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三章 第三十三話 召喚術2

用語説明w


ドラゴンブレイド:セフィ姉からもらったロングソードで、霊的構造としてドラゴンキラーの特性を持つ。


レイコ社長

ゴーストハンター資格を持つ有限会社クサナギ霊障警備の社長、ドワーフの女性で童顔だが年上。クサナギ流除霊術を修めた凄腕だが、社長の割に威厳と権限は少なめ


市立ヒアラタ中学校に到着

校庭には、教職員や生徒達がまばらに集まっていた


「すいません、状況が分かる人!」


レイコ社長が呼びかけると、壮年の男性が走ってやって来た


「私が学校長です」


汗を拭きながら、校長先生が説明する


今日は午前の授業で終わり

午後は部活動の時間に当てられていたが、ある生徒が職員室に駆け込んできた


どうやら、その子はオカルト研究部の一人

降霊術を試してみたら、教室が封鎖されて中に入れなくなっていたため慌てて先生を呼びに来たらしい


「この子が、その生徒でミミガです」


「た、助けて…」


ミミガと呼ばれた女生徒は、泣きそうな顔でレイコ社長を見つめる


「その降霊術ってどんなもの?」

レイコ社長が尋ねる


「な、なんか、部員の誰かが悪魔の本を貰って来たとかで…。どうせ偽物だ取ろうって、面白半分で試してみたら、その…」


「あんたは、どうして教室の外に?」


「先にトイレに行ってくるねって。戻ったら、教室の中から悲鳴が聞こえて、びっくりして入ろうとしたら、ドアが開かなくて……!」


ミミガの眼から涙があふれて来る



「悪魔の本ねぇ…。それが本物だったってことなのかな」


「そんな本があるんですか?」


「あるけど、本物の降霊術の本なら、かなり高価なものだよ。中学生にあげるなんてありえない。それ、本当に貰ったものなの?」


「わ、私は聞いただけだから。オカ研の誰かが貰ったって…」


「まぁ、それなら本人から聞いてみるしかないか」



レイコ社長と俺は、装備を持ってオカルト研究部の部室へと向かう


「ピッキさんは?」と尋ねたら、学校の壁をぶっ壊す時に呼ぶと言っていた

ピッキさん、学校の除霊では出番がないのかな


それと、中学生に囲まれて怯えていて使い物にならないのも理由かもしれない

あそこまで対人関係がアレだと、かわそうだなぁ…



部室は空き教室

そして、その周辺からは、ヤベー空気がダダ洩れ


レイコ社長が除霊を続けている呪いの絵画と同じ空気だ



「…用心してね」


レイコ社長が祓い棒を掲げる


「……まだ生きてる」


「分かるんですか?」


「瘴気の中に、隔絶された空間と生命力を感じる。どうやって瘴気が流れ込まないようにしてるん……」





………ゴバァッ!



「…っ!?」




何の脈略も無く、目の前の空間から巨大な手が出現した


その指は長く赤黒い


指先には真っ黒な長い爪



「しまっ…!」


巨大な手が俺とレイコ社長を鷲掴みにすると、空間の裂け目に引きずり込む



ドシャッ…


床に叩きつけられる



ここは、どうやら教室の中


廊下から強制的に連れ込まれたようだ


壁をすり抜けたってことなのか?



「ひっ…」


目の前には、三人の中学生が床に座っていた



「ラーズ!」


「うわっ!!」


レイコ社長が俺の胸倉を掴み、中学生の方に引っ張っていった



「ふぅ、やられたわね。危なかった…」


「何が起こったんですか?」


「さっきの手の主が、この子たちが呼び出した相手だよ。それなりに高位の悪魔じゃないかな」


「…!」


俺は周囲を見回す


教室は、暗く淀んでいる

まだ外は明るいはずなのに、カーテンを閉めていない窓からは光が入って来ていない



「これって、魔法陣…」


中学生たちの周りには、大きな魔法陣が描かれている

レイコ社長は、俺を連れてこの中に逃げ込んだようだ


「この中なら、悪魔は手出しができないよ」


「これって、君たちが描いたの?」


「あ、はい…、本に書かれていた通りに…」


「その本が悪魔の書だね。どこにあるの?」


「そ、そっちに…。悪魔に本当に現れて、焦って落としちゃって…」


男子学生が指すのは、魔法陣の外、教室の壁際の床に落ちている本だ



「まずいな。あの本を見ないと、この悪魔の正体が分からない。押し返そうにも…」



ズガガガッ!


