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魔法使いの歩き方  作者: きーち
魔法使いの稼ぎ方
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魔法使いの稼ぎ方(2)

 アシュルの中央にある王城。というより、王城を中心にアシュルの街が発達したというべきか。

 かつては王族のマジクト家が保有する領土、その統治のために作られた屋敷だったそうだが、増改築を繰り返され、今ではそれなりに堅牢な城となっている。元の屋敷の部分は、王城の奥深くにまだ存在し、王家の幽霊が毎夜、晩餐会を開いているという噂もある。

 クルトはそんな城を見ながら、不思議と緊張のない自分に驚いていた。なにせ、これからその王城へ向かうのだから。

「さすがというか、どうしてきみはそんなにも自然体なんだい? あの噂は本当ってことかな?」

 隣に立つカップスが、クルトに話し掛けてくる。今日は王城へと向かう当日であり、クルトが王家との応対役。カップスが研究内容の説明役をすることになっている。服装もできる限り立派な物を選んだ。

「噂ってなんです?」

 気になることを言われたので聞き返すクルト。

「噂は噂だろ。きみ、確か大学に来た国立騎士団員を、弁舌だけで追い返したことがあるそうじゃないか。教師でも四苦八苦していた相手を大学一年目の見習いが相手取ったって、色々と有名だよ?」

「え? あれ? いや、まったくの嘘じゃあないですけど、なんでそんな話が………」

 また妙な噂が流れているのか。前は同級生の間で生活力がどうとか言われていたらしいが、今度はそれ以外の人物にも広まっているらしい。頭が痛くなってきた。

「他の魔法使いより弁が立つのは確かなら、噂が嘘でもそれで良いさ。頼りにしているよ」

 頼りにされたって、こちらの苦労が軽くなるわけではない。むしろ考えなければならない事が増えた気がする。

「確認しておきますけど、王族との謁見は午後からで、それより前は王城内で待機でしたっけ?」

 気分を変えるために段取りの話をする。

「ああ、午前中は王城内で決められた場所だけだが、自由に行動できる。昼ごろになると食堂に案内されて昼食を食べる。食べ終わると食器類が下げられ、僕らはそのまま椅子に座って待機。暫くすると僕らの謁見相手が直接来られて、なんとその場で会談が続くという形になる」

「となると、王族の中でも若かったり、王位の継承権が低い相手が来るんですか?」

「………そうだよ。その通りだ。良く分かるなあ」

 目の前で不可思議なことでも起こったかの様な表情をした後、カップスは同意する。そんなに変なことを言っただろうか?

「いえ、わざわざ王族がこちらに出向いてくるなんて、相手の立場が比較的低くないとありえないじゃないですか。多分、向こうにしてみれば、王家としての初歩的な仕事なんでしょうねえ」

 それ程責任は重くないが、王家として対応しなければならない仕事。王族としての経験が浅い者にとっては、良い練習になるのかもしれぬ。

「ほう。いや、そういった物事に関して僕はまったくの無知でね。他にもいろいろ推測できたりするのかい?」

 クルトにしてみれば普通に思いついたことを話しただけなのだが、どうにも知識的に違いがあるらしい。

 考えてみれば、王城での作法やら礼儀やらを知って初めてわかることなのだから、当たり前だ。クルトはそれらを教えてくれた義理の母に感謝する。

「そうですねえ。例えば、午後会う予定なのに午前から王城に出向かなきゃならないのは、実はこっちに責任があったりするんです」

「うん? てっきり向こうの儀礼や取決めでそうなっているんだとばかり思っていたが……」

 勿論それもある。しかし決まり事というのは、形骸化していなければ必ずそれをする理由が存在する。

「話を聞くに、ヘリスラー教室で王城での謁見役をしている人って、複数人いる上に長い間ずっとその人って訳でもないそうですね」

 ヘリスラー教師の予定が空いていれば教師自身が行うらしいが、そうでなければ交代制で、代理の生徒が王城で王族と謁見するらしい。

「皆、本音で言えば面倒なことをせず、自分の研究に勤しみたいんだよ。だから特定の誰かを指定せず、持ち回りで役目を担っている」

「それはこっちの理屈であって、王家側にしてみれば、王族に謁見しにくる相手がコロコロと変わるってことでしょう? 王族が直接会うというのは、王族側がそれなりの危険を冒してるということなんです」

 王族とは地位が高いというだけでなく、その立場に国家の権威やら力やらを背負っている存在なのだ。個人が大きな力を持つのは、それだけ不安定な状況にあるといえる。つまり、その個人になんらかの危害を加えれば、それだけマジクト国に被害を与えられるということなのだから。

