試着
次に車を降りたのは、水族館の駐車場だった。
ようやく到着した水族館はちょっと遠いけど有名な、イルカとシャチのショーや海洋生物のサーカスが見られる巨大施設になっている。
駐車場だけでとんでもない広さだし、親子連れやカップルが続々入館していく。
到着したらまず、受付で見たいショーの予約をした。
時間までは展示部分を見て回るようにおすすめされたから、イルカとシャチのショーは午前十一時の席を押さえた。
あえての前方席だ。水飛沫すごいのが逆に楽しいってネットにも書いてあった。
「うわ……綺麗……!」
館内の扉を一枚くぐると、中はライトアップされていて幻想的な仕上がりになっている。
キラキラ輝く世界に魚の群れが泳いでいる光景が、現実なのにどことなくゲームの世界観っぽい。
一斉に泳ぎ出すとCGみたいなのに、一匹一匹に個性があるから生きてるんだって伝わってくる。
タツキを振り返ると魚より私を見て嬉しそうに笑ってるから、ハッとした。
「ねえタツキ、もしかして来たことあるの? こんなに綺麗で海の中にいるみたいなのに、全然驚いてないよね」
「あたり。姪っ子と来て楽しかったから、ここなら一崎も喜ぶかなって」
「悔しいけど良い。あっ、アジトルネード! すごーい……!」
子供がいる営業とも課長は通じ合ってたから、姪っ子と遊ぶことも多いのかもしれない。
私にとっても水族館は予習してくれてた通り楽しめて、館内を進むごとに新しい魚との出会いに夢中になった。
早めにショーの会場にも向かったけど、水を大掛かりにかけられるからか壁一面に着替えコーナーがあった。
水浸しでも入室可能って書いてあるし、中で物販もしてるみたい。
一番楽しむのならカッパを着て前列、って受付でおすすめされてたから、言われた通りにカッパを着てタツキと座ったけど……イルカとシャチの尻尾が弾き飛ばす海水の圧がすごくて、フードなんて簡単に吹っ飛ばされた。連続攻撃が来ると、驚いたことにしばらく息も出来なかった。
でもショーの内容自体はすっごく良くて、音楽と光に合わせたダイナミックな飛び込みに興奮した。
カッパの中までずぶ濡れなのも良いアクセント。ジェットコースターみたいな展開で爽快感がすごい。
隣にいるタツキは途中から飛ばされそうなメガネを外してたけど、同じくずぶ濡れになってる。
視力悪いから目を細めて、髪から水を滴らせてた。
「面白いショーなのに、前列はダメって姉貴に予約止められたのも納得した。
悲鳴は上がってても、ここまでとは思ってなかったな。シャチの本気が凄い」
「ねえねえタツキ、このまま物販行こ? 着替えコーナーに魚モチーフの水族館限定衣装売ってるって書いてあったよ」
「じゃあ見に行くか。
……ん? どうした、じっと見て。顔にゴミでもついてる?」
待って。
課長がメガネ外して拭いてる顔、結構好みかも。
会社で意識して見たことは一度もなかったけど、悔しいけど顔はいいんだって、改めてメガネを掛け直した顔を見つめてしまった。
「タツキはどうしてコンタクトしないの?
割と、その……女子ウケしそうな顔してるのに」
「え。もしかして一崎にも受ける?」
「変に自信持つなし。一般論だって」
「残念。……実は目に異物入れて生活するのが無理。
コンタクト怖くて入れられないし、眼球に傷つくとか言われたら使用者が勇者に見える。
小さい頃親にレーザ治療連れて行かれたけど拒否ったから、これだけは外せない」
ちゃんと弱点があることに衝撃を受けた。だからメガネだったのか。
話しながらも係員さんの誘導に従って進むと、壁一面の着替えコーナーが順次空くから入った。
中で物販もあるって聞いてたけど、ゲームみたいに試着室に入って購入するタイプだ。
AIが入場者をスキャン採寸して、すぐにおすすめコーデを教えてくれるのを順番に見ていく。
シャチのギャングコーデとか、上下合わせるとシャチの写真が完成してて笑う。
尾鰭がパーカーのフードで、ズボン全体が尻尾とか水族館っぽくて楽しい。
イメージCGを回して見ながら、あ、クラゲの衣装可愛い、って気に入ったからポチってた。
水族館の中で何人か見たし、どこか別の場所でも見たことある。
下着も勧められるまま購入したら、足元にカゴが出てきた。
『ご購入ありがとうございます。
商品をご用意する間に、衣服のお預かりと乾燥を行います。まずは……』
濡れてても着替えやすいように、端末から注文すれば商品が壁から出てくる仕組みらしい。
全身脱いでカゴに入れたら、顔にシールドつけるよう指示されたから従うと、全身の海水が風圧で一気に吹き飛ばされて乾いた。
壁から出てきた下着はクラゲモチーフだけど、ブラはプランクトンの水玉で、ショーツは逆さになったクラゲの形だ。「なにこれ絶対に見せられない、面白いんだけどー」って他にも笑ってる人がいた。分かる。
でもワンピースは可愛くて、着るとテンションあがった。
カゴの中の服も脱水と脱気してパッキングされた状態で袋に入って出てきたし、嵩張らないからロッカーにも預けられる形になってた。
一式受け取って試着室を出ると、タツキも限定衣装に変わってる。
「服だけでも水族館満喫してるな」
「海のギャングコーデ……だと……!?」
課長が着てるのは、私も見て笑ったシャチの白黒コーデだった。
なのにシャチ顔のプリント部分がいかつくて格好良くて、背が高い課長はパーカーもズボンもおしゃれに着こなしてた。
正直、似合ってる。
「一崎のも可愛いな。クラゲ?
海エリア解放された時のイベント限定衣装に似てる。いまだにめちゃくちゃ人気のやつ。
ほら、裾部分がクラゲでふわふわ動いて……」
「何かに似てると思ってたけどそれだー!」
「解決?」
解決。必死に首を上下に動かした。
手に入らなかった憧れの衣装を現実で着られるのって、面白い。最高の気分で次のエリアにも向かってしまった。




