認識の齟齬
練習は毎日あった。
私もタツキも『週末にデート』って言いながら、お互いに携帯端末使って情報収集したり、喋るのがメインになってた。
今もタツキの家のソファに寝そべって検索かけてるけど、姫サークルの打開策が思いつかない。
背が高くて顔もいいメガネの家主も絨毯に座って、ソファを背もたれに使いながらダメージ計算してるけど、ずっと何か悩んでる。
「ねえタツキ、EG対策されないかな。
話題になってるけど運営が動く気配ないよね」
「運営は今売り出し中のアイテムをプロモしてる気分だろうからな……。
あえてEG使うサークルもあるし、使用制限かけない方がSTP消費してもらえるから、対策はしないと思ってる」
私もタツキに付与してもらったSTPのおかげで、エレメンタルグレイスは六個所持中。
バックパッカーはアイテム持ち込み数も多いから使うと生きる気がするけど、『ガチャ被るくらいベッドインした相手が誰か』サークルメンツにバレるから言い出せない。
リーダーもヒーラーちゃんも何か考えてるみたいだけど、やっぱり議題にもなった火力不足が問題なのかも。
現状、バランスはいいけど姫目指して突破するには与ダメが足りないらしい。
「ところで一崎。
デートって言いながら、家でゴロゴロしてるだけだから申し訳なくなってきたんだけど……どこか行く?」
「え、今まさしくイチャついてる最中だと思ってたんだけど。違うの?」
認識の相違に驚いたけど、人様の家のソファでゴロゴロしてるのは、お家デートならではだと思ってた。
手の届く範囲にいるタツキとキスすると、それだけで照れ臭くて笑える。
「タツキとこうしてるだけでも楽しいよ。
普段の練習で時間なくて喋れないことも教えてくれるし、タツキが彼氏でよかったって改めて思ってる」
振ってたら気まずくて、PVPの戦略とか攻略法なんて聞けなかったと思う。
それどころかお互いにピエナちゃんと関わるの嫌がって、大会すら辞退してたかもしれない。
……そう思ってたら、またタツキにキスされてた。
手まで繋いでくるから、彼氏といちゃついてる感強くてドキドキする。
「ん。……ちゅ、……っちゅ、……っ」
何回もタツキにキスされてると、流石にそういう気分になってくる。
でも唇にあむって軽く噛みついたら止まってくれたから、見つめあった。
「夜の練習に体力、残しておきたいから……今はなし」
ログイン時間が何より大事だから、大会が終わらない限りゲームが最優先だ。
だって練習すっぽかしたら、私のせいで他の六人に迷惑かけることになる。
そのうちの一人が目の前で笑って、頭ポンポンってしてきた。
「残念だけど一崎らしいな。
相談したいんだけど、クリスマスのデートはどうする?
平日の夜だからログイン優先する?」
大会は年末。
つまりクリスマスが事前にあるわけだって、カレンダー見ながら気づいた。
今年は十二月二十四日が一週間のど真ん中の水曜日になってるから、前後の休日が遠い。
彼氏彼女になって初めてのクリスマスだから、何かした方が良いのかなって思うけど……練習考えるとソワソワするし、仕事帰りに会うのも同僚を警戒して楽しめない気がする。社内恋愛をしてるのは誰一人として気付いてないから、今のままでいたい。
「んー、クリスマスか……大会後はお正月ムード強くなってるよね……。
タツキはクリスマスしたい?」
「ロンリーウルフだから五時間フルログインするリーダーが『クリスマス装備で俺とバトル』とか言い出してた。
ヒーラーちゃんも『リア充爆発企画』ってサークルメンツと手榴弾オンリーの大会やるらしいから、よければそっち参加する?
息抜き兼ねて遊ぶのもありかなって」
「いいね、ネタじゃないと出来ないことあるし。
新しい戦略も試していかないとピエナちゃんに勝てない気がしてたから、やりたい!」
クリスマスは家族と過ごすメンツも多いから、練習中止みたい。
タツキとはゲームで繋がったご縁だから「去年もゲーム内で一緒に過ごすの楽しかったね」って話すだけで盛り上がっちゃった。
この日もタツキと二人で、ピエナちゃん対策を「ああでもない」「こうでもない」って議論して考えた。
ゲームにログインしてもPVPの話して、必死になって練習した。
短気なドラゴンライダーさんのドラゴンには《騎乗》スキルがある。
だから飛び道具使いや魔法使いを乗せて、相手陣地を急襲する作戦も練られた。
でもEGは全体回復だけど、リジェネレーションは範囲蘇生。
ミラの全員集合で七対二になった場合、ダウンしたのを背後にされたらずっと七対五が続いて厳しいって話になった。
姫サークルにも、ドラゴン特攻の銃火器や弓使いがいる。
だから……なんて、練習終わったタツキもマゼンタさんも議論続けてた。
「ミツハに頼んでみたらどうよ。
タツキが言ったらすぐOK出しそうだけど」
「こればかりは俺も言い出しづらいんだって。
ミツハも色々考えてくれてるし……」
ん? 何相談してるんだろ。
指導するタツキが言い出しにくいことって……まさかリアル関係?
「ねね、ミツハちゃーん、ちょっとだけいい?」
「あ、はーい」
気になって近づこうとしたけど、リーダーたちに呼ばれたから向かった。
リーダーたちも突破口がないかって、毎日悩んでる。
バックパッカーのスキルを一緒に見直ししてたら、強制ログアウトの時間が来たらしく回線落とされたのに気づいた。
「……」
この日はお泊まりの予定だったから、タツキのセミダブルベッドの上だ。
11Gシート剥がしながら『スキルツリーの見直しもしたいしネット検索しよう』って端末に手を伸ばした。
……タツキが私の上に、覆い被さったのに気づいた。
「ミツハに相談あるんだけど。良い?」
背が高くて顔もいいメガネの上司が、真剣に見つめてきてる。
ちょっとドキドキし始めてたら、指を大きな手に包まれて、ますます顔が熱くなった。
タツキ……手、繋いできてる。
そうだよね、もはや深夜だし。お昼は拒んだからこそってあるよね。もしかしてマゼンタさんに相談してたのも、このことかな。
シーツの上で男女二人がやることなんて、多分一つしかない。
私もタツキ相手に真っ直ぐ見返して、思い切って唇を開いた。
「ドットダメージ入れたい」
「戦って興奮してるだろうから入れちゃう?」
OKボス、ミスりました。
ようやく言葉の違いに気づいて首触ってるタツキ相手に、私も真っ赤になってベッドに沈んだ。
……入れるものがお互いに違ったのも、認識の相違ってことにしてほしい。




