誠実な人
翌日。
三井くんには電話するか悩んだけど『月曜日、休憩時間を少しだけもらって直接話をしたいです』ってメッセージを送った。
何の話か聞かれるかなって返信を待つ間はドキドキしてたけど、三井くんは『じゃあまた明日、昼休みに話そうね』って返事をくれたからホッとしちゃった。
顔を合わせて振るのは、もはや古い慣習なのかもしれない。
メッセージのやり取りだけでも終わる話だし、わざわざ傷つけなくてもいいって、答えないまま過去にする人だっているってネットにも書いてあった。
でも三井くん相手にいつまでも引きずらせたくない気持ちもあって……リアルの私に恋してくれた人だから、リアルで終わらせようって月曜日は気合い入れて会社に向かった。
仕事は順調だった。
課長も恋人になった雰囲気なくて、普通に仕事してる感じ。
社内恋愛難しいって聞いてたけど、甘さゼロだった。
私もいつもの蜷川課長と部下の一崎蓮花のままで、書類チェックとか必要な時以外は関わらなかった。この人本当に彼氏なのかな、って不思議に思うくらい普通だった。
三井くんとは、お昼休みに約束通り一緒になれた。
社内で伝えるわけにもいかないし外に出かけたけど、お店は混み合うし、誰かに聞かれたい話じゃないから会社近くの公園に行こうって伝えた。
快く受け入れてくれたスーツ姿の三井くんと噴水の前まで移動して……私は頭を下げた。
「三井くん、返事待たせてごめんね。
……申し訳ないんだけど、告白お受けできません、ごめんなさい」
息を呑んでる三井くんに、ひたすら頭を下げるしかない。
待ってもらった結果がお断りだったなんて、きっと辛いはず。
それでも覚悟して頭を下げ続けてると、三井くんに呼ばれた。
「一崎さん、顔上げて。
……実は一崎さんに断られるかもって思ってたから、そこまでダメージないんだ」
「え」
「だって好き同士だったら、告白の返事待ってほしいなんて一崎さんは言わないと思ってたから。
二週間経ったし、他に気になる人がいるのかなって思ってて……その間にある程度心の整理もつけてた。
昨日のメッセージも良い返事じゃなかったから、納得してる」
三井くんは顔を上げた私の前で、いつもみたいに朗らかに笑って見せた。
振られて辛いはずなのに、三井くんは私が気にしないように、なんでもないようにしてくれてた。
「話題ごと自然消滅させてもよかったのに、直接伝えてくれたのが一崎さんらしいって思ってる。
でも目の前で振られちゃったら酷いこと言う人もいるから気をつけてね。俺もメッセージだけで良かったんだよ」
「勇気出して三井くん伝えてくれたから、私もちゃんと答えるべきだって思ってて……今も怒られても仕方ないって思ってる」
「ううん、誠実に向き合ってくれた結果に文句なんて言わないよ。
……こうやって自分の有利不利なんて考えず、真っ直ぐぶつかってくれる一崎さんのことが好きだったなって、改めて思ってる。
だから悲しいけど、受け入れるよ」
三井くん。
お昼の賑やかな公園で、悲しいはずなのに三井くんは営業で見せるみたいに明るく笑ってくれた。
手を握手の形で差し出して、苦しそうに息を吐いて、でもにこやかにしてる。
「答えてくれてありがとう。
これからも良い同期として一緒に頑張ろうね」
私も苦しくて、これ以上の何も答えられなくて、差し出してくれた手を握った。
三井くんは私の知ってる三井くんのまま、優しく会社に帰って行く。
やっぱり出来た人だったなって、三井くんに良い彼女が出来ますように、ってスーツの背中を見ながらお祈りした。
三井くんなら、私よりもずっと良い人と出会えるはずだって信じてる。
私もコンビニに行ってから会社に戻ったけど、三井くんは普通に仕事してて、いつも通りに接してくれた。