「なるほど。だが、それと僕達が早めに王城へ向かうことと何の関係があるんだい?」

「向こうも仕事ですから、来客を無下に扱う訳にもいかない。一方で、自分達の安全も確保する必要がある。となると、まず来客が王族に危害を与える意図がないかどうかを確認しますよね。それが午前の自由時間と昼食なんです」

 来客のひととなりを観察するのだ。それで特別、危険な思想を持った相手でないと判断した場合に、王族と来客の対面がされるのである。

「はあ………。そんな裏があったとは」

「多分、自由時間と言っても、ずっと監視されているはずですよ。だから、余計なことをしない方が吉ですね。あと、これからは特定個人を謁見に向かわせた方が、王城側の負担が少なくなるので、そうした方が良いかと」

 話ているうちに、景色に占める王城がどんどん大きくなっていき、とうとう王城と街を隔てる正門まで辿り着く。

「ここからは門へ?」

 見上げる程に大きい王城の門を見ると、さすがに威圧されるクルト。

「いや、毎回こんな大きな門を開く訳じゃあないさ。横に通行用の扉がある。そこを通るんだ」

 確かに正門の横には、衛兵の詰所の様な場所がある。一般の客はそこから王城へ入るのだろう。

「すみません。本日謁見予定のヘリスラー教師。その代理で来た者ですが」

 詰所の前に立つ衛兵に、カップスは話し掛ける。

「ええ、聞き及んでおります。すぐに案内しますので、少々お待ちを」

 衛兵は詰所の中に入り、クルトとカップスは暫くその場で待つことになる。

「いつも思うんだが、ここの衛兵はその日に来る予定の客すべてを覚えているんだろうか?」

 少し暇ができたせいか、カップスが話しかけてくる。

「今、確認しているんじゃないですか? とりあえずは聞いていますって答えておいて」

 王家がこの国の中心である以上、王城へ出向く客はかなり多いだろう。いちいち覚えているとは思えない。

「そういうものか……」

 クルトの予想でしかない考えに、カップスは納得しているようだった。礼儀について多少の知恵はあるが、王城へ来たのはこれが初めてなので、あまり信用してもらっても困るのだが。

 そうこうしているうちに詰所の扉が開き、先程の衛兵が顔を出す。

「お待たせしました。それではこれより王城内に案内しますので、着いて来て下さい」

 そういって、衛兵はクルト達を詰所の中へ入れる。詰所の奥にはもう一つ扉があり、そこから王城へ入るのであろうことは簡単に予想できた。


 王城へ案内されたクルト達は、王城のとある一室まで案内された。来客用の部屋らしく、かなりの大きさだ。一般人の家ならば、この部屋にすっぽり納まるくらいに大きな部屋である。書物を何冊も詰めた本棚や、テーブルゲーム用の机まである。ここで暫く暇は潰せる。

「昼食までは自由なんでしたっけ?」

「ああ、時間になれば部屋に王族の近侍が呼びに来る。それまでは部屋だけじゃなく、その外も自由に行動して良いそうだ」

 出歩いては駄目な場所は衛兵が立っており、すぐにわかるらしい。

「確かに部屋の中だけじゃあ、トイレにも困りそうですもんね」

 部屋は広くはあったが、利便性だけを考えればまだまだ足りない物が多い。来客用か、もしくは遊戯用だけの用途で使われているのだ。

「そうだな。けれど、王城内は広い。無計画に歩き続けると、迷って指定に時間までに戻れなくなる。あまりむやみやたらとうろうろするのは控えた方が良いんだろう」

「でも、じっとしているってのも考え物ですよ。さっきも言ったと思いますけど、この自由時間の内に、王城側は僕らのひととなりを観察しているはずですから」

 クルトの言葉を聞くと、カップスはきょろきょろと周囲を見回し始めた。

「今も、見られているのかな?」

「さあ。そうかもしれないし、そうでないかもしれません。けど、こっちにやましいことなんてないのなら、普通にしているのが一番ですよ。いちいち変わった行動をしていると、向こうに迷惑がかかる」

 そして丁度、尿意を感じていたクルトは、トイレに向かうことにする。生理現象にうだうだと文句を付ける相手もいるまい。

「トイレは部屋を出てすぐなんですか?」

「ああ、出て左側に進めば見えてくる。そこらに衛兵が立っているから、わからなければ聞くと良い」

 場所を聞いてから、部屋を出る。部屋の外は当然廊下だが、そのすぐ近くに草木の生えた庭があった。しかし別に王城の外に繋がっている訳ではない。この場所はあくまで王城内であり、庭は天上の吹き抜けから光を浴びているのだ。

