二章 第二十七話 最後の社員
用語説明w
レイコ
ゴーストハンター資格を持つ有限会社クサナギ霊障警備の社長、ドワーフの女性で童顔だが年上。クサナギ流除霊術を修めた凄腕だが、社長の割に威厳と権限は少なめ
プリヤ
クサナギ霊障警備の社員、魔族の女性で営業、経理、交渉(恫喝)担当。スーツが似合うキャリアウーマンで実質の経営者(黒幕)
クサナギ霊障警備
「おはようございます」
「ラーズ、今日は出勤だったんだっけ!」
レイコ社長が俺を見るなり立ち上がる
「こら、社長! あなたは除霊資材の片付けだ!」
席を離れようとした社長をプリヤさんがブロッキング
どうでもいい攻防戦が始まる
「…」
「うわっ!?」
俺が自分の席に向かおうとすると、チェックのシャツにバンダナを巻いた男性が席に奥の座っていた
「えっ、あの…」
だ、誰だこれ!
「ラーズ。まだ会ってなかったよね。うちの社員のピッキ。ゲーマー担当よ」
「ゲ、ゲーマー?」
「いろいろやるのよ。ただ、全ての考えが二次元だからちょっと変わってるけど」
「…」
相変わらず、ピックさんは無言で俺を見てくる
「あ、あの、始めまして。バイトで入りましたラーズといいます」
「ギュッフッフ…」
「え?」
「よろしくござる。拙者はピッキ。ジェップリー」
「ジェップ?」
「よろしく、みたいな造語でござる」
「造語なんですね、サムライの方なんですか?」
「ギュッフッフ。そうでござる。よくわかったでござるな」
「話し方でなんとなく…」
「拙者、サムライソード妖刀ムラマサマサに選ばれし…」
「妖刀って、霊剣の一種ですか?」
「霊剣、そ、そんな感じでござる」
「それじゃあ、ピッキさんも霊能力が?」
「いや、それはない…」
「それなのに妖刀に選ばれるなんて凄いです」
「…」
「ピッキさん、ゲーマーってどういう…」
「質問多過ぎぃぃぃ!」
「…っ!?」
「一回の会話に質問は一回! コミュ障を殺す気でござるか!?」
「え、あの、すみません」
「気をつけるでござる。ゲーマーとコミュ障の二つの属性を持つ者は、会話のキャパを超えると憤死するのでござる」
「は、はい」
一通り喋ると、ピッキさんは鼻息をフンフンしながら納得した
「よしよし、ピッキ。ちゃんとラーズと挨拶できたわね」
プリヤさんが笑いながら言う
「ふん、当然でござる」
「ラーズ。ピッキは極度の人見知りなのよ。それでも、やっと入ってきてくれたバイト君と仲良くしようと思って挨拶を頑張ったの。汲んであげてね」
「あ、そうだったんですね。ピッキさん、よろしくお願いします」
「うむうむ」
「それじゃあ、ピッキ。ラーズと一緒に封印石の持ち込みをお願い」
「はっはっは、このクソビッチが。我が初めて会ったバイト君と出かけられるはずがなかろうもん」
「誰がビッチだ、クソオタク。嫌なら研究所の職員に自分で全部説明するのね」
「…今日はお腹が痛いから無理」
「やるんだよ、仕事なんだから。それともあんた、職務放棄しようって言うの?」
ピッキさんが、プリヤさんの睨みでビビる
「これだから三次元の女はクソなんでござる。優しさの欠片もない、冷徹冷血乳なし…」
「通常業務をやれって言ってるんだ! 言っておくけど、生身の女は下の毛が生えてるし、巨乳は少なからず垂れる。おならもすればトイレにだって…」
「ぐぎゃぁぁぁぁっ、拙者の純真さがビッチに汚される…!」
「ムカついたから、ラーズは私の補助。あなたは一人で持ち込みなさい」
「ちょっ、知らぬ人と話すなんて、拙者に死ねと!? 」
「嫌ならラーズにお願いしてさっさと行け。タイムリミットあと三分」
「冷血乳無しが! ラーズ殿、どうか拙者と来てくだされ! 殿中にござります!」
「よ、よくわかりませんが、はい」
「ラーズ、この前の封印石を持ち込むだけ。これが書類だから、ここに担当者のサインをもらってね」
「はい」
「そのセクハラオタク、対人能力を推しに捧げてポンコツだなの。よろしくね」
「乳無し冷血ビッチ」
「テメーの乳引っ張って巨乳にしてやろうか?」
プリヤさんが切れた途端、ピッキさんが素早く逃げ出した
・・・・・・
ドギャギャギャギャギャッッッ!
