魔法使いの参戦方(7)
リブクイン国は宗教国家である。女神を主神とする多神教の宗教らしいが、その点に関してクルトは良く知らない。
ではその宗教がリブクイン国にどう関わっているかと言えば、主神の女神の血筋がそのままリブクイン国を統治する側に繋がっているという点がまずある。
国家を治める女王からして、主神の血がもっとも濃いと言われる血筋から選ばれる。それだけでは無い。政治や軍事力、大凡国家が関わる重要な立場にはその主神や他の神々の子孫を名乗る一族が就くという決まりがあるのである。
「機構自体はマジクト国に似ているかもしれませんね。神々からの血筋を、王家や貴族に当てはめればそっくりに見える」
任務用の物資が届くまでに、クルトはリブクイン国に関する基礎知識を支援団のハマツ残留組に話していた。
こういう、聞けばすぐわかる知識でも知らないことが多いのが他国というものだ。興味津々に聞いている人物もいる。
「それがどうして、あの女性司令官がお飾りって話になるんだよ? マジクト国の貴族は飾りで収まっている様な奴らじゃあねえぞ?」
騎士団員のオチヤ・ウォーカーが質問をしてくる。
「別にお飾りとまでは言ってなかったとは思うんですけど………まあ、近いから良いか。問題は、この神様からの血筋っていうのが変更不可能な点なんですよね」
「どういうことだ?」
疑問符を浮かべる者の一人、ナイツが聞いて来る。
「例えばマジクト国の貴族や王族は、血筋の縛りは当然ありますけど、凄い功績を作ったり、逆に劇的な失敗をすれば、貴族としての地位が与えられたり無くなったりします。また、権力層の間でも役目や立場が流動している部分がありますよね? 領土統治以外の政治的な権力は、貴族議会中で定期的に変更されたりする」
「うちの大学の大学長なんかはまさにそれよね? 議会からの任命によって決まるもの」
頷く大学生徒のマホ。大学以外にも、地方開拓の指揮や都市開発計画など、国家が権力を行使する場合は、それを行うことに適した人材が、王家や貴族から選ばれるのがマジクト国だ。
「リブクイン国ではそれがありません。軍隊の指揮官なんかはずっと先祖代々やってきた血筋がそのまま行うことになっていますし、商業組合やそれこそ小さな村の村長なんかも、血筋によって固定化されているんです。変化がある場合は、その血筋自体が断絶する場合ですが、中々そういうことは起こりません」
血筋の継続というものが、長い歴史の中で制度として整備されてきた結果、一つの血筋がなくなるということが起こり難くなっているというのが現在のリブクイン国だ。
こういう国家統治の方法は、国内が安定するという利点が大きく、そのまま維持され続ける傾向にある。
役目が生まれた時から決まっているというのは、案外楽な生き方ができるし、経験と知識が蓄積される。またそれに従う方も、どことも知れぬ者の命令に従うより、先祖代々その仕事をしてきたという側を選びがちである。
ただ、別の問題が多く噴出するのもこの統治方法の特徴だ。
「血筋で地位を固定化する以上、個人の適正に関しては無視される傾向が強いんですね。平和主義者が兵士をひきいたり、都市圏に魅力を感じる人間が、片田舎の統治を命令されたりする」
国家としてこれは大きい問題である。国家の運営能力がその時々の運に左右されるのだ。これではせっかく安定を求める統治機構が、別の不安定さを呼び込んでしまう。
「分かる気がしますね。血筋が続けば、形式的な行事と実務的な行事を混同し始めることにも繋がりますし、とにかく国全体の能力が落ちて行くことになる」
ガイ・ウォーカーはクルトが説明する内容を理解し始めた様だ。この調子なら、説明は早く終わりそうである。
「ただ、それを補う別の機構がリブクイン国には存在します。元々はリブクイン国を宗教国家にしている宗教自身が、その教えを広めるために作った物らしいんですが、教育用の施設と人員が各地に存在しているんです。さらにこれらの施設には国民の一人一人が必ずそこで修学しなければならないという義務まで存在している」
