グランディエメレ
こうして、私とタツキはお付き合い記念としてグランディエメレに潜ることになった。
ペットは育成出来るから、もらうのは早い方が良い。
ガチャ運悪くても、かぶるともらえる全体回復アイテムがなんと蘇生付きで超優秀って話題になってるから、バックパッカーとしても持ってていいって自分に言い訳した。回数重ねるのなら日数いるし、早い方が良いよね。うん。
でも、そんな打算も言い訳も何もかもが吹っ飛ぶほど、タツキと入った森の洋館は上流階級のキラキラ空間だった。
「すっごーい!」
グランディエメレの内装はハイレシアと同じく、世界的に有名なホテル企業が手掛けている。
『贅を尽くしながらも上品さを失わない、ウインドキャッスルエリアをイメージした館が訪れた者を癒しの時間へ誘う』
って攻略サイトにも書いてあったけど、白と緑の組み合わせ方がオシャレで素敵。
慣れたゲーマーには『ペットもらうためにラブをメイクするためのホテル』だけど、私は初見だからハイレシアの時と同じくめちゃくちゃ興奮して探索してた。
タツキと二人きりだから館内の美術品も見放題。
大きな額に収められたウインドキャッスルエリアのコンセプトアートも神がかってる。
「高級ホテルって自分じゃ行けないけど、ゲームでなら行けるの感動する。
ステンドグラスの作り込みもすごーい」
「なあミツハ、あの天井絵ってシナリオに出てきた行方不明の神?」
「えっ、うわ本当だ! この国にもいたってことかな。撮影禁止区間だけど考察捗るやつー。
ねねタツキ、あれは……」
ハイレシアはエレベーターがあったけどグランディエメレは全部階段で繋がってるから、一歩ずつ探索しながら進める感じも楽しい。
鍵を開けて入ったお部屋の窓は開け放たれていて、吹き込む風も爽やか。
駆け寄ったけど外には庭園と森が広がってて、景色も抜群だった。
「ハイレシアは『大人の夜を演出する上質空間』って聞いたことあるけど、グランディエメレは対になってる感じ? すっごく明るくて癒される。……」
はっ。なのにここで、爽やかさを感じながらラブをメイクしちゃうんだよね。言わないけど。
運営もSTP消費でペットもらえる仕様にしてるし、そういうことする場所だって分かりながら作ってるって、キングサイズのベッドや一緒に寝転がれそうな大きなソファが置かれてるのを見て思った。クッションもふかふかそう。
風に吹かれながらなんとなく緊張してると、タツキが隣にきたから視界の心拍数ゲージが跳ね上がる。
私と一緒で窓の外の景色に興味示してるだけだって見ればわかるのに、いつ始まるんだろう、前回みたいに私から行くべきかな、なんて考えてるだけで目が回ってくる。
「……ええと、ミツハ」
「え、あ、う、うん」
「改めて。俺を選んでくれてありがとう」
その言葉についタツキを見上げたけど、首に手を当てて恥ずかしそうなタツキが笑ってる。
「嫌われ上司だってわかってたから、ここに一緒に来られるなんて思ってなかった。
ミツハのことも、一崎のことも好きだから。今後ともそばにいてもらえると嬉しい」
「タツキ……」
一流イラストレーターのイケメン顔が赤いのを見ながら、胸がジーンとする。
中の人に告白してよかったって思ってると、照れくさそうなタツキの顔が近づいて見つめあってた。
初めてハイレシア潜った時も、タツキから言葉をかけてくれたっけ。
思い出してると、優しく唇を重ねてくれて……軽いキスなのにクラクラしながら目を閉じてた。
唇が離れると私も言わなきゃって、タツキの胸に飛び込んで装備を掴んだ。
「課長のこと嫌いだったけど、今はちゃんと好き。
だから公私共に大事にしてくださいね、蜷川課長。
また嫌いになんてなりたくないので、良い上司計画も継続でお願いします」
「わかってる。今後も一生大切にする」
一生って。プロポーズみたい。
突っ込みたいけど、背の高いタツキが抱き寄せてくれると言葉が出なくなった。
自然に顔を上げた私に唇が触れて、そよ風に吹かれながら甘いキスを交わす。
嫌いあってた上司と、今はホテルでキスしてるんだ。
でも今はこの人が一番好きなんだって、キスされるたびに心も体も預けてた。
「……ちゅっ、ちゅ」
離れても、タツキと何度もキスしたくなる。
たくさん唇を求め合ううちに装備に触れたタツキが解除してくるから、下着姿になってた。
明るい日差しで何もかも丸見えなのが恥ずかしいのに、首筋とか胸元にキスしてもらってると、耳が赤いタツキが一生懸命気持ちよくしてくれようとしてるのが分かる。
キャラクターの体だってわかってても、愛撫にドキドキする。
キスしながらお互いの体に触れてると興奮して、鼓動が速くなっていく。
「ミツハ、そろそろベッド行く?」
「うん……したい気分かも……」
素直に頷いたけど、体が芯から熱い。
タツキとそういうことする気持ちよさを知ってるから、お誘いするとベッドの上に二人でもつれた。
……恋人同士になってから初めてのSTP消費。
タツキは優しく導いてくれて、ベッドの上で体が何度も跳ねるくらい気持ち良くしてくれた。
付与してもらった薄緑色の桜マークが散って無くなったのが見えるのに、唇を奪い合うくらい熱中した。
「タツキ……大好き……」
「俺もミツハのことが好き……」
賢者モードが始まるとお互いに離れられたけど、そうじゃないとずっとイチャイチャしそうなくらい、タツキと熱い時間を過ごせた。
身支度を整えてフロントに向かう。
鍵を返す代わりにプレゼントボックスが出てきたから、思わずこれだって叫んでた。
「ガチャペット!」
「事実しか言ってないけど、その呼び名風情も何もないな」
逸話的には『森のホテルがお客様の旅の無事を願って作ったお守りに、精霊が宿ったもの』らしいんだけど、もはやゲーム内ではペットの通称で浸透してる。
一個ずつ取得出来るアイテムだからタツキとも「せーの」で開けたけど、中から光が飛び出して、目の前にはペンギンが出てきた。
「キュ?」
木の実と葉っぱで作られた手のひらサイズの小さなペンギンが、床をよちよち歩いて付いてきてくれる。
足元にくると母親を見上げるみたいに顔を上げて、キューキュー鳴いた。
「かっ可愛い!!」
「なるほど、これはハマるやつ出るの分かる。……ん、ペンギンは弾丸威力アップのバフついてる……まさかの神引き?
俺も育成しようかな、水族館の思い出込みでいい感じだし。
ミツハ、名前もつけられるって」
「えー、名付けとか迷っちゃう……よし、適当に付けたくないし今度にしようかな。
ひとまず、ペンギンさん。これからもよろしくね」
「キュー」
小さなペンギンが羽をパタパタしながら鳴いてくれる。
胸にキュンとくるこの感じが母性なのかなって、ペットを前にして思った。
なるほどSTP消費して母性が芽生えれば、現実でも子供が欲しいって思う人も出るかもしれない。運営め、考えてる。
その後もログイン時間いっぱいまで遊んで、私たちは解散した。
現実世界に戻ったけど……タツキとお付き合いするって決めた私には、もちろんやるべきことがあるから携帯端末を手にした。




