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二章 第十八話 稽古1

用語説明w


フィーナ

ノーマンで黒髪、赤目の女子。ラーズの義理の妹で、飛び級でハナノミヤ聖女子大学に進学。クレハナの王族であり、内戦から逃れるために王位を辞退して一般家庭に下った。騎士の卵でもあり、複数の魔法を使える。


ロン

黒髪ノーマンの男性。トウデン大学体育学部でラーズの同期。形意拳をやっていたが、ゴドー先輩の強さに感化されて総合空手部に入部。熱い性格で、ラーズとよくつるんでいる


ゴドー

鬼のゴドーの異名を持つ獣人男性。ケイト先輩の一年先輩だったが、留年して同期になった。好戦的な性格で、体格とセンスにも優れる。その実力はプロの格闘家を並み


「ごめん、寝坊しちゃった…」


「いいよ。パン買ってあったんだし」


健康のために、朝食は毎日取ろう

俺とフィーナは、そんな約束をしていた


だが、お互いに夜更かししたりして、起きるのはギリギリになることも多い

そんなこんなで、朝食を抜くことが多くなってしまっている



「あ、牛乳が無くなっちゃった」


「帰りに買って帰るよ。他に何かあったっけ」


「食器洗剤とスポンジが無かったと思う」


「それじゃあ、薬局かな」


「ついでに風邪薬も買っておこうよ」


「危なく風邪ひくところだったもんなぁ」


「ラーズが変に照れるから」


「フィーナが傘を忘れるのが悪いんだろ」



お互いに、まだ手探りの共同生活

何が必要かが分かっていない


何のことかと言うと、昨日は雨

俺は折りたたみ傘を持っていたためノーダメージだった


そして、家までの道の半ばまで来た時、フィーナから傘を忘れたという連絡が来た

仕方がないから迎えに行ったのだ



「ラーズ、ありがとう」


「いや、俺もこの折り畳み傘一本しか持ってないんだよ。ビニール傘買おうぜ」


「もったいないよ。そんなに距離ないから大丈夫でしょ」


「…一緒にってことか?」


「うん。兄妹だし別にいいでしょ」


「そ、そ、そうだな」


男女二人で入る傘

通称相合傘


俺は結構恥ずかしいのに、フィーナは気にしないんだな



「ラーズ、もっとこっちに入っていいよ」


「大丈夫だって。フィーナこそちゃんと入れよ」


「ラーズ、肩が濡れてるよ」


「やっぱ、折り畳み傘に二人はは無理あったな…」


ドキドキする

何がドキドキって、知り合いに会うことだ


兄妹と一緒に傘に入ってる

仲がいいねー、なんて言われたらめちゃくちゃ恥ずかしい



「くしゅっ」


「ほら、肩濡らすからだよ」


「ああ…、寒くなってきた。早く帰ろう」


アパート、メゾン・サクラが見えて来た

敷地に入ると…



「あら、お帰りなさい」


「…っ!?」


ちょうど、管理人のカエデさんがドアを開けて出て来た

ゴミを出しに来たようだ


「カエデさん、こんばんは」


「フィーナちゃんとラーズ君、一緒に帰ってきたの。仲が良いのね」


「ビニール傘を買うのをケチっただけですよ」

なぜか、俺は弁明


「節約には、そういう出費を抑えるのが一番大事よ。でも、風邪ひかないようにね」


「はい、ありがとうございます」


俺達はカエデさんに頭を下げて階段を上がる



「カエデ、どうしたの?」


「ああ、最近入ったラーズ君とフィーナちゃんが帰って来てたの」


「大学生の兄妹の子達だね」


そんな声が聞こえた

カエデさんの旦那さんだろうか


カエデさんなんていう、穏やかで美人の奥さん

羨ましいなぁ…



「ラーズ、ありがとう。先にシャワー浴びちゃいなよ」


「そ、そうだな」


思ったより濡れてしまった

風邪を引いたらめんどくさい



ちなみに、風邪などの病は、状態異常としてはディジーズと呼ばれる

ウイルスや細菌によって引き起こされる症状のため、怪我などと違い回復魔法ですぐ治るわけではない


もちろん、代謝を上げるという間接的な効果はあるが、ディジーズを治すためには、薬と休息の二つが必須となる

無理すれば症状が悪化する難しい状態異常だ



「フンフフーン」

フィーナは、鼻歌交じりにご飯を用意する


ラーズ、思ったよりも照れてなぁ

大学生になって、私の魅力もレベルアップしたのかも!


