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エルフの森で人形は目覚める 〜男がいない世界で、人形の僕だけが男でした〜  作者: 那霧 たすく


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第36話 模擬戦2


 左右の連撃がリオンに襲いかかる。

 僕の右手からの4連撃を、リオンの両手から繰り出される高速連打が全て弾く。

 すかさず放つ左からの、ボディをえぐり込むような軌道の4連撃も、リオンは難なく全て迎撃する。


 僕が殴る。

 

 リオンが弾く。

 

 殴る。弾く。殴る。弾く。殴る。弾く。


「うおおおおおお……っ!!」


「らああああああ……っ!!」


 お互い完全に足を止めてのインファイト。

 足りない速度を短剣の手数で補う僕と、とんでもないスピードでそれら全てに対応してのけるリオン。


 満員の闘技場の中心で、激しく拳をぶつけ合う僕とリオンの叫び声と、岩の砕ける音だけが響き渡る。


 お互い全力での殴り合いは、現状互角に見えた。

 でも、僕は気付いていた。リオンはまだ本気じゃない。

 この攻防を楽しんでいる。

 

 ――まだ余裕があるってことか……


 リオンの笑みが強くなる。


 ――どうした、これで全開か? こっちはまだ行けるぞ?

 金色の瞳が、そう語っている。

 リオンの発する金色の輝き……身体強化の魔力がさらに強くなった。

 

 互角と思われた攻防の趨勢(すうせい)が、徐々にリオン側に傾いていく。

 リオンの速度が僕の攻撃を上回り始め、こちらの撃ち込みが先読みで撃ち落とされ始める。

 あとわずかでもリオンの速度が上がれば、短剣も拳も全て弾き返された上で反撃までやってのけるだろう。


 だから、僕は見極める。

 リオンが反撃に移るそのタイミングを。


 リオンの打撃がさらに加速する。

 僕の攻撃が押され始めた。

 そして、ついにリオンの速度が、僕の攻撃を凌駕する。

 リオンの魔力の圧が跳ね上がった。


 ――来る。次の一撃で返される。


 だからこそ、僕も全力の一撃を放つ。

 それは、短剣4()()を仕込んだ5()()()


 リオンが先程までと同様に難なく僕の4撃を叩き返し、さらに反撃の一発を僕のボディに叩き込もうと拳を放つ。

 その瞬間を狙ったように、僕の腕の影に隠すように追加で仕込んだ短剣が襲いかかった。

 

 リオンの目が見開かれる。

 

 ここしかないというタイミングでの不意打ち。

 4本目の短剣は、無防備なリオンの胸の辺りに吸い込まれるように飛び込む。

  

 そして……かわされた。

 

 放つ拳の軌道を無理やり捻じ曲げることで、リオンは強引に身体をひねる。

 その胸元をかすめるように短剣が通り抜けた。

 もはや、わけのわからないレベルの身体能力で、僕の虎の子の一発までかわしきったリオンは、体勢を崩しながらも、そのままの勢いで手を伸ばし、僕の肩を掴む(グラップ)


「うらあっ!!」


 そしてリオンの頭突きが僕の頭に炸裂。

 ……僕が纏っていた結界が見事に砕け散った。


「ふう……っ……たく、まだ何か隠し玉があるとは思っていたが……」


 僕に頭突きした体勢のまま、リオンはその綺麗なおでこを僕に擦り付けるようにして笑う。


「それでも避けちゃうんだから、やっぱりリオンは凄いよ」


「はっ、よく言うぜ……全く食えない奴だな、お前は」


 パリンという軽い音と共に、リオンの結界も割れ、砕け落ちる。

 それと一緒に、リオンの背の結界に突き立つように刺さっていた岩の短剣が、音を立てて闘技場の地面に転がった。

 

 さらにその向こう、闘技場の端では、僕の放った最後の1本の短剣を見事に跳ね返して、リオンに命中させたK1とK2が、ガッツポーズをしている。

 

「両者引き分け(ドロー)!!」


 セロウの宣言が闘技場に響き渡った。

 ほぼ同時に、地面を揺らすかのような大歓声が巻き起こる。


「うおおー! 凄い試合だったぞー!!」 


「ケイくん、カッコよかったよー!!」


「っしゃオラァ! 見たかリオン! これが儂のケイじゃあー!!」


 こら、はしたないよ、ゼフィラ。

 僕は苦笑しながら、地面にゴロンと仰向けに転がった。


 はあー……疲れたあ……

 でも、ちょっとはいいトコ見せられたかな?



