第二十話「茶番の幕開け」
―王国歴19年 獅子の月
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村・会議室 ジョウイチロウ・クガ
「てか、仲裁を王家にやってもらえばいいんじゃね?」
王様なんだからそれくらい出来るだろって思って言ってみたら皆が変な顔している。
え、またなんかやっちゃった?
「王家を巻き込む……それはありですな」
「しかし、王家が動きますか?」
「我らの様な辺境領主に王家が動くとも思えませぬが…」
ティール爺、マクセル、ラギー伯爵の頭良さそうな三人がうんうん唸っている。
そんな難しい事なのかな……めんどくせーな政治家って……。
職人なら殴り合った次の瞬間には一緒に酒飲んでるってのに。
「ちょうど今王様いるんでしょ?聞いてみればいいじゃん」
再び会議室がざわりと騒めく。
え、そんなおかしい事なのかな……。
「閣下、あまり安易に提案なさらないでください…王家を巻き込むと言う事は王家に貸しを作ると同義なのです。
貸しを作れば―――」
「貸し借りって意味じゃ、俺が一番王家に迷惑被られてるよ?」
「それは―――そうですな」
ティール爺が何かを言いかけたが、納得したようだ。
多分この世界で一番俺が王様に貸しがあるよね。
なんて言ったって「別世界から召喚して放逐」だからねぇ…
「ふむ……では、陛下にどうやって渡りを付けるか…ですね」
「方法が無いわけでもないが…」
「ふむ、その通りだな。ティールに頼まれたら断るわけにもいかん」
会議室の扉が開き、王様が入ってきた。
チラリとカナさんを見ると親指を立てている。
「へ、陛下!?」
全員が臣下の礼を取る。
俺も一応一緒にやっておいた。
「よい、たまたま偶然通りかかった時に聞こえただけだからな」
そんなわけねぇだろ!と言うツッコミは飲み込んだ。
あぶねぇ…国の最高権力者にツッコミいれたら不敬とかそういうレベルじゃねぇだろ
「途中からしか聞いておらん。何を企んでいるのか聞かせてもらってもいいかね?」
「俺も聞きてぇな」
王の後ろから辺境伯さんも現れる。
えぇ…こんな僻地のイザコザになんでこんな権力者が興味津々なんだよ…
「は、今回の演習場での一件、看過できる事態ではございません。」
マクセルが言葉を選びながら一つ一つ説明する。
「しかしながら、ラギー伯爵家、マグン子爵家にはもうこちらと争う意志は無いとのことであります。
そこで、意図的に戦争状態を作りあげ、一戦交えようかと考えております。
更に申し上げますと、此度の一件はマグン子爵家の跳ね返りの暴走との事です。
ついでにその者たちを―――」
「戦争にかこつけて処分しようか。と?」
辺境伯が凄む。
ちょっと洒落にならない圧を感じる。
「そのような事は……
いや、その通りでございます。
王家の蝋印、封緘を悪用し、クガ領を簒奪せしめんとした者共には責を負っていただかなくては割りに合いませぬ」
「蝋印、封緘…だと?」
王様がびっくりした顔をしている。
辺境伯も信じられないと言わんばかりの表情だ。
「こちらになります」
ラギー伯爵がさっき出した立派な封筒を差し出す。
「……間違いなく王家の蝋印、封緘であるな」
「あのクソボケ共を放置したお前の責任でもあるぞ」
辺境伯が王様に向かって圧を掛ける。
おいおい…不敬とかそういうの大丈夫なの?
「グラードン伯、不敬であるぞ」
ティール爺がピシャリと告げる
「不敬も糞もあるか……俺が面倒を見ている辺境で王国貴族の糞虫共が我が物顔してるのを放っておけと?ティール師の言葉とは言え、それは捨て置けんぞ」
「わかってる。分かっておるわい…腸が煮えくり返りそうなのは儂も一緒よ」
「……余の不徳の致す所よ。真に申し訳ないことをした」
王様が頭を深々と下げた。
「陛下、そのような…」
「騙された我らが悪いのです!陛下に他意はございませぬ」
慌ててマグン子爵とラギー伯爵が言う。
俺はと言うと全くその通りだよ!と言う顔をしている。
ティール爺とマクセルが閣下!と諌める。
知るかってんだ。
俺は結構怒ってるんだぞ。
「責任がどうとかは今はいいです。
俺は俺の民が傷付けられたのが気に入らない。だから、潰します。
そのくだらない企みに乗った馬鹿を潰します。
それに対して王家が、王国がダメだと言うなら……」
息を大きく吐く。
少しの溜めを作り、声を意識的に低くする。
「王国とも戦いますよ俺」
マクセルとティールが頭を抱えている。
カナさんとヒビキは何か知らないけど嬉しそうだ。
あー。ハサン?そんな悲痛な覚悟を決めた顔しないで大丈夫だよ?