「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」



女子中学生が悲鳴を上げる


破裂音と共に、魔法陣の端から、人間サイズに縮んださっきの腕が突っ込まれている

中に入ろうとしているのだ



「あっ、まずい。私が魔法陣の一部を消しちゃったんだ!」

レイコ社長が言う


俺を引きずったせいで、床に書かれた魔法陣の一部が擦れてしまっている



「ど、どうします!?」


「ラーズ、あの腕を抑えておいて。私が直すから」


「どうやって!?」


明らかに人外の腕

これを、人の力でどうしろと…


悪魔は霊体がメインのモンスター

つまり、物理的や化学的な攻撃よりも、魔導法学の攻撃が有効だ


だが、俺には、魔法も特技(スキル)も無い



いや、待て

俺には今日、秘密兵器がある


俺は、背中に担いでいた袋から剣を引き抜く



バシッ!


「グガァッ!」



この世のものとは思えない怒声が響く

中学生三人は、震えながら耳を塞いでうずくまっている


この剣はドラゴンブレイド

俺が騎士学園の頃に使っていた愛刀だ


この剣は霊剣の一種であり、ドラゴンキラーの霊的構造を持っている

つまり、霊体にダメージを与えられる武器なのだ



「よし!」


ブチッ!!



レイコ社長が魔法陣を復元


その瞬間、突っ込まれていた腕が千切れて床に落ち、ビチビチとのたうち回る

そして、黒い靄となって消えてしまった



「レイコ社長、ドラゴンブレイドじゃ切れませんでした」


「ドラゴンキラーの霊的構造じゃ、悪魔にはいまいちだね」



霊的構造や、悪魔の霊体は、霊的な質量から成る

そして、物質と同様に霊質にも種類がある


油という物質を除去するのに、水でいくらやっても不毛

しかし、洗剤、いわゆる界面活性剤という物質を使えば、簡単に除去が可能だ


つまり、ある物質には特定の物質が有効であり、それは霊質も同じ


ドラゴンの霊質に対してはドラゴンキラーが有効だが、悪魔の霊体には効果は薄い

ドラゴンブレイドは、ドラゴン以外の霊体には並みの威力しか出ないのだ



「ドラゴンブレイドをせっかく持って来たのに、ゴーストハンターにはあまり使えないかぁ」


「そんなことないよ。そもそも、ゴーストハンターの難しさは霊体に干渉できないことなんだから。霊的構造で殴れるだけで凄いことだよ。普通はそれが出来ないから苦労するんだから」


レイコ社長が言う



「あ、あの…」


その時、男子学生がおずおずと話しかける


「何?」


「そ、そのろうそくが…消えたら…」


男子が、床に建てられた赤い蝋燭を見る


「消えたら?」


「この魔法陣の効果が消えちゃうって…」


「えっ!?」



悪魔の侵入を防ぐ魔法陣は、かなり強固なもの

呼び出された悪魔は不明だが、もし上位悪魔であるグレーターデーモンクラスなら、プロの騎士が相手をするBランク以上のモンスターだ


まだ顕現していないとはいえ、素人の中学生が作れる魔法陣ではない

それを可能にしたのが、この蠟燭というわけだ



「あんたたち、この蝋燭、どこで手に入れたの?」

レイコ社長の表情が変わる


「あ、悪魔の本をくれた人が一緒に…。この蝋燭が無いと呼び出せないって…」


「レイコ社長、その蝋燭がどうしたんですか?」


「これ、本物の呪物だよ。人の脂を使って作られた蝋燭で、恐怖の感情と瘴気を使ってる。そして、魔法陣と対応して、中に入らせないという契約で悪魔を縛ってるんだ」


「ひっ、人の脂!?」


「作るのに、三人以上の人間を殺さないと作れないもの。悪魔の書を渡したって奴、間違いなく犯罪者ね」


「………!」


中学生たちは、事の重大さを改めて思い知ったのか黙りこくってしまう



「それで、蝋燭が燃え尽きたら?」


「魔法陣の効力が無くなり、悪魔に襲われる」


「…レイコ社長、勝てるんですよね?」


「霊力だけで、騎士が相手をするレベルの悪魔に勝てると思う?」


「…」


騎士がBランクたる由縁は闘氣(オーラ)

強力な身体能力と防御力を持ち、ある程度の攻撃に耐えられるタフさと攻撃を通す力を得る


逆に言えば、どんなに有能な能力も、圧倒的ステータスの差を前にしては叩き潰される

それこそが、俺が騎士を諦めた理由なのだ



ドラゴンブレイド 三章 第二十七話 オーギュスト教授

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