「金使ってるなあ。庭の剪定だって大変だろうに……と、それよりトイレトイレ」

 この風景は羨ましい限りであるが、王家の居城と自身の懐具合を比べても仕様がない。気分を変えて、さっさとトイレに向かった。


 用を足すと、どうにも心が寛容になるのはどうしてだろうか。別にそれほど必死だったわけでもないのだが、トイレから出ると、辺りを見渡せるくらいには余裕ができる。

 考えてみれば、王城内に来られることなど殆どないのだ。観光気分で動き回って見るのも良いかもしれない。

 余計な場所に入り込む可能性もあるが、そうなれば王城側のだれかが止めてくれるだろう。

「こんな絢爛豪華な建物なら、見て回らない手はないよね。もしかしたら、魔法研究について新たな発想も―――」

 独り言を呟きかけて、言葉を止める。有り得ないことなのだが、何故だか視界の端に、見知った人間がいた様な気がしたのだ。

「あはは、まさか、ねえ?」

 目に映った人間がいた方向へ向き直る。はたしてそこには、やはりクルトが知っている人間がいた。彼女はどうやら人を連れているらしく、二人で廊下を歩いていた。

「げっ」

 ついそんな言葉が漏れる。会って喜べる相手ではなかったからだ。

 クルトにとって、出来得るならば会いたくない人間。それは………。

「うん? あ、貴様、なんでここにいる!」

 どうやら相手もこちらに気が付いたらしい。歩くもう一人を置いて、足早にクルトへと近づいてきた。

「や、やあ。イリスさん。こんなところで、凄い偶然だね」

 クルトが知る人間。それは国立騎士団員、イリス・ウォーカーだった。彼女とは以前、ちょっとした冒険をしたことがあった。

「偶然だね? じゃない。お前の様な魔法使いがどうして王城にいるんだと聞いているんだ!」

 どうしてこの人は声を張り上げるのが好きなんだろう。こちらは別に耳が遠い訳じゃあないのだから、普通に喋れば良いのに。

「どうしてって、仕事だからですよ。魔法使いだって、王城に出向く用事くらいあります」

 事実、厄介な仕事で王城まで来ているのだ。文句を言われる筋合いはない。

「ふん! 怪しいものだな」

 怪しいって、それじゃあ王城の門番をしている衛兵は、そんな怪しい人物を王城内にいれたことになるのか。

「それじゃあイリスさんの方は、どうして王城にいるんですか。いくら国立騎士団だって、何かしらの用がなければ王城への立ち入りはできないはずですよ」

 暇なので観光しようなどといった理由で入れる場所ではないのだ。

「ウォーカー113だ。ここではそう呼んで貰おう」

 どうやら仕事中だったらしい。国立騎士団員は、仕事中、名前ではなくマジクト王国より与えられた姓で名乗る必要がある。面倒な話だ。だからクルトは騎士団が苦手なのだ。

「あら? わたくしはイリスって呼ぶ方が好きだわ」

「え?」

 クルトとイリス以外の声が聞こえた。見ると、イリスの後ろに金髪の少女が立っていた。背はクルトよりも小さい。そう言えばイリスはこの少女と二人で歩いていた様な。

「姫。公務中はなんども言いますが、あなた方より与えられた姓で呼んでいただきたいと何度も」

「別にわたくしが直接与えたわけではないでしょう? それに王族が与えた姓ということは、王族のわたくしたちは姓以外で呼んだところで構わないと思うのだけれど?」

 なんとこの少女、王家の人間らしい。そう言われてみれば、どことなく気品やら高貴さが感じられる。恐らくだが。

「例え王族の方であろうとも、公務中の規則は守って貰います。あくまで私は国立騎士団のウォーカーとお呼び下さい」

「まったく、頭の固い話ねえ。あなたもそう思うでしょう?」

 突然、話がクルトに向けられる。

「え、ええー、あー。そうですね。彼女の頭の固さには困った物です」

 急に殿上人に話し掛けられた気分になり、クルトは頭が真っ白になった。なので、返す言葉はつい本音で話してしまう。

「貴様、その言葉、絶対に忘れんぞ………」

 睨み付けてくるイリスの顔を見て、漸く平静を取り戻すクルト。人の苛立ちは、それを見る人間を冷静にさせてくれる。

「それでその、あなたは?」

 王族であるらしいが、良く知らない相手であることには変わりない。失礼があってはいけないので、相手の立場を知る必要がある。

「マジクト王国継承権第4位、フィラルド・マジクトが三女、ラナ・マジクト。名乗りは長いけれど、要するに王族の中でも端役も端役よね」

「は、はあ」

 どうにも想像できぬ。確かに王自身や次期後継者などと呼ばれる人間ではないのだろうが。それでもクルトなどより生まれも経歴も上等なのだろう。

