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アルティメット・グリッチ ~人類が数百年かかって攻略できなかったダンジョンを、裏技を使って2時間で制覇します~  作者: ARATA
第三章  史上最悪のダンジョン

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第21話

 モルガレア公国・沖合――


 ()()を最初に目にしたのは、漁船に乗ったモルガレアの漁師だった。



 「おい……あれ何だ?」


 「岩……いや、城みたいに見えるぞ!」



 船の甲板の上で二人の男が上空を見上げ、ポカンとしている。そこには移動して来た【アヴァロン】が浮かんでいた。


 あまりにも非現実的な光景に、漁師達は自分の目を疑う。数時間後、一報はモルガレア公国の王宮にも伝わった。



 「どういうことだ!? 沖合に城だと?」


 「はっ! 空に浮かんでいると報告が……」


 「バカげている。どうせ酔っぱらった漁師の戯言だろう」



 海岸沿いの町からの知らせを持ってきた兵士に、皇太子のアランは冷たく言い放つ。同席していた宰相のデミトゥリスも俄かに信じられなかったが、そんなあからさまな嘘をつくとも思えなかった。



 「アラン様、念のため兵を数名送りましょう。別のものと見間違えている可能性もあります」


 「フン! 呑気だな、デミトゥリス。例のダンジョン攻略者も見つかってないのだろう! そんなことに兵を裂く余裕があるのか?」



 アランからは叱責されたが、どうにも気になったデミトゥリスは、結局数名に兵を沿岸部へと送ることにした。


 そして翌日――


 王も出席した会議で、戻って来た兵士の報告が行われ、その場は騒然となる。



 「本当にあったのか!? 空に浮かぶ城が!」



 アランは信じられないといった表情で椅子から立ち上がり、報告をしてきた兵士に問いただす。



 「はい、間違いありません。海岸沿いからも、空に浮かぶ城は確認できました。報告は真実です」



 それを聞いたデミトゥリスは、何かを思い出すように口を開く。



 「だとすれば、アレサンドロ帝国の空に浮かぶ島“オルブレス”が関係しているかもしれません」


 「どういうことだ、デミトゥリス」



 王は威厳のある声でデミトゥリスに問いただす。



 「数日前から帝国の国境警備が厳しくなっていると報告を受けております。特に帝国から国外に出る者に神経を使っているとか」


 「帝国が? 何のためにだ」



 訝しげに眉を寄せる王に、デミトゥリスは説明を続ける。



 「恐らく、空中のダンジョン“オルブレス”が攻略されたのです」



 部屋の中がざわつく、王は一瞬目を見開くが顎髭を撫でながら深く息を吸い「続けなさい」と言って話を促す。



 「思い出して下さい。我々もダンジョンが攻略された時、その事実を国外に知られないようにと箝口令を敷きました。帝国も同じはずです」


 「しかし“オルブレス”観光資源としても使われる有名なダンジョンだ。いつまでも隠蔽しておけるはずがない!」



 アランは語気を強めるが、デミトゥリスは冷静に分析する。



 「ええ、もちろん。アラン様がおっしゃる通り、長く隠すことは出来ないでしょう。ですが、それは帝国側も承知だと思います」


 「一時的な措置であると?」


 「はい」



 王は納得するように頷き、目を閉じて逡巡していた。



 「このダンジョン攻略者は、モルガレアのダンジョンを攻略した後、帝国に渡って空の迷宮に挑戦したのでしょう。そして成功した。アレサンドロ帝国とは緊張関係にありますが、国交はあるため、行くのに支障はありません」



