魔法使いの旅行方(4)
カガ国三つ目の首都、イーストカガ。ハイパインの様な流通の拠点ではなく、ゴールドサーベルの様に経済的資源が豊富なわけでもない。そもそも特筆すべき長所がない。そんな町である。
では何故、イーストカガが首都として機能しているかと言えば、そこが本当の意味での首都だからだ。
つまりイーストカガこそがカガ国の中心。カガ国始まりの場所なのである。町の名前にカガという名前がついているのもその名残で、国土が西へと広がった結果、カガ国全体としては東の位置になったので、そう呼ばれている。
「統治する一族もそのままカガ家。自分達こそこの国を統治する正統の権威を持つと主張して、他の二家とは仲が悪いと。うーん、他人事だから別に良いけど、不安定な国情だなあ」
町を紹介する資料を読みながら、クルトは馬車に揺られる。
ゴールドサーベルからイーストカガへと向かう道で、クルトは出来る限りの情報を得ておきたいと、既に読んでいたカガ国の資料を再び見直していた。
「そりゃあ他の国が戦争を始めるかもって情報に右往左往もするよね。内部がガタガタな状況で、外から攻められたらイチコロだ」
それとも、外部に敵ができれば一致団結する可能性もあるだろうか。案外そうかもしれない。なにせ、国中に他国への技術供与の禁止を命じているのだ。命令の執行に監視に、罰を与えるに至るまで、生半可な労力ではない。そういう決断ができたのは、やはり戦争への脅威があるからだ。
「それで苦労している側としては、迷惑な話なんだけど………。この国の住人にとってはどうなのかな?」
案外、ありがたい話なのかもしれない。クルトは馬車から顔を出して前を見る。そこにはカガ国最後の目的地、イーストカガの街並みが映っていた。
これまでこのイーストカガを含めて三つの首都を見てみたクルトであるが、この最後の首都の第一印象は、どうにも寂れていると言った物だった。
「他二つが人通りのある町だったからかもしれないけど、人影が少ないんだよなあ」
まったく無いわけではない。むしろ、普通の町としては多い方だ。町並みの中で、商店や家屋が立ち並ぶ風景は、確かにここに人が集まっていることを感じさせられる。
しかし、一国の首都として見れば、どうしても劣っている様に見えるのである。
「まあ、町自体はどうでも良いんだよ。うん。目的はこの町の魔術同盟なんだからさ」
なんとはなしに空を見上げるクルト。まだ日は高い。今からこの町の魔術同盟に向かうのも良いだろう。
「多分、そこでも大学との交流を断られるんだろうなあ。まあ、別に良いけどさ」
ただ、何か変わったことが起きないかと期待してしまう。もし変化があれば、また違う方法で解決策が思い浮かぶかもしれないから。
「変わったこと……か。そうそう起きないとは思うけどね」
そんなクルトの諦めは、悪い方向で裏切られることになった。
状況は確かに変わっていたのだ。クルトにとって、危険かもしれない方向に。
「クルト・カーナだな?」
「え?」
突然、背後から声を掛けられた。低い男の声。
当然クルトは驚いた。急な声のせいでもあるが、それよりその内容。どうしてクルトの名前と、その姓を知っている?
