支援物資
携帯端末を確認しながら、マンションの五階に向かった。
電気がついてるのを確認してドア横に設置されてる宅配ボックスを開ける。
素早く中にものを詰めて鍵をかけて、あらかじめ打ち込んだ犯行予告を送信した。
『お部屋の宅配ボックスに爆発物を仕掛けました。
回収して処理してください。番号は5210です』
腸内環境を整えて免疫力をアップする発酵食品とか、温度が上がったら爆発するに違いない。早く回収しないと掃除が大変だ。
役目を終えたから急いでエレベーターに向かったけど、部屋の中で今頃びっくりしてるかな、って想像すると口元がついニヤけてしまう。
ゲームしてたって、一旦ログアウトくらいしてくれるだろう。
ポストと同じく部屋と繋がってるタイプだったから、風邪ひいてる状態で外に出なくても良いだろうし。
対処療法だけどおすすめのはちみつあめも一緒に入れたから、喉もきっと良くなる。
処理内容は捨てるでもなんでも良い……なんて、イタズラを無事にやり終えた気分でエレベーターを降りたら、コンビニの袋片手に携帯端末いじってる男の人が歩いてきた。
背が高くて、メガネでマスクで顔はほとんど見えないけど、私を見つけると立ち止まって、開示モードで端末を向ける。この人、多分性格も悪いな。
「え。犯人?」
「違います。失礼します」
なんで買い物に出てるんだ蜷川課長!?
とにかくその場を去ろうとするけど、腕に通せんぼされた。
恥ずかしいから睨んだけど、顔を逸らして咳してる。
顔も赤いし、夏風邪っぽい。
有名メーカーの経口補水液が、提げてる買い物袋の中に見えた。
「……」
抵抗しただけ余計な体力を使わせると思ったから、大人しく確保されることにした。
恥ずかしいけど、私も開示モードでメッセージを見せた。
「……そうです、私が犯人です。
爆発物の中身は食べ物ですけど、今買ってきたばかりなので、よければ。
不要ならゴミの日に出してください、明日ですからね」
「取り調べしたいのに、上がってって言えないくらい体調悪いのが辛い……デートは? もう終わった?」
「終わってなかったら来てません。あと男性の部屋に、ちょっとでも上がるわけがないです。
帰りますから、部屋でゆっくりしてください。話したいことがあるならメッセージでどうぞ」
「そうする。……心配してきてくれてありがとう」
課長、元気ないな。
だんだん熱が上がってきたのかぼうっとしてるし、エレベーターに近づくとまた咳き込んでるのを聞いて、悩んだけど声を掛けた。
「課長」
「んー?」
「三井くんから告白されました」
あ、壁に倒れた。
前みたいに魂抜けてそうだし、肩が丸まってるのを見てたら、苦しそうな呼吸と、いつもより少し掠れてる声が聞こえる。
「もう受けた? 三井優しいもんな……早めにトドメ刺しにきてくれるとか、さすが一崎」
「まだです」
弱ったら余計に風邪が悪化しそうなのがかわいそうになって、早めに声をかけた。
……彼氏が出来てたら、課長の家に支援物資なんて届けに来るはずがない。
ずっと挽回したがってた人が辛そうに振り返って、熱なんだかちょっと泣いたんだか、目が潤んでるのを見た。
「チャンス欲しいって、ずっと言ってたじゃないですか。
だから……一回だけ、予定合わせます。
……遊びに行った内容次第で、決めます」
三井くんには申し訳ないけど「返事はもう少しだけ待って欲しい」って伝えた。
目の前にいるのは、あんなに怖くて嫌いで、話すたびに叱られて嫌だった人だけど。
必死に遊びに行きたがっていたタツキを一回もチャンスなく振ることも出来なくて、向き合った。
「ただし、予定を話すのは元気になってからです。
だから早く風邪治してください。
……アプデ明日からです、お互い忙しくなりますよ」
言うだけ言ったら恥ずかしくなる。
嬉しそうに笑ってるのがマスク越しでもわかったから、帰ろうとしたら「一崎」って呼ばれた。
「おかげで元気になれそう。色々ありがとう」
「……それはよかったです。お大事に」
課長は壁から起き上がったし、無事にエレベーターにも乗れそうだから私も家に帰った。
結局タツキはゲームにログイン出来なかったみたいだけど、ヨーグルトは美味しかったみたいで、お礼メッセージだけ届いていた。
高熱を出したらしい翌日の仕事に、課長は復帰出来るはずもなく。
「山本に代打を頼んだらしいが、蜷川はぬるい。
代わりに俺が取り仕切る。……返事は!」
地獄の一課を取り仕切る、最悪のパワハラ課長こと柴松課長が私たちの前に現れて、課長席に座った。




