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【完結済み】あなたが読むかぎり  作者: 川原 源明
第1章 Whispr ―語られすぎた物語―

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5/101

第5話 見られている

「……わたし?」


 ひなたは、スマホの画面を見つめたまま動けなかった。


 そこには、確かに学校名と自分の名前を示唆するイニシャルが書かれていた。


09:57「次は、あの子にしようか」


#桜橋南高 #R.A


 ──冗談では済まされない。


 今の投稿者が“誰か”のフリをして遊んでいるだけの存在なら、ここまで情報を絞り込めるはずがない。


「なんで……私のこと、知ってるの?」


 手が震え、画面がわずかに揺れる。まるでそれを見透かすように、また通知が届いた。


09:58「読んでくれてありがとう、ひなたちゃん」


「──っ!」


 心臓が一瞬止まった気がした。


 明確な呼びかけ。フルネームではないが、確実に“自分”に宛てられている。


 投稿者が、自分たちを“見ている”。あるいは、すでに何かを通して知っている。

________________________________________


 理久が画面を覗き込むと、瞬時に解析モードへと切り替わった。


「このアカウント、やっぱり単独で動いてるとは思えない。外部のログ監視か……それとも、こっちの通信履歴をトレースしてる?」


「ってことは、スマホのどっかから……?」


「可能性はある。GPS情報は当然として、カメラやマイクを遠隔で起動された形跡があるかも」


 理久が手早くスマホを操作し、バックグラウンドのアプリログをチェックする。


「……やっぱり。昨日の夜、不審な権限取得のログがある。Whisprアプリ経由で、カメラとマイクの一時アクセス。たぶん、気づかないうちに起動されてた」


「……昨日、私がユイの投稿のまとめ見てたとき?」


「そのときに埋め込まれてたリンクか、JavaScriptか……どっちにしろ、“あのアカウント”を見た瞬間から、もう“見られてた”ってことだ」


________________________________________


 ひなたは身をすくませた。


 ネットの向こうに、誰がいるかなんて考えたこともなかった。


 でも今は──自分たちをじっと観察し、誰かを“次の語り部”に選ぼうとしている何かが、確かにいる。


「じゃあ……このアカウント、“乗っ取られた”とか、そういうレベルじゃないの?」


「違う。これはシステムとして設計された“感染型SNS構造”だ。おそらくは最初の被害者──“本当のユイ”が、何かを目撃して投稿したことから始まった。でも、語ることで“語る役”が固定化され、引き継がれていく構造に変質した」


「語ったら、取り込まれる……?」


「ああ。言葉にした瞬間に、“語り部”としての資格を持ってしまう。

 “わたしは見た”“ここにいる”──そうつぶやいた瞬間から、システムがその“語り”を必要とする。

 それが次の誰かに乗り移る……」

________________________________________


 ひなたは、最初に見たユイの投稿を思い出した。


 最初は他愛のない実況だった。ただ「知らない駅に降りた」とつぶやいただけ。


 でも、それが数分後には──出口がない、誰かがいる、見つかった──に変わっていた。


 ──ユイは、何かを見たのだ。


 そして、それを語った。


 その結果、“語り手”でいられなくなった。


「このアカウント、消せないの?」


「無理だ。投稿のホスティング自体が分散されてる。SNSサーバー上からは見えなくなっても、ログはミラーサイトや自動botに保持されてる。

 しかも、“アカウントを停止させようとする動き”そのものが、“語り”として新たな興味を引く構造になってる」


「それって……私が“このアカウントを止めて”って言っても、逆効果ってこと?」


「そうだ。“止めようとすること”自体が、もう物語の一部としてシステムに取り込まれる」


 しばらく沈黙が落ちた。


 遠くで風が吹き、林の葉を揺らした。


 ふたりは倉庫を後にした。林を抜け、駅のホームに戻ってくるまで、誰ともすれ違わなかった。


 駅の構内、IC改札の前。


 ひなたは黙ってスマホを見つめていた。


 そこに、最後の投稿が表示されていた。


10:02「ありがとう、ひなたちゃん。もうすぐ君の番だよ」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

もし、あなたの画面にまだ異常が起きていないなら、ページ上部から【ブックマーク】をして『生存確認』の印を残してください。


下部の【☆評価】は、失われた彼らへのせめてもの供養になります。

……どうか、次回の更新までご無事で。

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