「おっと。あまり動かないで貰おうか。こっちとしては、抵抗されて手傷を負わせるのに罪悪感があるんだ」
振り向こうとするクルトを、声の男は止める。背中に何か鋭い物が触れているのを感じて、クルトはその声に従った。
(刃物? それともはったり? けど……動かない方が良いよね)
その場で静止するクルト。相手は自分のことを知っている様だ。でなければ、普段名乗らない姓を付けて話し掛けてくる訳がない。
「もしかして、何かしら脅されてたりするのかな? 今は」
危険な行為だったが、声のする方へ話し掛けてみる。相手からのアクションを待つのは、どうにも癪な気がしたからだ。
「いや? 別に振り向いても構わないぞ? ただ、急には動くなって話だ。ゆっくりと動け。両手はちゃんとこっちに見える様にな」
背中に触れている何かの感覚が離れる。それを合図に、クルトは支持された通り、ゆっくりと声の方を向く。
「………僕が、何かしましたか?」
振り向いた先にいた相手を見て、真っ先に出た言葉がそれだった。いったい何が目的だ。金目のものならないぞ。そんな台詞よりも、まず自分の不手際を疑う言葉が出たのは、相手の服装が原因である。
予想通り男だった声の主。その服装は、制服と呼ばれる物だ。統一されたデザインで、礼儀と装束と、さらに機能性を重視したその服装。盗賊や物取りの類ではない。むしろそれは―――
「私はイーストカガ自警団のフィンと言う。クルト・カーナだな? 君には国家機密漏えい罪の容疑がかけられている。在り来りな台詞だが、抵抗をせず、大人しくこちらに従って貰おうか」
クルトは男の言うことに頷く。抵抗する気はまったく無かった。体から離れてはいたが、男の右手には、抜き身の鋭い剣が握られていたから。
連れてこられたのは、大きな屋敷、というより城と言った方が良い場所だった。
場所は町の中心より少し外れた場所。事前に知っていた情報から推測すれば、ここがイーストカガを統治するカガ家の居城であるはずだ。
勿論、普段の生活をする場所ではなく、行政の拠点という意味でだが。
「これから、どうなるんですか? 僕は」
男に連行されながら城の中を歩く。今のところ男は剣を納めているが、何時それが再び抜かれるかはわからない。なにせ男は常に右手を剣の柄に掛けているから。
「さてなあ。お前さんが罪人で、ここへ連れてくる様にしか聞かされていないんでね」
城の中に入ると、何故か地下方向へと連れてこられたクルト。断言しても良いが、国家機密を漏えいした覚えは、クルトにはなかった。
そもそも、この国の魔術同盟との交流自体が上手く行かなかったのだ。何を漏えいすれば良いというのか。
「ついたぞ。さあ、中に入れ」
城の地下。そこには金属の棒が縦に複数立っており、その奥に石造りの部屋が複数。所謂、牢獄という奴だ。
「中にって、何にもないですよ!?」
トイレも無ければ寝床も無い。金属の柵が無ければ、何の用途に使う場所なのかすらわからないだろう。
「いいから入れ。お前には、ここで暫く過ごしてもらうことになる」
これ以上の質問は許さない。そういう剣幕を男は向けてくる。ひたすらに恐ろしい。男にも、これから自分がどうなるかも。
「………入りましたよ」
部屋に入ると、入口の柵が閉じられる。これで、クルトは自分の意思でこの部屋を出ることはできなくなった。
これからのことも心配だったが、とりあえずクルトは尿意が来ないことを祈っていた。ここで垂れ流しにするわけにもいかないだろうから。
「ふん。恐らくは、何かしらの命令が来るだろう。それまでは、じっとしていろよ」
男はそう言ってこの牢屋を去っていた。クルトは一人、男の背中を見送り、次に部屋の天井を見た。
「いったいどうなっているんだ? 明らかに、何かしらの罠に嵌った気がする」
状況を整理する必要があった。いったい、自分がどんな状況で、どういう事態に巻き込まれたかを。
(考えるべきは、僕がいったい何をしたかだ………)
部屋の隅へ腰を下ろす。固い岩壁は非常に座り心地が悪いが、文句を言える状況では無い。
(自分自身の状況は、多かれ少なかれ、必ず自分の行動が原因となっている。そのはずなんだ)
自分は魔法大学から、カガ国の魔術同盟と交流するためにやってきた。しかしカガ国の方針のせいで、それは上手く行かないのが現状だ。
(ここで僕がやったことは、交流を提案して、それが断られたこと。これ自体には問題がない。魔術同盟側は国の指示に従い、僕は肩を落とす。それだけだ)
では今、牢屋に入れられることになった原因は何だ。ここに入れられたということは、カガ国にとって何かしら不利益な行動をしたということで………。
(そうか。僕はカガ国が隠そうとしていた方針。戦争準備のための技術、知識交流の禁止を知ってしまったんだ)
カガ国にとっての不利益とは、恐らくそれだろう。クルトがそれを知ったから、今、牢屋に入れられた。
(監視されてたってことかな? けど、それだけでこんな大層なことをする? いくら隠していたと言っても、人づてに否応にも漏れる話なんだよ。わざわざ知った人間を捕えて、牢屋に入れたりなんて、きりがないじゃないか)
だが自分がそれ以上の何かをした覚えは無い。となると答えは一つ。
(何か、僕自身以外の意思が見え隠れしている? もし僕がそれに巻き込まれたんだとしたら、黒幕はだれだ?)
