でしょうか』。この『謙譲語』で応対をしなさい。門松の品位に関わる」


あいかわらず電話は鳴り続けている。

先生は松永を見て、


 先生「やって御覧なさい?」

 松永「・・・ハイ、そうでしょうか」

 先生「そうッ! その通り。じゃッ、どう~ぞ」


松永はソファーを立って急いで事務室に入って行く。

事務室で受話器を取る松永。

先生は応接室で松永の電話対応を耳を澄まして聴いている。

事務室から松永の声。


 松永「お待たせしました。門松康正事務所です。・・・ハイ。今日は地元勤務です。何かお伝えする事でも。・・・あ、そう『でしょうか』。分かりました。そのように伝えます」


先生は応接室から大声で、


 先生「素晴らしいッ!」


松永が応接室に戻って来る。


 先生「で、誰から?」

 松永「よく電話してくる所です」

 先生「結論ッ!」

 松永「ハイ。『T教会』の方です。例によって秘書さんの売り込みです」

 先生「断りなさい。相手にするな! 結城くん、まさか『チケット』をお願いしてないでしょうね」

 結城「ハイ。隣りのM先生の事務所では三百枚ほど捌(サバ)いてもらったそうですが」

 先生「ダメ、ダメ! 私はあえて、小選挙区から出馬しているんだ。そんな事が知れ渡ったら全てが水の泡だ。絶対に近寄るな」

 結城「ハイ」

 先生「みんなにも言って置く。地味に、無理せず、陳情処理の結果で売り捌く事。売れなくても良いのよ。この門松を売る事!私の政策を売るッ!」


先生は人差し指で力強く机を叩く。


 先生「そして、チケットの残りは勉強会(パーティー)が終わってから『私のパンフレット』代わりに持参する事。いいね!」

 二人「ハイッ!」


先生は野上を見て、


 先生「野上くん。こんな簡単な打ち合わせを毎週の始めにやっている。君も大いにここで議論しなさい」

 野上「え? あッ、はい」

 先生「恋サン! アナタがシッカリと丁寧に教えてあげなさい。彼も未来の政治家になれる人だ」

 恋三「ハイッ!」


野上は恋三を見て起立する。


 野上「宜しくお願いします」


結城は俯いて、呆れた顔で溜息を吐く。

                         続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。