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ボクの心はここにあらず

 結局、ボクの心は定まらずにいる。

 もちろん、凪くんとの遊園地デートは、とても楽しい。

 あの後乗った、いくつかのアトラクションはとても楽しかったさ。


 でも、やっぱり充のことが頭から離れない。気になって仕方がないんだ。

 どうして二人は、ボクに内緒で……しかも、今日に限ってここを選ぶなんて。


 もしかして、偶然出会うのを装って、ボクに打ち明けるつもりだったんじゃ? だとしたら、さっき追いかけて声をかけておくべきだったかもしれない。

 ……失敗、しちゃったかな。


「朱思先輩、次はあれに乗りましょう」


 凪くんに催促され、彼の指差す方を確認する。

 人気アトラクションなのか、もう夕方も近づいてきた今でも行列ができているみたいだ。

 なんのアトラクションだろう──


「な、凪くん。ボクは絶叫系は乗ったことが無いんだ。他のにしないかい?」


 いわゆるジェットコースター。子供の頃に来たときは、尻込みして乗ったことが無かったんだ……。

 

「大丈夫です。自分も乗ったことなんてないので、挑戦してみましょう!」


 凪くん、それはなにも大丈夫じゃない時の発言なんだ! もう少しボクを安心させておくれ!


「二人なら怖くないですよ。ほら、並びましょう!」


 今度は凪くんに引っ張られてしまう。こんなに強引な子だったろうか、君は。

 

「分かった、分かったから凪くん! 引っ張らないでおくれ!」


 行列の最後尾に到着すると、待ち時間のお知らせが書いてある。

 

「三十分か……」


 おそらく、もういい時間ということもあって、帰ってしまった人もいるんだろう。もっと明るい時間であれば、一時間待ちなんてこともあったはずだ。

 

 まあ、少し考え事でもしていればすぐに終わる時間だ。ましてや、今は凪くんと一緒。お話でもしていればすぐに過ぎてしまう。


「せっかく時間ができたので、少し朱思先輩に聞きたかったことがあるのですが」


「うん。なにが聞きたいんだい? 君とボクの仲だ。なんでも聞いておくれ」


「はい。進藤先輩についてです」


 充のことか。

 この前のことがあって以来、たびたび充の話題が会話に上がってくるんだ。

 恋人の幼馴染というのは、そんなに気になることだろうか?

 ……気になるか。凪くんに女の子の幼馴染が居たとして、おそらくボクも気になっていたと思う。


「もうだいぶ話したと思うけれど、まだ聞きたいことがあるんだね? いいよ、ボクに答えられることであれば答えてあげる」


 自分から振ってきた話だというのに、なんで目を泳がせるんだい?

 ……なんだか久しぶりに見た気がするよ。やっぱりその表情にはドキドキしてしまうね。


「朱思先輩は、進藤先輩のことをどう思っているんですか?」


「どう?」


 どう、とはどういうことだろう。充は幼馴染であり、頼りがいのあるかっこいい男子だ。

 それ以上でも以下でもないけれど、どう答えてあげればいいんだろう。


「はい。話を聞いている限りでは、尊敬にも近いものを感じられますが、人間としてではなく、異性として、どう思っているのかを聞きたいんです」


 異性として充をどう思っているか? つまり、ボクが彼を男の子として、好きかどうかを聞きたいのかな? これは……


「もしかして、嫉妬でもしてくれるのかい?」


「もし、進藤先輩のことが好きだというのなら、そうなります。……冗談などではなく、本気で聞いています」


 真剣に突き返してくるその返事は、どこか鋭くボクの心を突き刺してくるかのようだ。

 彼がどれほど本気で話しているのか、よく伝わってくるんだよ。


「安心しておくれ。確かに、充のことはかっこいいと思っているし、人間としても、男の子としても、敬愛しているつもりだ。けど、君という恋人がいながら彼に浮気するなんてこと、ボクは絶対にしないよ」


 凪くんだって、充とは違った魅力を持っている。今こうして一緒にいるだけで、とても幸せなんだ。充に浮気なんて、するはずもない。


「そう、ですか」


 なんだか歯切れの悪い回答だね。まだ気持ちが晴れていないようにもみえる。

 こんなとき、ボクはどんな返事をしてあげればいいんだい? 正解がわからない。


「凪くん──」


「良かったです。進藤先輩、かっこいい人なので、自分には勝ち目がないなぁ、と思っていたんです」


 微笑んでいるようだけど、その実まだ思い悩んでいるのが丸分かりだよ、凪くん。そんな気遣いは不要なんだ。


「君だって、充と同じかそれ以上に、素敵な男性なんだ。どちらが優れているかなんて、意味のないことだとボクは思っているよ」


「……ありがとうございます」


 儚げに微笑む彼の笑顔は、到底嬉しそうにしているようにはみえないんだ。


「次みたいですね」


 気づけば、行列をだいぶ進んでいて、後何人か前にいるだけの状況。おそらく次の順番で呼ばれそうな人数だ。

 凪くんの表情は気になるけれど、せっかくのアトラクション、楽しまなくちゃだね。


 ……いや、ものすごく怖いんだけどね。

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