クルトは考え続ける。圧倒的に情報が足りないが、この薄暗く居心地が悪い場所では、思考を続けるしかやることが無かったから。
そろそろこの牢屋にも慣れてきた頃だろうか。数十分という短い時間ではないが、数時間程長くはない。それくらいの時間で、クルトに向かえが来た。
「おい、良かったな。さっそくこの場所から出られるぞ」
来た相手は、クルトをここに連れて来た張本人だ。
(なんて言ったか……フィン。そうだフィン。気取った名前だけど、見た目が伴ってないよね)
一方で自警団という立場は似合っているだろう。要するに厳つい顔をしていた。
「良かったって言った? 身に覚えのない罪で捕まったのが良いこと?」
「身に覚えがなくても、死ぬまで牢屋に囚われている奴もいる。そういう人種と比べれば、随分と幸運さ」
嫌味を素気無く返されたクルトは、振り上げた拳の行き場に困った心地だった。この気分が良くなることはないだろう。恐らく、これから向かう先では、皮肉を言える様な場所ではないだろうから。
クルトが案内されたのは、城を地下から随分と登った所にある一室。荘厳とも言える彫り物と飾りがされた扉は、この中に居るであろう人物が、それ相応の立場であることを会わずにでも伝えてくる。
「地下から城の上層部って、一日じゃあなかなか経験できないだろうね」
ここまで案内していたフィンに向けて、何度目かの嫌味を話す。
「ほらな、良かっただろう? これから会う人物も、なかなか会えない相手だ。さらに良い経験になるな」
もしかして皮肉が通じないのでなく、感覚が鈍いだけなのではないだろうかと疑うクルトを余所に、フィンは扉を開ける。
開けると同時に、フィンは扉の横へ。部屋に入るのは、どうやらクルトだけらしい。
中は広々としたというのも足らぬ表現となってしまう。そんな部屋だった。それだけでなく、部屋を飾る調度も負けていない。博物館かと思える程に並んだ、ガラス張りの展示棚には、宝石やら勲章が沢山。天上にはどうして落ちてこないのか疑問に思うほどに大きく、光輝くシャンデリア。一歩足を踏み出せば、膝まで埋もれるのではないかと錯覚する程に柔らかな絨毯が敷かれている。勿論、織り込まれた刺繍は純粋に美しいと思わせる物だ。
そんな部屋の中には、青年が一人。豪華な椅子に座り、これまた豪勢な机に肘を突き、こちらを見ている。
(部屋に似合わない若年………なんてことはないんだろうね。多分)
別に相手が若作りだと勘繰っている訳ではない。ただ、クルトは自分を呼び出した相手がどういう人物か、薄々勘付いていた。
「良く来てくれた。この度はとんだ無礼を部下が働いてしまった様で、申し訳ない」
部屋に入って第一に聞かされたのは謝罪だった。当然、青年の言葉である。何時の間にか部屋の扉が閉まっているので、新たに入ってきた者ではない。
(なんだろうね。明らかに心がこもってない。そうこっちが感じることを、相手も予想して話してるんだろうけど………)
クルトは思う。この相手こそ、今回の黒幕だ。
「さて、いきなりこの町に来て捕まり、次にこの様な場所に連れてこられた君は、恐らくこう思っているだろう。どうしてと。その理由を話してあげようと思ってね」
大げさに身振り手振りを交えて話す。随分と慣れた仕草だ。もしかしたら訓練で身に着けたものかもしれない。
「それより先に、あなたが何者なのかを教えていただきたいのですが」
青年の言葉を遮るクルト。本当は相手の言葉にいちいち文句を言いたい気分なのだが、それは遠慮しておく。
「おっと。これまた失礼。何分、立場が立場だ。自分から名乗ることに慣れていない」
そうだろうとも。彼はきっと、相手から名乗られる側だ。恭しく、そして頭を下げられて。
「だが、挨拶の言葉がどうにも固いところを見るに、私の立場くらいは気が付いているんじゃあないか? 私の名前はハル・カガ。これでもこの町の統領をやっている」
