四章 第一話 停電
用語説明w
フィーナ
ノーマンで黒髪、赤目の女子。ラーズの義理の妹で、飛び級でハナノミヤ聖女子大学に進学。クレハナの王族であり、内戦から逃れるために王位を辞退して一般家庭に下った。騎士の卵でもあり、複数の魔法を使える。最近はラーズの怪我の治療によって回復魔法の腕が上がっている
カエデさん
ラーズ達のアパート、メゾン・サクラの管理人で、黒髪ノーマンの優しいお姉さん。ラーズの好みだが、しっかりと既婚
あっという間に春休みが終わり
気が付けば、もう明日から大学の二年目が始まる
「俺達も二年生か…」
「急に何?」
ポテトのチップスをバリバリ食べながら、フィーナが怪訝な顔をする
「せっかくの春休みだって言うのに、何も無かったなって思って」
「それなら、ラーズも一緒に龍神皇国に帰ればよかったのに」
「練習とバイトがあったんだから仕方ないだろ」
フィーナは、春休みに龍神皇国に帰省した
父さんと母さんに会い、その後、セフィ姉の所に行って騎士の人たちの訓練に参加して来たとか
「ふっふっふ…。私は、もう騎士学園時代の頃とは違うよ」
帰って来たフィーナは、不敵に笑う
「どうしたよ、遅い中二病か?」
「失礼な! いい、ラーズ。私はついに習得したの」
「何を?」
「全魔法使いの最初の目標で、一人前の魔法使いの証明。範囲魔法(中)を、だよ」
「お、ついにやったのか」
範囲魔法(中)とは、範囲魔法(小)の数倍の攻撃範囲を持つ魔法
空間を越えて発動する広範囲攻撃は、銃と並んで人類のメインウェポンだ
実際に、軍やモンスターハンターの戦闘で一番威力を発揮するのは、銃や爆弾、そして範囲魔法(中)だ
しかし、これが更に上の能力を持つ騎士の場合、メインウェポンは変わる
騎士は闘氣を使う
闘氣の特性は包むこと
身体を包み、防御力と身体能力を強化
更に、武器や防具を包み、その強靭さを上げることができる
しかし、闘氣で包むことができるのは、闘氣の発生源である身体と、身体に接する物のみ
闘氣で身体から離れた物を包み続けることはできないのだ
そのため、銃などから撃ち出される弾丸を闘氣で包むことは出来ず、したがって硬度を強化することも不可
そんな理由から、騎士は近接武器をメインウェポンとする
剣や槍などを闘氣で超硬化、更に、強化した身体能力で振るうことで容易にモンスターを破壊するのだ
話を戻そう
騎士のメインウェポンは近接武器
銃よりも威力があり、銃と違って弾数も関係が無い
だが、そんな騎士でも魔法は別
範囲魔法(中)は広範囲の高威力
闘氣を使う魔法使い系の騎士でも、一般隊員の魔法使いでも、範囲魔法(中)を使う
命中のしやすさと威力の点で、範囲魔法(中)は人類共通のメインウェポンだ
蛇足だが、騎士と一般の魔法使いの違いは闘氣
この闘氣は、身体能力を強化する
そのため、強靭な身体から魔法を発動することとなり、闘氣が無い状態よりも魔法の威力を引き上げるという効果もある
「長かったよ…。成功した時の嬉しさと言ったら…」
フィーナが嬉しそうに言う
「ずっと練習してたもんな」
フィーナは、範囲魔法(中)を習得するために、魔法構成を阻害する魔法陣の上で瞑想を続けていた
フィーナは飛び級で騎士学園に入学、そのため、他の同級生よりも二歳年下だった
この二年という期間は、成長期である学生にとっては大きい
身体が成長していないため、魔力量が単純に足りない
他の魔法使い系の同級生が何人か範囲魔法(中)の発動に成功する中、フィーナは成功しなかった
そのため、フィーナはダンジョンの高ランクモンスターと対抗するために、複合属性の魔法を編み出し、一点突破の高威力魔法に成功したのだ
複合魔法は威力は出るが、魔力効率が低いため、魔力を大幅に消費する
範囲魔法は完成された術式のため、消費魔力と威力のバランスは断トツだ
「…でも、考えてみたらさ」
「うん、何?」
フィーナが振り返る
「フィーナって、まだ十七だよな」
「そうだよ」
「…つまり、まだ騎士学園を卒業する年にもなってないんだよ」
同級生で、範囲魔法(中)の発動に成功したのは、皆が最終学年の高等部三年生だった
今のフィーナは、まだ、高等部二年生の年
こいつも、やっぱり天才ってことだ…
「まぁ、ひとえに私の努力の賜物だよ。ね、お祝いして」
「お祝いって?」
「ご飯食べに行こうよ。ラーズのおごりで」
「何で俺が」
「だって、バイトいっぱいしたんでしょ?」
「…」
そう、俺の春休みはバイトと部活だった
最近、霊障が増えているとかでクサナギ霊障警備からはヘルプの鬼電
部活は、ゴドー先輩に絞られ、ケイト先輩に締められ、休みがマジでなかったのだ
「やったー、奢ってくれるの!?」
「まぁ、フィーナが頑張ってたからな」
大学から帰って来ては、魔法陣の上で瞑想
この地道な努力によって、フィーナの魔法はどんどん上手になっていった
騎士学園の頃から、フィーナは努力家だ
少しはご褒美があってもいいだろう
一応、兄貴なわけだし
「何を食べるか…」
「私、居酒屋行ってみたい」
「未成年はダメだ」
「ラーズだって去年飲んでたでしょ!」
大学一年生はまだ十九歳
だが、大学では無視して酒を飲んでる
暗黙の了解なのだが、よくはないんだよな
飲むけども
「せめて、あと一年待てって。そしたら、俺と同じ年だから」
「むー…」
納得できてなさそうな顔だが、フィーナが引き下がる
「で、何食べるよ」
「それじゃあ、つけ麺…、いや、つけうどん…」
「つけるの好きだな」
俺とフィーナが出かけるために玄関に行くと…
バツン!
