三章 第十二話 夜の公園
用語説明w
PIT:個人用情報端末、要はスマホ。多目的多層メモリを搭載している
魔石装填型小型杖:魔石の魔法を発動できる携帯用の小型の杖
ビアンカ
クサナギ霊障警備の社員、ダークエルフの女性で元軍人、圧縮空気を推進力として利用するホバーブーツという変わった装備を使う。武器はククリナイフとハンドガン
フィーナ
ノーマンで黒髪、赤目の女子。ラーズの義理の妹で、飛び級でハナノミヤ聖女子大学に進学。クレハナの王族であり、内戦から逃れるために王位を辞退して一般家庭に下った。騎士の卵でもあり、複数の魔法を使える。最近はラーズの怪我の治療によって回復魔法の腕が上がっている
今回のゴーストハンター現場も無事に終わった
「ラーズ」
「はい?」
帰り支度をしていると、ビアンカさんから声をかけられる
「よくやったな。実戦でのホバーブーツは成功だ」
「真っ直ぐ行っただけですけど、なんとか」
ホバーブーツの速度は速い
直進だけとはいえ、あのスピードで走れと言われれば無理だ
だが、バランスが取れない以上、常に転倒と隣り合わせ
目の前に暴れゴーレムがいたため、恐怖によって凄まじい集中力を発揮した気がする
「さっきは途中になってしまったが、ホバーブーツをここまで簡単に乗れるはずはない。お前が天才的なセンスを持っていたら話は別だが」
「俺に、そんな才能が…」
「無いだろう、残念ながらな。ゴーレムに恐怖してちびっている以上…」
「ちょっ、なっ…!?」
ば、バレてたの!?
「大丈夫だ、ゴーレムに襲われればちびりぐらいする」
「うんこ洩らさなかっただけよかったでござるよ」
「ラーズ、おしめをあげようかぁ?」
「大丈夫。ラーズはクサナギ霊障警備の仲間なんだから、言ったりしないわよ。…やめなければ」
社員達に囲まれてのつるし上げ
えっ、なんなの、やってらんねーよ!
「うるさい、男が漏らしながらも最後まで戦ったんだ。冷やかすもんじゃない。ラーズも胸を張れ、お前は勇敢だった」
「ビ、ビアンカ師匠…!」
皆を追い払うビアンカさん
かっこいい…、ありがとう…、リスペクトっす
「話を戻すが、お前はまだホバーブーツを怖がっている。怖がっていては、乗りこなすのは無理だ。天才とは、恐怖を感じないほど自然に順応する者を言うからな」
「まぁ、確かにホバーブーツが怖いですね」
だって、すっ転ぶんだもん
「その割に、ラーズはホバーブーツの適性が高い。高速移動や不安定さに慣れているとしか思えないんだ」
「あぁ、それなら、多分ですけど騎士学園の経験だと思いますよ」
「経験?」
騎士学園の頃
俺はドラゴンエッグという固有技能を編み出した
俺は風属性の魔法と特技が得意だった
だが、どちらも威力は大したことがなかった
そこで、ダンジョンアタックの際に咄嗟に思いついたのが特技と魔法の併用
風属性の特技で身体の周囲に風を集め、その風に対して風属性魔法を作用させる
身体の周りで風を高速回転、卵の殻のように纏い、攻撃からの防御力を得る
更に、この風を噴出することで高速移動を可能とする
俺の竜人としての人種、フォウルというドラゴンの使役対象から、担任のラングドン先生がドラゴンエッグと名付けてくれた、俺のオリジナル技だ
「騎士の卵だった頃には、そんな能力を持っていたのか。だが、それなら納得だな」
「え?」
「ホバーブーツの高速移動は予想以上に怖い。車のようにフロントガラスが無い分、風がダイレクトに当たるし、掴まるところもない。地面との距離も近いから、体感速度はかなり上乗せされるはずだ」
「確かに、めちゃくちゃ早く感じますね」
「ラーズは、そのドラゴンエッグで高速域に慣れていて、しかも急カーブなども経験済み。バランス感覚や体幹の力も養われたのだろう」
「そうだったらいいんですけど」
「間違いない。つまり、ラーズはホバーブーツの適性を持っている。これはいい情報だ。これからもドンドン使い、身体の一部にしていくぞ」
「わ、分かりました」
俺にホバーブーツの適性が…
ちょっと嬉しい
そうかぁ、ドラゴンエッグの経験がこんなところで生きるとは
使用感は全然違うけど、言われてみれば、高速移動という意味では近いかもしれない
ちなみに、どうでもいい話
・・・・・・
「ただいまー」
「お帰りー」
アパートに帰ると、フィーナも戻っていた
「帰って来てたんだ、ちょうどよかったよ」
「何が?」
俺は、シャツを脱ぐ
「ちょっ、何で脱ぐの!?」
「いや、これを見てよ」
肩の後ろに痣、擦り傷
右ひじとわき腹にも擦り傷
左の足は少し足首が痛い
