第16話
二隻の船が先行して“城”に隣接しようとしている。外から見る限り、城には出入口が見あたらなかったため、より近づいて確認する予定だった。
「もっと接近しろ! ここからではよく見えん」
「ハッ!」
軍事用飛空艇一番艦の船長ヨハネ・オーランドは、他の隊に後れを取るまいと鼻息を荒くしていた。今回の騒動を起こした人物が、まだ城の中にいるかもしれないと聞いていたからだ。
この作戦はロイス宰相が直接見に来ていることを知っていたヨハネは、成果を上げれば、今後の昇進にも影響してくるだろうと考えていた。
そう考えていたのはヨハネだけではなく、同じく城に接近している二番艦の船長も同じだった。彼らは牽制するように城に近づいていく。
「二番艦より前に出ろ! 奴等より先に城を制圧するんだ!!」
二艇の飛行艇が競い合うように空を駆ける。次の瞬間――
バキンッ! と衝突音が鳴り響く。金属がひしゃげ、わずかな光が飛空艇から漏れると、二つの艦は激しい光に包まれ大爆発した。
噴き出した炎が上空に広がり、残骸の鉄骨が雨のように降り注ぐ。
その光景は地上にいたロイス達も目撃していたが、城下街にいた一般の国民も見ていたため、炎を上げて落下していく飛空艇に衝撃を受けた。
「きゃあああああああ!」
「何だよあれ!?」
「飛空艇が……帝国が誇る軍事用飛空艇が……」
帝国の飛行師団は無敵の艦隊と言われていた。相手の攻撃が届かない空から砲撃を行い。大量の兵士を戦地に迅速に送り届ける。
故に国民は軍事用飛空艇が戦場で墜落したなど、見たこともなければ聞いたこともない。
その無敵の船が目の前で炎上しながら落ちていっている。
「ロイス様!」
「落ち着きなさい。フォレス」
蒼白な顔で訴えかけてくるフォレスに、ロイスは冷静に答えた。
「城の周りに見えない防御壁があるようですね。無防備に近づいたことで衝突したようです」
「ま、魔法でしょうか?」
「分かりません。ですが強力な物であるのは間違いないでしょう、ミルグ」
「ハッ!」
ロイスの言葉を受けたミルグは後ろにいる兵士に命令を下す。兵士は通信用の【魔道水晶】で、第二の作戦を上空の軍事用飛空艇に伝えた。
空に待機していた五隻の船は、艦の砲台を城へと向ける。
「ふん、馬鹿な奴等だ」
「手柄欲しさに突っ込んでいくとは」
「これ以上飛行師団の恥は晒せぬ」
「全艦、一斉に砲撃するぞ!」
「カウントは私が取る。いいな」
五隻の飛空艇に乗る船長が、魔道を介した通信によって攻撃のタイミングを計る。砲撃の準備が整い、発射のカウントが始まった。
「――っ撃てい!!」
一斉に放たれた砲弾は一直線に空に浮く城へと向かい、着弾と同時に爆発した。通常の弾丸ではなく、中に火薬が詰まり対象にぶつけて爆散するものだ。
防御結界が発動していると考えられたため、各艦は砲撃を続ける。
数十発の弾丸を浴び続けた“城”は大量の煙に包まれた。「どうだ!」と船長の一人が、意気揚々と叫んだが……。
煙が風に運ばれ、徐々に晴れてくると、中からまったく無傷な“城”が姿を現す。これには「そんな馬鹿な……」と絶句する者もいだが、無敵の飛行師団の名に懸けてオメオメと帰る訳にはいかない。
「もっと接近して砲撃するぞ。あの障壁も長くは持たないはずだ!」
「「「「おーーっ!!」」」」
現場が熱くなっていた頃、地上ではロイスが指を顎に添えて考えていた。
「ミルグ、もういい。撤退しなさい」
「えっ!? しかし、まだ攻めようはあると考えます。このままでは飛行師団の名誉に傷がつきます。どうかやらせて下さい!」
「あなた達は悪くありません。私があの城を甘く見ていたようです。これ以上は余計な犠牲を払うかもしれません。撤退を」
ミルグは臍を噛む。何も出来ないまま撤退などと……。
しかし宰相であるロイスに逆らう訳にはいかない。ミルグは撤退に同意し、【魔法水晶】を使って上空の軍事用飛空艇に命令をだす。
だが、すでに各艦は城に迫っていた。命令が届く前に、より近い距離からの砲撃態勢に入る。
「――ってえい!!」
一斉に放たれた砲撃は次々と着弾し、先ほどより強い衝撃を城に与える。そんな折、一発の弾丸が爆発しないまま城の障壁に跳ね返され、軍事用飛空艇に弧を描いて向かってきた。
機関室付近に着弾すると、そのまま爆発する。
軍事用飛空艇の中は阿鼻叫喚の地獄と化し、船体は炎に包まれ大きく傾いた。操舵系統の機能が失われて、舵が効かない。
「どうした!? 立て直さんか!」
「ダ、ダメです! 操縦が出来ません!!」
船長の怒声と、総舵手の絶叫、コントロールを失った船は煙を上げながら別の船に向かって進んで行く。
「大変です! 四番艦が向かってきます!」
「ば、馬鹿な!? すぐに回避しろ! ぶつかるぞ!!」
慌てふためく三番艦だったが時すでに遅く、突っ込んでくる四番艦を避けることができず、衝突して二艇とも爆発炎上した。
その時、三番艦の船体は大きく傾き、発射しようとしていた弾丸が別の方向へと撃ち出される。その直線状に運悪くいたのは七番艦だった。
砲弾は船底に直撃し、爆発して浮力を失っていく。
大惨事だった。七艇出撃した軍事用飛空艇は五艇が墜落するという大失態、それを見ていたミルグは呆然自失となっていた。
多くの帝国市民が目撃する中、帝国の強さの象徴たる無敵の船は炎を上げて落ちてゆく。
「ロイス様……」
文官のフォレスが泣きそうな顔で立ち尽くす。
「やれやれ……これは王から大目玉をもらいそうですね」
「そんな悠長な……」
ロイスは振り返り、王城へと足を進めた。彼の想像を絶するほどの鉄壁の防御を持つ“空に浮かぶ城”。
――今の我々の力では、どうにもならないですね。
早々に見切りをつけたロイスは、国王へ現状の報告に向かった。
◇◇◇
同刻―― 家で晩ご飯の用意をしていたレイドは、自分の畑で収穫したじゃがいもや酪農家の知り合いからもらった牛乳などを使ってシチューを作っていた。
「ほら、ジャック、ご飯だぞ」
ジャックには牛や豚肉、豆類などをほぐして煮詰めた特製の食事を用意している。ジャックは勢いよく餌にかぶりつき、満足そうに食べていた。
――問題は、アレだな……。
レイドの視線の先にいたのは、台所のテーブルに座り、一点を見つめて動かないカトレアだ。
毎度異常な光景だと思ってはいたが、どうにもならない。何とかしないと……と考えながらレイドは一人で食事を取る。彼は知らなかった。
そんな呑気なことを考えている間に、アレサンドロの歴史に残る空中戦が行われ、完全なる勝利を収めていたことを。




