第3話「お見舞い」
タイトル思いつかなかったです。
文字数は少ないのに情報量多いかもしれないけど許してください。
ここまでで薄々気づいているとは思うけど、この現代では超能力や異能力といった超常的な力を持つ人間が極稀に生まれる、又は私の様に後天的に能力に覚醒する。政府は公には発表をしていないけど私自身がその実例なんだから間違いないと思う。
『憂鬱の二週間』の後、私は身寄りがいなかったから孤児院に引き取られることになった。私の実の両親とは違い、そこはとても暖かい場所で、綾目お姉ちゃんが言っていた様な、幸せな世界が広がっていた。彼らはこんな私を受け入れてくれた。
私の能力が原因で綾目お姉ちゃんは死んでしまった。私が殺したも同じだ。それはずっと引き摺っていて、今も自分が許せない。でも、そんな私を見たらきっと綾目お姉ちゃんは悲しむはずだ。
それに、うだうだしていてもう一回暴走して、また大切な人が傷つくのはもっと嫌だった。もうあんな思いはしたくなかった。
だから私は先ず自分の能力の実験をした。
例えば、何が出来るのか、範囲、限度など兎に角思いつく限り全て事を試した。
その結果、私の能力の詳細と制限について分かったことがある。
恐らく私が授かった能力は過去を改変して現在に起こる事象、つまり結果を変える力だ。私はこの力を、【因果律操作】と名付けた。これだけ聞けば無敵なんじゃないかと勘違いするかもしれないけど、この力には実は二つの制限が存在する。
一つ目は、その瞬間に起こる可能性のない事象を起こす事は出来ないということ。簡単に言うと、あくまで無限大に近い幾つもの並行世界で起こった事の中から自分の望む最善の世界を選び取れる、というだけで決して可能性のないところから新しい可能性を作り出すことが出来るという訳ではなかった。
二つ目は、私の能力の効力が発揮されるのが午前零時から次の日の午前零時までの二十四時間の間だけだということ。つまり、私が結果を書き換えられるのはその日のことだけ。だから綾目お姉ちゃんの時は能力は発動しなかった。
とまぁ長くなったけど、それが私が頭を銃で撃たれたのに生きている理由。本来なら私は銀行強盗犯によって撃ち殺されていたはずの運命だったのを、能力で銃弾が不発するという運命に書き換えたんだ。
それでも爆発音については考えてなくて、もろに音を聞いてしまったから何の障害も残らなかったのは奇跡だった。もしかしたら無意識的に力を行使していたのかもしれないけど。
そんな事を考えていたら、外から聞き覚えのある子供達の賑やかな声とそれを嗜める女性の声が聞こえてきた。
そしてすぐにガラガラと勢いよく病室の扉が開かれて、元気な声で呼びかけられる。
「「「志乃お姉ちゃん!!」」」
「っ!みんな!」
お見舞いに来てくれたのだろう。入ってきたのは孤児院の子供たちの中でも私に特に懐いてた眼鏡をかけた知的な女の子、杏子、目がクリクリしていて将来が楽しみな女の子、苺そしてお調子者の男の子、蓮の幼馴染三人組。全員去年小学校を卒業して、今年中学生になったピッカピカの新中学一年生だ。
少し遅れて、我らが孤児院のお母さん、椿さんが入ってきた。四十代の筈なのにこの美しさ。正直二十代と言われても納得してしまうレベルの美魔女である。
どうしたらこんなに綺麗でいられるんだろう。女子としては非常に気になるものである。
「久しぶりねぇ志乃ちゃん。ごめんね、煩くしちゃって」
「いや、全然大丈夫だよ!ところで、椿さんが来ちゃって、孤児院は大丈夫なの?」
「新しくスタッフさんを雇ったから。それに大きい子たちもいるからね」
そのスタッフさんは良い人なのか、少し心配になったけど子供たちの反応を見るに悪くはない様だし、近々孤児院に行った時に見極めようと心に留めておく。
「銀行強盗に巻き込まれて入院したって聞いたときは心配したんだから」
と少し叱られて、でも安心した様でこっちまで嬉しくなった。その後小一時間ほど話して、椿さんは子供たちを連れて帰っていった。退院できたらお礼をしに行かなきゃね。
すると、椿さんたちと入れ替わるように次は見知らぬ二十代位の女性と銀行強盗で私の近くにいたあの高校生二人がお見舞いに来た。
「この度はうちのアホどもが申し訳ない!ほらっあんたらも謝りなさい!!」
「「ごめん(なさい)」」
「ごめんじゃねぇだろ茉莉!大体お前らが犯人に突っかかったのが原因らしいじゃないか!」
「いたっ!あれは玲旺が勝手に……」
「勝手もなにもあるか!!」
「うぅ…」
お見舞いに来てくれたことにも驚いたけど、急に謝られた事にはもっと驚いた。
タメ口を使って女性に殴られた長い銀髪の気の強そうな女の子が朝比奈茉莉さんで、その隣の金髪の男の子が朝比奈玲旺くん。二人とも私と同じ高校二年生でここ、丸善区の湘洋高等学校に通っているという。
そして二人の保護者のポニーテールの茶髪の女性が朝比奈楓さん。三人とも苗字が同じだし、兄弟なのかな?
話を聞いてみるに、実は彼女、SA探偵事務所という名前の探偵事務所を経営していて、玲旺くんと茉莉さんの2人もそこに所属しているらしい。警察の要請で犯罪捜査にも協力しているとか。だから事件の時あんな態度だったのか。
因みに、SAはSpecialAttackが由来だそうだ。普通に訳すなら特殊攻撃……?だけど、どういう意味なんだろう。日本の某特殊部隊はそんな名称で呼ばれたこともあったと言うけれど、流石に自爆攻撃をする様には見えない。……しないよね!?
楓さんは兎も角、玲旺くんと茉莉ちゃんはそこまで強そうに見えないんだけど、大丈夫なのかな。とは言っても、高校生にそんなに危ない事はさせる訳がないと思いたい。
それに茉莉……綾目お姉ちゃんの妹の名前が確かそうだったはずだけど苗字が違うし、流石に別人かな。
楓さん達が帰った後、警察が事情徴収に来たり、担当の医者から「零距離で発砲音を聞いたのになんの後遺症もなかったのは奇跡だ!」と言われたり、兎に角濃厚な一日で、私は糸が切れた様に疲れ果てて眠ってしまった。