「また、何でそんなにケガしてるの?」
「ホバーブーツってやつの練習だよ。また吹っ飛んだんだ。回復魔法、頼むよ」
「そのホバーブーツって、そんなに危ないんだ」
怪我自体は大したことは無いんだが、肌がすれていて服がこすれると痛い
早めに治してもらえると助かる
部活の練習もあるあるし、大学生活が忙しすぎるな…
「はい、座って」
フィーナが杖を持ってくる
魔法使いの杖は、俺がバイトで使っている小型杖よりも長い
その理由は、魔法の強化機能の有無だ
小型杖は、魔石に封印された魔法の発射装置としてだけの機能のため、魔魔法使いが発動する魔法の強化機能はない
その分小型化されており、持ち運びに便利に作られている
逆に魔法使いの杖は魔法の強化機能があり、そのために杖の無さは最低でも一メートル以上ある
もっとすごい杖だと、長くなったりする、太くなったり、魔玉がつけられていたりする
魔法使いは杖が無くても魔法を発動できる
だが、杖の有無によって、その威力は月とスッポン
そのため、魔法使いの杖は銃と同様に兵器として扱われる
持ち歩くだけでも、銃刀法と同様、杖アクセサリー法によって罰せられる
このアクセサリーとは、魔法強化能力を持つ装備のことだ
パァァ…
暖かい光が俺の体を包む
すると、うずいていた肌がスーッと静かになる
「おぉっ、さすがフィーナの回復魔法だ」
「あんまり怪我しないでよ。服にも血がついちゃってるし」
「したくてしてるわけじゃないんだって。あと、左の足首もお願い。ちょっと痛いんだ」
「捻ったの?」
「そうかも」
こちらも、フィーナの回復魔法で痛みが引く
よかった、これですぐに練習ができるぜ
「あー…、回復魔法で疲れたなぁ。頑張ったからだなぁ」
「…何が言いたいの?」
「今日、ご飯作ってくれないなぁ。魔力を使ったから、身体がだるいんだよね」
「………仕方ないな。助かったのは事実だし」
本当はフィーナの食事当番だったのに
「あれ、美味しい」
「ふっふっふ。やるだろ、俺」
「焼うどん…、パスタ?」
「そう。パスタをゆでて、野菜炒めにぶち込んで炒める!」
「すぐ作れて、いい醤油味。やるじゃん」
「ただ、フライパンとゆでる鍋の二つを使うから、洗い物が増えるんだよな」
「主婦みたいなこと言ってる」
「片付け、めんどくさいじゃんよ」
俺達は夕食を終えて片付ける
「明日から大学かぁ。休みってすぐ終わったちゃうよな」
「ね、散歩に行こうよ。ついでにコンビニ」
「いいよ。甘いもの食べたい」
俺とフィーナは、外に出る
もう暗くなっていた
向ったのは海が見える公園だ
「真っ暗だな」
「海も真っ暗で何も見えないよ」
「そこのベンチで食べよ」
俺とフィーナは、買ってきたアイスを袋から取り出す
「わーん、見えないよ!」
泣き声が聞こえ、振り返ると小学生くらいの男の子がしゃがんでいた
「ちょっと待ってね。もう、ちゃんと持っておかないから…」
お母さんらしき人が、PITでライトを付けて辺りを照らす
だが、光が弱くて探し物が見つからないようだ
「…」
フィーナが両手の手のひらを上にしてくっつける
「うわっ!?」
すると、蛍光灯のような光の球が浮かび上がる
その光で、周囲が照らし出された
「お姉ちゃん凄い!」
男の子がジャンプして喜んでいる
「あ、あれじゃない?」
「あったー!」
お母さんが見つけたもの
それは、ヒーローものの人形だった
「探し物は見つかった?」
フィーナが手を下ろすと、浮かんでいた光が消える
また、公園が暗闇に戻った
「今のって魔法か?」
「照明魔法だよ。杖が無いから、短時間しかもたないけど」
「便利だよな、魔法って」
人の手で自然現象を生み出したり、操作できたりする
それが魔法だ
俺が失ったもの
そして、フィーナが研鑽しているものだ
「あの、ありがとうございました」
お母さんがお礼を言いに来る
「いえいえ、見つかってよかったですね」
「お姉ちゃんありがとう! お姉ちゃん、魔法使いなの?」
「そうだよー。ちょっとだけ、魔法が使えるんだ」
「凄い凄ーい。他にも魔法が使えるの?」
「ほら、お姉ちゃんを困らせないで。ご飯作らなきゃいけないから、帰りましょう」
「バイバーイ、ありがとー!」
男の子は人形をブンブン振りながら、お母さんと帰っていった
「あの無口で根暗で引っ込み思案だったフィーナが、知らない人を助けるとか…」
「何それ」
「成長したなぁ、お兄ちゃんは嬉しい」
「小さい頃の話でしょ!」
俺達は。ベンチで夜の海を眺めながらアイスを頬張った
ドラゴンエッグ 一章 第五話 奥義




