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クラス召喚されたクラスメイトA  作者: kimera
召喚
7/27

恋する少年少女

上げるかどうか、ぎりぎりまで迷いました。

上げてよかったのか、正直まだ迷っています

 因果応報という言葉がある。ざっくりな理解で申し訳ないが、良いことも悪いことも、何か行動した先にはそれ相応の報いがあると、そういう言葉だ。逆に言えば、自分に降りかかっていることには、何らかの理由――いわゆる「因果」があると、そういうことらしい。


 では、僕のこの現状は一体全体どんな因果が絡み合った結果なのだろうか。全く身に覚えがないのだが。


 僕の横をゆっくりと歩いているのは、クラスのマドンナ的存在である霧崎茜。あごの下あたりで切りそろえられた茶髪は、昼下がりの陽光を受けて淡い色を放っている。視線を自分の足元にうつむかせて歩くその姿は、彼女の引っ込み思案な性格を示していた。

 気まずい沈黙の中、2人ならんで城下の町を歩く。気まずい。こういう時に寺岡がいれば適当な話題で場を持たせてくれるのだが、残念ながらいない。それどころか、いつもは霧崎さんと一緒にいる女子の集団もいない。正直、彼女たちのノリについていけない僕は彼女たちに対して苦手意識があるのだが、今ほどいてほしいと思ったことはなかった。

 

 なんでこんなことになったのだろう。僕は何度目かになる問いを自分に投げかけながら、先ほど図書室で起こった出来事を思い返していた。以下、回想。


「……男子が喜びそうなもの?」

 平山さんの発言を、寺岡がおうむ返しに返す。意味が分からない、という声音だった。実際、僕も同じ気持ちだった。

「そ、男子が喜びそうなもの。来週、バレンタインじゃん?」

「あー、そっか。元の世界だとそろそろか」

「そうそう。あっちだったら、チョコレートを渡すところなんだけど、こっちの世界チョコないから。だから、せめて何かプレゼントできたらなって」

「はあん、なるほどね」

 寺岡が腕組みをしてうなずいた。


 つまりはこういうことだ。バレンタインなので、男子に何かあげたい。しかし、チョコレートがないので何か別のものでプレゼントしてあげよう。でも、男子が喜びそうなものが分からない。なら、男子に直接聞けばいいじゃん。

 しかし、なんで僕たちなんだ?


「だって暇そうじゃん」

 なるほど。

 あまりに簡潔な意見に、僕が思わず内心唸ってしまった。なるほど合理的だ。

 納得している僕の隣で、寺岡が「でもよ」と頭を掻いた。

「やっぱそういうのは、本人に聞いた方が早いぜ」

「それじゃサプライズになんないじゃん」

「そりゃそうだけどさ……。てか、だれに渡すんだよ。それくらいわかんないときついぜ」

「ん?神代君に決まってんじゃん」

 即答だった。やはり、神代は異常だ。

 人が自分の好きな人を公開しない理由は、もちろんからかわれるのが恥ずかしいという感情もあるのだろうが、それ以上に、自分の好きな人を友人知人にからかわれるのが怖いからだと、僕は思う。そして、平山さんが平然と神代の名前を告げたのは、その不安がなかったからだろう。

 つまるところ、神代が好きと暴露したところで、センスがない、なんて誰も言えないのだ。タイプとかに関わらず、だれもが認めざるを得ないイケメン、それが神代だ。


 案の定、平山さんの後ろに控えていたほかの女子たちも、次々に神代にプレゼントしたいと言う。そんなに好きな人がかぶっていて、よくケンカしないもんだ。……まあ、実際に神代と付き合えるわけがないという、仲間内での妙な信頼の表れなのだろう。

 そんなことを考えていると、一番最後まで残っていた霧崎さんが、恥ずかしそうに――そして意を決したように言った。

「わ……私は津川君に」

 そんなに「一世一代の決心をして言った」みたいなやりきった顔をしているところ申し訳ないが――うん、知ってた。そんな空気が、女子たち含め僕らの間に漂っていた。

 霧崎茜。クラスでもかなり男子人気の高い美少女。少し小柄な身長に、見上げられると思わずどきりとするような大きな瞳。少し垂れ気味の眉が彼女の気質を表しているような、そんな女の子。当然、僕みたいなモブAとはふつう関わらないような人だ。

 だから僕は、彼女のことはほとんど知らない。彼女の好きな食べ物も、趣味も、逆に嫌いなものも。だけど、そんな僕でも彼女について一つ言えることがある。


 霧崎茜の好きな人は津川雄也。そんな基礎知識、僕らのクラスで知らないのなんて、それこそ津川本人くらいだ。霧崎さんは隠せているつもりだったのだろうが、まあ、津川に関しては隠せているので、要点は抑えているとも言える。