これはかなり凄いことだとクルトは考えている。貧乏な農家などは、生まれた子どもですら貴重な労働力であるのに、それを教育施設に取られることになるのだ。
国家側はその失われた労働力の補助をしなければならず、かなりの労力と資金を投入し続けているはずだ。
「国としてはかなりの重荷だけど、見返りは大きいだろうね。宗教の教えを広める施設としての機能もまだ残っているんだろ?」
授業を聞いているみたいな様子の魔法使いケン。クルトもまるで講義をしている気分だった。
「その通り。宗教の教えが国民個人に浸透するのに役立っているし、結果、血筋による統治に馴染みやすくなる。この施設が面白い具合に作用したみたいで、職業訓練施設や選別施設としても機能し始めることになった。さらに施設間でも格差が生まれて教育能力の低い施設から高い施設へと人の流入が活発に行われる様にもなっている」
一旦、こういうことが始まれば、有能な人材を国家が選別しやすくなる。教育能力の高い施設から、単純に人を見つければ良いのだ。
「学習修了後は、各自習得した能力を使って仕事をするわけだけど、特に有能な成績を残した人間は、血筋によって立場が決まった人間に、秘書の形で雇われることになるんだ。能力が劣りがちな統治者を、外部からの人間が補うってことだね。権威を持つ側と、実務を行う側を分けたとも言える」
雇われる秘書側については、教育機関を通して横の繋がりがあるらしく、秘書間の繋がりだけで組織の様な形になっているそうだ。
「わかったぞ。要するに組織のトップは血筋で選ばれた者で、実際に組織を動かすのはその秘書官にあたる人物になっているのがこの国の特徴なんだな。つまり、あの女性指揮官は………」
イリスも気が付いた様だ。このハマツの指揮官であるホユニと言う女性が、正真正銘、立場が上位の者であるとすれば、実務能力の無い、飾りに近い存在かもしれないということになる。
「見た目が若くて、差別するつもりじゃありませんが、女性で軍隊の指揮官というのは珍しいです。それに、僕らみたいな他国の人間へとわざわざ出向いてまで直接指令を伝えてくれるなんて、戦地の忙しさを考えれば、ちょっと不自然じゃないかなと思うんです」
彼女以外に実務的な物を担当する人間がいて、ホユニ司令官はあくまで立場だけの存在に過ぎないのではないか。そうであれば、今後の指令にも些か不安を感じてしまう。
「僕らが一体誰の指揮下に入っているかが問題ですね。ホユニ司令官の指揮下なのか、それとも別の誰かなのか。名目じゃなく、実際のそれを知りたい」
「できれば実務を担当する秘書に当たる人物が、我々に命令をしてくるというのが望ましくあるな。この国の機構を考えれば、その方が有能な人物の指揮下に入れる」
そんな感想を述べるのはヘリスラー教師だった。クルトも彼と大凡同じ意見である。
「どっちにしても変わらねーよ」
ただ、騎士団員のオチヤは違うらしい。
「どういうことですか?」
「上の立場の人間が、有能だろうと無能だろうと、命令を下される立場になった以上、聞かなきゃならないことに変わり無いってことさ。そもそもあの女司令官さんがどういう人間かってことからして知らねーじゃねえか。いま考えたって仕方あるめえ」
日ごろから組織の人間として動いているオチヤにとって、上司の能力は行う仕事に関係する様で関係無いという実感らしい。
結局、手足を動かすのは自分自身であり、それ以外の人間の能力は既に用意された状況でしかないと話す。
「まあな。リブクイン国の指揮下に入るという決定はすでにされているんだ。それを変えようが無い以上、実際の指揮官が誰かなどと、あまり意味の無いことかもしれん」
オチヤに同意するイリス。どうにもオチヤの意見は騎士団員側全員の意見である様だ。
「そういうものなんですかねえ。名目上はホユニ司令官の指揮下で、実際は違うかもしれないっていう状況ですけど………」