そんな、噛み合わない生活でも、意外と楽しい、そんな下宿生活だ




・・・・・・




講義 文化人類学



「この科目は必修だ。四年生に上がる際に、この科目の単位が必要となる」

教授が教壇でマイクを持つ


「しかし、この科目はテストだけを乗り越えれば単位がもらえるという、甘い考えを持っては困る」

そう言って、俺達学生を睨みつける


「では、何をすれば単位を得られるのか。………君達にはフィールドワークや発掘調査の実施研修を行ってもらう」

たっぷりと間を置いて、説明が続けられる


必修単位には、授業を取るだけでなく課外で行う単位もあるのだ


「この実施研修は、大学内で募集されるものだけでなく、大学外のものでもいい。ただし、事前に大学に許可を申請すること」


そう言って、説明が終わる


…俺達は、大学三年生が終わるまでに、この実施研修に何度か参加しなくちゃいけないのか

面白そうだが、どんなものがあるのか調べてみないとな



「おい、いつ実施研修に行く?」


「やっぱり、行くなら早い方がいいよな」


「募集は結構あるけど、好きなジャンルのものはあんまりだな」


「海外の研修だと、ある程度の出費も覚悟しなくちゃいけないしな」

そんな話が、同じ学部の生徒達から聞こえる



「ラーズはいつ頃行くんだ?」


声をかけて来たのは、人文学部の同期

神族の男でアルバロだ


「まだ全然決めてないよ。始まったばかりだし」


「そうだよなぁ。先にバイトして旅行費も貯めないといけないもんな」


「遠い場所の実施研修だと金もかかる。シグノイア国内なら…」


「いや、実施研修は必修。つまり、親からも金を貰いやすい。行くなら海外だ」


「めちゃめちゃ不純な動機だな」


「海外はいいぞ。旅行に来た女の子はガードが緩いだろうし、現地の女の子との出会いもあるかも」


「不純すぎて清々しいわ」



俺はアルバロと学食に寄る


「ラーズ、午後は?」


「俺は部活だよ」


「空手部だっけか? すげーよな、経験ないのに大学から武道を始めるって」


「いろいろあってさ…。アルバロも気を付けろよ、イサグ駅辺りは変にイキッた奴らがいるから、絡まれるぞ」


「そ、そうなんか…」


「午後はどうするの?」


「俺はバイトだよ」


「実施研修のためか、偉いじゃん」


「違ーよ、バイクの免許を取りたいんだ。モテるためにな!」


「…かっこいいよ、アルバロって」



俺達は飯を食って別れる

そして、俺は道場へ向かった




「ゴドー先輩、お疲れ様です」


「疲れてねーよ」


道場では、畳を敷いてゴドー先輩が寝ころんでいた

この人、授業とかちゃんと取ってるのかな?


「ちわー」


続いてロンがやって来る



「うーし。それじゃあ、稽古を始めるか」


ビルダーとの戦いから、やっと怪我が治った

今日から、本格的に空手の稽古だ!


「最初に、バンテージの巻き方から教えてやる。さっさと覚えろよ」


「バンテージ?」


「ボクサーとかが拳に巻いている布だ」


そう言って、ゴドー先輩が長い帯みたいな布を持って来てくれる



「結構、長いんですね」


「ロンは拳法やってたのに使ってなかったの?」


「形意拳は素手でやるからな」



最初に、拳の腕に布を乗せて行って、一周巻く

そして、手首に通して、指の間に流していく


「握ったり開いたりしながら巻くと、手首を固定できる。特にラーズはしっかり巻いておけ。最初は手首を痛めやすいからな」


「はい」



四苦八苦しながら、バンテージを撒き終わる


「最初にやることは、基本的なコンビネーションを覚えることだ」


「はい」


「最初はジャブ。次にストレート」


「はい」


俺とロンはジャブとストレートを繰り返す



「ラーズは出来てるな。ロンは、違う」


「…」


やった、褒められたぜ


ゴドー先輩がロンの所に行く


「武道と格闘技の違いが分かるか?」


「え…」


不意の問いにロンが詰まる

ちなみに、俺も分からない



「武道はルールがねぇ。つまり、急所を守る必要がある」


「はい」


「だが、格闘技はルールがあって、撃っちゃいけない場所がある。一番はここだ」


「…っ!!」


ゴドー先輩が不意にケリを寸止め

その足はロンの股間の直前で止められていた



「つまり、格闘技を覚えるなら、禁止された場所を打たれない前提でやることになる。だから、構えが変わる」


「は、はい」


「格闘技と武道に優劣はねぇんだ。だからこそ、急所を打たれない前提で動かないと、余計なことをやっていたら格闘技では勝てない」


「はい…」


「いいか、身体の動かし方の違いを理解しろ。拳法は、身体の中心から打ちだす。だが、格闘技では背骨を中心に肩を回し、拳を撃ちだすイメージだな」


「なるほど…」


ロンのパンチの打ち方は拳法風だ

特に、ストレートの打ち方に違和感がある


拳法の打ち方に利点はあるが、空手の試合では非効率ってことなのかな

一つのパンチでも、違いがあるんだな…


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