「それで、わたくしが自分のことを紹介したのだから、あなたのことも教えて欲しいのだけれど」

「あ、そうですね。僕は―――」

「詐欺師です」

「ちょっと!?」

 自己紹介をしようとして、イリスに話を遮られる。しかも言うに事欠いて詐欺師などと。失礼極まりない。

「文句があるのか? 聞いているぞ、下水道の件。上司を通して問題関係をあやふやにしたそうだな。やり方がどう考えても詐欺師だろうに」

「あーはいはい。その話はまた後で」

 イリスが話しているのは、国立騎士団が無かったことにした事件についての話だ。それを王族の前で話すというのは良いことではないだろう。

 イリスだってそのことはわかっているはずだが、頭に血でも登っているのだろうか、分別がなくなっている。

「僕の名前はクルトです。現在は魔法大学の学生で、王城にもその立場で伺わせていただきました」

 話をはぐらかせるついでに、自分の立場を明確にしておく。

「あら、大学の魔法使いさん? わたくし、魔法使いにはあまり会ったことがないの。良ければどういった物なのか、聞いてみたいのだけれど、宜しいかしら?」

「ええ、昼までは自由時間ですから、それまでなら」

 王族、マナ王女と言ったところだろうか。その彼女は、目を輝かせてクルトに寄ってくる。断る理由もないので了承するクルト。

「マナ様。その様な相手と話をなどと―――」

 いちいち口を挟んでくるイリス。

「わたくしも次の仕事まで暇なのだし、別に良いでしょう? それとも、先程の下水道の件、だったかしら? それをあなたから聞く時間にしましょうか?」

「そ、それはその………」

 しかしどうやらマナ王女の方が一歩上手だったらしい。それ以上にイリスが口を出してくることはなく、クルトは王女とちょっとした世間話をすることになった。


「へえ、魔法大学には生徒組合というものが」

「はい、僕も事務員として参加しています。生徒でも魔法を使える立場だからこそ、それなりの権利をという考えで存在するんでしょうね」

「街には臣民会議という物があるわ。平民の労働者が主な参加者だそうだけれど、それと似た組織ということかしら」

 マナ王女との話はクルトの立場から始まり、魔法大学とはどんな場所なのかといった話にまで発展していた。

 王女はかなりの饒舌であり、物事に対する興味も強い様子だ。話を始めてから結構な時間、止まらず会話を続けている。

「姫、そろそろお時間が………」

 一方、隣で暇そうにしていたイリスが、クルトとマナ王女の会話を止める。気が付いてみれば、庭の吹き抜けから太陽が見えている。太陽が高く昇っており、時間帯は正午近くだとわかる。クルトも早く部屋に戻らなければならない。

「あらあら、残念ね。それではこれから次の仕事があるから失礼させていただくけれど、あなたとの話はとても面白かったわ。今度、機会があればまた聞かせてほしいわね」

「いえ、こちらこそ王族との会話など、経験のまったくないことをさせていただき、光栄です」

 礼になっているのかどうかはわからないが、頭を下げる。これから王族との謁見があるのだ。ここで、王族の人間と会話できたことは、かなり貴重な経験となるだろう。だからクルトの礼は純粋な感謝だった。

「それじゃあ魔法使いさん。またね」

「はい、それでは」

 マナ王女と別れの挨拶を交わし、クルトは部屋に戻る。その途中で、ふとクルトは首を傾げた。

「またね?」

 今度機会があればまた話を聞かせるというが会話があったが、それを指しているのだろうか。

 疑問は残ったままだったが、とりあえずそれは頭の隅に置き、部屋へと早歩きで戻る。トイレと言って部屋を出たのだから、待っているはずのカップスは、クルトがすぐに帰らないことに不安を感じているかもしれない。


「長いトイレだったね。もしかしてあっちの方かい?」

 そんな皮肉が籠った出迎えの言葉を聞きながら、部屋に戻ったクルトは、カップスに事情を説明する。

「すみません、お待たせしてしまったみたいで。廊下で王族の方と偶然出会いまして、ちょっと話を」

「王族と? ばったり出会っただけで話せる物なのかい? 普通は緊張して、歩く邪魔にならない様に、廊下の端に移動するだけで終わると思うが………」

 まあ、普通はそうだろう。クルトだっていきなり王族に話し掛けたりはしない。偶然、知人を見かけ、それにつられる形でマナ王女と話したのだ。

 そう思うと、あの王女はかなり気安い雰囲気がある。生来の物だろうか?