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!」
ピッキさんが運転するミニバンが横滑り
タイヤの悲鳴を聞きながら、高速道路を華麗にターン
ファンファンファン…
「ピッキさん、後ろからパトカーが!」
「心配はいらない。君は拙者が守る」
「言動がイケメン! でも、スピード違反で追いかけられぁぁぁぁっ!」
俺達の車は高速を降り、その後の街中のカーチェイスでパトカーを振り切った
「う、運転荒すぎです…」
「…ラーズ。お主の出番でござるぞ」
「車を降りた途端に、またコミュ障にもどった。二重人格ですか!」
眼の前には、国立霊障研究所の敷地
前回、封印石に吸い込んだ邪精霊を持ち込みに来たのだ
ここは、各地で起こる霊障を集めて調査や実験などを行う研究施設だ
霊障には、まだ未解明なことが多い
発生条件や暴走の頻度などを解明するため日夜研究が続けられている
「はい、たしかに受け取りました。これが書類となります」
「ありがとうございました」
封印石の引き渡しは終了
「ピッキさん、終わりましたよ。帰りましょう」
「了解でござる。ラーズのお陰で、なんとか今日の任務を完遂できた。助かったでござござる」
「ただ渡しただけですけど!?」
「帰りに買い物をしていくでござる」
「どこへ行くんですか?」
「スーパーでござる」
「食材ですか」
ピッキさんが、メモを見ながら買い物
酒缶、酒瓶、酒ペットボトル
酒ばっかじゃねーか!
そして、ツマミのお菓子や惣菜を大人買い
車に積み込んだ
「さぁ、帰るでござる」
「ピッキさんって、運転上手ですよね」
「ふふん、当然さ。拙者は、人以外なら得意。運転、操縦、システム管理や設定もね」
「運転するとござる口調じゃなくなるんですね。…操縦って何ですか?」
「ショベルカーやフォークリフト、MEBなどの特殊車両の操縦のことさ。運転以外にもアームの操縦が必要で…ござる」
「信号待ちでも、ござる口調に戻るんですね」
ブロロ…
「余計な考察は無用だ。さぁ、そろそろつくぞ」
「ピッキさん、MEBも乗れるって凄いですねー」
MEBとは、乗り込み型のロボットのこと
二本の腕、二本の足を持つ人形が一般的であり、二本の腕を扱う分、操縦は複雑
二本足のため倒れ安い
「拙者からすれば、人間のほうが理解できぬ。車やコンピューターは、こうすれば決まった結果が出力される。だが、人はそうはいかぬ」
「まぁ、確かに…」
「ディスプレイで見る女子はいい。しかし、現実の女子はうるさいし汚いし…で、ござる」
「あ、着いたんですね」
会社のビル前で止まった車から、買ってきた食材を運び出す
「お帰りー」
「さ、準備するわよ」
レイコ社長とプリヤさんが出てきた
「準備って何のですか?」
「ラーズの歓迎会よ。ちょっとピッキ、ラーズに言わなかったの?」
「拙者には荷が重すぎ申し候でござる」
もしかして、ピッキさん、ずっと言おうとしてたのか?
「おーい、上は終わったぞ」
「早く上がってきなー」
上を見上げると、三階からホフマンさんとビアンカさんが手を振っている
「いやあんたらも取りに来い! エレベーターないんだから!
プリヤさんが言う
三階は広い一部屋となっており、そこにブルーシートが敷かれ、料理やお菓子が並べられた
「何だよ、ツマミってポテチか」
「たまにはローストビーフとかさぁ」
「唐揚げも美味しいんだけど、高級感が」
レイコ社長とホフマンさん、ビアンカさんがブー垂れる
「うるせーな、欲しかったら利益を上げろ。経費を下げろ」
「プリヤ、酒飲む前からヤサグレでござるか?」
ピッキさんを一睨みし、プリヤさんが立ち上がる
「それじゃあ、ラーズの歓迎と、絶対にやめさせないために…」
「「「乾杯ー!」」」
「いや、怖ぇーよ! 辞めさせないって何ですか!」
「ラーズが必要ってこと」
「貴重な戦力だからね」
「プリヤさん、レイコ社長、そこまで俺のことを…」
「本当に、うちの会社は一度現場に行くだけでバイトが辞めるんだ」
「まぁ、確かにヤベー現場ですけど」
「そんなことより、ラーズ。今度、ホバーブーツを教えてやるからな」
「ビアンカさん、ありがとうございます」
「ビアンカも、ピッキの次くらいに二重人格だ。ラーズ、間違っても辞めるなよ」
ホフマンさんが言う
「そうなんですか?」
「ラーズ、この唐揚げを食うでござる」
「珍しいわね、ピッキが人を気に入るの」
「うっさい、拙者はこの会社で人間不信になったでござる。汚れし俗物共が」
「ピッキ、今度、都心の真ん中で車から蹴落としてやる」
「いいわね。人に聞きながら帰ってらっしゃい」
「なっ、殺す気でござるか!」
バイトの飲み会は、普通に楽しかった
封印石 二章 第十七話 初出勤3
すみません
用語説明と後書きを忘れてました 汗




