三章 第二話 部活動再開1
用語説明w
ロン
黒髪ノーマンの男性。トウデン大学体育学部でラーズの同期。形意拳をやっていたが、ゴドー先輩の強さに感化されて総合空手部に入部。熱い性格で、ラーズとよくつるんでいる
ゴドー
鬼のゴドーの異名を持つ獣人男性で空手部の先輩。ケイト先輩の一年先輩だったが、留年して同期になった。好戦的な性格で、体格とセンスにも優れる。その実力はプロの格闘家を並み
後期の授業が始まった
夏休み、あっという間だったなぁ…
講義 基礎心理学
教養の一環として、心理学を取ってみた
気になる授業を選択できるのも、大学の醍醐味だ
「人には、関係を構築できる人数に上限があります。その数をダンバー数と言います」
講師が言う
ダンバー数
人間関係を維持することができる人数のこと
この数は霊長類の脳と関係があり、人間の脳の性能では、その限度が150人程度とされている
「つまり、SNSなどでどれだけフォロワー数が増えたところで、それは他人。皆さん一人一人が本当の意味で繋がれる人数は百五十程です。更に、その中で親密になれる者は十数人。家族や親友レベルの親密度になれるのは五人程度だと言われています」
講師が続ける
「更に、ダンバー数が警告するのは、人の認知能力の限界です。もし、皆さんの周囲の百五十人がカラスは白いと言ったらどうでしょうか?」
講師が教室を見回す
「まるで、世界中全ての人が同じことを言っているように感じるはずです。この傾向は、人の意見に流されやすい人には顕著ですが、自分の周りの人がそう言っていると思えば、流されにくい人でも不安になるものです」
講師が、時計を見る
「つまり、人間は、自分の力だけで判断することは難しい。周囲の人間関係に依存してはいけないし、孤立してはいけない。それを心理学は教えてくれるのです。…これで、今日の授業を終わります」
そう言って、講師がマイクを置いた
・・・・・・
「お願いします!」
道場に入ると、ロンとゴドー先輩が来ていた
「おう、遅かったな」
「授業が長引きました」
ドン!
大きな音が響いて、サンドバッグを吊るす鎖がガチャガチャと鳴る
ロンが中段突きを打った音だ
「ロンのパンチ、凄いよな。前も一発で倒してたし」
「これは崩拳っていう打ち方だ」
ロンがやって見せる
前足を半歩踏み出しながら突き
その後に後足を引き付ける特徴的な打ち方だ
「俺も、それを覚えればKOできるのかな」
「アホ。素人がゴチャゴチャ手を出しても中途半端になるだけだ」
ゴドー先輩が立ち上がる
「そうなんですか?」
「ただでさえ、東玉流はやることが多いんだ。空手と言いながら、打撃、寝技、投げと、やることが死ぬほどあるんだぞ」
「確かに…。今日も柔道部に行くんですもんね」
「それに、拳法の打ち方と空手やキックボクシングの打ち方は違う。ロンもそれで苦労してるんだ、お前は余計な情報を入れるな」
「分かりました」
俺がロンを見ると、ロンが肩を竦める
ロン、そんな苦労をしてたのか
いつも通り、ジャブ、ストレート、左フック
それに、アッパーやボディフックなどを練習
最近、パンチのレパートリーが増えてきた気がする
「よし、それじゃあパンチのみのライトスパーだ」
「はい」
ライトスパーとは、ライトコンタクトのスパーリングのこと
軽く当てる感じでやる
ドドン!
「うがっ!?」
ズドォッ!
「がっ…」
ゴドー先輩のパンチで頭が仰け反り、直後にボディを打ち抜かれる
「ラーズ、大丈夫か?」
ロンが言う
「…無理」
「全然、力入れてねーぞ」
「効きました…」
ライトコンタクトと言いながら、ゴドー先輩のパンチはしっかり痛い
「ラーズ、ガードを疎かにするな。それと、頭を下げるな」
「はい、すみません」
「後は慣れだな」
「頑張ります…」
次はロン
ドシッ!
ドン!
バシッ!
「ガードを上げろ! ボクシングルールに拳法で挑むな!」
「押忍!」
バシッ
ズドォッ!
左ボディから、左フックへのコンビネーション
だが、ロンはなんとかガード
「亀になるな、手を出せ!」
「押忍っ!」
亀とは、ガードを固めて手を出せない状況
ロンはすぐにパンチを繰り出す
ドスッ!
