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魔法使いの歩き方  作者: きーち
魔法使いの参戦方
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魔法使いの参戦方(5)

 物資流通による人の動き。それだけで栄える町は幾つか存在する。人が動けば食事や寝床が必要になり、それを用意することで莫大な利益を得られるからだ。

 リブクイン国のハマツもそういう場所であった。リブクイン国の中部から北部を繋ぐ数少ない道に、宿場町ができるのは当然とも言える。

「そんな場所だから、有事の際に軍事拠点にし易いっていうのがあるらしい。外部の人間を多く逗留させることができるし、食糧倉庫なんかが幾つも用意されている」

 クルトはハマツの町並みを見ながら、ナイツと話をしていた。

 既にハマツは要塞化が施されており、町並みというより城と言った方が近い風貌をしている。

 ハマツに到着した支援団一行。彼らの統率者達はさっそく町にいるであろう兵士達の指揮官に会いに向かっており、支援団全体はまだ町の外で待機していた。

「ここが戦争の最前線ってわけか。俺達は役に立てるかな?」

「どうだろうね。持ってきた物資は喜ばれると思うけど」

 戦闘行動は物を消費するだけで生産はしない。どれだけ備蓄があろうとも、補給を繰り返さなければすぐに底をつくはずだ。

 なので物資の搬入それ自体は歓迎される事態だろう。問題はその後である。

「僕らのうち、何人かここに残って戦ってくれ。なんて言われるかもしれないね」

 支援団の主な任務は、ハマツとスリーアイランド港を往復して物資を搬入し続ける物となるだろうが、支援団全員がその任務に付く程、人員が必要な物では無いだろう。

 恐らく、支援団の内幾人かは、前線で戦う兵士達と行動を共にすることになる。

「ヘリスラー先生達は何してるんだろうな。何をするにしても、先生達の指示を聞かないと、なんともできない」

 あからさまに苛立つナイツ。それも仕方無いだろう。支援団の護衛役を買って出た以上、クルトやナイツは支援団が前線で戦う場合の戦力に組み込まれる可能性が高いのだから。死地は目の前である。

「帰ってこないなんてことは無いだろうから、とにかく待とうよ」

 一方でクルトは落ち着いていた。イリスの言う通りというわけでも無いだろうが、ハマツに来るまでで、敵兵との一件で受けた衝撃からは、なんとか回復している。

 もう一度、人を殺さなければならない状況となればわからないが。

「お、本当に帰ってきた」

 支援団一同の目線が一点に集中する。そこには、支援団の統率者である3人が立っていた。

 そのうちの一人、貴族のガルナが声を上げた。

「諸君。我々がこのハマツの指揮官と話し合った結果、支援団は当分の間、スリーアイランド港からハマツへと軍需物資を運ぶ任務に付くことになった。さらにスリーアイランド港へはハマツの情勢を伝えるという任務も平行して行うことになる。今日はこのハマツで休息することになるが、これからは休みなく二つの地域を往復するという事を覚悟してもらいたい」

 予想通り、支援団の役目は物資輸送という後方支援になった。これにはリブクイン側の面子もあるのだろう。援助に来た他国の軍隊を、そのまますべて危険な前線に回せば、それだけ自国が危機的状況だと知らしめることになるのだから。

(だけど、やっぱり前線での戦力は欲しいはずだから、何人かは多分………)

 クルトはガルナの報告に続きがあるのだろうと予測する。

「辛い任務になる。しかし、君達にはもっと厳しい命令を言い渡さなければならない。それは敵国、フィルゴ帝国と直接戦う者達を、君達の中から選択しなければならないということだ」

 支援団内でざわめきが起こる中、まるで演説の様にガルナは続ける。貴族である彼は、こういったことに慣れているのかもしれない。

「数名の魔法使いと騎士。機能的に動かせる人材をリブクイン国は所望している。危険な任務だ。命の危険は相当に存在するだろう。だが、リブクインを支援するという意思を持ってやってきた諸君らの中には、それでもと考えてくれる人間がいると私は信じる。命を賭け、平和を守る。そんな確固たる意志を持った者を!」

