二章 第十五話 初出勤1
用語説明w
レイコ
ゴーストハンター資格を持つ有限会社クサナギ霊障警備の社長、ドワーフの女性で童顔だが年上。クサナギ流除霊術を修めた凄腕だが、社長の割に威厳と権限は少なめ
プリヤ
クサナギ霊障警備の社員、魔族の女性で営業、経理、交渉(恫喝)担当。スーツが似合うキャリアウーマンで実質の経営者(黒幕)
クサナギ霊障警備
「おはようございます!」
「おはよう、ラーズ」
経理のプリヤさんが席を立つ
この人は、いつもスーツを着ていてかっこいい大人な女性って感じがする
「今日からよろしくねー。ちゃんと来てくれてよかったぁ」
そして、奥からレイコ社長が出て来た
「そりゃ来ますよ。どれだけ人が足りないんですか?」
第一声が来てくれてよかったって…
「だって、一度でも現場に行っちゃうと、本当に来てくれなくなっちゃうんだもん」
「そうね。打率五割って感じかしら」
「現場行って半分が来なくなるって、打率高すぎませんか?」
「ラーズ。普通の人はゴーストを見たら怖がるし、命の危険を感じたら来たくなくなる。どちらかというとラーズが変わっているのよ」
「…」
プリヤさんの言葉に、俺は考え込む
俺は騎士の力は失った
だが、騎士学園での経験は生きている
具体的には、ダンジョンでのモンスターとの戦い
騎士学園でのゴーレムとの戦闘訓練など
確かに、普通の人よりは恐怖耐性が付いているのかもしれない
「だからといって、人体の構造は変わらない。取り憑かれたり、霊力でぶん殴られたり、物理的に引きちぎられたら死ぬから気を付けてよ!」
「今の時代、業務中の怪我には労基がうるさいのよねー」
レイコ社長とプリヤさんが不穏なことを言う
「き、気を付けます…」
俺だって、怪我なんかしたくないわ!
「それじゃあ、今日は事務所の説明をするわ。その後で掃除をしてもらおうかしら」
プリヤさんが言う
「分かりました」
「最初はこの事務室からお願い。テーブルを拭いて、ゴミを集めてくれるかしら」
「はい」
事務室は、奥が階段、その横が給湯室とトイレ、入口側が事務室と応接セットになっている
俺は給湯室で布巾を借り、テーブルを拭いていく
「あの、テーブルの上のものは触らないほうがいいですよね?」
「あー、うちの社員、基本的にだらしないから。筆記用具とかだけしまってあげて。書類とかは触らなくていいわ」
机は六つ
三つは整頓されているが、二つは雑多、一つは使われてないようだ
「その使ってないやつはラーズが使って」
「え、俺のですか?」
「現場がなければ、そこで過ごしてもらうことになるわ。カバンや荷物も机に置いてね」
「ありがとうございます」
まさか、バイトの席まであるとは…
思ったよりも待遇がいいかも
「ちょっとラーズ」
「はい?」
「このゴミはしっかり分別しなさい」
「え、ペットボトルですけど…」
「自治体によって出し方が変わるの。ラベルは剥がしてビニールゴミよ」
「あ、はい、すみません」
「窓は水拭きしたら乾拭きも。カルキの後が残っちゃうから」
「…はい」
「掃除は社会人の基本。自分で調べて、分からなければ確認する。そうじゃなければ、ゴミ回収の人に迷惑がかかり、職場環境が悪化するのよ」
「お、バイト君。さっそくやられてるねー」
プリヤさんから指導を受けていると、レイコ社長が上の階から降りてきた
「何を他人事みたいに言ってるの! あんたもよ!」
「えっ、何が!?」
レイコ社長は、まさか自分に矛先が向くと思わずに焦り出す
「見なさい! あんたとピッキの机の上だけ、地獄みたいでしょ」
「あれは必要な書類を…」
「業務資料がなくなったらどうするの。今すぐ片付けなさい」
「今、除霊具の整理を…」
「か・た・づ・け・な・さ・い」
「…はい」
レイコ社長が、言い訳を諦めて頷く
社長、立場ねー…
「まったく。ホフマンとビアンカはきっちりしてるのに、この二人は…」
プリヤさんが二つの無秩序な机を見る
「ラーズ、これは社長として必要な書類を用意しているだけ。決して汚いわけじゃないの」
「言い訳はいいから、さっさとやって」
プリヤさんが冷徹に社長の言葉を遮る
「あの、こっちの汚い机は?」
「これはピッキ机ね。うちのシステム管理で運転担当よ」
「あー、まだお会いしてない社員さんですね」
「元レーサーでゲームマニアよ。今日は休みだから今度紹介するわ」
「はい」
レーサーとゲームマニアって、並行でできるものなんだ…
「もうすぐビアンカが来るわ。まだ会ってないでしょ?」
「そうですね。元軍人だとか聞きましたけど」
「そうそう。変わった靴を使うから驚くと思うわよ」
「それ、ホフマンさんも言ってました」
驚くって、どんな靴なんだろう?