「森の哨戒でしたか。既に我々に与えられた任務です。誰の命令であろうとも、行わなけばならないことに変わり無いでしょう? まあ、この国の風土や文化を知れた点は役に立つと思いますよ。長くこの国に滞在するのであれば、余計な諍いを起こさない良い知恵になる」
騎士団員のガイが最終的にそうまとめて、この話は終わった。
ただ、やはりクルトは何がしかのやり様があると思うのだ。名目上と実際の指揮官が違うということは、そこに交渉の余地が生まれるのだから。
サンポ大森林を探索するための装備をリブクイン国から用意されて暫く、クルト達は森林哨戒の第一陣として出発していた。
現在はその森の中。1日を目安に、主要街道に繋がるかもしれない森林内部を探索する。
メンバーは予定通り、クルトとイリスのペアと、ヘリスラー教師と騎士団員ナビィのペア。
「この森はリブクイン国の領土中に広がるそうだけれど、そこの哨戒となれば、なかなかに厄介だね、イリス」
今まで黙って行動していた4人であるが、耐えかねたのかもしれないナビィが、同じ騎士団員であるイリスに話し掛けた。
「森が広いと言っても、通れる道はそう多くありません。獣道に木々が少ない場所。歩き慣れれば、それが自然とわかるはずです」
イリスはそう言うが、クルトはどこも同じような景色にしか見えなかった。等間隔に木々が生えているわけでは無いのだが、緑色が視界の大半を埋めて、方位磁石がなければ方向をすぐに見失ってしまう危険が常にあった。
「今、どこにいるかが、すぐにわかったりするんですか? 一応、僕はまだなんとか把握できますが」
クルトは他の3人に尋ねる。全員分の地図の磁石が用意されているのだが、誰も現在地がわからないとなると、迷ったと同じになる。
不安を感じるクルトと同様の顔をしている人物が一人いた。ヘリスラー教師だ。
「実を言えば、私は既にわからなくなった。歩くことに必死で、どうにも地図を見忘れていた。これだから歳をとるのは嫌だな」
参ったといった様子のヘリスラー教師。彼は大学では屋内での仕事や研究が主流だった。こうやって森の中を歩き続けることに慣れていないのだろう。
「地図を見なくてもある程度なら方向感覚を維持できる。歩いた距離の計算もな。地図を見せてみろ………今はここだな」
イリスはクルトが持つ地図を見て、すぐに一点を指差した。クルトが現在地と思っていた場所と同様の場所だ。
ちなみにイリスは地図を取り出していない。ただ歩いていただけなのをクルトは知っている。
「………獣か何かですか?」
「なんだと?」
「ははは! 彼女はそういう訓練を受けているんだよ。勿論、僕もだけれど。イリス程じゃあないな。稀有な才能さ。優秀なんだよ」
ナビィが笑う。女だてらに騎士団員をしていないということか。クルトは彼女の戦闘技能には信頼を置いているものの、どうにも優秀な人間としては見ていなかったが、認識を改める必要があるかもしれない。
「あまり軽く人を評価するのはどうでしょうか。褒められることは光栄ですが、慢心に繋がってしまいます」
イリスはナビィよりも後輩にあたるらしく、敬語で話す。ただ、その言葉の中にどうにも距離感を覚えるクルト。
「だが、過小評価も良くない。君は間違いな有能だ。もしかしたら史上初の女チーフになる可能性だってある」
一方でナビィはイリスのことを十分に評価している様子。親しさを感じる口調でもある。
「ええっと、それで、ナビィさんは現在地の把握は大丈夫なんですかね?」
まだ聞いていない相手なので、一応クルトは聞いておく。
「ああ、僕は定期的に地図と方角を確認していたからね」
それはクルトも知っている。かなり正確な間隔でナビィは現在地を確認していた。歩き方にも無駄が無く、まるでそういう風に歩く装置ではないかと思ったくらいだ。
「ううむ。となると、迷子になっているのは私だけか。騎士団員とのペアを作るという案は、私にとっては必要不可欠なものだったのだな」
もしヘリスラー教師一人だけなら、確実にこの森の中で遭難していただろう。そういう意図があってのペアでは無いだろうが、能力を補う形で上手く機能していた。
