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異世界で武技相伝 〜 いやその前に次の人生を楽しみましょうよ  作者: 東杜 伊三技
第1章

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第1話 消失と出現と出会い

新作です。いちおう長編を予定しています。

作者の別作品「時空渡りクロニクル」愛読者の方にはネタバレ満載ですが、どうかご容赦を。

「それで、何だっけ?」


 自分の身に起きた急激な変化に戸惑い慌てていた俺は、なんとか心を落ち着かせながらようやく言葉を発した。


 ちなみに、眼の前には少女というか中学生くらいのやたら顔立ちの整った女の子が居て、俺と向かい合って座っている。


 更に今さらながら気付いたのだが、その女の子は色白碧眼の北欧にでも居そうな顔立ちと姿をしていた。

 ただし左右で纏めている髪の色は、全体的に鮮やかなやや濃い目の青色で、藍色いや少し薄めの花色と呼ばれる色に近いのですかね。


「わたしの話、聞いてました?」

「あ、いや、えーと」

「聞いてなかったですよね」


 加えて辺りを見回すと、ここは何故だか森の中で、その深そうな森の中にぽっかりと空いた草地の空間に、更に何故だか場違いの椅子とテーブルが据えられていて、俺たちはその椅子に小さなテーブルを挟んで座っているのだった。

 もうひとつ言えば、テーブルの上にはコーヒーカップらしきものがふたつ置かれている。


「ああ、落ち着いたのでしたらカーファを飲んでください。お砂糖はいりますか? ミルクは?」

「カーファ?」

「えーと、あなたの世界ではコーヒーでしたっけ」

「確かにコーヒーだ。いや、ブラックで充分に美味しい。って、俺の世界?」


 勧められたコーヒー、カーファって言うのか、このカーファはとても美味しかった。コクがあって苦味の中にチョコレートのような甘味が潜み、かつ柔らかい……。いやいや、カーファの味は置いておいてだ。


「ほら、やっぱり聞いてませんでしたよね。はいはい、ダイジョウブですよ。うちの神さんからも、初めが肝心だから丁寧にって言われていますから」

女将おかみさん?」

女将おかみさん、じゃなくて神さんです。わたしの上司であるうちの神さんに、そちらのハチさんて方からいろいろと申し送りがあったみたいで」

「こっちのハチさん? 八っつぁん熊さん? それとも蜂さん?」


 蜂が申し送りをしてくるとか変なので、八っつぁんか。でも俺に大工の八っつぁんとかの知り合いは居なかったよな。


「いや、そうじゃなくてですね、神さん同士の申し送りで。そちらのハチさん、ああ別名ヤハタさんとかおっしゃる神さんから、わたしのとこの神さんへってことで。あなたのことを頼まれて、いろいろ聞いている訳ですよ」

「ははあ」



 それから俺は彼女の「二度目ですからね」という話を落ち着いて聞いたのだが、なんだか耳慣れない情報が多過ぎて、やはり混乱気味だ。


 それでも頭の中で整理すると、俺は何かの手違いでどうやら死んだらしい。彼女の言い方で言うと“消失した”ということのようだけど。


 それで、そんな俺を不憫に思った俺の世界の神の一柱であるハチさん、即ちヤハタつまりはハチマンの神様が、いま眼の前にちょこんと座っている少女の上司である神様に頼んで、このいま居る世界へと送ってくれたのだという。


「あなた、“一子相伝”とかいうのが、結局できなかったらしいですよね」

「それはさ、つまりなんだ、鍛えて伝えるべき子どもがいなかったので……」

「そもそもが、結婚すらしていない甲斐性無しですよね」

「大きなお世話だ」


 彼女の言った“一子相伝”というのは、少し俺自身のことを解説しておくと、俺の家というのが家伝によると元居た世界の4世紀頃から続く家系で、それも当時の大王おおきみの間近で身辺を警護する武辺の家柄だったそうだ。


 それが本当かどうか別にして、かなり古い家であることは確かで、以後も争乱のある時代時代に当主が陰ながらに活躍したのだとか。

 そしてその実戦で培った武術の技が代々子孫に伝えられ、それも一子相伝という他人には秘匿するかたちで密かに俺まで受け継がれて来た。


 その1700年間に渡り連綿と伝えられて来たらしい一子相伝の技なのだけど、不甲斐なくも妻子が居なかったということで、俺の代でとうとう途切れてしまう。いや、俺は死んだので、既に途切れてしまったのか。


 でも、古代から伝わる武術とは言っても所詮は人殺しの技だし、俺の生きた時代では役にも立たせることが出来なかった。

 まあ、裏の稼業に携わるとか古武術の道場でも開くとか、そんなことをすれば活かせたのだろうけど、さすがに殺し屋にはなりたくなかったし、道場を開いて一般に公開する訳にも行かなかったので。それでも、子ども時代からの鍛錬はしっかり続けていたけどね。


