一章 第十二話 入学式1
用語説明w
フィーナ
ノーマンで黒髪、赤目の女子。ラーズの義理の妹で、飛び級で大学に進学。クレハナの王族であり、内戦から逃れるために王位を辞退して一般家庭に下った。騎士の卵でもあり、複数の魔法を使える。
「それじゃあ…、行こうよ、ラーズ」
「おう」
俺とフィーナは、部屋を出てしっかりと戸締り
「ラーズ君、フィーナちゃん、今日が入学式?」
「カエデさん、おはようございます。そうなんです」
「ちょっと緊張しますね」
「ふふふ、行ってらっしゃい。二人とも決まっているわよ」
俺達は、二人とも着なれないリクルートスーツ
ちなみに、俺はネクタイを結ぶのに三十分以上かかった
管理人のカエデさんに見送られて、俺達は駅へと向かった
「じゃあな、新入生」
「ラーズもでしょ」
フィーナとは駅で別れ、俺はイサグ駅まで沿岸線で向かう
一本で大学の最寄り駅まで行けるのは楽だ
駅を降りると大学行きのバスへ
同じようなスーツの集団がいるが、全員が新入生なんだろう
混んでいるバスに乗り込み、大学のキャンパスへ
大講堂のようなところに、立て看板で「入学式」と書かれていた
通知に書かれた学生番号順の席に向う
すでに、大方の席は埋まっていた
ドンッ…
「あっ、すみませ…」
通路の列番号を見ていて、前から来た人にぶつかってしまった
咄嗟に謝って、相手の顔を見ると…
「…」
ギロッと睨まれて、無言で行かれてしまう
相手は、黒髪のノーマンの男
スーツを着ているから、同じ新入生だろう
おいおい、一方的に俺が悪い訳じゃ…
とは、思ったが文句が言えなかった
その理由は、睨まれたからじゃない
あいつ、頬にガーゼをつけていた
入学式直前に喧嘩でもしたのか
殴られたような感じの怪我だ
周りからもチラチラ見られている
入学式であの顔は目立つよな…
格闘技でもやってるのか、喧嘩でも売られたか
俺も、願書出しに来た時に変なヤンキーにやられた
フィーナの回復魔法がなかったら、まだ痣が残っていたかもしれない
治してもらってよかった…
入学式は普通に終わった
学校長やら、来賓やらが話をしてお終い
要約すると、大学生活を充実させろ、無駄に使うなってことだ
そこには同意する
いい大学生活にしたい
勉強して、何か部活に入って、彼女作って
バイトして金を稼いでどこかへ遊びに行くんだ!
ガヤガヤと、新入生の行列が講堂を出ていく
その外には、部活動やサークルの新入生勧誘が列を成して待っていた
毎年恒例らしく、学部ごとの棟が並ぶエリアまで、たくさんの先輩たちが勧誘の旗やポスターを掲げていた
「ねぇ、何に入るー?」
「まだ考えてなーい」
「バトミントンにテニス、卓球…」
「ダンスやチアもあるんだぁ」
そんな女子の話声が聞こえる
俺はどうするかな
スポーツか…?
剣道とかなら、騎士学園で剣を振ってたから少しは使えるかな
もしくは、勉強に役立つ歴史研究会とか…
ボランティアもあるのか
新入生全員がキョロキョロとポスターや先輩たちを見ていると…
「あーっ! 」
「あっ!! コンビニのお姉さん!」
「あの時の情けない男の子!」
「ちょっと、情けないはやめて下さい…!」
俺は慌てて周りを見る
何なのあいつ、みたいな感じで他の新入生の注目される
それは、情けない呼ばわりされたことか、かわいい先輩知り合いという嫉妬なのか…
「奇遇だね! ウチの大学の新入生だったんだ」
「はい。先輩だったんですね」
俺を助けてくれた、コンビニのバイトのお姉さん
茶髪の獣人で、そのふくよかな胸は健在
俺以外の男の目を引き付けている
「部活、もう決めたの?」
「いえ、まだ全然…」
「それなら、私の部活に来なよ。経験なくても歓迎するよ」
「え…」
「あ、まだ名乗ってなかったよね。私、ケイト。体育学部の二年生だよ」
「あ、俺、ラーズって言います。人文学部の一年生です」
ケイト先輩の横を見ると、柔道着の男女がチラシを配っている
更に、トロフィーなんかも飾られていた
「ここは柔道部! トウデン大学は体育学部があるから、スポーツ系の部活は結構強いの。でも、柔道部は初めての人には基礎からちゃんと教えられるから安心だよ」
「いや、でも、俺、格闘技なんて…」
「え、やってたんじゃないの?」
「格闘技なんてやったことないですよ」
騎士学園で、魔法や特技、闘氣を使ってモンスターとは戦っていたけどね!