やる気はないから…今のとこは
「それは困るな。
辺境令でも出してやろうか?俺はなクガ男爵、お前を気に入ってるんだ。
お前と剣を交えるのは楽しそうだが、今は遠慮してぇな」
辺境伯さんが人好きそうな笑顔で答える。
なんかちょっと物騒な事言ってた気がするんだけど気のせいだよな。
王様も辺境伯さんの言い分に乗っかる
「クガ男爵、今の王国は卿と敵対したら分裂しかねん。
それは余の思うところでは無い。
鉾を収めてくれ。王の名に於いて実行者、並びに王令を僭称した輩は卿の眼前に突き出すことを誓おう」
いや、別にそこまでしなくてもいいけどね…
とりあえずこの戦争を認めてくれればいいよ
「とりあえず、王様。
この戦争の着地を受け持って欲しい」
「着地…とは?」
「この戦争後の三家の和平。
それと、クガ領を解体して王家直轄領として収めてほしい」
「何を!!」
「閣下!?」
会議室から困惑の声が広がる。
ティール爺は戸惑い、マクセルは何やら思案している。
カナさんとヒビキは声こそ上げないけれども爆笑してる。
だからハサンは思い詰めんなって…
「三家の和平はかまわぬ。王令をだそう……まずは一戦交えたうえで、余が仲裁に入ればよいのだな……だが、クガ領の解体とはどういうことだ?」
王様が了承しつつも訝しむ声を上げた。
「俺が領主やってると周りがやいやい騒ぐんでしょ?
俺は作りたいものを作りたいように作るのが目的。
最初に言ったでしょ?
俺はこの世界での身分を保証して欲しい。って
別に貴族になりたいなんて言ってないしね。
でもさ、責任を中途半端に投げるのも嫌なんだよ
クガ領は大きくなった。これからも多分大きくなるだろう
民は、安心安全を求めてる。
王国で一番安全で安心なのは王様のもとでしょ?」
王様はうむ…と唸っている。
周りの皆はどうするんだ?って顔してる。
そんな中、マクセルだけが納得したような顔をしてる。
「つまり、閣下は民の庇護を王国に求める。と?」
「んー、ちょっと違うかな…武力やら戦闘力は俺達が引き受けるよって話
前々から思ってたんだ。
技術を高めた結果、今回みたいな弱いところをつっつく連中は出てくるだろうなって。
そうなった時に一番怖いのは技術供与しないと民を傷付けるって輩。
今回はまだマシだったと思う。これが、食料供給だったら?商業圧力だったら?」
ざわざわしていた会議室が徐々に静かになる。
マクセルは神妙な顔で何かを思案している。
「貴族の肩書が邪魔になりつつある…と?」
ティール爺が重々しくしかしハッキリと言う
「ぶっちゃけて言えば、そうだね。
だから民は王国に保護してもらう。戦力は自前で持ち続ける」
「傭兵団みてぇなもんか」
「んー、どっちかと言えば商会?
売るものは戦力と技術…戦闘技術も含めて
俺の住んでた世界に「民間軍事会社」ってのがあってね」
戦力提供じゃなくて戦力貸与。
傭兵団みたいに使い潰される戦力じゃない。
この世界では新機軸の会社だよ。
―王国歴19年 末の月
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村より北の平原 マクセル・スカイ
演習でもって敵領の戦意を削ぎ、平和裏に解決しようと言う策は失敗した。
北の平原にはクガ領千の兵士とラグン・マギー同盟軍六千の兵士が相対している。
戦力差凡そ六倍。
比較的温暖なこの地とは言え、もう末の月だ。寒さも堪える。
年末年始の祭りもある。
冬備えをしなければならない。
相手の農兵達からは不満の声も上がっているだろう。
対してこちらの千の兵は農兵は一人も居ない。
全員農家の次男三男、商家の次男三男と家業を継げない者たちだ。
家業継げないならばと、閣下が全員兵士として雇い上げた。
言ってしまえば職業兵士なのだ。
故に千と言う少数ではあるものの、全員が訓練を受けている兵士だ。
技量の差は歴然だろう。
だからといって六倍を覆せるとは限らないが……
しかし、全員が意気軒昂。
領民を傷付けた相手が居るといつの間にか知れ渡り、その戦意は留まることを知らない。
「諸君、私が愛する領民諸君!