 まるで演説でなく、演説そのものだ。人の正義感を上手く煽る言葉が連なっている。勿論、怖気づく人間はいるだろうが、その逆の人間だっている。

 上手いやり方だとクルトは考えた。少数だろうと自分から前線に立つ人間は現れるだろう。一方で怖気づいた人間はそのまま後方支援役にすれば良いのだ。どの人間の意思も裏切らず、問題を解決する。

(癪だけど、この演説に乗せられたのなら自業自得だからねえ)

 まるっきり他人事のクルト。既に前線に立つことを決めているのだ。話の内容がどうであろうと、自分には関係無いと思っている。

「前線に立つ人間の選別は、魔法使い、騎士団員それぞれの統率者に任せることになるだろう。私からの報告は以上だ」

 ガルナは話を止め、再びハマツの町へと戻る。ハマツの町の指揮官との打ち合わせを再び始めるつもりだろう。

 残された支援団であるが、魔法使い達、騎士団員達。それぞれが、この場に残ったままのヘリスラー教師、ワイズ・チーフの元へ集まっていく。

 クルトは勿論ヘリスラー教師の近くへ向かった。

「さて、聞いての通り心苦しい話だが、このハマツに留まる人間を君達の中から選ばなければならない。できれば個人が申し出る形で選びたいものだが………」

「じゃあ僕はこのハマツに留まる方でお願いします」

 真っ先にクルトが答えた。周囲の人間の視線がクルトへ集まる。

「ふむ。また君か。覚悟の程はどれくらいかね?」

「僕は既に敵国の兵士と戦闘を行いました。たった一度だけですが、経験面で言うなら僕が残るべきです。それだけ生き残る可能性が他より高い」

 これはクルトの本音だった。少しでも生き残る可能性が高い人間が、前線に残った方が良い。そうでなければ、クルト本来の目的は果たせないのだ。

 結果、自分がその対象になったところで仕方無い。

「生きるか死ぬかの場所なんです。一時の感情やその場の勢いじゃなく、そういう可能性や能力で前線に残る人間を選ぶべきじゃあないんですか? ここは個人の希望を聞いていられる場所じゃないはずです」

 あえて周囲に冷や水をぶちまける様な話を続けるクルト。まさにそれが狙いだった。誰も彼もが浮かれて戦場に立つ様な事態だけは避けたい。

「君の言う通りだよ。そうだな。まず一人目は君で決まりだ。さて、彼一人だけというわけにもいかない。特に異論が無ければ、彼の提案通り、適正のあると思える者を、私が選んで行くことになるが」

 ヘリスラー教師への提案は面白い様に通る。彼はもしかして自分のことを買ってくれているのだろうか? だとすればチャンスだ。支援団の内、魔法使い側の意思決定に、強くクルトが介入できるかもしれないから。

「いまここで志願する形じゃ駄目ですか? 誰かがやらなきゃならないなら俺が残りたい」

 手を上げたのはナイツだった。クルトがハマツに残ると聞いて、自分もと考えたのかもしれない。

(けど、今言ったらその提案は通らないと思うけどなあ)

 クルトは事態を見守る。できれば、ナイツには前線に残って欲しくないとは思っていた。それだけ友人を失う可能性が増えるのだから。

「なら僕も残る!」

「そうよ。誰かのためになりたいと思っているのはあなただけじゃあないわ」

「俺はこの国で戦うために支援団に参加したんだ!」

 魔法使いの内、熱心な者達がナイツへ続く様に志願を始めた。こうなっては、志願者の中から選ぶという状況では無くなる。状況に流された者が、本意では無いことを言い始めるからだ。

「まてまて。一応、騎士団員側との調整もある。メンバーを今ここで全員決めることは不可能だ。君らの希望はいくらか参考にするが、最終的には私の判断に任せて貰えるかな?」

