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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2007年6月

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上手な絵を描く第1歩

 木の枠にガラスが嵌められた趣のある自動ドアが開くと、目の前には2階の学習室へ続く階段がある。


 きょうは会話を要するので階段は上がらず、左へ進んだ。


 玄関口の右手には受付デスクがいくつか並んでいて、図書の貸出、返却、利用者カードの発行などが行われる。その背後は事務室になっていて、職員たちがPCに向かっている。


 図書コーナーは吹き抜けの広々としたフロアーに絵本、漫画、小説、図鑑などあらゆるジャンルの図書が取り揃えられている。市内には大手書店がいくつかあるが、そのどこよりも豊富なラインナップだ。


 館内の一番奥はガラス張りになっていて、窓の外は背の高い木々が茂る雑木林になっている。見上げてみると、深い森に身を置いているような感覚で、新緑に滴る滴が雨のどんよりした気分を叙情的に演出している。


 他方、玄関口側にも大きな窓があり、自転車置き場やパック飲料の自販機、藤棚などが見える。そこには読書用テーブルが3台あり、僕らは誰も利用していないそこで暫し創作に励むこととした。


「まず真幸は、表情や様子を正確に伝えられる絵を描けるようにならなきゃね」


「練習してもなかなか描けるようにならなくて」


 壊滅的な絵を生産してしまう害悪種の僕。周囲は絵描きだらけで作品も描いているところも見ているのに、なぜか上手に描けない。


「見せてくれる?」


 美空に請われ、僕はバッグから自由帳を取り出し、開いて美空に見せた。


「うーん、私たちがそばにいるのに……」


「すみません」


 僕も美空も同じ気持ちのようだ。しかし決して嬉しくはない。


「絵はね、造形物なの。家ってどうやって建てられる?」


「僕の家の場合、土地があって、土台があって。家は柱を組んて、外壁を固めてドアや窓を取り付けて配線や配管をして床を張って、内壁を取り付けて壁紙を貼って、最後に照明器具を取り付けた」


「そうなんだ。よく覚えてるね」


「なぜか覚えてる」


「それでね、絵の場合は土地や土台が紙なの。そこに『アタリ』っていう柱を組む。まずはそこから始めるの」


「どんな感じで?」


「ちょっと描いてみていいかな」


「うん」


 僕の自由帳の空白ページに、美空は自分のシャープペンシルでささっと何かを描き始めた。


 1分も経たないうちに出来上がったのは、非常口の看板のマークとよく似たポージングの棒人間の顔に焦った表情が描き込まれたイラスト。後頭部付近から汗が飛んでいて、人物の心情が強調されている。


「なるほど、これなら僕にも描けそう」


 描けなかった。模写はできたけれど、見本なくイメージだけで描いたら少し違うポージングになってしまった。


「ふぅ」


 美空は困った様子で溜め息をついた。


「私が言いたかったのは、ね? 絵っていうのは、まる、三角、四角、点と線が描ければ、とりあえず表情や心情は伝えられるっていうことだったの」


「しかし僕はそれすらも描けなかった……」


「うん、とりあえず、模写をどんどんしよう。漫画でも絵本でもいい。そのポーズを棒人間でシンプルに描いてゆく。そこから始めようか」


「うん、わかった。言われてみれば、最初から肉の付いた絵を描こうとするから延々と描けるようになっていないのかもしれない」


 そう、僕の絵には土台がない。地に足が着いていないのだ。だからふにゃふにゃだったり、ガチャガチャした気味の悪いタッチになってしまう。


 正直、ネットサーフィンをしていると僕より少し上手程度の絵に着色されたものが無数に見つかる。彼らもまた、上手な絵を描こうと気持ちがはやって、大事なところを端折っているのかもしれない。


 急がば回れ、でないと事故る。事故を延々と繰り返す。無駄に欠陥品が量産される。そういうことか。


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