突然、音が響く
「何の音?」
「停電かも。電気が消えたっぽいな」
外に出ると、カエデさんも出てきていた
「カエデさん、停電ですか?」
「そうなのよ。ラーズ君達の部屋もそうなのね」
「今、突然、電気が切れました」
カエデさんは、アパート脇にある配電盤の鍵を開けて扉を開ける
「カエデさん、電気関係分かるんですか?」
「全然。ラーズ君、分からない?」
「いえ、すみません…」
くそー、ここで直せればかっこよかったのに!
「電気屋さん呼びますか?」
フィーナが言う
「フィーナも分からないのか?」
「無理だよ。電気配線と魔力回路って全然違うもん」
そりゃそうか
電気も魔力も専門職で、資格もあるのだ
「とりあえず、シグノイア電力に電話してみるわね。ごめんなさい、停電なんて…」
「カエデさんのせいじゃないですよ」
俺達はカエデさんの電話を見守る
何か手伝えることがあればいいんだけど
黒髪の美人お姉さん、カエデさん
困った顔もかわいい
…まずい、思考がヘンタイに引っ張られている
気をつけよう
「配電盤は…、はい、電気は来ていません」
「住所は…、はい、メゾン・サクラです」
「ちょっと待ってください…」
カエデさんは、部屋を出たり入ったりしながら、電話で答えている
管理人さんって大変だ
こういうトラブルにも対応しなくちゃいけないんだもんな
「よろしくおねがいします」
カエデさんが、そう言って電話を切った
「どうですか?」
「担当の人が来てくれるみたい」
「そうですか、よかったですね」
「二人共出かけるところだったんでしょ? ごめんなさいね、時間取らしちゃって」
「大丈夫ですよ、ラーズの奢りでご飯食べに行くだけですから」
「相変わらず兄妹で仲いいのね」
カエデさんが微笑む
「わがままで世話焼けるんですですよ。まだまだ子供で、大人なカエデさんとはえらい違いです」
「何でそうなる。私を使ってカエデさんに大人アピールしないでよ」
そんな俺達をカエデさんが笑う
「それなら今の時期、いいお店があるのよ。すごくお花がきれいなの」
「お花いいですね。どこにあるんですか?」
「駅を過ぎて向こうに…」
「桜咲いてるところですね。ありがとうございます、行ってみます」
「帰ってくる頃には直ってると思うから。本当にごめんね」
ピピピピ…
俺達が、カエデさんに教わったお店に向かおうとした時、カエデさんの電話が鳴った
「えっ!?」
カエデさんが驚く
「す、すぐにカードでやりますので!」
カエデさんが慌てて電話を切る
「どうしたんですか?」
「その…、電気代の滞納で止められちゃってたんだって。電気…」
「えっ!」
「カードの引き落としができずに、自動引き落としができなくなってて、それに気が付かないで…」
カエデさんが真っ赤になって手続きをする
まさかのうっかりミス
カエデさん、ドジっ娘属性まで持ってるのかぁ
電気はすぐに復旧
問題は解決だ
桜の見えるご飯処は、美味しかったし綺麗だった
魔法構成を阻害する魔法陣 三章 第一話 夏休みの終わり
誤字が無くならない…
いつも誤字報告ありがとうございます
まったりと四章開始です、よろしくお願いします
※一章の末尾に閑話2を追加しました