左構えから飛び込み気味のストレート!
一発技かと思ったが、ロンは右腕を引きながら右足を出す
ズシィッッ!
「おぉっ!?」
ロンのやつ、右ストレートから左の崩拳につなげやがった!
ドゴォッ!
「がふっ!?」
しかし、ゴドー先輩はロンの崩拳をしっかりとガード
帰しの右フックをロンの顔面に叩き込むんだ
「…最後のコンビネーションは、自分で考えたのか?」
ゴドー先輩がロンに言う
「はい。形意拳を組み込めないかと思って」
「なかなかよかったぞ。隙をつける」
「…ありがとうございました」
ロンは、ちょっと嬉しそうだ
「ボクシングも良くなってきた。これからは、空手やキックボクシングをベースに形意拳の技を組み込むのもありかもな」
ゴドー先輩、めちゃめちゃロンのこち褒めるじゃん
いいなぁ…
「よし、次はロンとラーズでスパーだ」
俺達は頷いて立ち上がる
スパーの時間は三分
だが、殴られるという怖さ、負けたくないという気持ちで緊張するのか、呼吸が乱れてめちゃくちゃ疲れる
「行くぞ、ラーズ」
「おう」
「ラーズは飛び込む癖があるからガード重視。ロンは待つ癖があるから手を出していけ」
ゴドー先輩が言う
パパン!
俺のワン・ツー
バシッ
ロンのジャブ
一瞬待って、ストレートが飛んでくる
俺は左フック
そして、習い始めた右アッパー
同じ軌道選ばない
真っ直ぐを打ち、フック、アッパーを織り交ぜる
ズドォッ!
「がっ…」
いくつかの拳がロンの顔を捉える
だが、強い一発を胸に貰ってしまう
ロンは、パワーファイターだ
手数よりも、少ないが強いコンビネーションを使う
更に、拳法由来のちょっと変わった突きが交じるから受け辛い
ジャブ
そこからストレート!
もう一度ストレート!
ロンの突進を止める
くそっ、やっぱりロンは上手い
ガードの上からでも殴って勢いを止めないとやられる
「ラーズ、ジャブをもっと打て。それともっと力を抜け」
「はい!」
「ロンは一撃を狙いすぎだ。手数を意識しろ」
「押忍っ!」
………
……
…
「よし、やめ」
ブザーが鳴り、ゴドー先輩が言う
その途端、俺は道場にへたり込む
「クソー……はぁ…はぁ…」
俺はタオルに顔を埋め、水を口に注ぎ込む
き、キツイ…
パンチを怖がっている
だからこそ、余計な動きが増えて疲労が増す
二ラウンド、合計六分
これだけの時間を動き続けるのが、ここまで大変なのだ
「ラーズ、ガードが上手くなったな。思ったより当てられなかったぜ」
「こっちのパンチは当たらねーのに、ボコスカ殴りやがって…」
「俺にも当たってたって」
「痛さが違うだろうが!」
ロンは、やっぱり強い
当てさせないのに当てられる
打撃、特にパンチの上手さはかなりにものだ
「俺が習った形意拳は、蹴りはあまり使わないんだ。その分、突きの割合が多いんだ」
ロンが、そんなことを言っていた
かと言って、蹴り有りで俺が勝てるわけでもない
「ゴドー先輩。ロンの対策法を教えて下さい」
「あ?」
「勝てないの悔しいっす」
「まぁ、打撃は積み重ねだからな。だったら、グラップリングに力を入れてみたらどうだ」
「グラップリングですか…」
「あれならロンも未経験。スタートは同じだからな」
「なるほど…」
グラップリング…、投げや寝技は難しい
だが、ロンに勝つためには、そっちで勝負するのもありだ
何より、ケイト先輩が褒めてくれるしな
「ラーズ、柔道行こうぜ」
ロンがノンキに言う
「ロン、お前は柔道練の習休んでもいいぞ」
「何でだよ。ケイト先輩いるんだから行くに決まってるだろ」
「…俺だけが強くなりたいんだ」
「素直に言うことじゃねーだろ」
ロンはライバル
強敵と書いて友と読む
こいつに勝つためには…
差を埋めるためには…
とりあえず、これからは走リ始めよう
コソッと練習、コソ練だな
打撃練習の次は柔道部へ出稽古
俺とロンは武道館へと向かった




