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二匹狼  作者: 山盛り
2/5

一章『協力』

 大きな狼の言う通り、狼の癖に鹿が怖いと言うのは変です。

 ですが大きな狼はそれよりも、どうしてこんな小さな狼が群れからはぐれ、

一匹でここに居るのかが気になりました。

 大きな狼はまず、小さな狼の名前を聞くことにしました。


「お前、名前は?」


「僕はワク」


「ワクか。俺はイリだ。お前、仲間はどうした?」


 小さな狼のワクは大きな狼のイリの顔を見上げた後、

イリから目を背けて顔を沈めてしまいました。


「僕……群れから追い出されたんだ。

 鹿が怖いんじゃ狩りが出来ないからって言われて……」


「こんなに小さいのに、お前も一匹狼なのか」


「えっ?」


 ワクは驚いて、パッとイリを見上げました。

 ワクの聞き間違いでなければ、イリは『お前も』と言ったのです。


「俺も一匹狼なんだ。

 ずっと前からな」


「そうなの?」


「ああ。

 一匹狼同士、仲良くしようぜ」


 正直な所ワクは寂しかったので、イリの言葉に尻尾を振って喜んでいます。


「うん!」


「じゃ、俺が狩りの練習をさせてやるよ」


「えっ?」


 ワクはポカンと大きく口を開け、尻尾を振るのも止めました。


「当たり前だろ。

 鹿狩りが出来ないんじゃあ、とてもじゃないが狼として生きてはいけないからな。

 俺が鹿を見付けてこの辺りに追い込むから、お前は適当な茂みに隠れて鹿を仕留めてくれ」


「ちょっと待ってよイリ。

 僕そんな事出来ないよ」


「出来ないなら出来るようになれ!じゃ、しっかりやれよ」


 イリはそう言い残し、足早に去って行きました。


「そんなの出来っこないよ……」


 ワクは落ち込みました。

 鹿が怖くて狩りが出来ないのを理由に群れを追い出された自分に、

イリは鹿狩りの練習をしろと言うのです。

 とりあえずは、イリに言われた通りに近くの茂みに隠れて身を伏せます。

 ですが茂みの中は意外と落ち着ける場所であり、しばらくするとワクは眠くなってしまいました。


「起きてなきゃ……」


 ワクは眠気を払う為に、前足でまぶたをこすります。

 更にしばらくすると、鹿の足音が聞こえて来ました。


「鹿だ!」


 ワクは今度こそと意気込み、カサカサと最小限に抑えた音を立て、

いつでも茂みから飛び出せるように姿勢を整えました。

 しかし、茂みの葉と葉の間の隙間から走る鹿が見えた時、

ワクはその鹿が怖くなってしまい身動きが取れず、襲う事が出来ませんでした。

 イリが提案した待ち伏せ作戦は、ワクの臆病で失敗に終わってしまいました。


「やっぱり駄目だった……」


 ワクが落ち込んでいると、イリが現れました。

 イリはグルルと唸っていて、ワクの失敗にお怒りの様子です。


「おいワク!まさか寝てたんじゃないだろうな?」


 ワクはゆっくりと茂みの中から出て来ました。

 小さな体のあちこちに、木の葉や小枝がくっ付いています。

 ワクは全身をブルブルと大きく震わせ、木の葉や小枝を振り払いました。


「起きてたよ」


「じゃあなんで鹿に噛み付かなかった!」


 イリは今にも噛み付かんばかりの迫力で、ワクに言いました。


「怖くて動けなかった……」


「情けねえな。

 そんな調子じゃすぐに飢えて死んじまうぞ」


『はあ?狼の癖して鹿が怖いだと!?』とイリに言われた時と同じように、

 ワクはまたもや伏せて頭を抱えました。


「御免なさぁーい……」


「ハン!一生そうしてろ!」


 イリは吐き捨てるように言い残し、ワクを置き去りにしてスタスタと歩き去ってしまいました。


「うう。

 どうすれば良いんだろう……」


 イリが居なくなった後も、ワクは頭を抱えて伏せたままで居ました。

 いつまでもそうしていると、再び睡魔が訪れ、いつしかワクは眠りにつきました。


 悲しげな顔で眠るワクの閉じた目の端から、小雨程度の一粒の涙がポロッとこぼれ落ち、

すぐ下の草をほんの少しだけ濡らします。

 眠るワクをそのままに、時間はゆっくりと過ぎて行きました。

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