第1話「不幸な少女」
初投稿です。長年ネット小説を読んできて、自分の性癖に刺さるものが少なくなってきた!じゃあどうすればいいか...そう!自分で書けばいいんだっ!!というわけで、書きました。基本短いし不定期だけど優しくしてください。
八月の真夏の太陽が、ギラギラと輝いて辺りをを威圧し、無数の蝉たちがそれに対抗するが如くその声を響かせる中、私は銀行強盗に遭遇していたー-
「おい!!撃たれたくなかったら早くこれに金を詰めろ!」
「は…はい!少々お待ちください!」
黒い覆面マスクを頭に被った大柄な男ー恐らく三十代だろうーは、拳銃を手にして銀行の職員らに客の拘束を命令し、鞄を受付の女性に向けて突き出した。
いったいこの現代日本でどうやって拳銃なんて手に入れたのやら……まぁそんな些細な事はこの際どうでもいいか。
ただ事実、男は拳銃を握りしめて、銀行強盗なんて大それた事をしようとしている。それもたった一人で。逃げ切れる自信があるのか、あるいは銀行強盗犯の末路を知らないただの馬鹿の犯行か。
普通、ある程度の大きさの銀行での犯行は数人のグループで実行する、というのが定石なんじゃないのだろうか?この丸善銀行は都内一の大きさを誇る銀行で、とてもじゃないが一人で強盗できるようなところには見えない。もっとも、銀行強盗に定石なんてものがあるのかも知らないし、知りたくもないけど。
「何ちんたらしてんだおい!!早くしろ!」
「ひぃっ!!」
「チッ!」
受付の女性は完全に震え上がっていて、手の震えから何度も何度も札束を落としては、男の苛々を募らせていった。
こういうシーン、よく映画であるよなぁ、と私は縄で結ばれた手を摩りながら呑気に思った。恐怖から手がうまく動かせなくて、それによって恐怖の根源を刺激し、更に恐怖を募らせるという負のループ。受付の女性には少し同情する。
あ、因みにこんな危機的な状況で、冷静に状況を解説している私は鳴月志乃、十六歳。ただ少しばかり不幸体質なだけの女子高生。現在進行形で銀行強盗に巻き込まれている時点で相当不幸なのかもしれないけど、ちょっとと言ったらちょっとなのだ。
女子高生と言ったが、高校には通ってない。不登校とかじゃなくて、元々通っていない。そんな余裕はないし、バイトを何個も掛け持ちしているからね。けど通信教育は受けてるし、女子高生といっても差し支えないと思う。
両親はいなくて、去年までは孤児院にお世話になっていた。高校生にもなったのにまだ孤児院の世話になるのは申し訳ない。私のいた椿孤児院は、あまり裕福ではないから負担をかけたくなかった。だから私はバイトを掛け持ちして、お金を貯めた。そして遂に、今年から私は一人暮らしを始めたんだ。
さて、前置きが長くなったけど、なんでこんな非現実的な状況に出くわしているのか、自分の行動を思い返してみる。
一人暮らしの朝は早い。いつも通り五時ぴったりに起きて、顔を洗う。そして朝食を作ろうとしたら冷蔵庫が空っぽだった。食材がなくなるまで買い足さなかった過去の自分を恨みながら、仕方なく食材を買いに近くのスーパーに行った。でもいざ買おう、と思ったらお金が全然なくて、しょうがないから近くの銀行でお金を下そうと銀行でATMの列に並んでいたら、強盗が入ってきたわけだ。……つくづくついてない。
何はともあれ、やはり銃の存在が大きいのだろう。職員はもちろん、周りの客も、誰もが反抗する事を考えることはせず、男に目を付けられないように自身の無力さを感じながら静かにしている。
「……やっぱりやるべきよ!あたしたち…でしょ?何の為にこの仕事やってると思ってんの!」
