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アルティメット・グリッチ ~人類が数百年かかって攻略できなかったダンジョンを、裏技を使って2時間で制覇します~  作者: ARATA
第二章  天空に浮かぶ迷宮

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第15話

 その日の午後、ロイスに呼ばれた冒険者やダンジョンの管理を行う国の職員、計十五名が執務室に居並んだ。


 

 「最後にダンジョンから出た冒険者はどなたですか?」


 「じ、自分です」



 冒険者の一人が恐る恐る手を上げる。帝国の宰相に呼び出されるなど普通ではありえない。自分達が何かしたのかとビクビクしていたが……。



 「ああ、緊張しなくても大丈夫ですよ。少し話が聞きたいだけですから」


 「は、はあ……」



 ロイスは穏和な表情で話しかけていたが、文官のフォレスは目の奥が笑っていないと背筋が寒くなる思いだった。



 「あなた達がダンジョンに入っていた時、他に冒険者、あるいは不審な人物を見かけませんでしたか?」


 「いえ、別に……ここにいる奴等しか見ていませんが」


 「では、ダンジョンの外はどうでしょう。観光客などいなかったですか?」


 「外ですか? う~ん、そういえば」


 「何でしょう?」


 「関係ないと思いますが、外にイチャついてるカップルがいました。島の奥の方に行ったようだけど……」


 「島の奥へ? 歩いて行ったのですか?」


 「はい、最後の飛空艇にも乗ってなかったんで、島に残ったんじゃないかと……。まあ、島に残って夜を過ごす奴等もいますから。へへへ」


 「なるほど……」



 ロイスは感慨深く(うなず)き、わずかに笑みを浮かべる。 



 「そのカップルはダンジョンには入らなかったのですか?」



 ダンジョンの入口を管理している職員に尋ねる。



 「はい、彼らが帰ってからは誰もダンジョンには入っておりませんし、我々はその男女を見ていません」


 「そうですか……」と言ってロイスは顎に手を当て、しばらく考え込むと、「分かりました。もう下がっていいですよ。ありがとうございます」



 呼ばれていた冒険者や職員はぞろぞろと帰っていった。ロイスは立ち上がり、窓の外を眺める。


 文官のフォレスが、ロイスの顔色を確認しながら聞いてみた。



 「あれぐらいの証言で何か分かったのでしょうか……? あまり有用な情報は無かったように思えましたが」


 「いえいえ、フォレス。それは違います」



 振り向いたロイスは、うっすらと笑みを浮かべている。



 「とても有益な話でした。これで何が起きたのか(おおよ)その見当はつきましたから」


 「ど、どういうことでしょうか?」


 「目撃された男女のカップル……ダンジョンを攻略したのは彼等でしょう」


 「しかし、ダンジョンには入っていないと」


 「ええ、分かっています。ですが攻略したのは彼等です。()()()()()()()()()()()()()()。間違いないと思いますよ」



 フォレスはロイスの言葉が理解できなかった。



 「それは一体……」


 「別の出入口があるということです。我々の知らないね」


 「し、しかし!」



 それはありえないとフォレスは思った。なぜなら――



 「別の出入口に関しては、ロイス様のご指示で徹底的に探しました。結局見つからず、ダンジョンに入口は一つしかないとの結論に至ったではありませんか!」


 「そう、しかし間違っていました。入口は他にもあったんですよ」


 「そんな……」


 「何か条件があるのかもしれません」



 そう言ってロイスは(うつむ)き考え込んだ。指でこめかみを叩き(まぶた)を閉じる。



 「軍部にかけあって、帝国にある全てのダンジョンの捜索を指示してください。ダンジョンから半径三キロ……いや、もっと広範囲を調べるように」


 「見つかるでしょうか?」


 「見つからなくてもいいんですよ」


 「え!?」


 「このダンジョン攻略者は国外の者でしょう。帝国にあるダンジョンの“秘宝”を奪われるのは、大きな損失になります。兵士による捜索が大規模に行われれば……」


 「相手はダンジョンに近づけなくなると」


 「そうです。軍には不審な人間がいれば拘束するように伝えてください」


 「分かりました!」



 フォレストが急いで部屋を退室しようとすると



 「ああ、そうだフォレス。もう一つ」


 「は、はい。何でしょうか?」


 「各国にいる間者(かんじゃ)に、すぐ情報を上げるように伝令を送って下さい」


 「他の国の情報ですか?」


 「この攻略者は、他の国でダンジョン攻略に成功して我々の国に来たんだと思います。ならば他国でも騒ぎになっているはずです」


 「はあ……なぜそう思われるのでしょうか?」


 「いきなり“空に浮く島”のダンジョンに挑戦して攻略したとは考えにくい。他にもっと入りやすいダンジョンはいくらでもありますからね。この特殊なダンジョンに挑んだということは、攻略するノウハウを知り自信を持っていたからでしょう」


 「それを我が国で試したと」


 「そういうことです。情報取集は頼みましたよ、フォレス」


 「はい、おまかせ下さい!」



 フォレスは一礼し、今度こそ部屋を出て行った。ロイスは椅子に腰かけ、息をつく。自分の考えは(おおむ)ね合っているだろうと確信はあった。



 「あとは……」



 ロイスの関心は空へと移る。そして翌日――


 アレクサンドリア帝国からもっとも近い、モルガレア公国に潜入していた間者から報告が上がっていた。


 報告によれば、ダンジョンが攻略されたのではないかと一部の市民の間で噂になっていると言う。しかし国からの正式な報告はない。


 ダンジョンの“秘宝”に関する報奨金が増額。それを告知するビラが撒かれ、二つのダンジョンが立入禁止になったとのこと。



 「これはモルガレアから始まったということでしょうか?」



 ロイスの側で控えるフォレスが尋ねる。



 「他の国の情報も確認しないと何とも言えませんが、ほぼ間違いないでしょう。彼等はモルガレアでダンジョン攻略に成功し、騒ぎが大きくなってきたので国外での攻略を目指した。そしてもっとも近い国が……」


 「アレサンドロ帝国ということですね」



 ロイスとフォレスは、王都の前の平地で帝国軍の師団と共に“空飛ぶ城”を見上げていた。



 「本当に中にいるのでしょうか?」


 「物理的に考えれば居るはずです。まあ、中を調べてみれば分かるでしょうが……ああ、来たようですね」 



 空を悠然と駆けるのは、帝国の保有する最強の兵器“軍事用飛空艇(バトルシップ)”。それが七艇、空を飛ぶ城に向かっている。


 城の中にいる攻略者は城を動かすことが出来ない。それがロイスの考えだが、いつ動かせるようになってもおかしくないとも思っていた。


 ならば上空に残したままにはしておけない。彼の決断は早かった。


 

 「ロイス様、準備が整いました」


 

 軍部から飛行師団の総大将ミルグ・ヴォレアが(かたわ)らに立ち、空を飛ぶ城に対する攻城戦について説明していた。



 「よろしくお願いします」


 「お任せ下さい!」



 ミルグの命令で後方にいた兵士が【魔道水晶】を用いて、上空の“軍事用飛空艇(バトルシップ)”に合図を送る。


 城の中を制圧するため、飛空艇には一隻百名近くの兵士を乗せ、ゆっくりと空に浮かぶ要塞へと迫っていった。

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