我らは侮られ、我らは見下され、我らはコケにされた!!これを許して良いものか!!」
閣下が先頭のゴーレム補助装甲車に乗り大音声で叫ぶ。
「否!否!否!!」
千人の声が同時に響く。
それは怒号、それは絶叫、それは猿叫であった。
「我らは愛する民の為に立ち上がった剣だ!
この戦意は一本の槍となり、敵を打ち砕く槌となる!
逃げ出したいヤツは逃げて構わん!私はそれを見咎めない!
しかし!逃げずに戦う諸君と共に!私も戦おう!!私も一本の槍となろう!!」
「うおー!!」
「クガ男爵!万歳!!!」
熱狂は渦を巻き、やがて自軍を巻き込む。
「しからば参るぞ!我に続け!!!」
閣下はゴーレム補助装甲車から飛び降り、装甲自走車へと乗り込み、走り出す。
大将自ら戦線に立つ、しかも一番槍だ。
戦意は天上知らず。
一つの群れが、一つの意志が、大きな濁流となり進軍した。
―王国歴19年 末の月
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村より北の平原 カナリア・エイスース
あの馬鹿!!調子に乗って!!
戦意高揚の方法としての演説と領主自らが戦う意志を見せるのが一番の戦意高揚だって
確かに言った!言ったよ?
一番槍で本気で掛け出すなんてやるわけないじゃない?
普通はやらないわよね?
―――あ、そうだった。彼は普通じゃないのよね。
「エイスース隊!領主の近侍として命ずる!矢の一本、石くれの一つとして自走車に通すな!」
「はっ!!」
私が叫ぶと同時に直轄の部隊が走り出す。
弓衆は全員混合弓を装備した元狩人や元弓兵。
その中でも足の速い、機動力の高い連中をエイスース隊として纏めている。
私も古エルフの風の呪いを唱え、移動速度を上げる。
自走車程度の速度なら容易に追いつける…今はまだ。
「ジョウくん!何考えてるの!!」
「おー、カナさん!足速いねぇ!」
当人は非常に呑気だ。
六千の兵はもう間近まで迫っている。
「なんで突撃ぶっかましてるのよ」
「景気が良いかなって思って」
「まぁ…そうね。じゃなくて!……もしかして「我に続け!」って言いたかっただけ?」
「そん、な、ことないよ?」
こいつ……
一度”教育”が必要な気がしてきたわ。
あぁ、もう!!やらかしたからには成立させなきゃじゃない!!
私は矢筒から矢を取り出し、自走車の上に乗る。
「【風よ、風よ、愛しい風よ、今吹きすさべ、私の道を作れ】」
矢の先端に魔力が集まる。
古エルフの風の魔法。
シンプルに矢の速度を上げる魔法。
――パン
とても弓が上げる音ではない。
周囲の空気を吸い込んで、ものすごい速度で敵兵の先頭に中たる。
2〜3人の兵が、1本の矢で吹き飛んだ。
一応当てない様にはしたけれど…当たってても鏃は潰してあるから大丈夫よね。
吹き飛んだ敵兵を見て周りの進軍速度が明らかに落ちた。
ジョウくん曰く「音速超えてるんじゃないのこれ…」とのことだが、音速ってなんのことかしら。
―王国歴19年 末の月
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村より北の平原 ヒビキ・ヒタチ
「あっはっはっはっは!!見ろ!あれがうちの大将だってよ!!馬鹿だな―!アイツ馬鹿だなぁ!!」
指揮官用に作られたゴーレム補助駆動装甲車の車上で思わず大笑いしてしまった。
テンション上がったんだろうなぁ……俺も昔よくやらかしたもんだ。
「ヒビキ殿!笑ってる場合ではござらん!!我らも即時突貫を」
「慌てなさんなってハサン殿。カナリア将軍が随伴したのが見えた。自走車とカナリア将軍ならドワーフに金槌よ」
慌てふためくハサンを見るが、彼は彼で一番槍が取れなかったのが悔しいようだ。
武人だねぇ……。
「それよりも、だ。
あまり自走車に敵兵が集中すんのもまぁまぁ不味い…集中攻撃を喰らえばカナリア将軍だって手元が狂う可能性がある。我らも進軍し、分散させよう」
「御意に…ナイトアームズ、進軍する!」
「機甲部隊、行くぞ!」
同時に両翼の部隊が動き出す。
さぁ、本格的な戦争…じゃねぇや。
茶番を始めようか。
感想、ブクマよろしくお願いします!!