「いやいやいや、一般人の前で……は不味い、目立つなって……さんから言われてただろ?」
「だからっ!あんたとあたしの……なら……」
いや、一人、私の少し前にいる私と同い年位だろうか、長い銀髪の綺麗な女の子が少し何かを迷っているような、でも強い抵抗の意思を持った瞳を男の背中に向けていた。
その隣の、これまた同い年か少し下の、外国人の様な端正な顔立ちをした金髪の男の子が必死に彼女を止めているみたいで、二人はこそこそと小さな声で何かを言い合っている。
あの女の子、何処かで見たような気が……まぁ気の所為か。
「おいそこの二人!!さっきから何喋ってんだ!殺すぞ!?」
「あ?誰を殺すだって?」
「え、ちょっ玲旺?何言って……」
まさか強盗犯に逆上するとは予想していなかった。この人達、本当に状況を理解してるのか?どうしよう。
私が助けようかな、と迷っている間に男は激怒し、拳銃を口答えをした男の子に向けた。次の瞬間には人が死んでも不思議ではない、一触即発の空気が辺りに満ちる。
「そんなに死にてぇなら殺『警察だ!!お前は包囲されている!直ちに人質を解放し、投降しろ!!』」
引き金を引こうとした男を遮るかのように拡声器によって何倍にも大きくなった警察の声が響き渡る。ドンピシャのタイミングで舞台に加わった警察に、場に安堵感とでもいうような雰囲気が漂った。でも、きっと助かったと浮かれていたのがいけなかったんだろう。おまけに今日の私は運がとてつもなく悪い。これで終わるはずがなかった。
「クソッ!誰か通報しやがったな!!誰だ!」
男が私たちを睨みつけて、犯人捜しをしようとする。強盗犯はあちらなのだから犯人捜しとは言いえて妙だけど。
ドサッ!
(あ、やばい)
さっき強盗犯の男の命令で携帯が没収されたときに、自分のスマホを隠していたんだった。それが少し動いた拍子に落ちてしまったのだろう。私に注目が集まってしまった。
「お前か!警察に通報したのは!!」
男はそう言って私に銃口を向けた。
(やらかした!今日はとことんついてない!)
元はと言えばこの二人が男を刺激したのがいけないんじゃないか。と思って彼女らを睨みつける。いや、これはただの八つ当たりだけど。
するとそれを勘違いしたのか、男は私の髪を掴んで、銃口を私の頭に押し付ける。
「やっぱりそうじゃねぇか!こうなったら先ずはお前から殺してやる!」
「いっ!」
何やら二人は動こうとしたみたいだが間に合うはずもなく、勿論かよわな女子高生である私が屈強な男に抵抗できるわけもなく、あっさりと引き金は引かれた。
「Bang‼︎」
*
「知らない天井だ」
一度言ってみたかったんだよね、この台詞。とまぁ冗談はほどほどにして、体を起こして辺りを見回してみる。清潔感のある、綺麗な、でも少し薬品臭い部屋のベッドで眠っていたことが分かった。うん。完全に病院だね。恐らくあの事件の後、近くの病院に運ばれたのだろう。
さて、拳銃で頭を撃たれたはずの私がなぜ生きているのか。まず結論から言うと、私は撃たれなかった。もっと言うと、銃弾が射出されなかった。所謂不発弾というやつである。それでも爆薬の音は健在だったらしく、こうして私は病院に搬送されていたわけだ。
とはいえ銃弾の不発が早々簡単に起きるわけがないなんてことは、誰もが分かるだろう。じゃあなんだ、不発したのは必然だったのかとそんな疑問が頭に浮かんでくるだろう。
ーーーー半分正解。これはある意味必然な事象と言える。
その理由について説明するには先ず、私が幼少期に起こした決して許されることのない事件と過ちについて話さなければならない。
思いのほか書くのがきつかったっていうのが実際に書いてみた感想。小説書ける人尊敬です。