「まだ一度目ですが、回数を熟して、迷わぬ様になってください。相方がいつまでも無事なままとも限りませんから」
イリスはヘリスラー教師に注意をする。真剣な目だ。そういった忠告が、命に関わって来るものだからかもしれない。
「おや? もしかして、僕に何かあるかもしれないと心配してくれているのかい? そりゃあ光栄だな」
相方に何かあった時というイリスの言葉に反応して、ヘリスラー教師の相方であるナビィが会話に入ってきた。
「そういう意図はありません。ここにいる全員に向けての言葉ですから」
ナビィの様子に反してイリスはそっけない。もう少し感情豊かな方だとクルトは思っていたのであるが。
「そうかい? 残念だな」
本当に残念そうにナビィは肩を落とす。彼の様子も大概変かもしれない。
「………一度、ここで二組に分かれて探索しませんか? もしかしたら集団でいることで、緊張感が無くなっているのかもしれない」
イリスが突然そんな提案をする。
「いきなりかい? 危険じゃあないかな?」
イリスの提案には少し戸惑っている様子のナビィ。
「訓練みたいなものですよ。この森に少しでも慣れるための」
イリスの言葉を聞いて、ふと考えるかの様にナビィを顎に手をやり、すぐに頷く。
「そうだね。時間感覚を試す訓練になるかもしれない。30分の探索の後、再びこの場所へ。できるかい?」
「それくらいなら大丈夫です」
騎士団員同士での話が進む。時計も無い状況で、魔法使い達にそんなことは無理なので、話に置いて行かれてた気分になるクルト。ヘリスラー教師も同様だろう。
「お前もわかったか? これから私達は二手に分かれる」
「えっと……その時間予想みたいなものはイリスさんがしてくれるんですよね?」
「今回は私がしよう。ただし、いずれは魔法使い側もできるようになってくれねば困る。まさしくそのための訓練だな」
「は、はあ」
困惑するのはクルトだけでは無い。ヘリスラー教師だってクルトと同じ顔をしているはずだった。
「で、だ」
ヘリスラー教師とナビィのペアと分かれて少し歩いたところで、イリスは立ち止まり、クルトに話し掛けて来た。
「なんですか?」
「薄々感づいているだろうから言っておくが、私はあのナビィという男が嫌いだ」
「別に感づいていませんでしたし、突然そんなこと聞かされても困るんですけど」
もしかして二手に分かれたのはそれをクルトに告げるためなのか。だとすればかなり自分勝手な行いに思えるが。
「どれくらい嫌いかと言うと、お前の3倍くらい嫌いだな」
「やっぱり僕のことも嫌ってたんですね。そっちは知ってましたよ」
「一緒にいて煩わしく感じるのと虫唾が走るのとでは、前者の方がまだマシだろう?」
「支援団に入ってから一緒に行動することが増えましたけど、その度に煩わしく思われてたんですね。僕」
別の心が傷ついたりはしない。クルトだってそれほどイリスに対して好印象を持っていないのだ。お互いさまである。
「二手に分かれた方が効率が良いと思ったのは本当だが、少しでもあいつと離れられる良い機会になると思って提案したわけだ」
どうやら二手に分かれた理由を話していたらしい。てっきり延々と愚痴を聞かされるのかと思った。
「それでまあどうして私があの男を嫌いかと言えばだな」
いや、どうやら愚痴を聞かされることになりそうである。
「向こうはそれ程、イリスさんのことを嫌っている風じゃあなかったですけどね」
イリスの方が一方的に嫌っている。そんな関係に見えた。
「だから厄介なんだ! あのな、あいつは私のことを女として見てるんだよ!」
「そりゃあイリスさんは女の人でしょうに。差別されるのが嫌なんですか? 騎士団員なんて男だらけの場所なんですから仕方無いですよ」
男社会に女性が参加するとなれば、そういう目で見られもするだろう。それは参加した側が享受しなければならない問題であるはずだ。
「だから、そういうことでは無くてだな………わからないのか?」
