二章 第十三話 VS喧嘩2
用語説明w
ゴドー
鬼のゴドーの異名を持つ獣人男性。ケイト先輩の一年先輩だったが、留年して同期になった。好戦的な性格で、体格とセンスにも優れる。その実力はプロの格闘家を並み
ロン
黒髪ノーマンの男性。トウデン大学体育学部でラーズの同期。形意拳をやっていたが、ゴドー先輩の強さに感化されて総合空手部に入部。熱い性格で、ラーズとよくつるんでいる
ケイト
茶髪の獣人女性。トウデン大学体育学部の先輩で柔道部。明るい性格、ふくよかな胸でキャンパス内でも人気が高い。したたかな性格のヤワラちゃん
ビルダーが拳を叩きつける
下がりながらガード
素手で殴られすぎて、ガードした腕がかなり痛む
これ以上、ダメージを蓄積させたくない
「ごらぁぁぁっ!」
怒りの形相で、ビルダーが掴みかかる
落ち着け、冷静に
下がって、腕を叩いて落とす
掴まれない
下がったらすぐに横へ移動
道場の端に追い詰められたら、体格の小さい俺のほうが不利だ
「いつまでやってるんだ!」
「さっさと仕留めろ!」
ビルダー仲間が怒鳴る
「うおぉぉっ!」
それに触発されたか、ビルダーがまた掴みかかる
ドシッ!
躱して、またロー
「はぁ…はぁ…」
だが、ビルダーは攻めの手を止めない
こっちの息が切れてきた
当たり前か
俺は足しか蹴っていない
後は、たまにジャブ
これだけで、鍛えた筋肉ビルダーを倒せるわけ…
「クソがぁっ!」
懲りずにビルダーが掴みかかる
俺は、余裕を持って避ける
…うん?
どうして余裕があるんだ
「待て、ごらぁぁぁっ!」
ビルダーが俺を捕まえようと追いかける
だが、よく見るとその足を引きずっているのだ
「…」
ドスッ!
「ぐぁっ…こ、この…」
俺のローキックでビルダーの顔が歪む
呼吸も乱れていて、めちゃくちゃ肩で息をしている
「しっ!」
ビシッ
バシッ
俺はジャブを繰り出す
ビルダーが失速
ガードも疎かになり、簡単にパンチが顔に入る
「おらっ…」
「しまっ…!?」
しかし、パンチのために近づきすぎてしまった
腕と肩を掴まれてしまう
「うおぉぉっ!」
俺は、体当たりの要領でビルダーを押し、すぐに引いて掴みを切る
ズドン!
「……!!」
そして、ロー
いい音がして、ビルダーが崩れ落ちた
「ゴドー、どうなってるの?」
ケイトが尋ねる
「何がだ」
「どうしてローだけで倒せちゃったのよ」
「ローは地味だが、カットしないと足が壊れる。ローを蹴り続けるために柔道の乱取りもさせたしな」
「柔道とローキック、何の関係があるの?」
「うるせえな。自分で考えろよ」
ゴドーが面倒くさそうに言う
「協力したんだから解説くらいしなよ」
「…ったくよ」
ゴドーは、渋々話し始めた
ローキックのリスク
それは、ミドルキックよりも相手との距離が近いこと
つまり、掴まれやすくなるのだ
そのため、ラーズを柔道部で乱取りさせた
投技を知らないため、何度も投げられる
そして、段々と投げられることの抵抗ができるようになる
ビルダーの素人の掴みくらいなら、しかも道着無しなら
かなり倒されにくくなっている
ラーズへの訓練
それは、ひたすらローを蹴ること
そして、掴まれても倒されないこと
この二つだけを、一週間で徹底的に仕込んだのだ
「…ちゃんと考えてたんだ」
「そりゃ、東玉流総合空手の後輩だからな」
「ふーん…」
「んだよ、その顔は」
ケイトのニンマリ顔に、ゴドーがイラッとした
「どうする、まだやるか?」
審判のゴドーがビルダーに声をかける
「や、やるに決まってるだろ!」
必死にビルダーが立ち上がったが、左の足の膝が伸び切っている
曲げるのさえ辛そうだ
「今からでもグローブを付けるか?」
ゴドーが、壁に掛かったグローブを示す
「い、いらねーよ!」
ビルダーが怒鳴る
い、今更、グローブ付けるかって
何でそんなことを…
「…見てみろ」
だが、ゴドー先輩は、ビルダーの両手の拳をあごで示す
「あっ」
ビルダーの両拳が紫色になっている
「慣れてねぇのに、硬い骨を殴り続けたらこうなるさ」
ゴドー先輩がニヤリとした
そうか、途中から掴みにばかり来てたのは、痛みで拳が握れなかったからか
ゴドー先輩、拳が壊れるのを分かってて黙ってたんだ
「さぁ、再開だ。KOか、どちらかがギブアップするまで、いつまででも続けていいぜ」
「そんなに時間がかかるかよ!」
「速攻で決めちまえ!」
ビルダー仲間が言う
「よし、始め!」
ゴドー先輩の声で、俺とビルダーが構える
俺の息は整ったが、ビルダーはまだ肩で息をしている
俺は、踏み込んでのジャブ
そして、左のロー
ビルダーが嫌がって、一歩下がる
チャンス!
