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アルティメット・グリッチ ~人類が数百年かかって攻略できなかったダンジョンを、裏技を使って2時間で制覇します~  作者: ARATA
第三章  史上最悪のダンジョン

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第17話

 モルガレア公国・王城――



 「まだ見つからないのか! ダンジョンを攻略した者は」


 「はい、目下捜索中ですが名乗り出る者は無く、今しばらくは時間がかかるかと……」



 語気を強めて発言していたのは、この国の皇太子アラン・モルガレア。美しい金の髪を腰まで伸ばし、切れ長の目は気の強い性格を表している。


 定例の軍事会議に体調のすぐれない父の名代として出席していた。



 「ダンジョンの“秘宝”は国の物だ! どこの誰とも分からぬ者に渡す訳にはいかないだろう!」


 「しかしアラン様、国の法ではあくまでダンジョンを攻略した者に“秘宝”の所有権があると定められておりますので……」



 宰相のデミトゥリスが(なだ)めようとするが――



 「そんなものは建前にすぎん! 最終的には買い取ることを前提にした法だ。愚直に守る必要などない!」



 アランの言葉に、会議に出ていた国防大臣が進言する。



 「では、こういうのはいかがでしょう? ダンジョンを攻略した者が、一定期間内に名乗り出なければ罰を与えると御触れを出すのです。そうすれば名乗り出てくるのではないかと」


 「うむ、いい案だ。皆も異論は無いな!」



 満足気な表情で会議に出席する者を見渡すアランだったが、宰相のデミトゥリスは異議を唱えた。



 「お待ちください! 攻略者がどのような者か分からぬ内から、敵対するような施策を打ち出すべきではありません。ここは慎重に出方を待つべきです」



 結局、この日の会議は意見が二分し、結論が出なかった。不満気に会議室を出て行く皇太子のアランを見送り、デミトゥリスは息をつく。



 「アラン様は血気盛んですな。王としての資質はあると思いますが、拙速にことを運ぼうとする所がある」



 会議室に残った行政長官が、疲れた顔をしているデミトゥリスに話かけた。



 「ああ、あの気性の荒い性格が、悪い方向に行かなければいいだのが」



 ◇◇◇



 「これから会議を始める!」



 家の台所。テーブルの脇に置かれた椅子に座る、レイドとジャックとカトレアの姿があった。


 ジャックは椅子の上でチョコンと座り、ハッハッと荒い息を漏らしている。ジャックは、これが終われば餌がもらえると期待していた。


 カトレアは、あいかわらず無表情で対面を眺めている。



 「目下の問題は、アレサンドロに残してきた、あの“空飛ぶ城”だ。何とか移動させたいけど現状は無理だ」


 「わんっ!」



 ジャックは反応するが、カトレアはピクリとも動かない。ちゃんと聞いているかレイドは不安になったが、話を続けた。



 「そこで以前カトレアから聞いた【バルタザール】を探そうと思うんだけど、カトレア、何か心あたりはない?」


 『いいえ、まったく』



 冷たく返され「うっ」とたじろぐレイドだったが、気を取り直す。



 「じゃあ何か特徴は無いかな? バルタザールの」


 『私の記憶領域に残る範囲でお答えすると、遥か昔。オルドリア帝国の中で【バルタザール】は最も重要な役割を担っているとされていました』


 「重要な役割? どんなことをしてたの?」


 『これ以上はお答えしかねます。私には権限がありません』


 「ああ、うん……そうだったね」



 ――やっぱり、これ以上は聞けないか……。


 レイドは多くない情報から推察するしかなかった。


 ――もっとも重要ということは、ダンジョンも難易度の高いものになるんじゃないのかな……? もしそうだとすれば、俺が知ってる最難関ダンジョンは一つしかない。


 世界には有名なダンジョンがいくつかあった。冒険者でないレイドのような一般人でも耳にするダンジョン。


 空に浮かぶ迷宮、迷路のような森の中にあるもの、そして――



 「史上最悪のダンジョン」



 それはオーライン連邦の沼地にあるダンジョンで【龍の巣】の異名を持つ。攻略難易度は最上位と言われていた。



 「ダンジョンの中は強力な龍が山ほどいるって聞くけど、中に入らない俺には関係ないしな。さっそく行って調べてみようと思うんだが……」



 無表情のままのカトレアがレイドに視線を向ける。



 「……やっぱり付いてくるの?」


 『もちろんです』



 ◇◇◇



 オーライン連邦―― 北に位置する大国で、強力な軍事力を持つ。


 その連邦の中腹にある沼地に世界で最も危険なダンジョン【龍の巣】があり、発見された当初は大量の軍人が投入され、攻略を目指した。


 しかしダンジョンから帰還した軍人は一人もいない。


 ダンジョンに出る龍の強さは人知を超え、挑戦した冒険者もことごとく死んでいた。以来、誰も挑戦することが無くなり、国も管理を放棄する。


 そんな誰もいないダンジョンの周囲を、レイドはカトレアと共に歩いていた。



 「うわっ! 靴がドロドロになるよ」


 

 沼地に足を取られながら、抜け道があると思われる円周上を調べるレイド。この周辺には特徴のある地形が無いため、地道に探すしかない。


 そんなレイドの後ろを、カトレアは黙って付いて行く。


 他と違って、このダンジョンは人がいないことが知られていた。入れば必ず死ぬ所に、誰も入ろうとするはずがない。


 そう思っていたレイドは、向こうから陽気に歩いて来る人影に驚いた。


 鞘に納めた剣を肩に乗せ、小刻みにステップを踏むかのようにこちらに歩いて来る。綺麗な鎧と赤いマントを纏い、金色の髪を揺らしながら、その男はニッコリと笑顔を見せた。



 「フ~フフ~フンッ、いやーまさかこんな所で人に会うとは思ってなかったよ。君達も冒険者?」



 男は屈託なく笑い、気軽に話しかけてくる。



 「いや、俺達はただの観光だよ。そっちこそ何してるんだ?」


 「観光? こんな所で? 変わってるね~君! 僕はもちろんダンジョンを攻略しに来たんだよ」


 「攻略!? 【龍の巣】を? 本気で言ってるのか!」


 

 相手の言葉に驚いていたレイドだったが、悪い人間ではないだろうと思い警戒心を解いていく。そして、それは向こうも同じようだった。



 「僕はアーサー・バンティスだ。君は?」


 「俺はレイド・アスリル、あっちはカトレアだ」


 「レイドとカトレアか……こんな何も無い所に観光に来るなんて、ひょっとしてダンジョンに入ろうとしてるの?」


 「まさか! 有名なダンジョンだから一度見てみたいと思っただけだよ。君はダンジョンに入るって言うけど、どれだけ危険か分かってるのか?」


 「もちろんだよ、だからこそ挑戦し甲斐があるってもんだ」



 笑って答えるアーサーに呆れるレイドだったが、ここで止める権利は当然自分には無い。「死ぬかもしれないぞ」と伝えると――



 「大丈夫、大丈夫! 僕強いから」



 アーサーはそう言って、自信ありげな表情を浮かべた。

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