 会議に出席していた各大臣が、一様に低い唸り声を上げる。



 「恐らく、その空に浮かぶ城はダンジョンの“秘宝”だと思われます。空を自由に移動できる城など軍事的に脅威でしかありません」


 「確かに……大量の兵を乗せて、どこにでも行ける“城”など……戦場では八面六臂の活躍が期待できる」



 国防大臣が溜息交じりに呟く。喉から手が出るほど欲しいといった表情だ。



 「どうすれば良いと思う、デミトゥリス」王が眉間に皺を寄せ問いかける。


 「城があるのが海上なうえ、空に浮かぶとなれば手出しが容易ではありません。ここは様子を見るべきかと……」


 「フンッ! またそれか!」



 アランが、王とデミトゥリスの会話に割って入ってくる。



 「いつまで、そんな悠長なことを言っているんだ! 相手はこの国を侵略しようとしているのかもしれないのだぞ! そうなったらどう対処するのだ」



 その可能性は低いと思っていたデミトゥリスだが、根拠は無いため特に反論はしなかった。王が諫め、話は流れたがアランはあからさまに不機嫌になる。


 結局、国としてどうすべきかの結論は出なかった。



 ◇◇◇



 「取り敢えず、ここまで来れば大丈夫か……」



 頭上に浮かぶ複数の映像を見回しながら、レイドは一つ息を吐く。



 『跡をつけてくる飛行船がいます』


 「え!?」


 『最初にいた国の船と思われます。一定の距離を保っているので、交戦する意思は無いと考えますが……』


 「ちょ、ちょっと待ってくれ! つけてくるのが分かっててここまで来たのか?」



 レイドはバルタザールの考えが分からなかった。出来ればアレサンドロ帝国には行き先を知られたくなかったからだ。



 『この【アヴァロン】の移動速度はそれほど早くありません。どの道、振り切るのは不可能です。ここに来たことは、すぐに周りの国に知れ渡るでしょう。なるべく早く次の行動に移る必要があります』



 淡々と話すバルタザールにレイドは少し呆れたが、それ以上に気になる言葉があった。



 「前にも時間が無いとか、急がなきゃって言ってたような気がするけど、何か慌てる理由があるのか?」



 レイドの疑問に、バルタザールは無機質な声で答える。



 『ダンジョンに抜け道があることは、いずれ気づかれるでしょう』


 「え? どうしてだ!? 数百年知られてなかった抜け道なんだろ。そんな簡単には分からないんじゃないか?」



 円台の中央で、点滅する光を纏いながらバルタザールはレイドの疑問に答える。



 『それはレイド様。あなたが攻略したことがきっかけです』


 「俺が?」


 『あなたが攻略したことで、各国は疑問に思い始めるでしょう。正規のルートとは別の方法があるのではないかと……遅かれ早かれダンジョンの外からの方略法が露見するのは時間の問題だと思われます』


 「じゃあ、他のダンジョンもすぐに……」


 『ただし、まだ時間はあると考えます。その間になるべく多くのダンジョンを攻略する必要があるのです』


 「今、時間が無いって言ったばかりじゃないか! どういうことだ!?」



 困惑するレイドに、バルタザールは冷静に説明する。



 『抜け道を見つけるには、三つの重要なポイントがあります。一つは距離、ダンジョンの中心部から5キロの円周上にあること』


 「それは知ってるよ。それでいくつも見つけたんだから」


 『二つ目は時間。日が沈む僅かな時間帯にしか、抜け穴は出現しません』


 「えっ!? そうなの? ちょうど畑仕事が終わったころだ……知らず知らずのうちに条件を満たしてたってことか……」



 レイドは自分の運の良さに、初めて気がついた。



 『三つ目は、抜け穴になる場所に認識阻害の魔法が掛けられていることです。何かを見つけようとする明確な目的が無ければ、発見は困難でしょう』



 バルタザールの話を聞いたレイドは思い当たる節があった。最初に見つけた抜け穴は、ジャックを見つけようと必死になっていたし、それ以後は抜け穴を見つけるという目的があった。



 「色々な偶然が重なったってことか……」


 『まだ時間の猶予があるうちに、重要なダンジョンを攻略して、強力な遺産を回収する必要があります』


 「でも、より重要で強力な遺産がどのダンジョンにあるかなんて分からないだろ? どうすればいいんだ?」


 『心配いりません。私はどのダンジョンに、何の遺産があるのか全て把握しています』


 「えっ!?」



 驚くことを言ったバルタザールに、レイドはしばし呆然とする。



 「……めちゃくちゃ凄いじゃないか」


 『当然です。ですから私に早く辿り着いたことは素晴らしいと申し上げたのです』



 レイドは表情の無いバルタザールのドヤ顔が見えた気がした。



 「じゃあ、俺は次にどのダンジョンに行けばいいんだ?」


 『この先、もっとも重要になる遺産は、今いる場所より南西に1200キロ――』



 円台の上に展開された光の地図、その一点が拡大し表示される。



 『海底に沈むダンジョンです』

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