 ヘリスラー教師のその言葉で、一旦はこの場が収まった。ただ一度生まれた熱というのは冷め難い物で、喧々諤々と今後、魔法使い達はどうして行くのかが話し合われ続けた。

 ただ、結論はそう変わらない。自ら志願する者は、他の者よりかは選考の段階で優先するが、最終的には個人の能力に寄るとする。そして選ぶのはヘリスラー教室の独断である。

「さて、そろそろ魔法使い側の話はこれくらいにして、支援団全体の判断をして行きたいところだ。諸君らには再び待機を命じなければならないが、まあ、そろそろハマツの町で逗留する宿でもあてがわれる頃だ。少しすればベッドで眠れるぞ」

 ヘリスラー教師の言葉にホッとした表情を見せる生徒が何人かいた。慣れぬことばかりが続いているから、みんな疲労が溜まっている。

「ああ、それと、クルト。君は私に付いて来てくれ。理由は何故か……わかるな?」

「あ、はい」

 クルトは頷き、ヘリスラー教師と行動を共にする。周囲には、ハマツに残ることが決定した生徒だからだと思われただろう。

 一方、クルトはヘリスラー教師の言葉の裏を読み取る。

(多分、僕がどういう命令の元に動いているか、勘付いているんだ。それについての話し合いをしようってところだろうね)

 それも良いだろうとクルトは考える。命令主さえ話さなければ、自分の行動指針くらい話すのも手である。

 それに、その話し合いの中で、ヘリスラー教師を味方に付けたいとも考えていた。



 その後、どうしてだか騎士団側との話し合いにも連れて来られたクルト。ハマツの町中に用意された小さな家に、ヘリスラー教師とワイズ・チーフ、そしてクルトの3人が集まっていた。

 ただ、騎士団側との調整と言っても、それ程話し合うことがあるわけでは無かった。問題の争点は、何人ハマツに人員を残すかという話だけに終始して、魔法使い、騎士団側双方共に、5名程の人員をハマツに滞在させ、行動方針はリブクイン側の指揮官に一任するという形で決定した。

 指揮権がマジクト国でなく、リブクイン国に移るということに一抹の不安を覚えるクルトだったが、それに答える様に騎士団側のまとめ役であるワイズ・チーフが話す。

「あくまで形だけの話だな。本当にマジクト国からの人員を好き勝手に使えば、それだけマジクト国側に借りを作ることになるし、それは避けるはずだ」

 極力、面倒事の少ない場所で仕事をさせられるというのが騎士団側の考えらしい。それでも後方での輸送任務よりは危険性が高いそうだが。

「騎士団、魔法使い共に人数を合わせるのは、それぞれセットで動かしたいからだ。偶然かもしれないが、斥候役をしてくれた二人は、その形で上手く行動してくれたからな」

 ワイズはクルトとイリスがフィルゴ帝国兵を撃退したことを話しているのだろう。クルトとしては、足を引っ張った記憶しか無いのであるが、敵兵を倒しながら支援団側に被害が無いという目に見える形で戦果を残した以上、無視できぬ話だったのだろう。

 一大学生徒でしかないクルトがこの場にいるというのに、文句の一つも言わないのはそういう訳があるのだろうか。

「ヘリスラー師には魔法使い側で誰を残すかを決めて貰いたい。一応、騎士団側の人員は決定しているから、それも参考にな。クルト・カーナ君と言ったか、君が残ってくれるということは、再びうちのイリスとペアを組むことになるだろう」