 要するに、霧崎さんは天然だった。


「あー、津川ね」

 僕が長考している内にようやく寺岡が霧崎さんに声を返した。そして、そのまま続ける。

「津川なら、田中の方が趣味知ってるだろ。俺は神代に買うプレゼント選びするから、津川用は田中、よろしく」

 ちょっ、おい。

 僕が何か言う前に、霧崎さんがふんわりとほほ笑んだ。

「田中君、よろしくお願いしますね」

「あ、うん」

 ……どうしてこうなった。


 以上、回想終わり。しかし何度思い返しても、寺岡のやつ絶対許さねえ。いらん気、使いやがって。

「あー、霧崎さん?」

「ん、何?」

「ええと、どんなものを買うのか、何か希望とかある?」

 とりあえず、僕は求められていることをさっさとすまそう。でないと、心臓が持ちそうにない。他の男子連中に見つかったら事だしな。

 僕の問いに対して、霧崎さんは少し宙に視線をさまよわせた。

「んーと、特に何も決めてないんだよね。ごめんね」

「いや、いいけど」

 いいけど、そんな魅力的な笑みを向けないでいただきたい。思わず、返事がそっけないものになってしまった。


 僕が心の中で葛藤しているのを知るはずもない霧崎さんは、控えめに僕を見上げた。

「田中君は、何がいいと思う?」

「んー。津川にねえ」

 津川雄也。確かにクラスであいつとよく話すのは僕くらいだろう。津川と話していると、妙な連中にもれなく目を付けられてしまうからな。僕はたまたま家に帰る方向が同じだったのと、去年クラスが一緒だったので、今でも惰性で帰り道なんかで話していたりする。

 性格は絵に描いたような内向型。あんまり口数が多い方でもなく、いつも何か困ったような穏やかな笑みを浮かべている、そんな男だ。正直に言って、目の前のクラスのマドンナがなぜ好きになったのか、僕にはさっぱり理解できなかった。

 しかし、あいつの職業が料理人。よくわからんが、料理させたらすごいのだろう。包丁でもプレゼントすればいいんじゃね?……駄目か。女の子から刃物もらうとか、冷静に考えて怖い。

 さてそうすると――


「田中君は、すごいね」

 考え込んでいた意識の隙間に、霧崎さんの声がするりと入り込んだ。

「は?」

 思わず間抜けな顔で問い返すと、霧崎さんはくすりと笑った。

「すごい顔してるよ?」

「え、いや、霧崎さんが急に言うから――」

 思わず言葉がしどろもどろになってしまった。霧崎さんはしばらくくすくす笑っていたが、やがて笑いを収めて足元に転がっていた石をけった。

「すごいよ。田中君はいつもそうやって、何か考えてる。自分で考えて行動できるって、すごいよ」

「はあ、どうも」

 間抜けな返しだが、これ以外どう言えというのか。ここで図に乗るほどお馬鹿さんではないつもりだ。よくある社交辞令だってことは、分かっている。

 僕の返しにあまり頓着せずに、何度か地面をけった。その幼い動作が、なんだか彼女の本質のようなものを表してる気がして、僕は小さく息をのんだ。

「私には無理だよ。考え出すと、止まらなくなるんだ。帰れないんじゃないかって。みんな死んじゃうんじゃないかって」

「……」

 貯めていたものが思わずふきこぼれてしまったような、そんな声音で霧崎さんはそう言った。僕は何か慰めの言葉をかけようとして――何も言えることがないことに気付いて、ただ黙って視線を逸らした。


 霧崎さんはしばらくうつむいたまま、立ち止まっていた。僕は何も言わず、その隣で周りの街並みに目を走らせていた。昼と夕方のちょうど中間のこの時間帯は、思ったよりも人通りが少ない。まあ、僕たちが休みの日だからと言って、ほかの人たちが休みなわけではないからな。

 どれほどの間そうしていただろうか。霧崎さんはすんと鼻をすすって、顔を上げた。そして無理に作ったような笑顔で、笑った。

「ごめんね」

 ああ、そんな顔で笑わないでほしい。僕は胸がざわつくのを抑えられず、思わず言っていた。

「何かあったら、僕に言って。僕の出来る範囲で何とかするから」

 霧崎さんは僕の言葉に、驚いたように目を開いた。僕がこんなことをいうとは思わなかったのだろう。僕も自分がこんなことを言うなんてびっくりだ。

 でも、これを放っておいたら男じゃないだろう。

「……ありがと」

「いや、なんか急にごめんね」

 花の咲くような笑顔の霧崎さんに対して、僕は猛烈に後悔しているところだった。何格好つけてんだか。似合わないって。

 それに、こんなセリフは僕に言われたい台詞じゃないだろう。彼女には、もっと守ってほしい人がほかにいるのだから。

「それで、津川へのプレゼントだけどさ――」



「今日はありがとうね」

 城に戻ってきた霧崎さんは、そう言ってにっこりとほほ笑んだ。僕は軽くうなずく。こんな場面、誰かに見られたくないので、さっさと別れたい。

「でもこれでよかったのかなあ」

 僕のそんな気持ち男知る由もなく、手に持った袋をのぞいて、霧崎さんがそう言う。僕は確信をもってうなずいた。

「うん、きっとそれが一番だよ」

 刃物をもらうなんて恐ろしいと思っていたが、霧崎さんの様子を見て、気が変わった。ここは実際に物騒な世界で、自分の身を守ることに当然のように刃物が用いられる世界だ。

 だから、彼女の送った刃が津川を守る。それが、巡り巡って霧崎さん自身を助けることになれば、僕もうれしいのだが。

 刃物をもらって困ったように眉を下げる津川の顔が容易に脳裏に浮かんで、僕は「まあ無理か」と内心苦笑した。

田中君はこの物語の主人公です。主人公ぽくなくとも、主人公なのです。

……たまにはご褒美があってもいいよね。


どうも、kimeraです。ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

これにて一章は完結します。次は閑話を挟みます。

感想・誤字の指摘・評価等していただけると、泣いて喜びます。よろしくお願いします。

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