娘の見た夢(クレア)
湯浴みを済ませてから寝室に行くと、セディがベッドの上で私ではない相手をそれはそれは愛おしそうに抱きしめていた。
「メリーはどうしたの?」
私は、寝息を立てている可愛い娘を起こしてしまわぬよう、静かな声でセディに尋ねた。
「怖い夢を見たからお母様とお父様のところに行くって泣き出したんだって。今夜はこのままここで寝かせていいでしょ?」
セディはまるで自分自身のことをお願いするような表情で言った。
「もちろんよ」
メリーはお父様の腕の中で安心したのか、穏やかな寝顔を見せているが、よく見れば目尻に涙の跡があった。それをそっと拭ってから、私もベッドに入り、メリーに身を寄せた。
「夢の内容は聞けたの?」
メリーはいつもなら一度ベッドに入れば朝までぐっすり眠るし、泣いて我儘を言い乳母やメイドを困らせるようなこともあまりない。よっぽど怖い夢だったのだろう。
「お母様とお父様を他の子に取られる夢だって」
「まあ」
私は目を見開いて、メリーの顔を見つめた。
私のお腹の中に新しい命が宿っているとわかったのが1週間前のこと。メリーにも「弟か妹が生まれるのよ」と話すと、嬉しそうな顔をしていたのだけど。
「誰かに何か聞いたりして、不安になってしまったのかしら」
「絶対に正夢にしないようにしないとだね」
セディが決意を込めた声で言った。
「そうね。メリーが大好きよって、これからもちゃんと伝えていきましょう」
私はメリーの柔らかい髪を撫でながら、その滑かな頬に口づけた。
顔をあげると、セディがジッと私を見つめていた。
「クレア、僕にも」
「まったく、仕方ないお父様ね。あなたのことも大好きよ」
セディの頬に口づけて離れようとすると、セディが引き留めて唇を重ねてきた。
「もう、今夜はここまでよ」
「わかってるよ。あ、そうだ。今度は男の子だって」
「え?」
「メリーが言ってた」
「ええ?」
「男の子用の服とか揃えないと」
セディがワクワクした様子で言ったので、私は慌てて口を開いた。
「ちょっと待って。服を選ぶのは、実際にこの子の顔を見てからにしましょう。きっとそのほうが、あなたは良いものを見つけられるわ」
「それも、そうだね」
メリーを妊娠中、セディが「生まれるのは女の子。夢で見たから」と予言し、本当に娘が生まれた。メリーの予言も俄かには信じ難いけど、かと言って、まったく無視する気にもなれない。
まあ、どちらにせよ確率は半々だ。
たくさんの方にお読みいただき本当にありがとうございます。今度こそ完結となります。
ただ、現在連載中の『公爵令嬢ではありますが』以外にもスピンオフ的なものは書くかもしれません。機会がありましたらまたよろしくお願いいたします。