「やはり、生徒組合の交渉上手は普通の感覚とは違うのかな。いや、ちょっとしたことでも僕らには無理なことをしてのける」

「ええっと、本当に偶然ですからね?」

 何やらカップスの中でクルトへの評価が高くなってきている。そのまま放っておくのは怖いので、なんとか止めておく。変に高望みされて、おかしな仕事を任されるのは面倒でしかないのだから。

「ただ、良い練習になったのは確かです。王族って、どんな相手なんだろうと思ってたんですけど、ああいう風に軽い感じの人達なのかなあ」

「僕もあまり知らないが、大学の学生に会ってくれる様な相手なら、それ程格式ばった人ではないことは確かなんじゃないかな。それに前回、王城で謁見した人に聞いたことがあるんだが、なんでもその時は男でなく―――」

 トントン

 カップスの話の途中で扉を叩く音がする。そのすぐ後に

「失礼いたします」

 という言葉が聞こえてくる。

「どうぞ」

 カップスがその声に返事をすると、扉が開き、人が入って来た。

「昼食の準備ができました。問題無ければ食堂までお越しください」

 どうやら王城の従者だった様で、食事の案内に来たらしい。そのまま部屋を去るのかと思ったが、扉の横に立ったままだ。

 恐らくクルト達を食堂まで案内するつもりなのだろう。王城内部をこっちは良くしらないのだから当たり前だが。

「そうですね。それでは食堂まで案内を頼みます」

 カップスがそう告げると、従者は着いて来るように促し、それにクルト達は従うことにした。


 昼食はつつがなく進む。食卓のそばには常に従者が立っており、食事の出し入れや、飲み物が無くなれば、それを注ぎにやってくる。

 なんとも落ち着かない食事であったが、これもお互い仕事の内だろうと諦めた。おかげで食事の味についてはあまり覚えていない。

「そろそろですかね?」

「デザートかい? 昼食だからそれはないんじゃないかなあ」

「そうではなくて」

 何皿か出てきた食事だが、クルトの目の前にある物で最後であるらしい。クルト自身の腹具合も、次に食事が出てきたところで、口に入れるのは難しい状態だ。

 つまり、そろそろ王族との会談が始まる頃合いということだ。

「皿と机が片付けば、すぐに部屋にやってくるそうだ。まるで扉の後ろで待ち構えているかの如く」

 本当にそうかもしれない。王族とはどれだけ民衆に驚きの目で見られるかを仕事にしている点がある。

 それらは最終的に権威や権力へと繋がるからだが、その裏では多大な努力を必要としているのだろう。

「食器をお下げします」

 従者達は次々と机の上から皿を取り浚い、すぐに何も無くなった机を布で拭いていく。そうして、今の今まで食事をしていたとは思えない状態の机が出来上がる。

 丁度その時だ。食堂の扉が開き、何人かの人間が入って来た。本当に食堂内の様子を見計らっていたかの様に。

「お客人には、随分とお待たせした様で申しわけありませんわ。食事の味は堪能して頂けたかしら」

 扉を開いて入って来た人間の一人が、クルト達に話し掛けてくる。型通りの挨拶なのだが、クルトは驚きの目でその人物を見ていた。

 入って来た人間は4人。一人は老齢の男性で、それなりの地位にあることがすぐにわかる身なりをしていた。恐らくこの人物が、今回の厄介事の対象である貴族、ヒレイ・マヨサなのだろう。もう一人は若い男性だが、こちらは体が随分とがっしりしている。ヒレイ・マヨサの護衛と言ったところか。

 しかしクルトの注意は他の二人へと向かっていた。

(魔法使いにあまり会ったことがないだって? そんな人間が、こんなところに来るはずがないだろう?)

 少ししくじったかもしれない。そんな考えがクルトの頭の隅を過ぎったのは、他の二人というのが、先程話をした王族、マナ姫とその付き人をしているイリスだったからだ。

(まいったな。もしかしてあの世間話、こっちの情報を出来る限り引き出すための演技だったのかもしれない)

 そうであれば、一筋縄ではいかない相手だということだ。魔法大学側が不利にならない様にしたいが、かなり難しいか?

(まあ、相手が誰であれ、やることをやるしかないのは、最初から覚悟してきたんだけどね)

 ここで不安になって話ができなくなるなら、仕事など受けなければ良いのだ。成る様になれ。そんな頼りない覚悟をしながら、クルトは今日一番の仕事に挑む。


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