「それで、あなたの家系の昔の上司であるハチさんがその家伝の技を惜しんでですね。こちらの世界でもうワンチャン、やらせたらどうかって」

「ははあ」

「なので、赤ちゃんからじゃなくて、いっちょまえの手前ぐらいの青年として、あなたはこちらの世界で出現しましたぁ。ぱちぱちぱち」


 ひとり拍手をする少女の前の俺は、確かにかなり若返ったようだ。

 ついこの間迄は元の世界で前期高齢者だったので、そこはありがたい。おまけに記憶はすべて保持しているみたいだ。

「頭脳も肉体も魂も、ある程度の記憶が無いと“一子相伝”できませんからね」なのだとか。

 別に俺自身は、そんな一子相伝に拘りは無いのだけどな。



「じゃあ、こちらの世界の話もしましょう。二度目の自己紹介になりますが、わたくし、サテュロネと申します。サテュちゃんでもいいです。以後よろしくです。あ、自分で自分の本当の名前を言うのは、とっても貴重ですからね。あなたが特別な流転人るてんびと扱いだからですよ」


流転人るてんびと?」

「一部の人間の間で言い伝えられている、違う世界から来た人とたちのことですね」

「ということは、昔からそういうのがあると」

「ええ、頻繁にでは無いですけどね。ただし、あなたのように姿は変わってもある程度の年齢の存在として出現する場合と、赤ちゃんとして生まれて来る場合とがあります」

「で、俺は前者だったと。え? 姿が変わってるの? 若返っただけじゃなくて?」


 サテュちゃんは「はいどうぞ」と手鏡を渡してくれた。

 なるほど、俺もどうこう言って金髪碧眼の若者だった。見た感じ、高校生か大学生くらいですかね。西欧のガイジンみたいな顔なので年齢が分かりにくい。


「設定は、わたしと同じ15歳です」


 設定とか。でサテュちゃんて、見た目は幼い感じだけど15歳なんだ。


「15歳って、若過ぎないか」

「いえいえ、この世界では15歳はもう充分、大人ですから。人間の間ではいちおう12歳からは見習いだけど大人の仲間入りで、15歳なら自他ともに認める成人です」


 そうなんだ。


「前の世界で俺は死んで、こちらで見た目も年齢も違う存在に生まれ変わったと、そういうこと?」

「正しくは消失して、出現、ですね」

「消失とは」

「つまり、生きていた事実も死んだ事実も、すべてが消えて無くなったということで。なので、あなたが生きて生活していた世界の人間の間では、あなたは居なかったことになりました」

「ほう」


 要するに、誰にも迷惑も掛けず、何も残さずに消え失せたらしい。

 俺を知っていた周囲の人たちの記憶からもね。まあ親は疾うに居ないし、妻子は持たなかったし、兄弟姉妹も無く親戚とも縁遠かったからな。

 その点では彼女の言う消失は、死後の後始末も何も無くて良いのかもだ。


 しかし、さっきから人間の間ではというワードが出て来ているけど、と言うことはサテュロネというこの娘は……。


「はい、人間では無いですね。わたしは精霊、ぶっちゃけて言うと、神に等しい存在である父親と真性の風の精霊に等しい母親との間に生まれた子で、半神半精霊と人間のミックスとなっております、えへへ」


 少しばかり照れ笑いを交えて彼女はそう教えてくれた。


 神に等しい存在と風の精霊に等しい存在との間に生まれた、半神半精霊と人間の混血、ですか。つまり両親がそれぞれ神か精霊と“等しい存在”と言っているので、そういった人間であるということですかね。

 まるで神話に出て来る登場人物たちみたいだな。


 そんな理解で良いのかと聞いたら、「そこは父さんが拘っていたのでありますよ」ということらしい。


「で、わたし、風の精霊の大旦那であるうちの神さんの直属で働いていまして、こうしてあなたと向き合っているという訳です」

「はあ……。それで俺は、これからどうすれば?」

「まずはこの世界を理解しながら、生きるすべを見つけましょう。それまではお側で、わたしがサポートしますから」

「生きるすべというと、仕事か」

「はい。ちなみに、わたしサテュロネの推奨する仕事は、冒険者ですね」


 定番ぽいけど、この世界にはそういう職業があるんだ。

 異世界ものの小説やアニメなんかで多少とも知ってはいるが、冒険者ね。

 でも、俺が前世で相伝された武術を活かせれば、それが手っ取り早いということですかね。


作者の長期連載作である「時空渡りクロニクル」は、諸々の個人的な事情もありまして(言い訳)一時中断中ですが、どうぞこちらの作品をお楽しみいただければと思います。

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