「わからないって、何がですか?」
つい首を傾げてしまう。イリスはいったい何の話をしているのだろうか。
「だーかーらー、こう恋愛的なあれだよ」
「恋愛!? あはは、イリスさんが? 有り得ない有り得ない」
この堅物を絵に描いた様な女性に、恋愛などという浮ついた話があるとは思えないクルト。笑い話にしか聞こえなかった。
「そ、そうか? 休日が重なる度に食事に誘われたりしていたんだが、勘違いだったのだろうか?」
「いえ、それは明らかに狙ってますね。なんだイリスさん。案外モテるんじゃないですか」
顔立ちは悪く無いのだ。男だらけの騎士団に入れば、付き合い目当てで近寄る男もいるだろう。
「さっきからそう言ってるだろうに………」
「それで虫唾が走ると。あれ? じゃあナビィさんはまったくの脈無しってことですか?」
「騎士団員の立場とか、私自身の意地やらを抜きにしても、まったく好印象を持っていないな。最近は生理的嫌悪を覚えるまでになった」
ここまで言われるナビィという人物が可哀そうになってきた。森の哨戒任務中ですら積極的に話し掛けていたのに、それがすべて裏目に出ている。
「だから、少しでも距離をおくために二手に分かれたわけだな。一応、説明する義理は話したから、これ以上追及するな」
イリス自身は話を終えたつもりらしい。クルトにとっては、一方的に話されて、状況をいまいち整理できずにいるが。
(というか、なんで敵兵を警戒しなきゃならない場所でこんな話してるんだろう)
なんだかむなしくなってくるクルト。いつ命を失ってもおかしくない危険な場所にいるはずなのに。
「………追及はしませんから、哨戒任務を続けません? 周りに敵兵らしき気配とかは感じたりするんですか?」
「そうだな………いや、敵兵はいないだろう。まだ森の浅い場所であるし、そう何度も森を越えようという敵兵はいるまい」
イリスの動物に近い勘でも、敵兵の存在は感知できぬ様子。ならば近くに敵兵はいないのだろう。
「とりあえず歩き続けてましょう。30分で集合でしたっけ?」
「あと20分程だ。大した探索もできないだろうが、これも仕事だからな」
自分で提案したことだろうに。それも嫌いな男から離れるために。そんな嫌味を言いたくなるが、言えばまた世間話を続けてしまいそうなので、クルトは黙っておくことにした。
「二人きりになったついでに聞いておきたいんですが、現在の僕らの状況は良いと言えますか? 悪いと言えますか?」
暫く森の中を歩いた後、そろそろ別れてから30分は経つだろうかと言った頃に、クルトはここにいる二人だけが抱えている仕事の話をする。
「正直、前線で直接戦えと言われなくてホッとしている。このまま敵兵を見つけなければ、争いにはならないし、命を失うこともない」
「それは僕らが何一つ成果を残せないってことになりますけどね」
「何か問題でもあるか? 依頼主からは人死にを少なくしろと言われている。しかも彼らは支援団が成果を上げないことの方を喜ぶだろうからな」
支援団を立ち上げた貴族と対立しているのが、クルトとイリスを支援団に送り込んだ、ヒレイとスガルの立場だろう。
であるならば、支援団自体の活躍を望んではいないはずである。イリスの言う通り、現在の状況は理想的と言えるかもしれない。
「フィルゴ帝国も、森を抜けようなんて思わないでいて欲しいですよね。そうすれば、ずっと僕らは無駄で安全な仕事を続けられる」
「同感だ。しかし自分で言っておいてなんだが、こういうことを話していると、必ず望まぬ展開になるのはどうしてだろうな」
「ジンクスか何かですか? まあ、わからなくも―――」
森の中に音が響いた。その音は当然クルトとイリスにも届く。自然の音では無い金属と金属を擦り合わせた様な音だった。
「ほらな」
イリスはその一言を口にした後、森の中を走り始めた。クルトもそれを追って走る。音が聞こえて来た方向は、先程ヘリスラー教師達と分かれた場所からだ。
ヘリスラー教師達の身に何かが起こったのだ。