 ワイズの言に寄れば、イリスもハマツ残留組にいるということだろうか。そうであれば頼もしい話かもしれない。

「性格的に合いそうな者を選べばよろしいのですかな?」

「そうだなあ。どちらかと言えば、士気を維持できる人間が望ましい。危機的状況で、なにくそと動ける者だ。一見無鉄砲に見えるが、生き残りやすいのは案外そういう人材だ」

「ふむ。なら、うちからは一人、ナイツという生徒が」

「ちょ、ちょっと待ってください。なんでナイツが」

 ワイズとヘリスラー教師の会話で、聞き捨てならない人物が出てきたので、割り込むクルト。

「彼は元々イーチ国の人間だ。リブクイン国での戦争には関心が高かった。危機感が他の生徒より抜きんでている。士気という面で選ぶとなれば、適任に思えるが」

 クルトがナイツの友人であるというのは、ヘリスラー教師も知っていることだろうが、あくまで適性の面で選ぶという意思をヘリスラー教師から感じる。

「それはそうなんですけど………」

 ただクルトとしては、友人には安全な場所にいて欲しいと思ってしまう。

「流れだな」

「は?」

 突然のワイズの言葉の真意が読めず、クルトは戸惑いの声を漏らす。

「納得できぬことがあれば、そう思うしかない。状況は大きな流れで、その流れを変えることはなかなかできん。だが、工夫次第で向かう先くらいはなんとか調整できる。学友が危険な場所に向かうことが嫌だとしても、危険な場所をいかに生き残るかを考えた方が得策だ」

 能力だけで人を選ぶという方針は変えない。そういうことだろうか。それとも別のことを伝えようとしているのか。

「とにかく、この場は適正者を選ぶことだけを続けよう。そういう意図もあって、君を連れて来たのだがね」

 ヘリスラー教師はクルトを見ている。生徒側の視点で戦いに向く魔法使いを選べということか。

「………ならヘイズル教室のケン・ニードさんなんかはどうでしょう。自分から志願もしてましたし、スリーアイランド港からこの町に来るまでの護衛役もしてました。確か魔力の変換効率の上昇なんて言う地味な研究をずっと続けているそうじゃないですか。忍耐力はありそうですよ」

「ほう。騎士団側はオチヤ・ウォーカーを付けるか。荒い性格だが戦いの腕は良い。我慢ができる相手が相棒なら、上手く働くかもしれん」

 本来参加する予定の無かったクルトを交えた、ハマツ残留組の選定が続く。

(これじゃあ僕も選ぶ側じゃないか………。同じ穴のムジナにでもするつもりか?)

 このままではクルトは巻き込まれた側から巻き込む側になってしまう。ヘリスラー教師には何か意図があるのだろうか。

「しかしなあ。なんだ、死刑宣告とまでは言わんが、こういうのは疲れる。主に心の方がな」

 ふと、ワイズが溜め息を吐きながら言葉を漏らす。それは間違いなく弱音の部類だった。騎士団員がこういう言葉を漏らすのは珍しい。

「ですな。私はハマツに残留するつもりですから、まだ心情的にはマシかもしれませんが」

「ヘリスラー先生もハマツに残るつもりなんですか?」

 少し驚くクルト。しかし考えてみれば、彼は自分の生徒が支援団に参加せぬようにするため、自ら支援団に参加した経緯があるため、生徒が犠牲になるなら自分がという選択をする可能性は十分にあった。

「そうだな。だから魔法使い側から選ぶのは4名だけだよ。君とナイツ君と、君推選のケン君。それと………後一人」

 話すのも嫌だと言った風のヘリスラー教師。だが、この場で決定しなければならない。明日になればその決定に従って仕事を行わなければならないのだ。

「お二人を見ていてふと思ったんですが、もしかして今回の件に乗り気じゃないんですか?」

 クルトにはどうにもそう見えてしまう。溜息が続く会議であり、3人ともが話を続けることに嫌気が差している。そんな状況だった。

「私に関してそれを聞くかな? そんなこと、君が一番良く知っていることだろう」

 ヘリスラー教師が答える。国家の軍事に関わる魔法研究をしているというのに、彼は魔法使いが戦地に向かうこと自体には反対の立場であった。

 では騎士団員のワイズ・チーフはどうなのか。

「正直な話、その通りだよ。国や組織に益があれば、部下に死ねと命じるのが私の様な者の役目だが、今回の一件は、そのどちらにも利益は薄い。意義や建前が無いんだな。リブクイン国を救えなどと言われたところで、攻める側攻められる側双方が他国だ」

 ワイズの言葉は、クルトにとっては意外だった。てっきり、騎士団側はどちらかと言えば支援団の参戦に乗り気だと思っていたからだ。

「王立騎士団にとっては、その戦力を活かせる機会は好都合なんじゃないかと思ってました。違うんですか?」

「なんというか、随分と聡いというか、捻くれた魔法使いだなあ。違わんが、今回の件はそうじゃあない。我々王立騎士団は、あくまで王命によって動く。そしてその命を遂行することによってこそ、その立場が向上するんだ。だが、今回王家がリブクインへの出兵を決めたのは、議会の決定によるところが大きい。我々にとっては、そう良いことじゃあないさ」