生身の素手でなんて、やったことないよ
「…ふーん。まぁ、男の子なんだから、挑戦してみなよ。少しは自分を守れるようになるかもしれないよ?」
ケイト先輩が、俺の耳に口を近づけて小声で言う
あのヤンキーにボコボコにされてたことを言っているのだろう
…情けなかった
悔しかった
だから、興味はある
それに、ケイト先輩と一緒に練習できるなら…
「か、考えてみます」
「あっ…!」
俺は、耳元でささやかれ、ゾクゾクするのを隠すために、そそくさとその場を後にした
・・・・・・
新入生への説明会が終わった
明日以降は、一週間ほど説明と必修科目の授業が始まる
その間に、選択科目を選択するらしい
研究室に入る四年生までの三年間で、120単位を取得する必要があり、ペース配分を考える必要がある
単位を落とさなければ、一、二年生の内に選択科目の単位は、無理すれば取り終われる
そうすると、三年生は必修科目以外で大学に行かなくてもよくなったりする
大学って自由なんだな…
今日はこれで終り
皆が建物から出ていく
まだバス停が混んでいそうなので、俺はキャンパスの外れにあったベンチで時間を潰すことにする
案内を見ると、学食や売店がこの先にあるらしい
そして、向こうへ行くと体育館やグラウンド、武道場があるみたいだ
体育学部があるため、スポーツ系の部活が盛んで、更に、数多くのサークルもある
俺はPITを取り出しす
ちなみに、PITとは、多目的多層メモリを搭載した個人用情報端末のこと
多目的多層メモリには個人の識別情報が登録されており、パスポートや免許証などと連携する身分証明書の役割を果たす
そのため、PITを失くした場合のリスクは高く、再発行かなり大変だ
通常は肌身離さず身に付けており、液晶端末や仮想モニタ―などに情報を表示させる
液晶端末には電話機能やキー入力機能が備わっており、インターネットに接続して情報を得たりサービスを利用することが可能だ
仮想モニターとは、個人の霊体に対して視覚情報を送る機能
目の前に大画面が表示されたように見えるシアターモードや、現実の資格に情報を重ねて表示する拡張現実モードなどがある
PITは、授業でも使われる重要な端末であり、無くてはならないものなのだ
「あ、もしもし、ラングドン先生?」
「やぁ、ラーズ。入学おめでとう」
俺は、騎士学園の恩師、ラングドン先生に電話をする
「無事に入学できました。今日の説明では、外部の実習などにも許可を取って参加していいみたいです」
「そうか、それなら堂々と頼めるね」
ラングドン先生は、騎士学園の教師であり、プロの騎士としての経験も持つBランクの戦闘員
魔法が得意で、数々の魔法を使う凄腕だ
しかし、考古学を研究する研究者としての側面を持ち、騎士学園がある学園島の遺跡発掘で成果を出して来た
俺が考古学系の学部を選択したことで、研究の手伝いに誘われていたのだ
「惑星ウルのフィールドワークもやってみたかったんだ。落ち着いたら連絡するよ」
「分かりました」
「ミィも手伝ってくれるって言ってたよ。フィーナも、よかったら誘ってみよう」
「いいですね、言っときます」
俺とミィ、フィーナは、ラングドン先生が顧問の神秘研究部だった
何もやっていい部活で、遺跡の発掘をしたり、商売をしてみたり、テロリストに狙われたり…
破天荒な活動の末、俺は考古学に興味を持つことが出来た
大切な思い出だ
電話を切ると、俺は立ち上がる
そろそろ、バスは空いただろうか
ダンッ!
ゴッ!
「ん?」
歩いていると、建物の陰から音が聞こえる
何やってるんだ?
俺が覗いてみると…
先輩っぽい男三人が、一人を囲んでいた
その奥には、顔にガーゼを貼った黒髪のノーマンの男
俺と同じ新入生だ
ゴッ!
「…っ!?」
先輩がノーマンの男をぶん殴る
「ちょっと、あれ、やりすぎだよ」
「え?」
振り返ると、ケイト先輩が立っていた
「止めないと」
「あっ、そ、そうですね」
でも、先輩は三人もいる
しかも、スポーツ系で体がでかい
…これ、俺が一人で止めるの?
そんな躊躇を、ケイト先輩の心配そうな表情を見て引っ込める
これ以上、情けないところを見せられるか!
それに、確かに止めないと
三対一は普通にやべーだろ
俺は、ちょっとだけ震える足を一歩踏み出した
ケイト先輩 一章 第十一話 出会い
ラングドン先生 一章 第九話 後遺症