「らぁっ!」
ドッ!
「…っ!!」
本命の右のロー
思いっきり体重を乗せてやった
すると、ビルダーはそのまま尻もち
「…! …!」
かなり痛かったのか
自分からうつ伏せになり、足を抱え込んでしまった
・・・・・・
結局、そのままビルダーは立ち上がれずに降参した
「まだ行けるだろ、立てよ」
ビルダー仲間と共に、ゴドー先輩までもが煽った
だが、よほどの痛みのようで、ビルダーが唇をきつく結んで首を横に振った
「稽古の成果が出たな」
ゴドー先輩が言う
「ローですか?」
「それもそうだが、お前、一度もガードを下げなかっただろ」
「あ、はい…」
ペットボトルを持たされてのスパーリング
あれは、ガードを下げさせない稽古だったのか
お陰で、腕でパンチをガードし続けて拳を壊せた
代わりに、俺の前腕も痣だらけだが
「いやー、ラーズ。快勝だったな! 相手、バテバテだったぜ」
俺はロンと勝利を喜び合う
「格闘技の素人ってのは、防御に気を回さないもんだ。攻撃一辺倒でな。俺も、今まで喧嘩で防御を磨いてきた素人は見たことねー」
ゴドー先輩が、まだ立てていないビルダーを見ながら言う
「なるほど…」
「そして、がむしゃらに攻撃をしすぎて疲れちまう。予想通りだったろ」
「はぃ…」
すげーな、ゴドー先輩
あのムキムキのボディビルダーの動きを、完全に予測してたんだ
「だが、お前らは貧弱すぎる。食って鍛えろ。そうじゃなきゃ、あのビルダーが格闘技を齧った途端に負けるぞ」
「…」
確かに
パワーとは実力だ
ローをガードされていたら、掴まれてボコボコにされていたかもしれない
ちなみに、ビルダー三人組
最後の一人はゴドー先輩が相手をした
「な、何でお前とやらなきゃいけないんだ!」
「後輩二人がやったら、次は先輩の番だろ。チンケな勝利で調子に乗る前に、本当の勝利を教えとかなきゃよ」
そう言って、無理矢理ビルダーとタイマン
ゴガッ!
左フックでビルダーをグラつかせる
ズドッ!
右膝がビルダーの腹へ突き刺さる
くの字のなり、頭が下がるビルダー
ゴギャッ!
そして、再度の膝が顔面に
血と歯をばらまいて、ビルダーが崩れた
「二人共お疲れ様! かっこよかったよ!」
ケイト先輩が笑顔で言う
「ありがとうございます」
「ケイト先輩のお陰で頑張れました」
ロンとは戦友だが、ここからは恋のライバル
どちらがケイト先輩に届くアピールをできるかだ
「さっき聞いたんだけど、あいつらも脅されてたんだって」
「え?」
「ここらの不良チーム、ブラックマンバに加わったらしいんだけど、毎月上納金があったんだって」
「ブラックマンバって…」
ロンが俺を見る
「あいつらのことだろうな。だから、ビルダー達は後輩から金を巻き上げようと…」
「払わないと殴る蹴るされたみたい。酷いよね」
「まぁ、かわいそうではあるか。でも後輩を狙うのはクズだろ」
「それはそうよ。あいつら、プロテイン代惜しさにカツアゲしてたんだから」
「クズすぎる!」
ゴドー先輩がシャワーを浴びて戻って来る
「おう、今日はもう終わりだ。道場を掃除して上がれ」
「はい。ゴドー先輩」
「ん?」
「ありがとうございました!」
俺とロンはお礼を言う
「今日の相手は素人。勝てて当たり前だ。これから本格的に稽古を始めるから覚悟しておけ」
「はい!」
「それと、ラーズは怪我もしてるから酒は禁止だ。分かったな」
「はい」
ゴドー先輩、意外と面倒見がいい
「残念。今度、祝勝会しましょ」
ケイト先輩が言う
「はい、ぜひ!」
「ケイト先輩もありがとうございました」
ケイト先輩はゴドー先輩を追いかけていく
「…俺、空手頑張るわ」
「俺も」
俺とロンは、今日の勝利を噛みしめる
ギャラリーの声援
勝利の達成感
いかん、癖になりそうだ
俺、勝ったんだな…
「あの二人、早く強くなってくれるといいね」
「どうだかな」
ケイトの言葉にゴドーがそっぽを向く
「急がないと、間に合わなくなっちゃうもん」
ケイトは、ゴドーに聞こえるようにつぶやいた
まとめてになってしまいますが、誤字報告いつもありがとうございます!