ゴーストハンターの現場で役立つものなのかな
「…ラーズ、バイトとはいえ、仕事は丁寧にやること」
「はい、気をつけます」
「よろしい」
初出勤で社会人の基本を叩き込まれる
たかだか掃除とゴミ出し
されど立派な仕事なのだ
でもプリヤさん、思ったより厳しい…
「それじゃあ、次は二階にい行くわよ」
「はい」
プリヤさんは、俺に掃除をさせながら、この会社のビルの説明をしていく
自分も仕事をしながらで、とても効率的だ
階段を上がると、四つの扉が並んでいる
下の階と違い、一つのフロアを四つに分けているようだ
「ここは資材庫のフロア。基本的には、担当の社員が管理しているわ」
「入って掃除とかはしない方がいいですね?」
「慣れるまではやめた方がいいわ。例えばここ…」
プリヤさんが、手前のドアを開ける
管理といいながら、鍵はかかっていない
「…うわっ!?」
中には拳銃やショットガンみたいな銃身の長い銃が壁にかけられていた
「勝手にさわると、暴発してとんでもないことになるからね」
「これ、ホフマンさんの?」
前回の除霊現場で、ホフマンさんがガンガン拳銃を撃っていた
「ビアンカも銃は使うわ。二人とも元軍人で、バウンティハンターの資格と銃の使用許可を取っているから」
「そ、そうなんですね…。バウンティハンターって、犯罪者を追うやつでしたよね?」
「そうよ。ただ、うちの会社はゴーストハンター専門。バウンティハンター資格は銃の使用許可を取るために取ってもらっただけよ」
バウンティハンターとは、賞金をかけられた犯罪者を追うハンター資格
人に向けて銃や魔法を撃てる唯一のハンター資格となる
「次、こっちはビアンカの部屋ね。あら…、鍵かかってる。また今度ね」
「はい」
「そして、こっちは電算室。いろいろなデータベースを保存しているわ」
「電算…って、どこが!?」
「ここはピッキが管理しているから、こんな感じでごちゃごちゃなのよ」
「この、ロボットみたいなのは何ですか?」
「パワードアーマーのパーツね。ピッキは操縦が得意で、ゲーム感覚で車やMEBを乗り回すのよ」
「MEBですか…」
MEBとは、多目的身体拡張機構の略
二足歩行型のロボットの総称であり、乗り込んで使う
工事や軍用など様々なものがあり、小型のものはパワードアーマータイプのものもある
クレーンやショベルカーよりも圧倒的に器用であり、多くのタイプがメーカーから販売されている
「地下の駐車場に、うちのMEBと車があるのよ。後で案内するわ」
「分かりました」
「そして、最後がこの部屋。ここは、見ちゃダメ」
「え?」
「ここは、レイコ社長のゴーストハンター用の道具が置かれているの。そして、それだけじゃなく…」
「何があるんですか?」
「依頼で解呪を引き受けたものも置かれているのよ」
「…呪われたヤベーものが置かれているってことですか?」
「その通り。本気でヤベーから気を付けて。死ぬならまだマシ、楽に死ねないものも呪いには多いからね」
「…っ!?」
二階の説明が終わり、三階へ移動しようとした時
「プリヤー! 緊急連絡、出ないと!」
下から、レイコ社長が大声で呼んだ
ホフマン 二章 第七話 バイト3




