序章『出会い』
所々に深い茂みの有る草原が、どこまでも、どこまでも広がっています。
その草原のとある場所を、白い毛の小さな狼が一匹で歩いていました。
狼は群れを成して行動する生き物ですが、この狼の周りには他の狼が居ません。
どうやら群れからはぐれ、一匹狼になってしまったようです。
「うーん……」
小さな狼は立ち止まり、青空を見上げて遠吠えをします。
「アオォォォォォォォン」
しかし、返事はただの一つもありません。
小さな狼はまた歩き出しました。
「はあ。これからどうしよう?」
『ガサガサ……』
小さな狼がしょぼくれていると、不意に小さな何かの物音を聞き取りました。
小さな狼は足を止め、葉っぱ同士が擦れるようなその音のする方向を見ます。
「うん?」
『ガサァッ』
小さな狼の側の茂みから、茶色の体に細い四つ足で立派に枝分かれした二本のツノを備える、
大きな鹿が飛び出して来ました。
「うわぁ!」
小さな狼は大変驚き、飛び上がって逃げ出しました。
普通なら鹿は狼の主たる獲物なのですが、幾ら体格差が有るとは言えども、
これでは立場が逆転してしまっています。
小さな狼が慌てふためく中、大きな鹿は一直線に走り去って行きました。
「ああ、ビックリした。やっぱり鹿って怖いなあ」
落ち着きを取り戻した小さな狼は、鹿の背中を眺めて言いました。
遠ざかる鹿を眺めていると、小さな狼の元に別の狼が現れます。
先程の大きな鹿を追いかけて来たのでしょうか?
「ちっ!逃げられたか……」
新しく現れた狼は、毛の色こそ小さな狼と同じく白いのですが、
小さな狼より一回りほど大きな体付きをしています。
どこか丸っこく愛らしい小さな狼と大きく違って、目付きも鋭く中々に強そうです。
「おい、お前!」
大きな狼は、小さな狼を睨み付けました。
「ぼっ、僕?」
小さな狼は大きな狼の迫力に怯み、少しだけ後ずさりしました。
「狼の癖になんで鹿を襲わなかった!」
「だって、怖いもん……」
小さな狼がうなだれています。
「はあ?狼の癖して鹿が怖いだと!?」
大きな狼の言葉で小さな狼は嫌な事を思い出し、伏せて頭を抱えました。
「御免なさぁーい……」
これが、小さな狼と大きな狼の出会いでした。