 ――――――――――――――――



「いやあ、久々に楽しかったよ。ゼフィラ様、面白い奴見つけてきたなあ」


 まさに、祭りのあと。

 僕とリオンの模擬決闘が行われた闘技場の脇に設えられた休憩所のような場所で、僕たちは輪になって腰を下ろしていた。


 観客席の野次馬エルフたちは、各々で試合の感想を語り合ったり、なんなら闘技場で模擬戦を始めたりと、熱気冷めやらぬ様子だ。

 串焼きなどを売っている出店なども、まだ買い物客で繁盛しており……って、串焼き売ってるのルベルムじゃない?

 どうりで姿を見ないと思った。さすが商売人。商機を見逃さないなあ。

  

「ふふん。まあ、これでケイの実力はわかったことじゃろう」


 自慢げに胸を張るゼフィラ。

 何だか最近、ちょっと幼児化が進んでない?

 族長の威厳とか、そういうの大丈夫かな。


「これでもフラウの村を守った英雄ですからねえ」


 ミモザもニコニコと嬉しそう。

 でも、その英雄とかってなに? 初耳だよ?

 そんな偉そうな呼ばれ方、嫌なんだけど……

 

 まあとにかく、喜んで貰えたなら、フラウ代表として(?)頑張ったかいもあったというものだ。


 そんなご機嫌なゼフィラとミモザをチラリと見やると、リオンは腕組をして僕に視線を移した。


「で、身体強化魔法をケイに教えてやって欲しいって話だったっけ?」


「うむ。もちろんできる範囲で構わん。コツのようなものを伝授してやってくれんかの」


「まあ、ゼフィラ様の頼みだしな……ちなみに何日くらいアニムに滞在する予定なんだ?」


「……一応は3日程度の予定じゃが……嫌な予感がするのう。基礎の部分でいいんじゃぞ? ちょっとしたコツのようなものを教えてくれれば良いのじゃ」


「わかった。3年くれ!」


「何も分かっとらんじゃないか!?」


 また、このパターンかと、ゼフィラは頭を抱えた。

 どうして、どいつもこいつも人の話を聞かないんじゃと、ボヤいて肩を落とす。


「いや、そんなこと言ったってさ。基礎の身体強化魔法を使いこなすために、まずは体づくりから始めないとダメなんだって。なあ、セロウ?」


「ケイ様の身体は、私たちとは違うので、筋トレなどは意味がないのでは?」


 リオンに話を振られたセロウが、微妙な顔をする。

 それを聞いたリオンが、愕然とした表情になり、声を震わせた。


「なん……だと……? 身体を鍛えられない……? じゃあ、何を目標に生きればいいんだ……?」


「お主の人生、筋肉しか詰まっておらんのか……?」


 呆れた表情のゼフィラ。

 うん、力こそパワーの人なんだね。エルフにも色々な人がいるんだなあ。

 そんな中、困ったように頭をかいていたリオンは、不意に何かを思いついたようにポンと手を打った。


「うん、わかった。この件はセロウに任せよう」


 あ、違う。

 何か思いついたんじゃなくて、何も思いつかなかったから、セロウに丸投げしたな。 

 全員のジト目に晒されたリオンは、大して気にした様子もなく、ニカッと笑う。


「いや、本当にアタシよりセロウの方が向いてると思うんだ。そうだろ?セロウ?」


 丸投げされたセロウは、ハァと小さくため息をつきつつも、形の良い顎に細い指を当てて考え込む。

 

「先程の試合の動きと、話を聞いた感じですと、ケイ様にはスピード重視の強化が向いていると思われます。それに、そもそもが魔力操作で身体を動かしてるという特殊な状況であることを考慮すると、確かに感覚派のリオンよりも、私の方が講師には向いているかもしれませんね」

 

 おお、さすがセロウ。なんて論理的。

 納得の信頼感だ。

 リオンもウンウン頷いてるけど、本当に分かってる?


「ふむ、まあそういうことであれば、セロウにたのもうかの」


 ゼフィラもセロウの意見を聞いて納得したらしい。

 セロウが僕に向かって頭を下げる。

 

「承知しました。よろしくお願いします、ケイ様」


「うん。こちらこそよろしくね、セロウ」


 その後の話し合いで、一応この村への逗留は3日〜最大1週間程度の予定となった。

 元々はルベルムの行商隊の予定にあわせての日程であったが、既に予定はズレまくっている。とはいえ、あまり帰るのが遅くなると、フラウの皆も心配するだろう。


 そして、目的の1つである魔羊狩りは2日後に実行されることになった。

 これに関しては、実際そんなに危険なものではなく、ちょっとしたイベント的なものと考えていいらしい。


 新たな目標を胸に、アニムでの生活が始まる。



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