それだけでは無いだろうに。ハル・カガと言えば、この国を治める三つの家の一つ。カガ家の当主。マジクト国からしてみれば、国王の一人と言える相手なのだから。
ハル・カガの父親、カガ家当主のエルス・カガは若くして亡くなった。当時、ハル・カガは10にもならない子どもであり、亡くなった当主の後継者については、揉めに揉めたそうだ。
ハルの後見人になろうとする者から、別の適材者を見つけようとする派閥。カガ家自体を潰そうとする者までいたらしい。死人まで出たそうな。
そういう内乱に近い後継者争いが収まったのは、エルス・カガが死んでから8年程後のことである。
要するにハルが政治力を身に着けるまで生き延びてしまったので、後継者争いを続ける者達の目論見がすべて潰されてしまったのだ。
結果、まだ若い青年が、カガ家という国を動かす一族のトップへと躍り出た。だいたい今から3年ほど前の話だ。
(まあ、全部カガ国の資料に書いてあることだから、真偽は不明だけどさ)
ハル・カガが目の前で演説じみた大層な説明を続けている中、クルトは相手がどういう人物かを再確認していた。
勿論、自分の状況を説明してくれているのだから、それも聞き逃さない。そういう能力にクルトが優れているわけではない。相手の説明の半分程は、世辞や礼儀に近い内容で、意味の無いものであったから、別のことを考えていただけだ。
「さて、ここまでで分からないことはあったかな?」
やっと話が終わった様子。クルトは思考を一旦中止して、相手の目を見る。
「結局、僕は利用されたってことで良いんですよね?」
相手の話を要約すれば、クルトはマジクト国魔法大学と、このカガ家領主の裏取引に使われたということだ。
「そう、その通り。カガ国の内情は知っているかい?」
なんともまあ、腹の立つことをあっさりと言う。
「三つの家があって、国の権力もその家に合わせて分かれている。当然、内政は不安定だけど、今回、西のイハミ国で戦争が行われそうで、その噂にかこつけて技術の戒厳令を国中に敷いた。これは三家合意のうえでの決定で、裏では色々な策謀があるのかもしれないが、国家として決めた正式な―――」
「ああ、もういいもういい。渡してあった資料通りの受け答えをありがとう。作った甲斐があったとうちの部下も喜ぶだろうさ」
カガ国に来る際に渡された資料。どうりで詳しいはずだ。カガ国の人間が作ったのだから、内情に詳しいのは当たり前なのだ。
「結局。戒厳令なんて敷いたところで、国家間の交流を行いたいと言う人種は必ずいるのさ。二つの国が技術のやり取りを行えば、だいたいは双方共に発展が見込める。我が国に限って言えば、戒厳令を敷いた状態で取引を行うと、他二つの家を出し抜けることになる」
カガ国の問題はどんなものであれ、最終的に家同士の権力闘争に帰結する。今回、問題を起こし、策謀を張り巡らせたのはカガ家、それもこのハル・カガ本人であった。
「だからこの国に来るなり僕を捕えたと。表向きは戒厳令に従っているのだから、僕が一人で勝手に魔術同盟に向かわれるのは困るわけですか」
しかもクルトは、戒厳令が敷かれていることを知っているのである。その知識を持って、何かしら思惑とは違う行動を取る可能性が大いにある。
「ああ。君にはこのハル・カガの命令通りに、我が町の魔術同盟と会合して欲しい。あと、一応君はこの町に入ってそうそうに地下牢に捕えられていることになっているから、あまり人とも会って欲しく無いなあ」
今回、クルトは魔法大学の代表としてイーストカガの魔術同盟と会う。しかしその目的は、禁止しているはずの他国との技術交流である。だから、そんな交流は行っていないという証明が必要であった。
魔術同盟と不正な取引をしようとした魔法使いはカガ家が捕えた。だから、魔法大学と魔術同盟の間では技術交流は行われていない。事実がどうであろうと、そういう話なのである。
