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三章 第二十話 オープントーナメント1

用語説明w


ロン

黒髪ノーマンの男性。トウデン大学体育学部でラーズの同期。形意拳をやっていたが、ゴドー先輩の強さに感化されて総合空手部に入部。熱い性格で、ラーズとよくつるんでいる


ゴドー

鬼のゴドーの異名を持つ獣人男性で空手部の先輩。ケイト先輩の一年先輩だったが、留年して同期になった。好戦的な性格で、体格とセンスにも優れる。その実力はプロの格闘家を並み


ケイト

茶髪の獣人女性。トウデン大学体育学部の先輩で柔道部。明るい性格、ふくよかな胸でキャンパス内でも人気が高い。したたかな性格のヤワラちゃん


朝だ

俺は準備をして出かける


今日は、東玉流総合空手が主催するオープントーナメント大会の当日だ


「行ってらっしゃい」


「ああ、行ってきます」


フィーナが玄関で見送ってくれる


「もっと早く教えてくれたらよかったのに。ラーズの初試合」


「え?」


「そうしたら、応援…」


「いいよ、そんなの」


「あ、自信がないんだなー?」

フィーナがいたずらっぽく言う


「正直、自信ないよ。まだ、初めて一年も経ってないんだから」


「怪我しないように、せいぜい頑張ってね」


「おう」


俺は手を挙げて、会場へと向かった




ハチオウ町立総合体育館



「おはようございます」


「おう、来たか」


ゴドー先輩とロンは、もう来ていた


「二人とも、頑張ってねー!」


そして、マネージャーとしてケイト先輩が来てくれていた

怪我の応急処置セットやスポーツドリンクなどをわざわざ用意してくれている



「ラーズ、受付はあっちだ」


「分かった。行ってきます」


今回の大会では、俺とロンは同じ階級、ライト級にエントリーした

この階級なら俺達に減量などは必要ないため、気軽に参加ができる



「同じ階級のトーナメント、四つもあるんだな」


参加人数が多いため、ランダムでトーナメントが組まれ、それが四つもある

つまり、トーナメントの優勝者が四人も出るわけだ


「どのトーナメントになるかは完全に運だ」


「強い人と当たったら不運ってことですね」


「お前らの実力ならな。俺くらいになると、誰と当たっても関係ねぇ」

ゴドー先輩が不敵に言う



このオープントーナメントは、東玉流総合空手のメイン大会である東斗杯への出場選考も兼ねている


優勝者はもちろん、いい試合をしたと認められた者は、東斗杯の地方選抜戦に出場することができる

そして、この地方選抜戦で優勝すれば東斗杯の本選に進むことができるのだ


更に、この本選で活躍した者は、東玉流のプロ興業である「KAWANAKAJIMA」にスカウトされる

つまり、東斗杯の本選に出ることがプロになる最低条件なのだ



「今回、ゴドー先輩は出ないんですか?」

ロンが尋ねる


「こんな素人ばっかのトーナメントに出るわけねーだろ」


「ゴドーが出たら、相手が怪我しちゃうよ」

ケイト先輩が笑う


ゴドー先輩はオープントーナメントどころか、東斗杯の本選を去年優勝している

つまり、プロと同等の実力があるのだ


素人も多い今日の試合のレベルでは、実力差がありすぎるのだ



トーナメントは、俺はBブロック

ロンはDブロックとなった


それぞれが八人のトーナメントとなっている


「こんなに出場者がいるんですね」


広い体育館にマットが敷かれ、八面の試合場が作られていて、その周囲でたくさんの出場者がアップをしている


「道着ありの総合格闘技ルールなんて珍しいからね。他の流派や格闘技経験者なんかもエントリーしてるよ」


ケイト先輩の言う通り


確かに、あっちでは柔道の打ち込み

こっちではボクシング

レスリングやテコンドーがベースの人たちもいる


「オープントーナメントは、訳の分からない奴がいるから面白いんだ」


「へー」


「あ、ロン君の試合が始まりそうだよ。行こう」


「はい」


ロンとケイト先輩が試合場へと向かった




・・・・・・




「赤、ロン選手! 白、アジェラ選手!」


名前を呼ばれて、ロンと相手の選手が試合場に入る


試合は、一辺が八メートルの正方形の会場だ


縁はマットが赤くなっており、そこから外に出れば場外となる

場外は、四回で場外負けだ


そして、東玉流独自のルールとして「押し出し」がある

二人とも外に出た場合は減点はないが、一人だけが出た場合に場外として減点される



「ロン君、頑張って!」

ケイト先輩が声を出す