 王立騎士団が議会の決定した命令によって動き、そこで成果を上げたとしても、それは議会主導の成果ということになり、むしろ王立騎士団が貴族議会の下に位置すると見られる様になるという。

 実際、議会の決定に王家が追随する形で王立騎士団が動くということは多々あるため、その認識は間違いとは言えないが、一応、建前上は王立騎士団と貴族議会は王家の元に対等な立場だ。

「じゃあどうして支援団はリブクイン国に来て機能しているんですか。お二人がこの支援団の中心でしょう? その二人のやる気がどうにも見えません」

「中心というのなら、あの貴族がそうだ。そして彼は支援団を戦わせたい立場だろうな」

 ワイズが話しているのは、貴族のガルナ・キール・ウォレストのことだろう。数時間前、仰々しくハマツの地に支援団の一部を残すことを報告していた姿を思い出す。

「あの人はあくまで名目上の中心人物でしょう? 実際に人員を動かすのはあなた達のはずです」

「ではその名目とやらを与えているのが誰かと言えば、それは貴族議会であり、議会の決定は王家でも反対するのは難しい。つまりマジクト国が支援団を戦わせているということだ。それでも何もしないわけには行くまい」

 実際は戦う意欲などこれっぽっちも無いであろうヘリスラー教師であるが、それでも戦わなければならないと考えているのは、そういう背景があるからだろうか。

「だから先程も言ったはずだ。流れだと。その流れを作っているのは我々で無い以上、立場がどうであれ、流れに逆らうことは不可能なのだ」

 流れには逆らうな。再びその話を持ち出すワイズ。流れに逆らうより、その流れによって向かう先のことを考えろ。そう言い聞かせてくる。

(確かにそうかもしれないけど、向かう先のすべてが自分にとって嫌な物だったらどうするのさ)

 納得できぬままのクルト。しかし、現状をどうしようも無いというのは確かな事実であった。

「さて、魔法使い側の最後の一人を決めて貰おうか。志願者がいるというのなら、やはりそこから選ぶべきだとは思うがね。能力云々は大切だが、嫌がる人間を戦地に残し、そこで死なせては、責任の取り様が無くなる」

 志願者というのはその時点で免罪符となる。そんなことを顔色一つ変えずに話すワイズ。これも組織の中で生きる者の適正ということだろうか。

「その話に続く前に、一つだけ聞いても良いですか?」

「何かね?」

 組織に生きる者に、聞いておきたいことがクルトにはあった。

「本当に、その流れを変えるというのは不可能なんですか? いえ、今回のことだけを言っているんじゃなく、流れを作っている人間はいるんですよね?」

「ふん? 興味本位だけの質問では無さそうだな。だが、聞いたところでどうにもならんさ。権力者という者こそが社会の流れを作る一因だ。それになるしかないとしか言えん。それにしたって、別の流れに影響されている。流れの作り手側も、結局は大きな世の中に翻弄され続けている」

 物事というのは、どんな人間だろうとも個人ではどうにもできないとワイズは語る。良く、世の中はある種の黒幕によって動かされているという陰謀論が語られるが、組織に身を置く者であるならば、それは嘘だとすぐに分かるとも。

「こうやって多くの人間の上司をしていれば分かるが、人一人を思い通りに動かすことすら難しいのだ。国家や社会というものを、自由自在に動かせる者などいない。できたとしても、小さな流れを作る程度のことだな」

 だから流れを変えようなどと思わない方が良いらしい。労力に見合わぬ結果だけが残る。それがどんな立場であったとしても。

(………だからせめて、向かう先に希望を持とうってことなのかな)

 できぬことはできぬことだから、できることから始めよう。そういう結論に至った会話。そして現在できることと言うのは、誰をハマツに残すのかという物であった。



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