「マジクト国に帰国する際は、どうやったって誰かと顔を合わせる必要がありますけど」
「帰国については、ちゃんと我々が送る準備をしてあるさ。せっかくの客人を、無下には扱えないだろう」
なるほど、帰りはしっかりと監視するから、余計な真似はするなと言うことか。
「了解しました。逆らったってどうしようも無いのはわかってますから、従いますよ」
相手は国だ。下手に反抗したら、本当に地下牢行きになるだろう。
「ああそうだね。それは嬉しい話だ。安心したまえ、魔法大学側だって承知している話なんだ」
ああ、そうだろうとも。この話、カガ国側の黒幕がいま話をしている相手なのなら、マジクト国側は大学長のファイム・プリューニが裏で手を握っている。そういう話であった。
「くそ! 何が代理でカガ国に向かって欲しいだよ! 最初から誰かに汚れ仕事をさせるつもりだったんじゃあないか!」
ベッドの上で天井に向かって叫ぶクルト。勿論、町の宿ではない。ハル・カガが用意した城内の一室だ。
客人用の物で、クルトが逆立ちしたところで借りることができない程に豪華な部屋だが、扉を開ければ常に監視用の兵士が立っている。居心地の良い場所とはとてもではないが言えない。
「やられた、完全にやられた。そもそも、カガ国で技術交流の戒厳令が敷かれている状況を、あれだけ魔法知識の獲得に貪欲な魔法大学が知らないはずがないんだ。この国に来て、それを知ってから、すぐにでも疑問に思うべきだった!」
自分の不手際に怒りを覚える。もっと苛立つのは、そもそもこの仕事を請け負う予定だったのは、クルトの師であるオーゼであることだ。
「いくらうちの先生がそういうことを気にしない人だからって、普段の仕事の他に、こういう仕事まで頼むなんて。ややこしい仕事は、全部先生にって考えが丸見えじゃないか」
他の教師に頼めない理由もこれでわかった。こういう裏取引があると反感を持つ教師に知られれば、弱みになってしまうからだ。
「多分、事前の準備はもう全部できていたんだ。僕の名前が、あの自警団の男に知られていたのだって、僕の旅立ちが決定してから、すぐにカガ国へ知らせていたからだろうさ。この町の統領とマジクト国大学長の手のひらの上。僕なんかは動かされる駒の一つってことか………」
恐らく、このままこの町の魔術同盟との会合を開けば、問題などまったく無く話が進むのだろう。
予定通りの会合、予定通りの交流、予定通りの決定。そうしてカガ家の魔法大学は利益を得るのである。
「癪に障る。上手く行き過ぎだ。問題の一つでも起こしてやりたい気分だよ」
別にクルトも、そういうやり方が嫌いという訳ではない。組織同士のやり取りだ。有りと言えば有りだとすら思う。大学に所属するクルトにとっては、大学に利益が帰ってくるのは、むしろ歓迎すべき状況だ。
「ああ、でも苛立つのは、やっぱり僕個人を無視されているからか」
オーゼ師が利用される予定だったことに苛立つのも、完全に利用される側だったことが腹立たしいのも、何も知らされてなかったことに怒りを覚えてしまうのも、クルトの立場に一切関係無く動く周囲の状況こそが嫌だったからだ。
「何かしら、この流れに自分の意思を反映したい。自己顕示欲の大きな人間だよ、僕は」
しかし欲を心から取り去るのは不可能だ。むしろ、それに従わなければ人間でなくなってしまう。
「やってやろうじゃないか。何が国だ、何が魔法大学だ。裏でどういう取引があったかなんて関係あるか。この仕事は僕が請け負った仕事だ。なら、僕の利益を一番に考えてやる」
物事を安全に進めたいのであれば、自分のことは自分でやるべきだ。人に仕事を頼むということは、自分の安心を他人に預けることだと思い知らせてやろう。
クルトはこの一件に関して、腹を括ることにしたのである。