いつもなら、ケイト先輩の声援が羨ましいと思うだろう

だが、ロンの試合を見て死ぬほど緊張してきた


人の声援を喜ぶ余裕はない



「相手は…」


俺はトーナメント表を見る


「カポエラだな」


「へ?」


ゴドー先輩が言う



カポエラ、又はカポエイラ


ある地方の奴隷達が編み出した蹴り主体の格闘技

手枷を付けられた状態での戦闘を想定しており、両手を地面についてのアクロバティックな蹴り技を多用する


当時は奴隷の主に格闘技と悟られないよう、音楽に合わせてダンスをするように練習されていたため、現在でもリズム感のよい格闘技だ



「…変わったステップですね」


アジェラ選手は、左右に動いて隙を伺う


その際、左右の前足が入れ替わる

キックボクシングなどの右足前、左足前を固定したスタイルとは違い、常に前足が左右にスイッチし続けている

構えが左右入れ替わるのは、非常に戦いにくい



「…」


ロンが静かに間合いを詰める

セオリー通り、ジャブから当てたいのだろう



だが、アジェラ選手は左右に大きくステップを踏んでおり、その歩幅について行けない



ドガァッ!


「うぉっ!?」



突然、アジェラ選手が両手を地面について大きな回し蹴り


その範囲は通常の蹴りの二倍以上

ロンは予想外の蹴りに反応が遅れた



「ロン!」


「大丈夫だ、しっかりガードしている」


ゴドー先輩が言う通り、ロンがミドルを返す

だが、すでにアジェラ選手は届かない距離まで離れている



ロンが、また間合いを詰める


だが、アジェラ選手は円を描くようにステップを踏み、また距離の長い蹴り



ブンッ!


シュッ!


ヒュッ!



大きな回転の回し蹴りの連続


ロンが下がってカウンターを狙うが、扇風機のように回転を続けるアジェラ選手に近づくことができない



ドッ!


四回転目の蹴りがロンに直撃



ハイキックを左腕でガードするが、遠心力の乗った威力でロンの身体が吹き飛ばされる


「ロン君!」

ケイト先輩の声


アジェラ選手が勝負に出る

パンチを繰り出してロンを追い詰める



バシッ!


ロンがアジェラ選手のパンチをガード



ゴッ!


すかさず、右ストレートを返す



アジェラ選手の顔が弾ける


「…っ!?」


その直後、アジェラ選手がガクッと膝から崩れる



ロンがアジェラ選手の横から膝を曲げるように蹴り込んだのだ


「あれって、龍形拳の…」



ロンのやって来た武術、形意拳

十二の動物の動きの型の中で、龍の動きを模した物が龍形拳だ


龍形拳は、後足で相手の足を踏みつけるような動作がある

ロンはコンビネーションに、この武術的な蹴りの動きを導入している



「ぐぉっ…!」


動きを止めたアジェラ選手に、ロンのアッパー

顎に直撃して、アジェラ選手の腰が落ちる



アジェラ選手は長距離の蹴りが得意な分、パンチの距離はロンに分があるようだ


「くそっ…」


アジェラ選手が嫌がって距離を取ろうとする

そこに、ロンがハイキック



ドシッ…


アジェラ選手が蹴りをガード



だが、その勢いのままロンがまたアジェラ選手との距離を詰める



ドゴッ!


「がはっ…」



ロン得意の崩拳がボディに直撃

頭が下がったところで、ロンがアジェラ選手の道着を掴む


もう逃がさない、今度はロンが勝負に出た


拳を握り込み、渾身のアッパー

アジェラ選手が顎がまた跳ね上がる



「止め!」


「なっ!?」


ロンが更に追撃しようとしたところで、審判が割り込む



アジェラ選手がフラフラと尻餅をつく


その眼は焦点が合っていない

ロンのパンチで意識が飛びかけたようだった



「ロンのTKO勝ちだな」

ゴドー先輩が言う


審判の判断で試合を止められたため、そのままロンの勝利


ロンの右腕を審判が高く上げた



「ロン、やったな!」


「はぁ…はぁ…ああ…」


ロンが肩で息をしている



「近距離を守ったのは正解だったな。あの纏わりつくような動きは形意拳か?」


「あれは、逃げられないために、咄嗟に…」


「ロン君、スポーツドリンクだよ。あと、アイシング」


「ありがとうございます…」


ケイト先輩が慣れた手つきで、保冷材やペットボトルをクーラーボックスから取り出す



「よし、次はラーズだ。行くぞ」


「は、はい!」


「ラーズ、頑張れよ!」

「思いっきりね!」


俺はロンとケイト先輩に手を挙げて、ゴドー先輩と試合場へ向かった


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